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2-4彼女の為に歌ってみる
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「本当なら金貨10000枚は最低したってさ、いやそれ以上の値段がついたって話だぜ」
「金貨10000枚!?」
「いち、じゅう、ひゃく、……ええっ、十億円!?」
僕もだがソアンも十分に驚いたようだった、エンというのは分からないが、ソアンは金貨10000枚と聞いて目を丸くしていた。カイトという少年の素直さについ聞き出してしまったが、聞かない方が良かったのかもしれなかった。僕はカイトに仲間たちと領主の言う通りに何も言わないこと、そう強く忠告して運動場から去っていく彼を見送った。だがカイトという少年はお人好しそうだった、今さっき聞いたばかりの話が噂になるのも遠い未来ではなさそうだ。
「り、り、リタ様。十億円なんて、十億円なんて――!? あっ、でもそれで命が買えるなら安い金額ですね」
「ああ、僕も驚いたよ。ソアンの言うエンという価値は分からないが、庶民なら一人で500年暮らせる金額だ」
「はぁ~、お金ってあるところにはあるんですよね」
「まぁ、王族ならそのくらいの金額、必要だったら十分に出せるだろうな」
「私たち庶民は地道にダンジョンが開放されるのを待って、エリクサーを探すしかないのでしょうか」
「残念ながらそのとおりだ、とても金貨10000枚なんて用意できないし、それも最低限の金額だろう」
その日は僕たちは何事もなく宿屋に帰れた、ミーティアにもカイトと約束したのでエリクサーの話はしなかった。だが翌日にはもうエリクサーが金貨1000枚で領主に売られたという話が街に流れていた、それに本来ならば金貨10000枚以上の価値があると皆に言われていた。冒険者ギルドはそんな金儲けに目がくらんだ人間やその他の種族でいっぱいだった、だから僕たちはとりあえず人気がなくなった掲示板を見てみた。そしてエリクサーとは全く関係がない、意外な人物からの依頼が出ていたので、それを引き受けることにした。
それは『領主の館で美しい音楽を聞かせ楽しませること、成功報酬で金貨1枚』というものだった、僕たちは暇だったし、領主の館まで行ってみることにした。それには依頼人にも関係があった、依頼人にはジーニャス・ゼーエンと書かれていたからだ、ジーニャスにはネクロマンサーと戦った時にかなり世話になった。だからその恩返しもかねて行ってみようとソアンに話した、ジーニャスの依頼なら無理を言われることもないと思っていた。そう思って領主の館に行ってみたら豪華な部屋に通され、思わぬ人物から出迎えを受けることになった。
「はじめまちて、私はしゃーる・ぜーえん。ぜーえん家の娘で5歳になりましゅ」
「こちらこそはじましてシャール様、僕はクアリタ・グランフォレと申します。この名前が難しければ、リタと短くお呼びください」
「はい、はじめましてシャール様、私はソアン。リタ様の養い子でございます」
僕たちを豪華な部屋の中で出迎えてくれたのはシャール・ゼーエンというお嬢様だった、小さいながらも礼儀正しくスカートを両手でちょこんと持って僕たちに礼をした、だから僕たちもなるべく礼儀正しくお互いに優しく自己紹介をした。シャールはジーニャスと同じ黒髪に黒い瞳をしていた、でもそれぞれの顔はあまり似ていなかったから、もしかしたら母親が違うのかもしれなかった。可愛らしい挨拶をしてくれたシャールの傍には、依頼人のジーニャスもいて僕たちの姿を見て声をかけてきた。
「おお、リタとソアンよ。元気だったか、お前たちがきてくれるとは驚きだ」
「ジーニャス、僕は吟遊詩人でもあるのです」
「そうです!! そしてリタ様の歌声は世界一なのです!!」
