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第七十三話 偏ってるけど覚えはいい
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俺達は海があるというマアレ国の都まで来ていた、俺は海というものを初めて見たがこんなに大きいものだったとは驚いた。森の中しか知らなかったファイスにおいては、最初は驚きで声も出てこないようだった。
「へぇ、あれが海か。凄く大きい、そして綺麗だ」
「はぁ、僕も初めて見ました。う、動く湖なのですか」
「風で波はおこるのだそうです、潮の満ち引きは月の引力が関係しているといいます。その為に、時間によって海の波打ち際は変化致します」
ミゼが難しいことをまた言っている、月は知っているが引力とは何だろう。しかし、湖でさえ沢山の水を蓄えているものなのに、この海はそれとは比較にならないほど大きいものだった。
「………………レクス、レクス、凄い!!海は凄い、大きい!!」
「わかった、わかった、はしゃぎ過ぎて海に落っこちるなよ」
「今日は泳ぎの練習ですからね、森に住むとはいえ覚えておいて損はありません」
マアレ国に来たことで俺達は海をいう者を初めてみることになった、海という湖があるからにはそこに泳がないという選択肢はない!!……というわけで小舟を借りて俺達は泳ぎにきているのだ。俺とディーレはとりあえずファイスをなだめる。今日の主役はファイスだからだ。
何故ならファイスは泳ぎというものを知らなかった、森の中の湖は神聖なものとされていて触れることも許されないそうだ。族長だけがあの湖に近づけるのだと言う、今はその偏った教えも改善されているといいのだが、その為にあの実は人の良いサクルトは頑張っているかな。
「また美形の犬かきが見られますねって、きゃー、どうして私が海に――!!」
まず、俺は妙なことを言っていたミゼを海に放り込んだ、ミゼの泳ぎかたは確かに基本ではあるんだが見た目が凄く悪い。よって、ミゼ本人に見本をみせて貰った。
「ファイスあれがまずは見本だ、基本的な泳ぎ方だ。最初はあれから覚えていこう、まずは水になれないとな」
「こんなに沢山の水があるなんて、か、辛い」
「ファイスさん海の水は塩を含んでいるので、そのまま飲んではいけませんよ」
「ゼ―ハー、ちょっと種族をチェンジで!!私をもっといい種族に変えてください――!!」
ファイスはディーレから注意された後、自分で『水』の魔法を使って口直しをしていた。
ワンダリングという部族が習慣的に魔法を使っていなかっただけで、ファイス自身が勉強を始めると初級の魔法のいくつかはすぐに使えるようになった。
『水』と『火』それに意外だが『浄化』の魔法である。なんでもワンダリングは魔の森が混じった大森林で暮らしている為、スケルトンやゾンビになる者が少なからずいたらしい。
魔法が使えない場合は徹底的に相手の体を破壊して、それからできる時は火で焼き尽くして灰にしてきたそうだ。全部の遺体がアンデッドになるわけではないし、火葬はあれでかなりの燃料を必要とする。だから、その度ごとに力技で対応してきたらしい。
「私はこの『浄化』という魔法を覚えたい、起き上がってしまった仲間にまた深い眠りを与えたい」
「ファイスさん、それは私も同じように思っています。頑張りましょうね!!」
ファイスにとってはそのことが辛いことで、動きだした遺体を止めることができると本で読んで貰ってから、それに共感したディーレの指導を受けてわりと早く『浄化』の魔法を覚えた。
迷宮にも先輩冒険者の成れの果て、スケルトンやゾンビとなって時々襲ってくるので、その度にファイスは『浄化』の魔法を使うようになった。
「『浄化!!』……レクス、良かった。この人は動かなくなった、今なら土に帰してあげられる」
「そうだな、他の浮遊霊が入りこまないうちに体を失くしておこう」
………………とまぁ、ここまでなら良い話ではあるのだがスケルトンならメイスの餌食になって粉砕、ゾンビなら生っぽい感じで粉砕していくだけだ。
迷宮で火葬にするわけにはいかない、煙がまわって他の冒険者の迷惑になってしまう。こうしておけばあとはスライムという魔物が勝手に掃除をしてくれる、あいつらは何でも食べる雑食性だ。
