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第六十三話 金の卵は俺ではない

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ミリタリスという国の都から離れた街、ニーテという街でそれは起こった。俺達がそこに来るまでにデビルボアを狩った、そして冒険者ギルドに立ち寄った時のことだった。

「レクス様、ただいま提出された銀の冒険者証は間違っております。貴方はの冒険者として登録されております、すぐに冒険者証の再発行を行いますね」
「は?俺は銀の冒険者のレクスだ、誰かと間違えているんじゃないか?」

デビルボアの肉がこの街で常時依頼の食肉用として出ていたから、俺がそれを買い取って貰おうと新しく貰ったばかりの銀の冒険者証を出すと、全く思いもしなかったことを言われた。

俺が金の冒険者?いやいや、嘘だろ。まだ銀の昇格試験を受けたばかりだ、そんな俺がランク金の冒険者になっているわけがない。俺に夢遊病のように眠っている間に出歩くような癖があったとしても、そんな状態で昇格試験は受からないだろう。

思わず突飛な考えに行きついた俺に対して、ニーテの街のギルド職員は暫く何かを調べに行っていたが、わりとすぐに帰って来て返事をしようとした。なんだやはり何かの手違いだったのか。

「いいえ、レクス様。貴方は金の冒険者として既に登録されています、理由はその力が充分にあると闘技場で認められたからです。ホウミ家、アイヨ家、カモイ家、ノル家、シゾワーン家、コヨ家、キラレヤ家の七家から推薦状があり、既にギルドではレクス様を金の冒険者として認定したのです」
「…………それを辞退することはできないのか、俺は銀の冒険者で充分だ」

どうやらこの強さが一番、とにかく強い者にはしかるべき待遇を授けるべきだというミリタリスという国は、勝手に俺の冒険者ランクを引き上げたようだ。金の冒険者になるなんて俺はすごく嫌な予感がした、なんだか面倒が増えそうなので金の冒険者なんかにはなりたくない。だから、そう正直にギルド職員に向かって言ってみた。だが、その返答は冷酷なものだった。

「冒険者のランクとはギルド側が判断するものです。銅が新人、鉄が一人前、銀で熟練者となれば、金の冒険者になるにはそれなり人脈か功績を示した方になります。そして、ギルドのその判断は覆せません。もし、犯罪行為に走ったりすれば別ですが」
「…………わかった、冒険者証の作成を頼む」

俺は金の冒険者になることを承諾した、ランクを落とす為に犯罪行為などをする気はない。だが、これでかなり面倒なことに巻き込まれそうな気がする。

「どうして、こうなったんだか?」
「僕にも分かりかねます、負けた相手への推薦状を書くとは何故でしょう?」
「あれはどうみてもレクス様の試合に負けて、勝負に勝ったという状態でしたから、そこが評価されたのかもしれません。または単純にかなりの強さの冒険者だったから、なんらかの形でこの国に留めておいて力にしたいと思っているのかもしれませんね」

とにかく俺は金の冒険者になった、そして俺をこのミリタリスという国が利用したいという思惑も、俺に対する指名依頼ですぐにとんでもない形で発覚したのだ。

「ねぇお願い、私を選んでください。立派な男の子を生めるんです、もう一人生んだことがあるから間違いないです」
「私の方が若くて抱き心地もいいわよ、なんていっても商売相手が腹上死するくらいの良い女だったんだから」
「お兄さん私を選んで、まだ成人もしていません。……私を助けてください」

俺にいきなり与えられた指名依頼は、内容は知らされずにこの街の領主のところに行かされるということだった。そこで待っていたのが、体を綺麗に洗われて薄くて透ける服を着た、わりと顔立ちの良い少女から美女たちだった。

「おい、ディーレ。いくらなんでもこの指名依頼受けろとか言うなよ、相手は犯罪者なんだ。いくらお前が優しくても、……相手は犯罪者なんだからな」
「わ、分かっています!!それにこういったことは神に誓って、愛し合う者達の間で行われるべきです。そうでなければ、愚かしく寂しいことです!!」
「うはぁ、そこそこいい女だらけ祭りで食べ放題ですね。レクス様がこのままだと賢者になってしまうかもしれない、プスークスクスクス」

詳しく依頼の内容を聞いてみると酷い話だった、ここにいるのは犯罪奴隷の者ばかりで、俺と性交をして子どもに男子を授かれば罪を減刑するというものだった。

冗談じゃない俺は種馬か!?生まれた子どもはこの国の孤児院で育てるのだという、そこで素質があり成長したらミリタリス国へ貢献する人間になるというわけだ。

「はぁい、私はニメア・キラレヤ。ああ、顔も素敵なんてやったわ!!貴方の子どもだったら期待が持てそう、ねぇどうせなら楽しみましょう」
「こちらのあの闘技場の戦士がいると聞いた、内密にお願いしたいことがある。是非とも将来有望な子種分けていただきたい、生まれた子は我がノル家で大切に育てると約束する」
「あらぁ、黒髪に黒い瞳の凄い冒険者のお兄さんって聞いていたけど間違えちゃった。…………まぁ、いいわ。貴方もあの人のお仲間なんだから強いんでしょう、私とこのまま良いことしましょう」

