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2-7食べられないリンゴもある

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「触るな、ソアン!! それは毒だ、猛毒の実だ!!」
「え!? ど、毒の実!?」

 僕が警告したおかげでソアンはその猛毒の実に触れずにすんだ、僕は念のためにすぐにソアンの手を引いて森からかなり遠ざかった。そしてソアンに『解毒アンティドーテ』の魔法を僕と彼女自身に使って貰った、クレーネ草の薬はこのくらいでは使えない、数本しかないからもっと危険な時にしか使えないのだ。だから、僕は魔法が使えるソアンに『解毒アンティドーテ』をお願いしたのだ。

「ええと、まずリタ様に『解毒アンティドーテ!!』、それに私にも『解毒アンティドーテ!!』」
「ふうっ、もう大丈夫だと思うよ。ありがとう、ソアン」

「お礼を言うのは私です!! あっ、あれは毒の実なのですね」
「ああ、マンチニールという木で、死の小林檎とも言う」

「なにそれ怖い!! でもあの実を食べなければ、……平気なんですよね」
「いやあの木自体が猛毒の木なんだ、あの木に縛り付けられただけでジワジワと死んでしまう。だから、僕たちに念のために『解毒アンティドーテ』を使って貰ったんだよ」

 食い意地もほどほどにしないといけないと言ってソアンは震えあがっていた、実際にマンチニールという木は猛毒を持っていて、あのリンゴに似た実を食べるとほぼ死んでしまうのだ。実を食べなくても樹液や雨の日にあの木の傍にいれば、猛毒にやられて目が見えなくなったり、皮膚が焼けるように痛くなると本で読んだ。捕らえた解放する気がない捕虜をあの木に縛って殺した、そんな記述が残っているような恐ろしい木なのだ。だからと言ってあの木々と焼き払おうをすると今度は煙が毒になる、ただし斬り倒した木材はしっかりと日光に当てて乾かせば毒が抜けて良い木材になるらしかった。

「帰り道を考えるとそろそろ夜になる時間だ、もう今日はここまでにして街に戻ることにしよう」
「あっ、はい。ああ、怖かったです!! やはり、ダンジョンは危ないところでした」

「そうだね、油断ができない古代の遺産が生きているのがダンジョンだ」
「はい、リタ様。あれっ、リタ様の足元……」

「ん? なんだろうか、薬瓶? いや僕は落としていないし、僕の持っているものとは形が違う」
「ええ!? ひょっとしてエリクサー!! なっ、なんてことはないですよね」

 僕たちがマンチニールという木から避難してきた草原、そこには探してみると数本の薬瓶が落ちていた。数本の中身が分からない薬瓶たち、全くここにある意味が分からない、ここを通った他の冒険者が落としていった物かもしれなかった。とりあえずは拾っておいて後で中身を『鑑定アプレイゾル』してもらうしかない、まさかエリクサーだとは思わないが万が一ということもあるから、これだからダンジョンというものは分からないものだらけなのだ。

「おー、師匠にソアンちゃん。二人も新しいダンジョンに行っとったんか?」
「ミーティア、君もここに来ていたのかい」
「あっ、ミーティアさん。それにそれっ!! 私たちと同じ薬瓶!!」

「ああ、これなぁ。ここのダンジョンの中で拾ったんよ、まさかなぁエリクサーじゃないやろしな」
「僕たちもいくつか薬瓶を拾ったんだ、あとで一応は『鑑定アプレイゾル』してもらうつもりだ」
「これがエリクサーだったら、あのダンジョンの中はエリクサーだらけですね」

「そのまさかなぁ、古代の遺跡ちゅーうんはよく分からんもんやからな」
「本当に意味が分からない薬瓶たちだ、明日冒険者ギルドで一番に調べて貰おう」
「はい、リタ様。今日のところは怖い目にもあいましたし、早く街の宿屋に帰りましょう」

 僕たちはエテルノのダンジョンを出たところでミーティアにあった、彼女も自分のパーティでこの新しいダンジョンに来ていたらしかった。僕は中でリンゴのような木を見たら、その木は猛毒だから触れないように忠告しておいた。僕のその横ではソアンが涙目になりながら頷いていた、ミーティアもそんなソアンの様子を見て、真剣な顔をしてリンゴのような木には気をつけると言っていた。

