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第九十八話 帰ってきたけど留まらない

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「この船はフロウリア国に向かう船なのです」
「フロウリア国か、……ちょうどいいんじゃないか。墓参りとかしてもいいし」
「まだ一年は経っておりませんが、ウィズダム国との戦争は終わったと聞きます」

フロウリア国は俺達の故郷と言える国だ、ウィズダムとの戦争でとある女性を救う為に敵対したが、もう時間も経っていることだ。証拠も何も残っていないし、俺達が行ってみても大丈夫だろう。

「良かった、何かあったらすぐに逃げましょう。僕は国家権力が怖いです」
「確かにどこの国も、上級魔法の使い手を味方に引き入れるのに手段を選ばない」
「それだけ上級魔法の使い手が少ないのと、恐ろしい力を持っているのが問題なのですね」

フロウリア国までの船旅は俺達は比較的にのんびりと過ごした、今度の船旅では頼りになる中級魔法の使い手が乗っており、俺たちはクラーケンと戦う必要もなかった。

「よぉし、今度こそディーレから一本とるぜ!!」
「お手柔らかにお願いします、本気で戦われたら私の負けですから」
「お二人とも偶には仕事を離れて、私のようにのんびり過ごしてはどうでしょう」

目的地につくまでが暇だったので、ムラクモ国で習った武術のおさらいなどをしていた。単純な力勝負なら俺の方が有利だが、身体能力を同じくらいにするとディーレの方が強い。くうぅぅ、この天才め。

「フロウリアについたらどうする?まずは都に行ってディーレの義父の墓参りをするか?」
「レクスさんはお墓参りはされなくていいのですか、ご両親とか?」

「俺の両親はヴァンパイアの襲撃前に亡くなったからなぁ、今はあの村には誰も残っていないだろうし、墓が無事に残っているかも不明だから別にいい」
「そうですか、私も都でカーロ様のお墓参りが済んだら、特にフロウリアに未練はありませんね」

「あっ、フロウリアを出る前にラビリスの街だけは行こうぜ。知り合いのおっちゃんが今もいるかどうか分からないけど、金の冒険者証を見せて驚かせたい」
「ふふふっ、随分と細やかな夢ですね。わかりました、ラビリスの街だけは寄ってからフロウリアを出ましょう」

フロウリアまで半月の船旅が終わると俺達は懐かしい故郷に帰ってきた、商隊護衛の依頼を受けて首都であるフロウリアまで直行した。

「カーロさんの墓参りか、供えものは花だけでいいだろうか」
「はい、義父はお酒は飲みませんでしたし、それで十分だと思います」
「今回はのんびりとした旅になりそうですね、猫としての生活を満喫します」

俺達は空いている時間は組み手をやったり、ディーレにカーロさんのお話を聞いたりして過ごしていた。だが、旅はいつも危険と隣り合わせだ。同じ護衛についている者が夜中に声をあげた、俺は起きていたからその前にもう妙な気配に気づいていた。

「おーい、皆。盗賊だ、気を引き締めて戦え!!」

「さぁ、ディーレ、ミゼ。やっとお仕事の時間だ、ミゼは残って依頼人をまもれ」
「はい、かしこまりました」
「僕とレクスさんは迎撃ですね、さっさと片付けますか」

商隊が盗賊に襲われた時には護衛の皆で善戦していたようだが、殺さずに捕縛した盗賊の数は明らかにこっちが多かった。

「そんな者達など生かしておく必要はありません!!」

他の護衛は俺達が捕まえた盗賊まで勝手に止めをさしていたが、特に止める理由もないので放っておいた。そして、やや退屈なフロウリアの都までの商隊護衛が終わると俺達は賃金を貰って解散することになった。

「銀の冒険者と言ってもいいおっちゃんから、無抵抗の盗賊を殺さないと気がすまない、いろんな奴がいるんだなぁ」
「人間ですからね、様々な人がいますよ。……僕は心をつくして神に感謝し、この旅の安全が続くことを祈ります」
「ディーレさんみたいな天才で優しい人もいれば、レクス様みたいな外見を裏切る力技の方も……ってああ、しっぽ、しっぽは引っ張らないでください――!?」