「あっははははっ、それは良い。この俺の妹のシャールにその世界一の歌声、それをどうか聞かせてやってくれ」
「ええと、わ、分かりました。ジーニャス、それではシャール様どんな歌がよろしいでしょうか?」
「リタ様、今から歌詞の意味を教えますので、あにそんを歌ってください。子どもには分かりやすいですし、面白くて受けも良いものを教えます」
ジーニャスと僕とソアンは簡単な再会の挨拶をして、それから僕はハープを引きながらソアンの提案したあにそんを歌うことになった。歌詞の意味を教えてもらうのは初めてだったが、初めて歌ったにしては上手く演奏と合わせることができた。こうして歌詞を知るとあにそんとはなかなか奥が深い歌が多かった、シャールというお嬢様にも気に入って貰えたようだ。僕が主にあにそんをいくつか歌ったが、ソアンがその歌に合わせて華麗に踊ったりもしていた。
「凄い、凄い、ジーニャスお兄さま」
「そうか、そうか、シャール。良かったな、楽しいか」
「はい、私はこの歌と踊りが気にいりまちた、ありがとうございましゅ」
「このリタとソアンは俺の友達だ、またお前が元気な時に呼んでやるとしよう」
そんな兄妹の姿に僕とソアンはお互いに心が温かくなって自然と笑顔になった、ジーニャスとシャールのやりとりに僕たちの出会った頃を思い出したりした。そう出会った当時はソアンは僕たち一家に警戒心をむき出しにしていた、だから僕が一生懸命に歌ったり話しかけたりして彼女を慰めたりしたこともあるのだ。歌というものはいいや音楽は偉大なものだ、人種の垣根を超えてその心に訴えかける何かがあるのだ。そうして楽しく僕たち4人が過ごしていたら、突然だが部屋のドアが開いて知らない男が入ってきた。ジーニャスたちと同じ黒髪に黒い瞳、でも顔の作りはどちらかというと良くなかった。
「ジーニャス!! 平民を勝手に家に入れたというのは本当か!?」
「おや、兄上。平民とはいえ俺たちの街の住民です、特にリタとソアンは偉大なプルエールの森、そこからきたエルフとハーフエルフです」
「平民は平民だろうが!? エルフだと、人間の街に上手く入り込みよって、全く下賤な種族め」
「お言葉ながらフォルク兄上、オラシオン国とプルエールの森は不可侵条約を結んでおります。あまり差別的な発言は慎んでくださいませ」
「はっ、女だったらいいようなエルフだな。もし貴様に似た姉か妹がいるのなら、俺様のところにつれてくるがいい」
「フォルク兄上、それはプルエールの森への侮辱です。ひいてはプルエールの森と条約を結んでいる、我が国への侮辱と思われますよ」
ジーニャスの言葉にふんっとだけ鼻をならしてフォルクという男は出ていった、シャールはフォルクがいるその間ずっとソアンに抱き着いて震えていた。ジーニャスがそんな妹の様子に気がついて頭を撫でた、そうして震えているシャールを抱き上げてベッドへと運んだ。シャールは泣いたりはしなかったが、フォルクという男が入ってきた瞬間から体の震えが止まらなかった。シャールはジーニャスからベッドに寝かされて、僕は思わず優しい歌詞の子守歌を歌ってみた。
そうしてシャールはやっと震えが収まった、同時に緊張がとけたのかスヤスヤと眠ってしまった。僕はジーニャスに目配せしてシャールの様子を見させてもらった、その手首は細くあまりにも脈が小さく不規則で弱かった、他にもあちこち診させてもらったが、これはおそらく心の臓が悪いのだと僕は思った。シャールを寝かせた部屋から出て、ジーニャスに別の客室に案内された。そこで報酬の金貨1枚を貰ったがシャールの様子を診て、僕はあの子のためなら無償でまたここへ来ても良いと思った。
「ジーニャス、あの子は心の臓が弱いのでしょうか」
「……初めてでそこまで分かったか。ああ、シャールは生まれつき心の臓が悪いと言われている」
