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3-29必ず殺しにやってくる

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「………………忠告を無視したな、美しく愚かなリタ。今夜死ぬのは、お前だ」
「あれは忠告なんかじゃない、ただの殺す前の予告だ」

「どちらでもいい、さて今度は俺が問う番だ。戦うのかそれとも逃げるのか?」
「僕は逃げたりなんかしない、そうしても僕たち全員を殺すだろう」

「あのお嬢ちゃんが何も見てないといいがな、確かにお前たち全員が恐ろしいものたちだ」
「イデア、それは君の妄想だ。ここにいる者は善人ばかりで、誰も君を害したりしなかった」

 イデアは庭に降り立って短剣を取り出し、それから僕に対して首を横に振ってみせた。子どものようにきょとんとした顔をしていた、その無邪気な仕草が余計に僕をゾッとさせた。それからイデアは歌うように小鳥のような声、高くて美しい声でこう言った。今夜は僕たちの為に歌うようだ、僕たち全員を殺すようだった。

「美しい者は恐ろしいから殺す、あいつらは真っ赤な血を望み、そして殺さないとこっちが殺される。全員がそうなんだ、人間も大いなる種族さえ、そうだと分かった!!」
「それはイデア、君の完全な間違った妄想だ!!」

 そうしてきた最初の一撃は意外にも素早い踏み込みと短剣での一撃だった、短剣なら僕も使える戦えるからその一撃を抜いた短剣で受けた、僕がそうするとイデアは素早く魔法を唱えだした。短距離からの防ぎようがない魔法での一撃、僕はイデアの短剣を力をこめて打ちはらって距離をとった。

「『切り裂けトーン広がりしスプレッド風竜巻ウインドトルネード』」
「『耐えぬきしレジスタンス烈風でのストロングウ結界インドバリア』」

 以前と同じことが繰り返された、いや一つ違っていることがあった。イデアは今度は忠告などではなく本気で僕を殺す気だった、彼の風の上級魔法が生み出した刃は庭をズタズタに切り裂いた。僕はこの間よりも魔力で強化した結界で身を守り抜いた。それから素早くまた襲ってきたイデアと短剣での戦いになった、力では僕が勝っていたがイデアには速さがあった。

 僅かに反応が遅れて僕の腕を短剣がかすると少しだけ血が出た、それを見てイデアは嬉しそうに笑った。真っ赤な血を喜んでいるのはイデアの方だった、純粋な短剣での勝負は不利と僕は考えた。だから、魔法に頼ることにした。短く唱えることが早くできる初級魔法、でもその効果はまんざら馬鹿にしたものでもなかった。

「『重力グラビティ!!』」
「ふん、そうくるか。ならば、『重力グラビティ』」

 僕はイデアに対して体が重くなるように『重力グラビティ』の魔法を使った、イデアは同じ魔法を逆に体が軽くなるように自分にかけてきた。あとは魔法使いとしての力量が問題だった、魔法使いとしては風は別だがそれ以外では僅かに僕が勝った、だからイデアと同等の力量で短剣で戦えるようになった。そうなったら次は魔法だ、逃走という選択肢は今度は無い。

「『風竜巻ウインドトルネード!!』」
「っつ!? 『風殻ウインドシェル』、『大治癒グレイトヒール!!』」

 イデアは短剣同士が触れ合って力比べをしている状況、そこで風の中級魔法を使ってきた。僕にはそれを避けることも、対抗魔法を唱える暇もなかった。だから素早く唱えらえる初級魔法の『風殻ウインドシェル』で、最低限重要な体の部分への攻撃を防いだ。それから素早く『大治癒グレイトヒール』でそれまでに負った体の傷を全て治した。

「はっははははは!! 楽しいぞリタ!! こうしたかった、ずっとこうしたかったんだ!!」
「僕を殺したかったのか!? 妄想にかられて可哀そうに」

「俺は哀れまれる必要はない、俺は全てを手に入れている。今までに殺した人間の全てが俺のものだ、俺が取り返したものなんだ!!」
「それは違う、イデア。殺して奪ったものは君のものにはならない、だから君の体だって元には戻らない」

「やはり俺の夢を覗いたな、違う全ては俺のものだ。お前の低い声も広い音域も、殺してしまえば俺のものさ!!」
「君の声はもう変わらない、失われた体の一部だって戻らない。僕を殺しても何も得られない、ただのそれは同族殺しだ!!」

 煩いと言ってイデアが短剣を打ち払って距離をとった、また風の魔法を使ってくることは確かだった。中級魔法か上級魔法、さぁどっちを使ってくるのか読まないといけなかった。

「『多くのメニー命奪いしライブス刃の振り子ペンジュラム』」
「っ!? 『耐えぬきしレジスタンス烈風でのストロングウ結界インドバリア』」

 僕の予想に反してイデアは闇の上級魔法を使ってきた、用意していた風の上級魔法では防ぎきれない魔法だった。大きな見えない力の刃が僕を襲おうとしていた、魔法は応用力がものをいうから僕は風の防御の上級魔法を広く薄くのばしてかけた。そうして風の軌道から見えない刃を見抜いて、それを体術で躱してみせた。

「やるな、リタ!!」
「イデア!!君には負けられないんだ!!」

「はっははははは、仇討ちかリタ!!」
「イデア、君は殺してはいけない人々を殺した!!」

「俺は復讐しているだけだ!!」
「君の受けた傷への復讐は、もうとっくに終わっているんだ!!」

 すぐにイデアの追撃がくるのも予想していたから、迎え撃って今度は僕がイデアに刃を向けた。イデアの短剣を持っていない左肩に深手を負わせた。イデアは左肩を刺されても悲鳴も上げなかった、そのまま僕とまた短剣で打ち合いになった。またイデアの早さが僕よりも勝って、僕は今度は心臓を刺されそうになった。その時だった、どこかからイデアに向けて槍の一撃が飛んできた。

「くっそう!? やってくれるな、女ぁぁ!!」
「リタ様!! 今です!!」
「ああ、ソアン!!」

 それはソアンが投げた槍だった、ソアンは別宅の塔に領主やシャールと一緒に隠れていた。その塔の窓から彼女の怪力で見事な軌道をえがいて投げられた槍だった、その槍がイデアの今度は右肩を貫き彼には隙が生まれた。僕はその隙を見逃さずにイデアの短剣を持っている右腕を刺し貫いた、それでもイデアは悲鳴は上げなかったがこれで短剣では戦えなくなった。

「ふんっ、『飛翔フライ』」

 自分に不利だと判断したイデアが空を飛んだ、逃げるのかそれとも空から魔法で攻撃をしかけてくるのか、だが僕自身は空へと飛ばずに上級魔法が完成するのを待った。それは一瞬のようで永遠のような長い時間だった、イデアが何か呪文を唱えようとした時、その時に僕も見たこともない魔法が発動した。

「『完全なるパーフェクト封じられた結界シールドバリア』」
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