とそこまででお互いにツクヨミ国から今までの話題は忘れて、都の花屋からカーロさんのお墓に供える花々を購入した。墓はディーレが育った孤児院の近くにあり、ディーレは神妙な顔でカーロさんのお墓参りを済ませていた。

「見てくださいカーロ様、僕は素晴らしい仲間と巡り合えました。これからもまだ沢山の世界を見てまわりたいと思います。どうか、そちらで見守っていて下さい」

カーロさんの墓参りを済ませると次に向かったのはラビリスの街だ、こちらは丁度いい商隊護衛が出ていなかったので、のんびりと駅馬車を使っての旅になった。

「ラビリスを出たら次はどこの国に行ってみようか?」
「いろいろと候補があって迷いますね、オニール国なども面白そうです」
「ああ、現在進行形で開拓が行われている国ですね。フロウリアから独立して軍備の方もなかなか充実しているとか」

ラビリスの街までは馬車の旅だったので、時々体が鈍らないように馬車に平行するように走ったりしていた。休憩時間にはディーレとの組み手を欠かさなかった。

冒険者は体が資本だ、こうしてしっかりと運動していないとすぐに身体がなまってしまう。そうしていると時おり馬車の御者がそんな俺達を見て驚いていたが、特に気にすることでもないと思う。

「おおー、ラビリスの街だ!!俺が冒険者になった最初の街だぞ!!」
「そうやって聞くと僕は初めてくる街ですが、感慨深いものがありますね」
「あの元銀の冒険者さんはお元気でしょうか?」

俺達は冒険者ギルドに行って元銀の冒険者のおっちゃんを探した。そういえば名前をずっと聞きそびれてたんだよなぁ。幸いにもおっちゃんは元気で俺のことも覚えてくれていた。

「ほら見ろ、おっちゃん!!ちょっと方法に問題があったけど俺は金の冒険者になったぜ!!」
「――――――!?」

おっちゃんは俺と金の冒険者証を何度も見比べていたが、本物だとわかると俺達を冒険者ギルドの談話室まで急いで引っ張っていった。

「凄い本物だ、馬鹿に強い坊主だと思っていたが、まさか金の冒険者になるとは思わなかったぜ」
「なぁ、凄いだろ。まぁ、取得した場所は聞かないでくれよ、あんまり思い出したくない」

「はっはっはっ、坊主に聞かなくても俺は冒険者ギルドの職員だぞ。問い合わせればすぐにその場所だってわかっちまうさ」
「うっわっ、大人って汚い」

「まぁ、そう言うな。実は金の冒険者になったお前に依頼したいことがある」

懐かしいおっちゃんとの遣り取りを楽しんでいたが仕事となると話は別だ、自分でスッと目が細くなるのが分かった。

「実はな、最近になって迷宮の魔物の数が増加している。このままじゃ『魔物の氾濫デビルフロード』が起きるんじゃないかって懸念されてるんだ、だから魔物の数を減らす手伝いをして貰いたい」
「要するに迷宮に潜ってひたすら魔物を狩ればいいわけか……ディーレ、ミゼどうする?」
「お受けしましょう、『魔物の氾濫デビルフロード』が起こると最初に犠牲になるのは街の人々です。それに、最近少々運動不足だと思っておりました」
「働いたら負けだと思っていますが、今回はあえて負けてさしあげましょう」

俺は仲間の了承を貰って、おっちゃんから改めてギルドを通して依頼を受けた。今回は魔物の数を減らすのが目的だから、魔石が討伐の証明となる。

「今までの運動不足を解消するとしようか、ディーレにミゼ。行くぞ!!」

そこからはただひたすらに魔物を狩る毎日だった、元銀のおっちゃんが言ったように魔物の数が普段よりもずっと多い。

ゴブリンやコボルトなどは行きの通路を埋め尽すくらいの数がいた、これが街に溢れたらと思うとゾッとする。とにかく手当たり次第に俺は奴らをメイスで粉砕し、ディーレの魔法銃ライト&ダークが撃ち続けられ、ミゼは魔法で敵を蹴散らしていた。

