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第十八話 魔法を使うのはやめられない
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「こちらがご希望していた『中級魔法書』と『上級魔法書』になります、代金の金貨70枚と手数料として銀貨10枚、はい。しっかりと受け取りました、でも本当にいいんですか?」
「えっ、何がですか?」
「ああ、憧れの中級・上級魔法って、シアさん~、にゃああ~。久しぶりの女神の手でございます~、あ~れ~」
俺は以前に約束していたとおり、ギルドの職員であるシアさんから、こっそりと『中級魔法書』と『上級魔法書』を購入することができた。
「普通の人でも生活に便利な初級魔法は、力の大小はありますが習得できます。でも、中級以降はよほどの魔力がないと習得できませんよ?お金が勿体なくないですか?」
「いや、こう見えても俺って結構、魔力があるんです。ダメだったらダメで、諦めがつきます。いろいろと自分にできることを試してみたい、大丈夫。本は大好きですから、転売したりは決してしません」
「にゃああああ、シアさん、だめぇ。そこは、そこは、らめぇなのですぅぅぅ」
俺は普通では購入できない、『中級魔法書』と『上級魔法書』を手にいれることができて、シアさんにも笑顔全開で話をしていた。この二冊は街では売っていない物、入手先であるシアさんの迷惑にならないよう転売したりはしない。
約半月ぶりに会うシアさんは、俺が笑顔で魔法書についてお礼を言ったら何故か顔を赤くした。そして、その膝の上にいるミゼを、猫式お触りテクニックでダメ猫にしてしまっている。
「それではシアさん、さっそく読んでみたいので今日はこれで」
「あっ、はい。………また誘ってくださいね」
「はぅわっ、三途の川の向こうで婆ちゃんが手を振ってた。シアさん、またお会いしましょう。あー……、別の世界の扉が開きそうでございました」
俺は昼食を終えてシアさんの分もしっかりと奢ってから、気持ちよく別れの挨拶をして、わくわくと二冊の本を抱えて街の外めがけて走り出した。シアさんは少し赤い顔をしたままで、笑顔で見送ってくれた。
うむ、世界にもあんなふうに常識的な女性がいてくれる。おかげで俺は女性不信にならずに済んでいるんだ。一番は亡くなった母さんだな、働き者でとても優しい人だった。
「ねぇ、あんた!!いや、レクス!!き、今日こそ私の話が聞きたいでしょう?」
「………………」
「うっわっ、アウラさん。……いえ、私は何も見ていません。ここには私とレクス様以外に誰もいないのです、面倒事はごめんなのです」
俺がせっかく貴重な魔法書を手に入れて、うきうきとした気分で街を歩いていれば、会いたくもない奴に会うことになった。
「あっ、こら!?ち、ちょっと待ちなさいよ――!!」
「ミゼよ、俺は何も見ていないな」
「はい、私も何も見ておりません。たとえ何か見たような気がしても、きっと気のせいでございます」
俺は自分に関係のない言葉を聞き流すのに慣れている、しかし最近その中でも特にしつこい雑音がある。
うっわっ、思い出したくないのに思い出してしまった。俺の故郷にいたマリアナという勘違いくそメス女、あれとどこか似た匂いがする女に俺達は付きまとわれているのだ。
「き、今日は暇だから、迷宮に行くなら手伝ってあげてもいいわよ」
「貴方、や、やっぱり私と一緒にいたいんでしょう」
「もうわざわざ先回りして待つなんて、ち、ちょっとだけなら相手にしてあげる」
「か、カッコいいからって、私をどうにかできるとは思わないでね」
「ふふふ、わかっているわよ。実は私を仲間にしたいんでしょう」
「は、早く素直に認めなさいよ。わ、私だって考えてあげるんだから!!」
…………うん、はっきりと言おう。うざい、このくそ女候補その二は果てしなく、その行動がうざ過ぎる。俺の中ではもはや何度、このくそアマ迷宮でうっかり事故とかおきないかな。そんな過激なことを考えたくなるほどに、このくそ女はうざかった。
容姿だけならこのくそ女は世間一般からいって、とても恵まれていると思う。二つにわけて結んだ金の髪は長くて美しい、その大きくつぶらな瞳は湖のような蒼さを持っている。
普通の男なら、思わず目がいくだろう、豊富な胸と細い腰つきをしている美人だ。あくまでも容姿だけの話だが、性格はもう言ったとおりにうざい。
