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2-24死の森を走り抜ける

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「いいや、必要ない。俺は大魔法使いだぞ、だから『鑑定アプレイゾル』だって使える。これは本物のエリクサーだ」

 ジーニャスはそう誇らしげに言い放った、確かに『鑑定アプレイゾル』が使えるのなら本物だとすぐに彼には分かるのだ。これで僕たちの目的は一つは叶った、無事に僕たちはエリクサーを手に入れた。正確にはジーニャスが手に入れたのだが、僕たちも手助けをした分だけ何か対価を貰いたいところだ。でも僕がそう交渉する前にジーニャスから、そのことについてとんでもないことを言いだした。

「もちろん、リタとソアン。お前たちの助けには感謝する、俺にできることならなんでもしよう」
「そのお言葉を忘れないでください、ジーニャス」
「はい、そうです。リタ様にお考えがあるようなので、覚悟しておいてくださいね」

「ふはははっ、それは怖いな。だが、このエリクサーにはそうしてもいいだけの価値がある」
「ええ、シャールさんの命そのもの、そう言ってもいいでしょう」
「絶対に失くさないでください!! そして三人で生きて帰りますよ!!」

 僕たちはそれから祠から出ることにした、祠の最初に広場ではまだフォルクが気絶していた。魔法の効果を最大にしていたから、ちっとやそっとの刺激では目が覚めないのだ。ジーニャスはフォルクに手をのばしたが、どうしていいか分からなかったようでその手を引いた。ジーニャスが望んでいる過去の兄はもういないのだ、権力欲に支配されてそこにいるのは殺人もじさない危険な人物だった。

「………………さようなら、俺の兄上だった人」

 ジーニャスは辛そうにそのフォルクの姿を見ていたがやがてこちらを向いた、そう今はこの男に構っている暇はないのだ。外からの悲鳴や怒号が聞こえなくなっていた、それはつまりジーニャスたちを守るはずの者、屈強な剣士たちや魔法使いの全滅を意味していた。だから、僕たちはそうっと祠の入り口から外を見てみた。

 予想通りだった剣士や魔法使いは全滅していて、もうそこには生きている人間はいなかった、もし生きていたならこの場から逃げ出していたはずだ。そこには十数頭のデビルベアがいた、これはまずいことになった、僕たちの考えではデビルベアを上手く誘導してある場所に誘い込むつもりだった。だがこうやって祠の前に居座られては、僕たちが逃げ出すこともできなかった。

 精霊術も今の僕には使えなかった、なぜなら呼び出した光の精霊がシャールについていたからだ。あの光の精霊は何も考えずにシャールついていったわけじゃない、その命を少しでも長くこの世に繋ぐためにあの子の傍に残ったのだ。光の精霊に帰ってもらうわけにはいかなかった、今のシャールにはあの精霊がどうしても必要だったからだ。

「ジーニャス、貴方は大魔法使いだと言いましたね。具体的にあとどれくらいの魔法が使えます?」
「…………腕から出血で体力をかなり奪われた、集中してあと上級魔法なら1回、中級魔法なら5回といったところか」
「もう、しっかりしてください。大魔法使い!!」

「上級魔法をあと1回、それに賭けるしかない。今の僕には精霊術は使えない、改良したクレーネ草の薬も効果が不確かだ」
「攻撃の上級魔法で入り口のデビルベアだけなら倒せる、だが他に何頭デビルベアがいるのか分からん」
「とにかくこの祠から脱出しましょう、助けは期待できないから自分たちでどうにかするしかありません」

「それではジーニャス。何の魔法でもいいですからお願いします、入り口にいる十数頭のデビルベアを倒してください。あとはソアンに貴方のことは任せます」
「分かった、それだけしか今の俺にはできん。あとは走って逃げるだけだ」
「はい、任されました。リタ様。ジーニャスさん、いざとなったら私が貴方を担いでいきますからね!!」

 祠の入り口でそう僕たちは話し合って、ジーニャスが集中して上級魔法の詠唱をはじめた。僕も別の魔法をいつでも使えるように準備していた、ソアンはジーニャスが失血のせいで走れないなら、本気で彼のことを担いでいくつもりのようだった。僕としてもそうして貰えるとありがたかった、さすがに動けない人間を一人庇いながらではデビルベアの群れからは逃げきれなかった。

