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第十二話 血が滾ることもなくはない
しおりを挟む「なぁ、やっと相手が決まったのか?それじゃあ、ちょっと殺ってみる?」
「んー、俺は止めとく、坊主が強いのは知ってるからな」
俺が相棒のメイスくんを壁に立てかけてからちょっと殺気を出して、これから相手をしてくれる先輩方を見た。別に本当に相手を殺す気はない、殺す気はないが、殺していいと思うぐらい気をぶつけておき、今後の為に相手を多少痛めつけてもいいだろう。
先輩方は首から下げているプレートから見て、鉄が大半、銀も数人といったところだった。俺の知り合いのランク銀のおっちゃんは、元々俺の実力を知っているので、素早く丈夫そうな石造りの鍛錬場の端っこに移動した。
ギルドの俺の売りたいものにケチをつけてくれた女がフフッと笑って戦闘開始を宣言する。何人かの先輩方が相手をしてくれるらしく、こちらへとやってきた。
「フフッ、それでは新人さんに先輩として優しくご指導をお願いします」
「お、おう」
「よろしく頼むぜ、先輩」
それから始まった手合せの結果?言う必要があるだろうか、鍛錬場は明るかったので闇に光る瞳のことも気にせずに済んだ。
街の外に広がっているような森のように、障害物も何もない。ただ、単に力と、技と、速さを駆使した疑似的な戦いだ。
「おっ、先輩の武器は同じメイスか、参考にしてみるよ!!」
「つっ!!おうりゃっ、っ!!せぇい!!なんで、がっは!!」
何人かメイスを使う先輩もいたので、その時だけは少し時間をとって、相手の棒術をよくよく観察してみた。
避ける速度はきちんと人間らしく見えるように手加減をした、それでも俺はヴァンパイアだ。
「うぐぁ!!」
「ガアッ!!
「ちっ、ガハァ!!」
「きゃあ!?」
「うそぉ!!」
いやぁ、ここの冒険者ギルドの先輩は優しい方々だった。最初は俺がまだ若いことを考慮したのだろう、なんと彼らは手加減までしようとしていた。
もちろん、そんな優しい先輩に対して俺は誠実に対応した。彼らの動きを見切れるように、始めは体の動きの観察から避けることに集中し、ほどほどに相手が疲れた瞬間を見て、掌を肺のある辺りに叩きつけた。
「なんでっ!!」
「こいつっ、ツッ!!」
「やぁ!?」
「っせい!ぐわっ!!」
俺が本気でやっていたなら、それでも肋骨を圧し折り、俺の手が相手の体を貫通したと思う。もちろん、そうならないように俺は細心の注意を払った。相手が男性の場合は気絶させることもあったが、女性の場合は一応は寸止めにしておいた。
俺の方は最初から最後まで手加減をして、先輩達の相手をしていった。鍛錬場には三十人近くの先輩がいたのだが、十を超えた辺りで俺の手合せは終了した。
「おーお、やっぱり幻じゃなかったのか。凄ぇな、坊主。しかも、全部を素手だけでやっちまうとか。お前、そのメイスを持ったらどれだけ強いんだ?」
「さぁ?それがいまいち、よくわかんないんだ、おっちゃん。俺が住んでいたところは田舎だったからな、おっちゃんみたいな強い人もいなかったんだ」
俺が十数人ほど、優しい先輩方のご指導をもらっている間。商隊でお世話になった銀の冒険者のおっちゃんは、最初から最後まで楽しそうに見物していた。
俺を盗人扱いしやがったギルドのおねえさん、いやもうあれはババアでいい。買い取りババアは段々と顔色が悪くなって、最後は慌てて銀貨50枚を用意しにいった。ははははっ、人を簡単に盗人扱いするからだ、ざまぁみろ!!
「それじゃ、おっちゃん。ラビリスにいるならまた会いそうだから、またな」
「また、お会いしましょう。それでは」
「おう、またな。坊主、その調子で頑張りな」
俺は銀のおっちゃんと気持ち良く挨拶を交わして、銀貨50枚を手に入れてギルドを出ていった。結局、マジク草もここで買い取りして貰えた。あの買い取りババアも次はケチをつけてきたり、みみっちいことはしないだろう。俺がギルドを出る頃には、もう夕暮れであり街には夜が訪れつつあった。
「なぁ、ミゼよ。俺は少しばかり全力で夜の散歩を楽しみたい」
「……かしこまりました、このミゼは宿屋で荷物番をしておきます。ああ、通行料を持って出かけることをお忘れなく」
おお、ダメ使い魔であったミゼも最近少しずつ役に立ってきたような気がする。俺は言われたとおり、少額をいれた財布の一つをしっかりと体にくくりつけた。
激しく動くのに邪魔になる『魔法の鞄』は今回はミゼに見張りを命じて預けておく、俺はミゼを宿屋の部屋においてからすぐに外に出ていった。
街の中をできるだけ早く、かつ目立たないように歩いて外壁をめざす。人目がなくなったことを確認して『隠蔽』を使い、助走をつけて外壁を駆けあがりそのまま森へと身を躍らせた!!
『衝撃!!』『氷撃!!』『風撃!!』『衝撃!!』
いつもの鍛錬のように完全に夜になった森を走りぬけつつ、初級魔法を夜間にも動く適当な小動物に向けて連射した!!魔力はそのまま、俺の体を流れる血と同じく、俺の思うがままにその力を出現させる!!
俺は移動を繰り返しつつ、敵を想定して無詠唱でそのまま魔法を使い続けた。ただし、火はダメだ。火災を起こす危険がある、そのくらいの理性はしっかりと残っている。
体が軽い!軽すぎる!!足りない、もっとだ、溢れる力を使いたいのに使える相手がいない!!
「降下!!からの、回避!?上昇、ははははっ、もっと、もっと、速く!!」
ヴァンパイアの翼は魔力という力の塊だ、使っている間は当然だが全力で走るよりも、ずっと、ずっと、魔力を大きく消耗する。そして、空を駆ける速さを求めれば、消費する魔力もそれに伴うように増えてしまう。
でも、俺は今、全力で空を駆けて見たかった。翼を出して空高くまで飛翔すると『幻!!』試しに俺と鏡合わせの幻を作り出してみる、俺が空を駆ければ当然だが影を写すように幻も動く、俺もそれ以上にはやく動けるようにまた空を駆ける。
そんな単純な遊びを繰り返した、俺の魔力の半分以上を使いきるまで、心の高揚感は続いて止めることができなかった。
一晩が過ぎて夜が明け始めた頃にはようやく俺も一息ついた、そしてただの全力疾走で、街の近くにあるお気に入りの大樹の一つまで戻ってきた。
消費した魔力を世界に流れる力、空中を漂う力を吸収して少しずつだが回復させる。それに加えて、大樹からも生気をゆっくりと貰い、体力も回復させる。
そんな草食系ヴァンパイアである俺は、少しだけ独り言を零した後に浅い眠りについた。
「うーん、気をつけないとこの破壊衝動は、癖になってそのうち誰かを殺ってしまうかもしれん」
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