俺は知りたくもないが、勝手に相手が話していった情報によると今年で成人。どこだったか、お貴族さまのお嬢さんなのだ。以前に俺が通り道を作る為に、適切な対処をした。世間では救助をした、新人冒険者のうちの一人だ。
しかも真面目にこのくそ女は冒険者をしているわけじゃない、貴族のお嬢さんの気まぐれというやつである。この女はわざわざ護衛を雇って、冒険者をしているのだ。一体どこの世界にそんな馬鹿な新人冒険者がいるんだ、……いや現にここに一匹いるわけだ。この世界は広い、ちょっぴり奇妙な生き物も沢山生息しているんだな。
「女が冒険者になるなとは言わん、それは個人の自由だ。しかし、その個人の自由を差し引いても、あれは酷い」
「私はレクス様が女性不信にならないかと、ちょっぴり心配でございます」
「ちょっと、待ちなさいってばぁ。どうして、私の言うことが聞けないの!!」
俺の身体能力が優れているおかげで、かなりの距離を離れたのに、まだあのくそ女の声が聞こえる。高い身体能力も、こういう場面では逆に役に立たない。
それにしても俺の特技、ミゼ曰く興味の無いことはとことん話を聞かない。徹底的に相手にしないという技を上回るとは、あのメスはある意味で凄い。
「ようやく、声も聞こえなくなったか。さて、ミゼよ。少し外に出て、さっそくこの『中級魔法書』と『上級魔法書』を試してみよう」
「はい、もちろん!!楽しみでございますねぇ~」
俺達はようやくうざい女その二、アウラを完全にまいてしまい。ラビリスの街の門の一つから、いそいそと魔法を試す為に外へと出ていった。
「初級魔法は生活系などが多いんだったな、それに個人戦用に向いているとか」
「はい、逆に中級からは集団戦闘に特化しております。もし、上級も扱えるならば、その方はすぐに貴族か王族にスカウトされることでしょう」
初級の魔法は言った通り、生活か個人戦に向いた魔法が多い。使用する魔力が少なくて済むし、そこらにいる平民の間でも口述で受け継がれていたりもする。ただし、魔法は使う者次第でその効果が変わってくる。
「『隠蔽』の魔法なんて、本来なら一瞬だけ姿が消えるとか、髪や目の色を変えるとか、その程度の子どもに人気の悪戯魔法だよな」
「はい、だからこそ初級魔法書に載っているのです。レクス様の魔力がお強いので、違った使い方である隠密活動のようなことができるのです。本来『隠蔽』は大人には人気のない魔法でございます」
そう、魔法はそれを行使する者の魔力の高さによって、このような差を生むのだ。そうでなければ『隠蔽』の魔法をつかって、盗人などは窃盗し放題になってしまう。
「中級魔法は十数人を攻撃できるくらい強い、または初級の十倍くらいの力を生むんだったか?」
「はい、そして上級ではそれが数百という単位に変わります。習得すれば貴族や王族から、スカウトがくるというのも納得です」
「それは当然、戦争時にとても役立つだろうからな」
「たった一人の魔法使いが何百という兵を殺せるならば、それは恐ろしい人間兵器と言ってもいいでしょう」
俺達は強めの魔法を使ってもいいように、かなりラビリスの街から離れたところを目指して走っていく。走る速度は人間の全力疾走くらいだ、時々すれ違う人が何事かと俺を見るが、行動自体は人間に見えるくらいの力に抑えているからいいだろう。そうして俺たちはようやく人気のない、ラビリスからかなり離れた湖のほとりに着いた。
「さぁて、それでは理論よりも証明を、試しに一つか二つ使ってみよう」
「水属性の魔法がよろしいでしょう、この湖で何があっても今なら人もいませんし、好都合でございます」
俺はまず『中級魔法書』の水属性に関するページをパラパラとめくる、あまり環境に影響しないような、そんな魔法で試してみたい。おおっ、これなんかはどうだろうか。
「これでどうだ『氷竜巻』!!」
「うひゃああああぁぁぁぁ!?」
俺が右手を伸ばして魔力を使う方向を示した先から、氷の混じった竜巻が起こった。そして、暫く経ってその風が収まると、宿屋の二、三軒くらいの範囲で湖が凍り付いていた。
「………………」
「………………」
もしも、俺が魔法を使った先に人間がいたのなら、氷の斬撃に斬り刻まれそのまま氷の彫刻と化しただろう。確かに、中級は十数人を攻撃できるくらい強い魔法だ。
「お、思ったよりも少し強い魔法だったが、今度は少し大人しい上級魔法を試してみるか」