 僕とソアンは街の宿屋に戻った、そこの酒場で夕食を食べたが人が少なかった。いつも歌いにくるミーティアも新しいエテルノのダンジョンに行っているし、エリクサー欲しさにほとんどのこの街の冒険者は出かけていた。皆が新しいダンジョンの中か近くに泊まるつもりのようだった、僕たちはいつもより静かな酒場で食事を済ませて、いつもどおりに水浴びをしてからベッドに転がった。それから僕たちは改めて拾ってきた薬瓶を見てみた、透明な液体が入った古そうな青い薬瓶たちだった。

「リタ様、これが本当にエリクサーではないですよね」
「多分、違うと思う。エリクサーというものは貴重品だから、薬瓶も丈夫だが美しい作りをしていると思う」

「明日、『鑑定アプレイゾル』をしてもらわないと、誰に頼めばいいのでしょうか」
「冒険者ギルドに行けば一人くらい、『鑑定アプレイゾル』の魔法を持つ者がいるはずだ」

「嘘をついたりしませんかね、本当に信用できる人でしょうか」
「『鑑定アプレイゾル』を使う者は基本的に神官が多い、冒険者ギルドに属していても『鑑定アプレイゾル』に関しては、彼らは嘘がつけないように『制約ギアス』を受けている」

 『鑑定アプレイゾル』は何故か使える者が限られる魔法だ、村にいた頃に呼んだ本では世界の根源にある力と繋がれる者、そうでないと使えない魔法らしかった。だから『鑑定アプレイゾル』が使える者はオラシオン国では管理されていて、冒険者ギルドで正式に働いているのだったら、『鑑定アプレイゾル』に関してだけ嘘がつけない『制約ギアス』がかけられているはずだった。僕たちは明日の結果を少しだけ楽しみにしながら、僕は眠り薬を飲んでソアンはいつものように僕の腕の中で眠りについた。

「リタ様、薬瓶の山です!! どれも私たちのものと同じです!!」
「ああ、皆が薬瓶を拾ったんだな、どうりで冒険者ギルドが混んでいるわけだ」

 翌日に冒険者ギルドに行ってみたがやけに混んでいた、その理由がすぐに分かったのは皆が薬瓶を持っていたからだ。彼らも中身が分からない薬瓶を拾って、そうして『鑑定アプレイゾル』が使える者を求めて冒険者ギルドの来たのだ。僕たちも『鑑定アプレイゾル』を担当している職員への列に並んだ、まさかエリクサーだとは思っていないが一応は確認はしておきたかった。

「これは目薬です、渇き目に良く効きます」
「これは胃薬です、食べ過ぎた日によさそうです」
「これは頭痛薬、頭が痛いときにどうぞ」
「これは歯の薬ですね、軽い痛み止めです」
「これは……」

 『鑑定アプレイゾル』をする冒険者ギルドの職員も大変そうだった、彼女の口からいろんな薬の名前が出てきていたがやはりエリクサーはなさそうだった。そんなに簡単に万病薬がほいほい見つかっても困る、医者が仕事が無くなっていなくなってしまうし、戦争なんかに利用したがる政治家が現れてしまうかもしれないのだ。僕たちは全く期待していないまま、ゆっくりと今日の食事の話でもしつつ、『鑑定アプレイゾル』の順番を待つことにした。僕もソアンもほとんど期待なんてしていなかった、ただの薬の正体を知っておくための義務感から列に並んでいただけだった。

 そうして僕たちの番になったら『鑑定アプレイゾル』を続けている職員、彼女は事務的に次々に薬の名前を言ってくれたがやはりエリクサーではなかった。緑色の髪と目をした魅力的な女性だったが、既に疲れ切っていてちょっと態度がやさぐれていた。ただ最後の薬瓶を『鑑定アプレイゾル』した時、彼女は目をカッと見開いてこう言いだした。

「これは、これは、ある意味で凄い薬です!!」
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