こんな調子でファイスは自分が必要だと思えばわりと勉強熱心だった。逆に必要ないと判断するといくら丁寧に教えても進歩がない。今回の泳ぎはどうなるだろうか。
「レクス、レクス。足元がふわふわで頼りない、水に沈むのが怖い」
「まぁ、まずは水に浮いてみろ。体の力を抜いて、仰向けになってみるんだ」
ファイスは水に浮かぶくらいのことはできた、だが泳ぎとなると水に顔を付けるのが嫌らしい。結局はミゼが得意な犬かきを覚えた。それ以外の泳ぎ方は怖くがってなかなか覚えてくれなかった。
「レクス!?何かいる!!うわあぁぁ」
「よし上がれ、確かに何かがいるな、あれは何だ?」
「クラーケンではないでしょうか、魔法銃でも魔法でもいつでも迎撃可能です」
「蛸と烏賊が混じりあったようなモンスターですね」
海に異変が起こったことを察知して、俺はファイスを借りている船に引き上げた。彼がいた水の底の方にはミゼのいうとおり蛸と烏賊が混じり合ったような怪物、クラゲにもにているかもしれない、そんな化け物がいた。
俺達は沖合にでていたが、他にも数隻の船が漁の為に出ていた。ディーレが魔法銃ライト&ダークで岩石弾を撃ち込んでいたが、海の水の抵抗があり底にいる本体には大したダメージにはなっていなかった。
「水面まで上がってきたら魔法で撃ち殺してやるんだが、賢いのか臆病なのか上に上がって……きたか。『追氷岩!!』」
「僕が破壊します、岩石弾です」
『追氷岩』は標的に向かって氷が蔦のように伸びていきその相手に届いたら、全体を凍らせてしまうという魔法だ。
ディーレは俺が凍らせたクラーケンの足を岩石弾で狙って打ち砕いた、凍らせたままで衝撃を当てて砕けば水の中でも充分に敵にダメージを与えられたようだ。
「……魔法って凄い」
「そうですねぇ、クラーケンさんは蛸味なのでしょうか、烏賊味なのでしょうか。私としてはとてもそれが気になります」
本体の方は何本かある足がやられたのが気に入らなかったのか、水面まで上がってこずにそのままもっと外海へと逃げていった。ミゼがまたファイスに妙なことを言っている、……出汁をとったら美味いんだろうかクラーケン。
ファイスは魔法の可能性に気がついたのか、そこからは泳ぎの練習も上手くいった。更に泳ぐのにはぴったりの魔法がある、『水中呼吸』だ。
「さて、泳ぎの訓練を再開するか」
「う、うん」
「ある程度時間が経ったら、命綱をひっぱりますよ」
「潜水病にお気をつけて、あまり深く長い間は潜らないでくださいね」
ファイスも魔力の量はそこそこあるようで、『水中呼吸』の魔法を覚えたら途端に上手く泳ぐようになった。基本以外のいろんな泳ぎ方も覚えることができた、……ミゼが何故か悔しそうにしていた、このダメ従魔は何を考えているのか。
この魔法で注意しなければならないが魔力の残量だ、そろそろ息苦しさを覚えたらゆっくりと上に上がったほうがいい。それにあまり深く長く潜ると潜水病という病気にかかるとか、この魔法を覚えたからといってどこまでも深く潜ってはいけないわけだ。
今日は浅く潜っては食べてもいい貝や甲殻類などを獲ってきて、俺達はその夜また海の幸を味わえた。俺はスープだけだけどな。
ああああ、どうして俺には目の前でぐつぐつと煮える貝や、こんがり焼けている海老が美味しそうに見えないのだろうか。
草食系ヴァンパイアの弱点の一つである、人間の三大欲求である食欲、睡眠欲、性欲のうち俺は全てが中途半端な気がする。
食欲は固形物が食べられない、睡眠欲は普通の人間より少ない時間で活動できる。性欲は…………長い一生になるだろう、そのうちどうにかなるさ。なぜか咄嗟にフェリシアの顔が浮かんだが、ま、交わりたいとか言ってからだろうか。ない、ない、あれはただの好奇心だった。
それより俺の食欲の問題である。ミゼの奴は猫の従魔だが、普通の猫と違って魔物になったから何でも食べれる。主の俺が食べれなくて、従魔のミゼが何でも食べていいって何か理不尽だ。
「レクス、レクス、これ美味しいね。レクスがお腹が弱いなんて知らなかった、私の食事を食べてみない?とても美味しい!!」
「残念ながら遠慮しておく、本当にダメなんだ固形物は……」
「ファイスさん、レクスさんのはもう体質的なものなのです。それも無理強いしてはいけません」