「リタとソアンよ、耳を塞げ!!『抱かれよエンブレイス煉獄ヘルの熱界雷ライトニング!!』」

 ジーニャスの指示通り僕は思わず耳を両手で塞いだ、その次の瞬間には頭の奥まで響くような激しい雷の音がした。そうしてジーニャスの上級魔法が広範囲に激しい雷を落とした、音がおさまってから耳鳴りがするような気がしたが外を確認した。ジーニャスの魔法は確かに十数頭いたデビルベアを全て倒してくれていた、だから僕とソアンはジーニャスを両側から引っ張りながら外へと飛び出した。

 外は相変わらず所々に血だまりができていた、バラバラになった人間の体の一部が落ちていたりもした。僕たちはそれらからなるべく目をそらし、他のデビルベアを警戒しながら進んでいった。どうしてもジーニャスの足には遅れが出た、そこでソアンが痺れをきらしてジーニャスを背負って走り出した、僕はそんなソアンに遅れないように警戒しながらついていった。

「ジーニャスが上級魔法を一度でも使えて良かった、僕たちだけでは逃げ出すのは難しかった」
「そうですね、ジーニャスさんも大魔法使いというのも嘘ではありませんね」
「当たり前だぞ、俺は大魔法使いだ。だが今はソアン、お前のお荷物にすぎんな」

「ソアンが力持ちで本当に良かった、ソアンを生み出した優しいご両親に心から感謝します」
「ジーニャスさんの方がリタ様より少し重いです、ダイエットをおすすめしますね」
「だいえっと? それは一体何なのだ??」

「ソアン、残念だがお喋りもここまでだ。どうやら僕たちについてきている影がいる」
「デビルベアですね、いきなり襲ってこないのは仲間を集めているのでしょうか」
「ここのデビルベアは何故か集団行動をする、それには必ず理由があるはずなんだが」

 僕たちを追いかけてくる黒い影がだんだんと増えていった、すぐ後ろから生臭い息遣いが聞こえてくるようだった。デビルベアの足ならもう追いつかれてもいいはずだが、彼らはなぜか数を増やしていったが僕たちを襲ってこなかった。だが近づいてきているのは間違いない、僕は今できる魔法をいつでも使えるようにした。

「ソアンよ!! 右だ!?」
「くっ!? ジーニャスさん、しっかり捕まっていてください!!」

 ふいに右側にあった茂みからソアンとジーニャスが狙われた、僕はそこで用意していた魔法を使った、僕の魔法は仲間にデビルベアの爪や牙が届く前に間に合った。

「『沼地化スワームシング!!』」

 ソアンたちを襲おうとしたデビルベアは、沼地と化した大地に首まで沈んでいった、今の魔法は効果範囲は狭く威力は強くして使った。それからはソアンに合図して細かく進路を変えさせ、僕は追ってくる複数のデビルベアたちが、自然になるべく一カ所に集まるようにした。そこで僕は素早くもう一度同じ魔法を使った、今度は範囲は広く効果は弱めて、地面を沼地にしてしまう魔法を使ってみせたのだ。

「『沼地化スワームシング!!』」

 今度はデビルベアたちは腰の辺りまでしか沈まなかった、だがそれで十分な足止めにはなったようだ。デビルベアたちは思うように動けずに苛立って叫びをあげた、それから沼地からどうにか抜け出してまた僕たちを追いかけてきた。僕は自分の豊富な魔力量をいかして、何度も地面を沼地化させてデビルベアをその場に足止めした。

 やがて僕たちが目をつけていた森が目の前にきた、だから僕はソアンとジーニャスに近づいて別の魔法を使った。

「世界の大いなる力よ、僕たちをお守りください、『聖なる守りホーリーグラウンド!!』」

 僕たちは見えない聖なる結界で包まれた、そのままで森の中をつっきっていった。デビルベアたちはそれでも当然追いかけてきた、中には森の木々に八つ当たりするものもいた。僕はこの森を抜けるまでが勝負だと思っていた、だから『沼地化スワームシング』をまた使いながらソアンたちと一緒に走り続けた。そうしてついに目をつけていた森を抜けた、そう目的であった森を抜けた途端に僕は振り返った、そうして今度は違う魔法をデビルベアたちに使った。

「『水竜巻ウォータートルネード!!』」
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