「これは持久戦になりそうだ、お互いの疲労に注意していこう」
「はい、疲れ切る前に撤退ですね」
「命大事にでございます、数日かけて数を減らしていきましょう」

浅い階層には俺達以外にも冒険者が居たので、そっちは任せて俺達は階層を下りていった。少し階層を潜るとオークやホブゴブリンなどが増えたが俺達のやることには変わりはなかった。

「うーん、今日はここまでにしておくか。ディーレ、自力で歩けそうか」
「さすがにこんなに数か多いと疲れますが、大丈夫です歩いて帰れます」
「レクス様~、疲れました~。ミゼはもう一歩も歩けません~!!」

冗談のように言うミゼを俺は抱えて宿屋へと帰りの道を歩いていった、ミゼは元はただの猫であるからして、この中で一番体力がないのだ。

「いよいよ、本番か。オーガにミノタウロス、団体様でお越しだな。あっ、アルラウネまでいるじゃないか!?これは新しい魔石に期待が持てるな」

普段なら二、三頭の群れでしかやって来ない連中が十数匹で襲い掛かってきた。周囲に人間がいないことを確認して、俺はヴァンパイアとして全力で彼らと戦った。

普段のように人間らしく見えるように筋力に注意を払うこともしない、ただ速さと怪力でもって彼らをメイスで粉砕していくだけだ。時には手で相手の心臓を掴み出して殺してしまうこともあった、こう俺が全力で戦える機会は滅多にない。

「いや~、ラビリスの迷宮にも結構な数の獲物がいたんだな。魔石だけでもこれは相当な儲けになるぞ、それに全力で戦ういい機会になった」
「……レクスさん、普段はあれでも力加減をしていたのですね、少し驚きました」
「……ミノタウロスの頭とか引き千切ってこちらに投げるんですもん、ちょっと怖かったですよ!!」

30階層付近は強い魔物が多いし、仲間に怪我を負わせたくなくてほとんど俺が単騎で、オーガやミノタウロスを倒していった。そこでアルラウネの魔石の質の良いものが手に入ったので、ディーレが自分でそれを加工して魔法銃のライトがまた強くなった。

「おっちゃん、これくらい倒しておけばいいだろう?」
「……………………あー、充分すぎるなこれは」

ジャラジャラジャラジャラジャラゴロンコロンゴロンコロコロコロ……

大きいものから小さいものまで、買い取りカウンターを埋め尽くすような魔石の量にちょっとギルド職員さんが青い顔になっていた。量が多過ぎるので買い取り価格は数日後と言われて、俺達はちょっと高級な宿屋に帰り風呂を堪能してから、心地良い疲労感と共に眠りについた。

それから数日は自由行動にして、組み手とかの稽古以外はお互いに好きなことをしていた。俺は図書室にいたシアさんと再会したり、ミゼはその女神の手でへろへろになるまでブラッシングされたり、近所の森から生気を頂いたりしていた。

「おう、買い取り価格が決まったぞ」
「おお、よっしゃ!!」

「それから領主さまからお前を白金の冒険者へと推薦状が、あれっ、どうした?」
「…………おっちゃん、それは正直いらなかった」

推薦状は貰わなかったことにして見逃してくれとおっちゃんに頼んだが、おっちゃんも業務だから仕方がないそうだ。

「まだ、大丈夫だ。俺は金の冒険者だ、白金じゃない、そうまだ大丈夫!!」
「大丈夫です、レクスさん。僕はもう何が起こっても驚きません」
「物欲センサーが順調にお仕事中です、、もう諦めたほうが賢明かと思います」

俺は往生際が悪かろうがこれ以上ランクは上げたくないと思っている、だがとっくに仲間はそれを受け入れているようだった。何故だ、俺は白金と言われるほどのことはしていない、ただの平凡な冒険者のはずだ。
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