「なんてレクス様お辛い……もぐもぐ……気の毒な……もきゅもきゅ……悲劇で……はぐはぐ……ってレクス様お皿取らないで、まだミゼはお腹が空いております」
一番に俺に従順なはずの従魔が主人の悲哀を感じもせずに、美味しそうに食事をしている様子に軽く殺意を覚えたぞ。
覚えておけよ、ミゼ。今日は許してやったが食べ物の恨みは恐ろしいんだからな。
「うみ、およぐ、かい、えび、やく、スープ、レクス、レクス、文字をこれだけ覚えたよ!!」
「おう、凄い、凄い!!」
ファイスは本当に興味があるものに対しては覚えが早い、今日の海での出来事に関する文字は覚えてしまったようだ。
後は槍術だな、俺は冒険者ギルドで槍術を教えてくれる人材を探して貰った。槍術を教えて欲しいと依頼を出したら、銀の冒険者の一人が引き受けてくれたのだが。
「あたしはレクスちゃんかファイスくんとの一夜で良いわよ」
「………………依頼表にはそんな項目は無い、十日で銀貨30枚の契約だ」
「うふふふふっ、冗談よ、冗談」
「………………」
ファイスの槍術はワンダリングに伝わるほぼ自己流といってもいい技だった。コゼという女性が槍術の指南を引き受けてくれた、時々言動が危なかったが教えてくれる時の態度は真面目だった。この女性は剣術も嗜んでいた。
さすがは銀の冒険者だけはある、俺とディーレも槍術の型くらいは一緒になって覚えた。ファイスと組み手なんかをしてやりたかったからな、実際に基本的な動きのうちは良い練習相手になったと思う。
敵に刺した槍を取られた時の為に、ファイスは武術は俺から、剣術はコゼさんから教わっていた。
勉強とか本を読むのは苦手なようだが、ファイスは体を動かすことは大好きで武術など、鍛錬は黙々とこなしていた。
それでも、ギルドなどにいくと人の多さに戸惑ったり、依頼の交渉など覚えることは沢山あった。ファイスはそれを真剣に、コツコツと地道に学んでいった。
天才型のディーレとは反対である、俺は凡人仲間ができたようで嬉しかった。
せっかく迷宮のあるマアレ国に来たのだ、泳ぎを教えた後はファイスの腕を見る為にゴブリンやコボルトとの集団戦への対処の仕方や、オークなどとの戦い方を教えていった。
「槍を振るいながらも魔法を練り上げろ、そして隙をみて相手にぶっ放せ。そうすれば魔法は強い力になる」
「へぇ、あれが海か。凄く大きい、そして綺麗だ」
「はぁ、僕も初めて見ました。う、動く湖なのですか」
「風で波はおこるのだそうです、潮の満ち引きは月の引力が関係しているといいます。その為に、時間によって海の波打ち際は変化致します」
ミゼが難しいことをまた言っている、月は知っているが引力とは何だろう。しかし、湖でさえ沢山の水を蓄えているものなのに、この海はそれとは比較にならないほど大きいものだった。
「………………レクス、レクス、凄い!!海は凄い、大きい!!」
「わかった、わかった、はしゃぎ過ぎて海に落っこちるなよ」
「今日は泳ぎの練習ですからね、森に住むとはいえ覚えておいて損はありません」
マアレ国に来たことで俺達は海をいう者を初めてみることになった、海という湖があるからにはそこに泳がないという選択肢はない!!……というわけで小舟を借りて俺達は泳ぎにきているのだ。俺とディーレはとりあえずファイスをなだめる。今日の主役はファイスだからだ。
何故ならファイスは泳ぎというものを知らなかった、森の中の湖は神聖なものとされていて触れることも許されないそうだ。族長だけがあの湖に近づけるのだと言う、今はその偏った教えも改善されているといいのだが、その為にあの実は人の良いサクルトは頑張っているかな。
「また美形の犬かきが見られますねって、きゃー、どうして私が海に――!!」
まず、俺は妙なことを言っていたミゼを海に放り込んだ、ミゼの泳ぎかたは確かに基本ではあるんだが見た目が凄く悪い。よって、ミゼ本人に見本をみせて貰った。
「ファイスあれがまずは見本だ、基本的な泳ぎ方だ。最初はあれから覚えていこう、まずは水になれないとな」
「こんなに沢山の水があるなんて、か、辛い」
「ファイスさん海の水は塩を含んでいるので、そのまま飲んではいけませんよ」
「ゼ―ハー、ちょっと種族をチェンジで!!私をもっといい種族に変えてください――!!」