「お、お手柔らかにお願い申し上げます」
俺は今度は『上級魔法書』のページを幾つかめくってみる、あまり環境に影響しない魔法、そんな魔法はどれだろうか。おお、これなどはどうだろう。
「では、いくぞ。『恵みの滝』!!」
「ああ、雨が……って痛い、これ痛いですよ!?『風殻』!!」
俺のところから前方に見えていた湖全体に、空には全く雲などないのに、滝のような凄い量の水が降り注いだ。いや、降り注ぐなんて、生易しいものじゃなかった。
まるで天から水が叩きつけられるような勢いだった、もちろん魔法を使う時は俺はいつものように『障壁』を無詠唱、無意識として使っていた。それでも尚、俺の使った魔法は周囲に影響を及ぼした。
ミゼがとっさに『風殻』を使ってくれて助かった。そうしなかったら、俺でも軽く打撲傷くらい負ったかもしれない。
でも、俺が使った『恵みの滝』はまず攻撃魔法ですらなかったんだが、本来ならば水源確保用の環境整備魔法だ。現に目の前にあった湖の水量が増している、俺は湖から宿一件ぶんほど離れていたが、その俺の足元まで水があり、湖は大きく広がってしまっていた。
「………………」
「………………」
俺達は上級魔法の恐ろしさを思い知った。そりゃ、こんなことが出来るなら、貴族や王族がスカウトにもくるわけである。
ちなみに上級魔法を使ってみて俺の魔力は半分ほどになった、多分あと1回くらいならなんとか使用できるだろう。
しかし、結果を改めて見るとこれは上級魔法の使い手が、人間兵器とみなされるのも当然のことだ。やはり魔法は凄い、使い方さえ間違えなければこれほど便利なものもない。
「…………中級はともかく、上級魔法はしばらく封印の方向でいこう」
「…………賢明なご判断です、それがよろしゅうございます」
ちょっとした魔法実験を行った俺達は、こっそりと水量の増えた湖から逃げ出した。中級魔法で創り出してしまった大量の氷も、先程の上級魔法で全て溶けてしまっている。ふっ、証拠隠滅は完璧だ、別に狙ってやったわけじゃないが。
こうして俺の初めての中級・上級魔法の実験は終わった。これから魔法書をしっかりと読んで、よく考えてから魔法も使っていこう。ただし、使わないという選択肢はない。だって、魔法は面白いからな、ははははっ!!
しれっとした顔でラビリスの街に戻ってきた俺達は、そこでいきなりこう声をかけられた。
「見てたわよ、さすがは私が見込んだ男ね!!」
「えっ、何がですか?」
「ああ、憧れの中級・上級魔法って、シアさん~、にゃああ~。久しぶりの女神の手でございます~、あ~れ~」
俺は以前に約束していたとおり、ギルドの職員であるシアさんから、こっそりと『中級魔法書』と『上級魔法書』を購入することができた。
「普通の人でも生活に便利な初級魔法は、力の大小はありますが習得できます。でも、中級以降はよほどの魔力がないと習得できませんよ?お金が勿体なくないですか?」
「いや、こう見えても俺って結構、魔力があるんです。ダメだったらダメで、諦めがつきます。いろいろと自分にできることを試してみたい、大丈夫。本は大好きですから、転売したりは決してしません」
「にゃああああ、シアさん、だめぇ。そこは、そこは、らめぇなのですぅぅぅ」
俺は普通では購入できない、『中級魔法書』と『上級魔法書』を手にいれることができて、シアさんにも笑顔全開で話をしていた。この二冊は街では売っていない物、入手先であるシアさんの迷惑にならないよう転売したりはしない。
約半月ぶりに会うシアさんは、俺が笑顔で魔法書についてお礼を言ったら何故か顔を赤くした。そして、その膝の上にいるミゼを、猫式お触りテクニックでダメ猫にしてしまっている。
「それではシアさん、さっそく読んでみたいので今日はこれで」
「あっ、はい。………また誘ってくださいね」
「はぅわっ、三途の川の向こうで婆ちゃんが手を振ってた。シアさん、またお会いしましょう。あー……、別の世界の扉が開きそうでございました」
俺は昼食を終えてシアさんの分もしっかりと奢ってから、気持ちよく別れの挨拶をして、わくわくと二冊の本を抱えて街の外めがけて走り出した。シアさんは少し赤い顔をしたままで、笑顔で見送ってくれた。
うむ、世界にもあんなふうに常識的な女性がいてくれる。おかげで俺は女性不信にならずに済んでいるんだ。一番は亡くなった母さんだな、働き者でとても優しい人だった。