俺が犯罪奴隷を相手に対する依頼を断ると、この街の領主は不思議がっていた。本によれば英雄は色を好むというが、この国ではそれがまさに常識としてまかり通っているという話だった。…………だが俺は両親のように、そういうことは結婚する相手とだけしたいと思う。

「出よう!!この国を早く出よう、もう何だっていいから次の国に行こう!!」
「レクスさん、僕も賛成です!!一刻も早くここから旅立ちましょう!!」
「うっわぁ、このままではレクス様だけではなく、ディーレさんも賢者になってしまうかもしれません。プスークスクス。いや、もしかしたら大賢者ですか」

そんなとんでもない依頼は受けられないと領主に断ったら、俺が相手が犯罪者であることを気にしていると思ったのか、今度は貴族の令嬢や強い女性の冒険者が宿屋に夜這いにくるようになった。

「え?どうして困るんです?ちゃんと体に武器など持っていないと確認しましたし、ギルドからの指名依頼表も持ってきた女性ばかりでしたよ」
「………………」
「………………」
「うゎ、ここの女性強い」

宿屋の主人になんで勝手に知らない奴を、俺が借りた部屋に入れるんだと抗議したら、主人の方はなんで俺達が怒っているのか分からないというふうだった。

女性の貴族が押しかけてくることがあったが、時には同じ冒険者の女性がくることもあった。ここでは女性でも冒険者としてそれなりに稼いでいれば、こういったことで子どもを手にする者もいるのだ。…………全く、どうにも俺には理解し難い。

俺達は二人部屋だったから、ディーレの方にも被害が少なからずあった。全部、未遂ではあったが、ディーレの奴はやはりオーガと戦うより怖いと言っていた。俺たちはすぐに宿屋を引き払って、ミリタリス国を出ていくことにした。

「まったく興味がないわけじゃない、だが人の意志を無視して襲ってくるような女はごめんだ。このまま、『飛翔フライ』で国境まで飛んでいくぞ」
「了解です、ああ神よ。どうか僕らをお守りください、『隠蔽ハイド』僕らの姿をお隠しください」
「…………剣と魔法の世界の肉食系女子は怖い、でも羨ましい気もする。ううう、悩ましいところです」

俺とディーレが必死になってミリタリスという国を出ようをしている時、従魔であるミゼだけが平和をむさぼっていた。この使い魔、主人である俺を差し置いてのんびりと安心しやがって!?

「そういえば、ミゼにも貴族からうちの猫と交配させてみないかという話が……」
「レクス様、逃げましょう!!ケモ耳っこは受け入れられますが、リアルの獣は私には荷が重すぎます!!」

こいつちょっと俺達と同じ立場に立たせてみようとしたら、途端に意見を翻して国境越えを推進しはじめやがった。いや、実際にはそんな話は無かったんだが、これで俺達の苦労がミゼにも少しは分かったようだ。

従魔として主人の苦労を理解すべきだろう、俺達が賢者になるとか大賢者になるとか言っていたが、俺達は確かに賢くなったぞ。もうミリタリスという国には暫くは来ない!!絶対に来ないからな!!

俺達は国境を越える関所にようやく辿りついた、そういえば最近『魔法の鞄マジックバッグ』の別の隠されていた機能に気がついた。この『魔法の鞄マジックバッグ』は魔力をこめて触れなければただの空の鞄なのだ、次に魔力をこめて触れると『魔法の鞄マジックバッグ』に戻っている。

つくづく便利な魔法の品だと思う、だから俺と仲間の魔力だけに反応するように、鍛冶屋の魔法使いに術式を施してもらった。それで俺達は検問や関所を越えるのも簡単になった、ちなみに『魔法の鞄マジックバッグ』はやはり珍しい品なので、それでも窃盗に気をつけるようにと忠告された。

「おお、金の冒険者か凄いな。また、この国に来てくれよ。なんならここに永住するといい。この国は強い者なら大歓迎だ、実は俺は娘が……」
「ああ、とても・・・思い出深い国になった、また来ることも長い一生だ、あるかもしれない。時間をとらせた、俺達は次の国へ行こう、それじゃあな」

俺達はミリタリスという国を出ていこうと関所を通ろうをした、内心でもしかしたら国外に出れなくなっているかもしれないと思ったが、さすがにそんなことは無かった。

そうなったら国境の関所を通らなければ済む話である、後で別の街の冒険者ギルドに行った時に倍額の国境通行料をとられるが、それで問題が起きないのなら迷わずに俺はそうする。

この国境越えの通行料は隣国との仲の良さによって上下する、戦争中ならとられないこともある。とにかく、俺はミリタリスという国から逃げ出すことが出来た。

俺は金の冒険者になったわけだが、これでもう面倒事は終わりにしたい。

暫くは、俺の冒険者証はもう身分証としてだけ使用することにしよう。
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