お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ

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4-29最期だと悪あがきされる

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「『完全なるパーフェクト癒しヒーリングの光シャイン!!』」
「何よ、意味が分からないくそエルフ。一体、何が……うっ…………?」

 僕は癒しの魔法をマーニャに効果範囲は最小で効果は最大で使った、僕の考えが正しければこれは立派な攻撃だった。マーニャはこの数日間に急激にフェイクドラゴンとの融合をしたはずだ、いわば体に異物をどうゆう方法か分からないが取り込んだのだ。人間とフェイクドラゴンの融合、簡単に言っているがそれはそんなに簡単にはいかないはずだ。

「な、何で、意味が分からない。あたしは……、げほっ!?」

 僕の魔法を受けたマーニャはその場に蹲り嘔吐した、いや彼女はフェイクドラゴンの血や肉を吐いていた。マーニャは急激にフェイクドラゴンとの融合をした、それは自然の摂理に反したことだ。当たり前のことを歪めた結果がこれだ、僕の使った癒しの魔法はマーニャの人間としての体を癒した。その結果、マーニャの体はフェイクドラゴンを異物として排除しようとしていた。

「な、何をしたのよ、このくそエルフ!?ううぅ、ぐっ、げほっ!?」
「僕は君に癒しの魔法を使っただけだよ、君がしたことの方が異常だった」
「リタ様、これは!?」

 回復の上級魔法が今のマーニャにとっては禁忌だった、彼女の人間である部分が正常に戻ろうとしているのだ。マーニャ自身の体がフェイクドラゴンを異物と判断して攻撃している、正常な人間に戻ろうとして自然と異物を排除しているのだ。当然だがマーニャからは高い魔力も薄れていった、ジェンドが剣を持って警戒しながらこちらへ近づいてきた。

 その間にマーニャからはフェイクドラゴンの皮膚が剥がれ落ち、体のあちこちから異物だと判断されたフェイクドラゴンの肉片らしきものが零れ落ちた。マーニャはもう戦闘どころではなかった、彼女は正常な体に戻ろうとする肉体を押さえて、その場に蹲り震えることしかできなかった。威力を最大にして使った癒しの魔法、それは過去の古傷さえ癒してしまった。

「あたしの腕輪、あたしのもの、あたしの……」

 その場にマーニャの肉体に埋め込まれていた三つめの腕輪が落ちた、マーニャは倒れて震えながらそれを掴んで離さなかった。マーニャにとってはこの三つの腕輪とジーニャスとの過去、それだけが彼女に残ったものだと思い込んでいた。正常な人間の体に戻った反動がマーニャを襲っていた、完全に彼女の体を癒した魔法はフェイクドラゴンの異常に高い魔力を失わせた。

「マーニャさん、君はこの後はこの地の領主によって、人間の法律に従って裁かれる」
「………………うるさい」

「君はもっと早く、そう早く、誰かを殺してしまう前にここに来るべきだった」
「………………なにそれ、お説教? くそエルフ、先にあんたを殺しておけば良かった」

「君はそうするべきだった、まだ罪を犯す前にジーニャスに会えば良かったんだ!!」
「………………後ろ盾である実家が無いあたし、それと今いる高貴な女性とやらじゃ話にならないわ」

 マーニャはまだ僕たちのついた嘘を信じていた、ジーニャスに嫁ぐ予定の女性がいるのだと思い込んでいた。僕はそれを訂正する気もなかった、訂正したところでマーニャが信じるとも思えなかった。ジェンドがマーニャを見て納得したのか剣を戻した、マーニャは完全に人間の姿に戻ってはいた。だが自分の体から出た、フェイクドラゴンの血と肉片にまみれていた。

「人間に戻った、でもこれは酷い。リタ」
「ジェンド、禁忌を犯した人間の果ての姿だ」

 これが自然の摂理を歪めて人間の行きつく姿だ、ジェンドは愚かな人間が自然を歪めるとどうなるのか知った。エリーさんがしてはならないという禁忌には理由がある、そうそれを行ったマーニャと戦って理解した。ジーニャスたちの声がしてきた、エリーさんと共に僕たちに追いつきつつあるのだ。その声を聞いたマーニャが笑った、嬉しそうにまた笑っていたのが僕には理解できなかった。

「この距離なら十分よ、お馬鹿さんたち」

 僕は三つ目の腕輪をまだマーニャが持っているのを忘れていた、ジーニャスには左手の腕輪を信頼できる人に預けるように言った。でも、ここから領主の館まではすぐそこだ。この距離で何かできるのなら最初からそうしているはずだったがでも最期ならどうだ、マーニャにこれから待っているのは正当な裁判、彼女が生き残れる可能性は無いに等しかった。

「彼となら一緒に死ぬのも、……まぁいいかもね」
「君はっ!?」
「リタ様、どいてください!!」

 僕よりも早くソアンがマーニャの手から三つ目の腕輪を蹴り飛ばした、でも既に遅かった腕輪は三つ揃っていた、それらは重なって一つになって飛んでいった。腕輪が揃っていたら何が起こるのか、あれはかの地とこの地を繋ぐものだ。だがそれを制御する人間が放棄したら、一体何が起こるのかは僕には分からなかった。更に近づくジーニャスたちを見た後に、僕は腕輪を放棄したマーニャを見た。

「さぁ? 何が起きるのかしら、あたしも知らないのよ」

 ジェンドはエリーさんを見て走り出していた、ジーニャスもこれから起こる何かを察したようだ。僕にできることは一つだけ、腕輪の発動を少しでも遅らせるのだ。あれは闇系統の魔法を使っている腕輪だ、だから浄化の魔法を僕は唱えようとした。でも倒れたままマーニャから短剣を投げつけられた、反射的に僕を庇ってソアンが大剣でそれを弾いた、僕は彼女に庇われて浄化の魔法を咄嗟に使うことができなかった。

「『完全なるパーフェクト封じられた結界シールドバリア!!』」

 僕の代わりに魔法を使った者がいた、ジーニャスが周囲の魔法を一時的に封じる魔法を使った。腕輪は一時的に止まった、だがこの魔法は魔力をどんどん使っている間に消費し続ける、いつまでも封じていられるものではなかった。腕輪を封じてもおけない、破壊もできない事態になった。そして腕輪の所有していたマーニャ自身、彼女もこれから起きることを知らないのだ。

「長くは持たん!! 少しでもいい、俺と腕輪を人里から遠ざけろ!!」
「分かりました、ジーニャス!! 『飛翔フライ!!』」
「そんな!? 嫌、待ってリタ様!!」

 僕はソアンをジェンドたちの方に押しやって、走ってきたジーニャスを抱えて魔法で飛翔した。途中で落ちていた三つの腕輪を拾った、三つの腕輪は燃えるように熱く震えていて今にも爆発しそうだった。少しでも人里から遠くへと僕は飛んだ、領主の館からも離れるように空をひたすら飛んだ。真っ暗な夜空を可能な限りソアンたちから離れるまで飛んで、ジーニャスの魔法の限界を感じて僕は腕輪を遠くへと投げた。

「絶対に手放すな、そうすると豊穣の大地へ繋がるって、……今ならどこと繋がるかしらね」
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