「どうしてエリクサーを使わないのです、街ではここの領主がエリクサーを手に入れた、そう評判になっています」
「シャールは俺と年が離れている、つまりは妾腹の子でな。あまり貴族としては価値がない、そう俺の父親と兄上は考えているのだ」
僕はジーニャスの言葉を聞いて悲しくなった。間違いなく本当の親子なのに、その娘の命を助ける薬を親が持っているのに、それなのに我が子には使わずにエリクサーを王様への献上品にするのだ。貴族にとって地位が大切なものだというのはなんとなく分かる、だがあまりにも非情な決断ではないだろうか。ソアンは僕とは反対に黙っていたが怒っていた、その気持ちも無理もないことだった。ジーニャスはそんな僕たちに向かって笑ってこう言った、彼はシャールという妹のことを心配して大切にしているようだった。
「大人にさえなれればシャールの病も自然に治る、そう医者からは言われているから心配するな」
「金貨10000枚!?」
「いち、じゅう、ひゃく、……ええっ、十億円!?」
僕もだがソアンも十分に驚いたようだった、エンというのは分からないが、ソアンは金貨10000枚と聞いて目を丸くしていた。カイトという少年の素直さについ聞き出してしまったが、聞かない方が良かったのかもしれなかった。僕はカイトに仲間たちと領主の言う通りに何も言わないこと、そう強く忠告して運動場から去っていく彼を見送った。だがカイトという少年はお人好しそうだった、今さっき聞いたばかりの話が噂になるのも遠い未来ではなさそうだ。
「り、り、リタ様。十億円なんて、十億円なんて――!? あっ、でもそれで命が買えるなら安い金額ですね」
「ああ、僕も驚いたよ。ソアンの言うエンという価値は分からないが、庶民なら一人で500年暮らせる金額だ」
「はぁ~、お金ってあるところにはあるんですよね」
「まぁ、王族ならそのくらいの金額、必要だったら十分に出せるだろうな」
「私たち庶民は地道にダンジョンが開放されるのを待って、エリクサーを探すしかないのでしょうか」
「残念ながらそのとおりだ、とても金貨10000枚なんて用意できないし、それも最低限の金額だろう」
その日は僕たちは何事もなく宿屋に帰れた、ミーティアにもカイトと約束したのでエリクサーの話はしなかった。だが翌日にはもうエリクサーが金貨1000枚で領主に売られたという話が街に流れていた、それに本来ならば金貨10000枚以上の価値があると皆に言われていた。冒険者ギルドはそんな金儲けに目がくらんだ人間やその他の種族でいっぱいだった、だから僕たちはとりあえず人気がなくなった掲示板を見てみた。そしてエリクサーとは全く関係がない、意外な人物からの依頼が出ていたので、それを引き受けることにした。
それは『領主の館で美しい音楽を聞かせ楽しませること、成功報酬で金貨1枚』というものだった、僕たちは暇だったし、領主の館まで行ってみることにした。それには依頼人にも関係があった、依頼人にはジーニャス・ゼーエンと書かれていたからだ、ジーニャスにはネクロマンサーと戦った時にかなり世話になった。だからその恩返しもかねて行ってみようとソアンに話した、ジーニャスの依頼なら無理を言われることもないと思っていた。そう思って領主の館に行ってみたら豪華な部屋に通され、思わぬ人物から出迎えを受けることになった。
「はじめまちて、私はしゃーる・ぜーえん。ぜーえん家の娘で5歳になりましゅ」
「こちらこそはじましてシャール様、僕はクアリタ・グランフォレと申します。この名前が難しければ、リタと短くお呼びください」
「はい、はじめましてシャール様、私はソアン。リタ様の養い子でございます」
