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第九十四話 いざ尋常に勝負かもしれない

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そうしてソウヤ対ソウミの直接対決の日がとうとうやってきたのだった。俺達はソウヤからの招待ということで、王族の端っこの席を貸して貰えることになった。

「力を抜いて頑張ってこい、いつもどおりの力が出せればお前の勝ちだ」
「努力すれば魔法は裏切りません、貴方に神のご加護がありますように」
「大丈夫ですよ、レクス様とディーレさんから貴女は沢山のことを学びました」

一対一の直接対決ということで最初はガチガチに緊張していたソウヤも、しばらく話しかけていれば緊張もほぐれてきたらしい。こわばってはいたが、どうにか笑みを浮かべることもできた。

「やれるだけやってきます、ここで見ていてくださいね」

そう言い残すとソウヤは闘技場になっている場所へと上がっていった、両国の王や権力者がずらりと並んで見下ろしている。これはソウヤじゃなくても緊張する、胃が痛くなるのも無理はない。

「とうとう決着をつける時が来たわね、ソウヤお姉さま。貴方は私の下についているのがお似合いよ」

「ほとんど初めましてソウミさん、今日はお手柔らかにお願いします」

二人が闘技場に上がると、どこかの偉い人がこの決闘について説明を始めた。その一、この決闘で負けた者は勝った者の要求をのむこと。その二、お互いの命を奪うようなことはしてはならないこと。その三、結果がどうであれ国として異議を申し立てたりしないこと。という主に三つのことについて、長く難しい話をしていた。

「それでは両者、始め!!」

一通りの説明が終わって審判らしき男が身を引くと、早速ソウミの方から高い魔力を使って動き出した。

「ふふっ、私は強いのよ。『抱かれよエンブレイス煉獄ヘル……』」
「『魔法矢マジックアロー!!』『標的撃ハンティングショット!!』」

「きゃあああ!?」

ソウミが上級魔法を唱え終わる前に、ソウヤが動いた魔法の矢と標的撃で正確にソウミに向かって攻撃を仕掛けた。彼女は唱えていた魔法を中断し、闘技場の端まで吹っ飛ばされた。

そこから沈黙の数十秒、やがてざわざわと周囲が騒ぎ出して、ソウヤが恐る恐る審判の男性に声をかける。

「あの、私の勝ちでよろしいでしょうか?」
「ええと、はい、あの……」
「――!?なに言ってるのよ、私はまだ負けてないわ!!」

ソウミがようやく吹き飛ばされた闘技場外からよろめきながらやってきた、魔法の矢も標的撃もしっかりくらっていたらしく服が少し破れ、体のあちこちから少量の血が出ていた。

「ふっふふふ、『大治癒グレイトヒール』少しはやってくれるじゃない」
「そ、それでは勝負を再開とします」
「は!?はい!!」

勝負再開と聞いたとたんにソウヤは反射的にソウミから距離をとった、同じ手を何度も使ってはこないだろう。今度はソウヤの方から動き魔法を放った。

「『ライト!!』『ライト!!』そして『標的撃ハンティングショット!!』」
「『風硬ウインドハード……きゃあああああ!?』

ソウヤは立て続けに光の目潰しをソウミにくらわせて、標的撃でまた闘技場の奥まで彼女を吹っ飛ばした。

うん、実に基本に忠実にソウヤは戦っている、相手の視界を早めに奪って混乱させて、それから標的撃で確実に攻撃を加えていった。

「あの、今度は私の勝ちでよろしいでしょうか?」
「えええと、はい、少々お待ちください」
「――いいわけあるかぁ!!あんた汚いわよ。魔力が低いからって詠唱中に攻撃するなんて卑怯じゃないの!!」

「いや、だって本物の戦闘だったら、こっちの詠唱が終わるまで相手は待ってくれません!!」
「そう、……ふふふっ、……相手は待ってくれないのよね」
「り、両者、勝負を再開してください」

抗議するソウミに対してソウヤが冷静に返事をすると、ソウミはふふふっと不気味に笑って闘技場に戻ってきた。そしてまた、勝負が再開される。

「死ねぇ『氷竜巻アイストルネード!!』」
「!?『火炎嵐フレイムストーム!!』」

ソウミは氷混じりの竜巻を生み出した、それをソウヤが炎の嵐で撃ち返そうとする。両者の拮抗はしばらく続いて、やがてどっちの魔法も消え去った。

「これで終わりよ『多くのメニー命奪いしライブス刃の振り子ペンジュラム!!』」
「――!?『ボディ体強化ストレイゼン!!』『浮遊フロート!!』『フォッグ』」

ソウミは上級魔法での勝負に出た、風の大きな刃がソウヤの体を削りとろうと闘技場に出現する。

「…………いきます!!」
「今度こそ死になさい!!」

ソウヤは身体強化と浮遊の魔法を唱えて体を軽くし、思いっきってソウミの方に近づいた。霧の流れで見抜いた魔法の刃を紙一重で避けてみせ、そこから容赦なく杖を使ってソウミの頭を殴り飛ばした。

「ぐわぁ!?」
「止めに『雷打サンダーストライク!!』からの『追氷岩チェイスアイスロック!!』」

ソウミが使った上級魔法は対集団戦のものだ、だから攻撃力は高いがそのぶん隙が大きい。そこをソウヤは霧の動きで刃を見切って、身体強化と浮遊の魔法で体の動きを強化し敵の方にうって出たのだ。

思いきった行動だ、攻撃を見切れずにその身に受ければソウヤの身は切り刻まれていただろう。彼女はそこであえて攻撃にでた、見えない死神の刃をかわして杖をソウミの頭に叩き込んだ。