「ねぇ、あんた!!いや、レクス!!き、今日こそ私の話が聞きたいでしょう?」
「………………」
「うっわっ、アウラさん。……いえ、私は何も見ていません。ここには私とレクス様以外に誰もいないのです、面倒事はごめんなのです」
俺がせっかく貴重な魔法書を手に入れて、うきうきとした気分で街を歩いていれば、会いたくもない奴に会うことになった。
「あっ、こら!?ち、ちょっと待ちなさいよ――!!」
「ミゼよ、俺は何も見ていないな」
「はい、私も何も見ておりません。たとえ何か見たような気がしても、きっと気のせいでございます」
俺は自分に関係のない言葉を聞き流すのに慣れている、しかし最近その中でも特にしつこい雑音がある。
うっわっ、思い出したくないのに思い出してしまった。俺の故郷にいたマリアナという勘違いくそメス女、あれとどこか似た匂いがする女に俺達は付きまとわれているのだ。
「き、今日は暇だから、迷宮に行くなら手伝ってあげてもいいわよ」
「貴方、や、やっぱり私と一緒にいたいんでしょう」
「もうわざわざ先回りして待つなんて、ち、ちょっとだけなら相手にしてあげる」
「か、カッコいいからって、私をどうにかできるとは思わないでね」
「ふふふ、わかっているわよ。実は私を仲間にしたいんでしょう」
「は、早く素直に認めなさいよ。わ、私だって考えてあげるんだから!!」
…………うん、はっきりと言おう。うざい、このくそ女候補その二は果てしなく、その行動がうざ過ぎる。俺の中ではもはや何度、このくそアマ迷宮でうっかり事故とかおきないかな。そんな過激なことを考えたくなるほどに、このくそ女はうざかった。
容姿だけならこのくそ女は世間一般からいって、とても恵まれていると思う。二つにわけて結んだ金の髪は長くて美しい、その大きくつぶらな瞳は湖のような蒼さを持っている。
普通の男なら、思わず目がいくだろう、豊富な胸と細い腰つきをしている美人だ。あくまでも容姿だけの話だが、性格はもう言ったとおりにうざい。
俺は知りたくもないが、勝手に相手が話していった情報によると今年で成人。どこだったか、お貴族さまのお嬢さんなのだ。以前に俺が通り道を作る為に、適切な対処をした。世間では救助をした、新人冒険者のうちの一人だ。
しかも真面目にこのくそ女は冒険者をしているわけじゃない、貴族のお嬢さんの気まぐれというやつである。この女はわざわざ護衛を雇って、冒険者をしているのだ。一体どこの世界にそんな馬鹿な新人冒険者がいるんだ、……いや現にここに一匹いるわけだ。この世界は広い、ちょっぴり奇妙な生き物も沢山生息しているんだな。
「女が冒険者になるなとは言わん、それは個人の自由だ。しかし、その個人の自由を差し引いても、あれは酷い」
「私はレクス様が女性不信にならないかと、ちょっぴり心配でございます」
「ちょっと、待ちなさいってばぁ。どうして、私の言うことが聞けないの!!」
俺の身体能力が優れているおかげで、かなりの距離を離れたのに、まだあのくそ女の声が聞こえる。高い身体能力も、こういう場面では逆に役に立たない。
それにしても俺の特技、ミゼ曰く興味の無いことはとことん話を聞かない。徹底的に相手にしないという技を上回るとは、あのメスはある意味で凄い。
「ようやく、声も聞こえなくなったか。さて、ミゼよ。少し外に出て、さっそくこの『中級魔法書』と『上級魔法書』を試してみよう」
「はい、もちろん!!楽しみでございますねぇ~」
俺達はようやくうざい女その二、アウラを完全にまいてしまい。ラビリスの街の門の一つから、いそいそと魔法を試す為に外へと出ていった。
「初級魔法は生活系などが多いんだったな、それに個人戦用に向いているとか」
「はい、逆に中級からは集団戦闘に特化しております。もし、上級も扱えるならば、その方はすぐに貴族か王族にスカウトされることでしょう」
初級の魔法は言った通り、生活か個人戦に向いた魔法が多い。使用する魔力が少なくて済むし、そこらにいる平民の間でも口述で受け継がれていたりもする。ただし、魔法は使う者次第でその効果が変わってくる。
「『隠蔽』の魔法なんて、本来なら一瞬だけ姿が消えるとか、髪や目の色を変えるとか、その程度の子どもに人気の悪戯魔法だよな」
「はい、だからこそ初級魔法書に載っているのです。レクス様の魔力がお強いので、違った使い方である隠密活動のようなことができるのです。本来『隠蔽』は大人には人気のない魔法でございます」