ファイスはディーレから注意された後、自分で『水』の魔法を使って口直しをしていた。
ワンダリングという部族が習慣的に魔法を使っていなかっただけで、ファイス自身が勉強を始めると初級の魔法のいくつかはすぐに使えるようになった。
『水』と『火』それに意外だが『浄化』の魔法である。なんでもワンダリングは魔の森が混じった大森林で暮らしている為、スケルトンやゾンビになる者が少なからずいたらしい。
魔法が使えない場合は徹底的に相手の体を破壊して、それからできる時は火で焼き尽くして灰にしてきたそうだ。全部の遺体がアンデッドになるわけではないし、火葬はあれでかなりの燃料を必要とする。だから、その度ごとに力技で対応してきたらしい。
「私はこの『浄化』という魔法を覚えたい、起き上がってしまった仲間にまた深い眠りを与えたい」
「ファイスさん、それは私も同じように思っています。頑張りましょうね!!」
ファイスにとってはそのことが辛いことで、動きだした遺体を止めることができると本で読んで貰ってから、それに共感したディーレの指導を受けてわりと早く『浄化』の魔法を覚えた。
迷宮にも先輩冒険者の成れの果て、スケルトンやゾンビとなって時々襲ってくるので、その度にファイスは『浄化』の魔法を使うようになった。
「『浄化!!』……レクス、良かった。この人は動かなくなった、今なら土に帰してあげられる」
「そうだな、他の浮遊霊が入りこまないうちに体を失くしておこう」
………………とまぁ、ここまでなら良い話ではあるのだがスケルトンならメイスの餌食になって粉砕、ゾンビなら生っぽい感じで粉砕していくだけだ。
迷宮で火葬にするわけにはいかない、煙がまわって他の冒険者の迷惑になってしまう。こうしておけばあとはスライムという魔物が勝手に掃除をしてくれる、あいつらは何でも食べる雑食性だ。
こんな調子でファイスは自分が必要だと思えばわりと勉強熱心だった。逆に必要ないと判断するといくら丁寧に教えても進歩がない。今回の泳ぎはどうなるだろうか。
「レクス、レクス。足元がふわふわで頼りない、水に沈むのが怖い」
「まぁ、まずは水に浮いてみろ。体の力を抜いて、仰向けになってみるんだ」
ファイスは水に浮かぶくらいのことはできた、だが泳ぎとなると水に顔を付けるのが嫌らしい。結局はミゼが得意な犬かきを覚えた。それ以外の泳ぎ方は怖くがってなかなか覚えてくれなかった。
「レクス!?何かいる!!うわあぁぁ」
「よし上がれ、確かに何かがいるな、あれは何だ?」
「クラーケンではないでしょうか、魔法銃でも魔法でもいつでも迎撃可能です」
「蛸と烏賊が混じりあったようなモンスターですね」
海に異変が起こったことを察知して、俺はファイスを借りている船に引き上げた。彼がいた水の底の方にはミゼのいうとおり蛸と烏賊が混じり合ったような怪物、クラゲにもにているかもしれない、そんな化け物がいた。
俺達は沖合にでていたが、他にも数隻の船が漁の為に出ていた。ディーレが魔法銃ライト&ダークで岩石弾を撃ち込んでいたが、海の水の抵抗があり底にいる本体には大したダメージにはなっていなかった。
「水面まで上がってきたら魔法で撃ち殺してやるんだが、賢いのか臆病なのか上に上がって……きたか。『追氷岩!!』」
「僕が破壊します、岩石弾です」
『追氷岩』は標的に向かって氷が蔦のように伸びていきその相手に届いたら、全体を凍らせてしまうという魔法だ。
ディーレは俺が凍らせたクラーケンの足を岩石弾で狙って打ち砕いた、凍らせたままで衝撃を当てて砕けば水の中でも充分に敵にダメージを与えられたようだ。
「……魔法って凄い」
「そうですねぇ、クラーケンさんは蛸味なのでしょうか、烏賊味なのでしょうか。私としてはとてもそれが気になります」
本体の方は何本かある足がやられたのが気に入らなかったのか、水面まで上がってこずにそのままもっと外海へと逃げていった。ミゼがまたファイスに妙なことを言っている、……出汁をとったら美味いんだろうかクラーケン。
ファイスは魔法の可能性に気がついたのか、そこからは泳ぎの練習も上手くいった。更に泳ぐのにはぴったりの魔法がある、『水中呼吸』だ。
「さて、泳ぎの訓練を再開するか」
「う、うん」
「ある程度時間が経ったら、命綱をひっぱりますよ」