しかも、そこから雷打で体を痺れて動けなくさせて、追氷岩でソウミの体を凍らせて拘束してしまった。この勝負、どうみてもソウヤの勝ちだろう。上級魔法を避けるという賭けに出て、彼女は見事にこの勝負に打ち勝ったのだ。

「えっと、これで私の勝ちでしょうか?」
「畜生!?このくそ女、早くこの氷をどかしなさい!!『ウインド……』痛いっ!!止めて!!嫌あぁぁ!?」

頭以外を氷漬けにされながらもまだ往生際が悪く呪文を唱えようとするソウミに対して、ソウヤは冷静に魔法を唱えようとするたびに杖で軽く叩いていた。

「この勝負、ソウヤ殿の勝利と認めます!!」

とうとう審判はこの魔法戦の勝利者がソウヤであることを認めた、ソウヤは会場の隅にいる俺達に向かって笑顔で手を振っていた。

「よっし、よくやった!!」
「……女の子もあっという間に強くなるものですね」
「……教わった一人がレクス様ですから、……わりとえぐいことも平気で教えて」

ミゼがなにやらブツブツと文句を言っていたが、俺はそんなにおかしなことは教えていない。ただ敵だと思ったら容赦するなとか、最後に止めをさすまで気を抜くんじゃないとか、戦闘における常識を教えただけである。

「それではソウヤ様、敗北したツキシロ国ソウミに何を要求なさいますか?」
「はい、それは我が偉大なツクヨミ国の主である陛下にお任せしたいと思います。私の忠誠は幼き日に救われてから陛下に捧げております、どうぞご命令をお与えください」

ソウヤは恩賞についても良い答え方をした、ここでソウヤが何かを請求するのはあまり得策ではない。ソウヤにはどうしても魔法と王族の血縁で成り上がったという一面がある、だから恩賞をその主である王に任せたのは良案だと言えよう。

「……………………敗北したソウミには我が国に来て貰い、永の館で過ごして貰う。ソウヤよ、魔導士長としてよく戦った。その役職に恥じぬように今後も忠義に励むとよい」
「はい、承りました!!」

ツクヨミ国側の要求にツキシロ国側は肩を落とした、これでツキシロ国は一人の将来有望な魔法使いを失ったのだ。

ツクヨミ国側としては相手の戦力を削ぎ、またソウミがこちらに恭順の意を示すまで、軟禁生活を送らせることにした。殺さなかったのは相手から恨みをかいたくなかったから為と、軟禁生活を送りながら徐々にツクヨミ国へと従わせるつもりかもしれない。

ツクヨミ国ではその晩、ソウヤの戦勝会が開かれた。俺達も招待されたので慌てて恥ずかしくない程度の服を用意して参加した、今晩の主役はソウヤであちらこちらから話しかけられて大変そうにしていた。

「これで少しはソウヤの同僚達の嫉妬が収まればいいけどな」
「あれだけ実力を示したのです、いつかは理解が得られるはずです」
「うぅ、これだけご馳走があるのに食べられないとは、猫の身は辛いです」

さすがに王宮の晩餐会で猫に餌をやるわけにもいかない、むしろ招待状があるとはいえよくミゼの出席が認められたものである。

「レクスさん、ディーレさん、ミゼさん。私はやりました、どうにかソウミに勝つことができました!!これも皆さんのおかげです、ありがとうございます!!」

「俺が思った以上によくやった、あの上級魔法を避けた時なんか驚いたぞ」
「ええ、あれは見ていて怖かったです。怪我などはしませんでしたか?」
「かっこよかったですよ、ソウヤさんの数年後が楽しみです」

晩餐会の合い間をぬってソウヤが俺達に挨拶にきてくれた、俺達は口々にソウヤの勝利を褒め称えた。彼女は真っ赤になって、嬉しそうに可愛い笑顔で笑った。

「これは、ソウヤがお世話になったようだ。その功績にきちんと報いようと思う」

「いやソウヤ自身が考えて、身につけた力だ。彼女を褒めてやってくれ」
「ソウヤさんは努力家です、今回も熱心に戦闘訓練をされていました」
「先生も良かったですけどね、偶にはノージョブもお休みです」

「あわわわ、ああ、わわっわ!?」

俺達は何か威厳のある偉そうな人がソウヤのことを言ってきたので、それぞれが素直に思ったままのことを言った。

ソウヤは俺達の言葉に真っ赤になったり、真っ青になったりと何故かコロコロと顔色を変えていた。その偉そうな人はそのまま去っていったのだが、ソウヤが慌てながら俺達に教えてくれた。

「い、今のは陛下ですよ!?レクスさん達は知らなかったんですか!?」

「……………………」
「……………………」
「……………………」

いや、王族なんてそんなに面会ができるわけでもないし、ましてやその顔なんて俺達が知っているわけがない。闘技場では遠かったし、興味が無かったから顔なんてよく見てなかった。やばい、何か失礼になるようなことを言わなかっただろうか。

思いっきり慌てるソウヤと内心は俺達も慌てていたんだが、皆ではははははっと笑顔で何かを誤魔化した。知るわけないだろう他国の王様の顔なんて、自分の国の王様の顔も知らないような庶民だぞ俺は!?

翌日になってから冒険者ギルドにて俺達は王様という存在が、どれだけの力を持っているのか思い知ることになる。

「金の冒険者レクス様、ツクヨミ国の陛下よりランク白金へ推薦状が届きました」

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