そう、魔法はそれを行使する者の魔力の高さによって、このような差を生むのだ。そうでなければ『隠蔽』の魔法をつかって、盗人などは窃盗し放題になってしまう。
「中級魔法は十数人を攻撃できるくらい強い、または初級の十倍くらいの力を生むんだったか?」
「はい、そして上級ではそれが数百という単位に変わります。習得すれば貴族や王族から、スカウトがくるというのも納得です」
「それは当然、戦争時にとても役立つだろうからな」
「たった一人の魔法使いが何百という兵を殺せるならば、それは恐ろしい人間兵器と言ってもいいでしょう」
俺達は強めの魔法を使ってもいいように、かなりラビリスの街から離れたところを目指して走っていく。走る速度は人間の全力疾走くらいだ、時々すれ違う人が何事かと俺を見るが、行動自体は人間に見えるくらいの力に抑えているからいいだろう。そうして俺たちはようやく人気のない、ラビリスからかなり離れた湖のほとりに着いた。
「さぁて、それでは理論よりも証明を、試しに一つか二つ使ってみよう」
「水属性の魔法がよろしいでしょう、この湖で何があっても今なら人もいませんし、好都合でございます」
俺はまず『中級魔法書』の水属性に関するページをパラパラとめくる、あまり環境に影響しないような、そんな魔法で試してみたい。おおっ、これなんかはどうだろうか。
「これでどうだ『氷竜巻』!!」
「うひゃああああぁぁぁぁ!?」
俺が右手を伸ばして魔力を使う方向を示した先から、氷の混じった竜巻が起こった。そして、暫く経ってその風が収まると、宿屋の二、三軒くらいの範囲で湖が凍り付いていた。
「………………」
「………………」
もしも、俺が魔法を使った先に人間がいたのなら、氷の斬撃に斬り刻まれそのまま氷の彫刻と化しただろう。確かに、中級は十数人を攻撃できるくらい強い魔法だ。
「お、思ったよりも少し強い魔法だったが、今度は少し大人しい上級魔法を試してみるか」
「お、お手柔らかにお願い申し上げます」
俺は今度は『上級魔法書』のページを幾つかめくってみる、あまり環境に影響しない魔法、そんな魔法はどれだろうか。おお、これなどはどうだろう。
「では、いくぞ。『恵みの滝』!!」
「ああ、雨が……って痛い、これ痛いですよ!?『風殻』!!」
俺のところから前方に見えていた湖全体に、空には全く雲などないのに、滝のような凄い量の水が降り注いだ。いや、降り注ぐなんて、生易しいものじゃなかった。
まるで天から水が叩きつけられるような勢いだった、もちろん魔法を使う時は俺はいつものように『障壁』を無詠唱、無意識として使っていた。それでも尚、俺の使った魔法は周囲に影響を及ぼした。
ミゼがとっさに『風殻』を使ってくれて助かった。そうしなかったら、俺でも軽く打撲傷くらい負ったかもしれない。
でも、俺が使った『恵みの滝』はまず攻撃魔法ですらなかったんだが、本来ならば水源確保用の環境整備魔法だ。現に目の前にあった湖の水量が増している、俺は湖から宿一件ぶんほど離れていたが、その俺の足元まで水があり、湖は大きく広がってしまっていた。
「………………」
「………………」
俺達は上級魔法の恐ろしさを思い知った。そりゃ、こんなことが出来るなら、貴族や王族がスカウトにもくるわけである。
ちなみに上級魔法を使ってみて俺の魔力は半分ほどになった、多分あと1回くらいならなんとか使用できるだろう。
しかし、結果を改めて見るとこれは上級魔法の使い手が、人間兵器とみなされるのも当然のことだ。やはり魔法は凄い、使い方さえ間違えなければこれほど便利なものもない。
「…………中級はともかく、上級魔法はしばらく封印の方向でいこう」
「…………賢明なご判断です、それがよろしゅうございます」
ちょっとした魔法実験を行った俺達は、こっそりと水量の増えた湖から逃げ出した。中級魔法で創り出してしまった大量の氷も、先程の上級魔法で全て溶けてしまっている。ふっ、証拠隠滅は完璧だ、別に狙ってやったわけじゃないが。
こうして俺の初めての中級・上級魔法の実験は終わった。これから魔法書をしっかりと読んで、よく考えてから魔法も使っていこう。ただし、使わないという選択肢はない。だって、魔法は面白いからな、ははははっ!!
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