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3-4裁縫屋に依頼する

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「リタ様は稀に見る美人なんですから、十分に気をつけてください!!」

 僕はあんまりソアンが真剣に言うので素直に頷いた、昨日の晩もだったがソアンは僕を美化し過ぎているようだとは思った。それも無理もない話なのだ、出会った頃のソアンは50歳、人間でいえば5歳くらいだった。それからずっと僕が保護者であり、一番の遊び相手であり、大切な家族であった。だから多少僕のことを美化して、そうソアンが考えていても仕方ないのだ。

「さてシャールやジーニャスと話して薬も作れたし、もうダンジョンに行くには遅すぎる」
「そうですね、どうしましょうか」

「冒険者ギルドで依頼を見て、それから今日は街を見てまわろうか」
「はい、リタ様。それが良いと思います」

 それから僕たちはまず冒険者ギルドに行った、冒険者ギルドの掲示板にはいろんな依頼が出ていたが、特に引き受けたいと思う依頼はなかった。だから予定どおりに街を見てまわることにした、はじめに神殿に行って空っぽのフェーダーの墓にお参りした。お墓の中には何もなくても彼が生きていたことを覚えている、それが大切なのだと僕とソアンは思っていた。

 それから次々にソアンが街の人間を紹介してくれた、近所のボブという少年は足が悪いが良い靴屋の見習いだった。ソアンがよく行く本屋のメリーは目がよく見えないが、その代わりに完璧に本の位置を覚えていた、ソアンが頼んでいた物だと本を買っていた。それからお花を売っているハンナは声を出せないが、にっこりと可愛らしい笑顔で花を僕たちに売ってくれた。

 ソアンといると思わぬ人間と出会うことができる、僕は養い子が大勢の人間と仲良くなっていることが嬉しかった。ソアンもファインさんという母親のように、そのうちに結婚相手を見つけてくるかもしれない、そう考えたら嬉しいのに少し胸が痛むのだった。この頃、どうもソアンのことを考えるとこんな複雑な気持ちになるのだ、でもその理由が僕には分からなかった。

「ソアンはいろんな人を知っているね、もしかしてもう好きな者もできたのかい」
「リタ様、私は食べ歩きなんかしてるから知り合いが多いだけで、好きな者は……とても難しい問題なのです」

「そうか、ソアンにはもう好きな者がいるのか。それがどうして難しい問題なんだい」
「私には勿体ない相手だからです!! 正直なところ私もこの好きが本当なのか考え中なのです!!」

「好きが本当か分からないのか、それは難しくて不思議な話だね」
「ああ、もう本当にそういうところがリタ様です!!」

 ソアンに好きな者がいると聞いて、嬉しいと同時にまた胸が痛んだ。でも本当に好きなのか分からないと聞いて何故かほっとした、そして僕自身にも分からない気持ちがあるのだと不思議に思った。薄茶色の髪と瞳を持ったとても可愛らしいソアン、この子も大人になったのだからいつかは僕から巣立っていくのだ。それは本当ならば嬉しいことだけれど、同時に家族としては離れるのだから寂しいことでもあった。

「さぁ、リタ様。ここにも寄りましょう、ここにお連れしたかったんです」
「えーと、裁縫屋さんだね」

「そうです、私たちも家出してもう長く経ちました。そろそろ服を手入れしてもいい時期です」
「確かに持ってきた服が、少し傷んでいるとは思っていた」

「もう私が使っていない服を持ち込んでいます、街一番の裁縫屋さんで綺麗に直してくれますよ」
「それは良かった、やっぱり故郷の服はなるべくなら捨てたくないからね」

 僕はソアンに案内されてその裁縫屋に入っていった、色んな布や糸が置いてあって二人の女性が出迎えてくれた。一人はソアンによく似た薄茶色の髪と瞳をした女性だった、もう一人は金の髪に蒼い瞳をもった女性だった、どちらの女性もタイプは違うが結構な美人だった。そしてソアンが入り口で彼女たちの名を呼んで、それから彼女たちから自己紹介をしてもらった。

「私はティスタ、裁縫が好きです。エルフの村の服を直せるなんて光栄ですわ」

 ソアンによく似た薄茶色の髪と瞳をもつ女性はおっとりとした良い声でそう言った、次に金の髪に蒼い瞳をもった元気のよさそうな明るい声の女性が話し出した。

「あたしはポエット、珍しい名前でしょう。ティスタには敵わないけど、防具なんかを直します」

 二人ともとても美人で魅力的な女性たちだった、エルフに対する偏見もなさそうだったので、だから自然と僕も笑顔で挨拶をした。

「僕はリタ、ソアンの親のようなものです。今回は服を直してもらえるということで嬉しいです、大切な服なのでどうかよろしくお願いします」
「ふふふっ、こんなに紳士的なお客様は久しぶりです。エルフの服は縫い目が綺麗で丁寧ですね、きちんと元通りにお直しします」
「防具の方はあたしに任せてください、それとお客さんティスタに惚れないでね、街中の男が狙っている美人だから恨まれちゃうよ」

「はい、分かりました。服の方はよろしくお願いします、それにティスタさんに惚れないようにしますね」
「ぷっくくくっ、おもしろいお客さんね、ポエット」
「エルフっていうのは皆、お客さんみたいにのんびりとした天然なのかしら。ティスタ」

「そうですね、確かに僕らエルフはのんびりしているかもしれません。寿命が長い分、いろんな時間がゆっくりと流れていくんです」
「…………それは素敵な時間かもしれないわ」 
「そう、ティスタ。あたしは気が短いから、のんびりっていうのは苦手だわ」

 僕とソアンはそれから体の寸法を測ってもらった、僕の方は村を出た時からほとんど変わっていなかった、ソアンは僅かだが成長していると言われていた。測った寸法に合わせて服を直してくれるということで、僕はソアンの成長を喜びまだまだ大人になっていく養い子を褒めた。ソアンは僕から成長していると褒められてちょっと得意げだった、彼女は自分の低い身長のことを少し気にしているからだった。

 体の寸法を測ってもらった後は仕事の邪魔にならないように裁縫屋を出た、ティスタという女性が見送りをしてくれてとても魅力的な笑顔で笑ってくれた。ソアンも将来あんな女性なるのかもしれない、今はとても可愛らしいソアンだが、いつかは魅力的な女性になるのかもしれないと僕は思った。そうして養い子の成長を喜んでいた、ソアンも身長が僅かでも伸びていると聞いてからご機嫌だった。

 それからも街の店をいろいろと見てまわった、冒険に必要な物があれば買ったし、見ているだけでもこのゼーエンの街が分かって面白かった。日用品も買ったから僕たちは二人とも薬や日用品の荷物を持って歩いた、そうしているうちに夜が近くなったので宿屋に帰ることにした。そうやって宿屋に帰ってすぐのことだった。
 
 帰るまではミーティアの歌が聞こえていたのに、それが突然に途切れて僕たちは不思議に思いながら宿屋に入った。そうしたら一人の小柄な男性が、一生懸命にミーティアに話しかけていた。

「なんて美しい声!! そして美しいその姿!! 一目惚れです、俺とつきあってください!!」
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