「潜水病にお気をつけて、あまり深く長い間は潜らないでくださいね」
ファイスも魔力の量はそこそこあるようで、『水中呼吸』の魔法を覚えたら途端に上手く泳ぐようになった。基本以外のいろんな泳ぎ方も覚えることができた、……ミゼが何故か悔しそうにしていた、このダメ従魔は何を考えているのか。
この魔法で注意しなければならないが魔力の残量だ、そろそろ息苦しさを覚えたらゆっくりと上に上がったほうがいい。それにあまり深く長く潜ると潜水病という病気にかかるとか、この魔法を覚えたからといってどこまでも深く潜ってはいけないわけだ。
今日は浅く潜っては食べてもいい貝や甲殻類などを獲ってきて、俺達はその夜また海の幸を味わえた。俺はスープだけだけどな。
ああああ、どうして俺には目の前でぐつぐつと煮える貝や、こんがり焼けている海老が美味しそうに見えないのだろうか。
草食系ヴァンパイアの弱点の一つである、人間の三大欲求である食欲、睡眠欲、性欲のうち俺は全てが中途半端な気がする。
食欲は固形物が食べられない、睡眠欲は普通の人間より少ない時間で活動できる。性欲は…………長い一生になるだろう、そのうちどうにかなるさ。なぜか咄嗟にフェリシアの顔が浮かんだが、ま、交わりたいとか言ってからだろうか。ない、ない、あれはただの好奇心だった。
それより俺の食欲の問題である。ミゼの奴は猫の従魔だが、普通の猫と違って魔物になったから何でも食べれる。主の俺が食べれなくて、従魔のミゼが何でも食べていいって何か理不尽だ。
「レクス、レクス、これ美味しいね。レクスがお腹が弱いなんて知らなかった、私の食事を食べてみない?とても美味しい!!」
「残念ながら遠慮しておく、本当にダメなんだ固形物は……」
「ファイスさん、レクスさんのはもう体質的なものなのです。それも無理強いしてはいけません」
「なんてレクス様お辛い……もぐもぐ……気の毒な……もきゅもきゅ……悲劇で……はぐはぐ……ってレクス様お皿取らないで、まだミゼはお腹が空いております」
一番に俺に従順なはずの従魔が主人の悲哀を感じもせずに、美味しそうに食事をしている様子に軽く殺意を覚えたぞ。
覚えておけよ、ミゼ。今日は許してやったが食べ物の恨みは恐ろしいんだからな。
「うみ、およぐ、かい、えび、やく、スープ、レクス、レクス、文字をこれだけ覚えたよ!!」
「おう、凄い、凄い!!」
ファイスは本当に興味があるものに対しては覚えが早い、今日の海での出来事に関する文字は覚えてしまったようだ。
後は槍術だな、俺は冒険者ギルドで槍術を教えてくれる人材を探して貰った。槍術を教えて欲しいと依頼を出したら、銀の冒険者の一人が引き受けてくれたのだが。
「あたしはレクスちゃんかファイスくんとの一夜で良いわよ」
「………………依頼表にはそんな項目は無い、十日で銀貨30枚の契約だ」
「うふふふふっ、冗談よ、冗談」
「………………」
ファイスの槍術はワンダリングに伝わるほぼ自己流といってもいい技だった。コゼという女性が槍術の指南を引き受けてくれた、時々言動が危なかったが教えてくれる時の態度は真面目だった。この女性は剣術も嗜んでいた。
さすがは銀の冒険者だけはある、俺とディーレも槍術の型くらいは一緒になって覚えた。ファイスと組み手なんかをしてやりたかったからな、実際に基本的な動きのうちは良い練習相手になったと思う。
敵に刺した槍を取られた時の為に、ファイスは武術は俺から、剣術はコゼさんから教わっていた。
勉強とか本を読むのは苦手なようだが、ファイスは体を動かすことは大好きで武術など、鍛錬は黙々とこなしていた。
それでも、ギルドなどにいくと人の多さに戸惑ったり、依頼の交渉など覚えることは沢山あった。ファイスはそれを真剣に、コツコツと地道に学んでいった。
天才型のディーレとは反対である、俺は凡人仲間ができたようで嬉しかった。
せっかく迷宮のあるマアレ国に来たのだ、泳ぎを教えた後はファイスの腕を見る為にゴブリンやコボルトとの集団戦への対処の仕方や、オークなどとの戦い方を教えていった。
「槍を振るいながらも魔法を練り上げろ、そして隙をみて相手にぶっ放せ。そうすれば魔法は強い力になる」
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