僕たちを豪華な部屋の中で出迎えてくれたのはシャール・ゼーエンというお嬢様だった、小さいながらも礼儀正しくスカートを両手でちょこんと持って僕たちに礼をした、だから僕たちもなるべく礼儀正しくお互いに優しく自己紹介をした。シャールはジーニャスと同じ黒髪に黒い瞳をしていた、でもそれぞれの顔はあまり似ていなかったから、もしかしたら母親が違うのかもしれなかった。可愛らしい挨拶をしてくれたシャールの傍には、依頼人のジーニャスもいて僕たちの姿を見て声をかけてきた。
「おお、リタとソアンよ。元気だったか、お前たちがきてくれるとは驚きだ」
「ジーニャス、僕は吟遊詩人でもあるのです」
「そうです!! そしてリタ様の歌声は世界一なのです!!」
「あっははははっ、それは良い。この俺の妹のシャールにその世界一の歌声、それをどうか聞かせてやってくれ」
「ええと、わ、分かりました。ジーニャス、それではシャール様どんな歌がよろしいでしょうか?」
「リタ様、今から歌詞の意味を教えますので、あにそんを歌ってください。子どもには分かりやすいですし、面白くて受けも良いものを教えます」
ジーニャスと僕とソアンは簡単な再会の挨拶をして、それから僕はハープを引きながらソアンの提案したあにそんを歌うことになった。歌詞の意味を教えてもらうのは初めてだったが、初めて歌ったにしては上手く演奏と合わせることができた。こうして歌詞を知るとあにそんとはなかなか奥が深い歌が多かった、シャールというお嬢様にも気に入って貰えたようだ。僕が主にあにそんをいくつか歌ったが、ソアンがその歌に合わせて華麗に踊ったりもしていた。
「凄い、凄い、ジーニャスお兄さま」
「そうか、そうか、シャール。良かったな、楽しいか」
「はい、私はこの歌と踊りが気にいりまちた、ありがとうございましゅ」
「このリタとソアンは俺の友達だ、またお前が元気な時に呼んでやるとしよう」
そんな兄妹の姿に僕とソアンはお互いに心が温かくなって自然と笑顔になった、ジーニャスとシャールのやりとりに僕たちの出会った頃を思い出したりした。そう出会った当時はソアンは僕たち一家に警戒心をむき出しにしていた、だから僕が一生懸命に歌ったり話しかけたりして彼女を慰めたりしたこともあるのだ。歌というものはいいや音楽は偉大なものだ、人種の垣根を超えてその心に訴えかける何かがあるのだ。そうして楽しく僕たち4人が過ごしていたら、突然だが部屋のドアが開いて知らない男が入ってきた。ジーニャスたちと同じ黒髪に黒い瞳、でも顔の作りはどちらかというと良くなかった。
「ジーニャス!! 平民を勝手に家に入れたというのは本当か!?」
「おや、兄上。平民とはいえ俺たちの街の住民です、特にリタとソアンは偉大なプルエールの森、そこからきたエルフとハーフエルフです」
「平民は平民だろうが!? エルフだと、人間の街に上手く入り込みよって、全く下賤な種族め」
「お言葉ながらフォルク兄上、オラシオン国とプルエールの森は不可侵条約を結んでおります。あまり差別的な発言は慎んでくださいませ」
「はっ、女だったらいいようなエルフだな。もし貴様に似た姉か妹がいるのなら、俺様のところにつれてくるがいい」
「フォルク兄上、それはプルエールの森への侮辱です。ひいてはプルエールの森と条約を結んでいる、我が国への侮辱と思われますよ」
ジーニャスの言葉にふんっとだけ鼻をならしてフォルクという男は出ていった、シャールはフォルクがいるその間ずっとソアンに抱き着いて震えていた。ジーニャスがそんな妹の様子に気がついて頭を撫でた、そうして震えているシャールを抱き上げてベッドへと運んだ。シャールは泣いたりはしなかったが、フォルクという男が入ってきた瞬間から体の震えが止まらなかった。シャールはジーニャスからベッドに寝かされて、僕は思わず優しい歌詞の子守歌を歌ってみた。
そうしてシャールはやっと震えが収まった、同時に緊張がとけたのかスヤスヤと眠ってしまった。僕はジーニャスに目配せしてシャールの様子を見させてもらった、その手首は細くあまりにも脈が小さく不規則で弱かった、他にもあちこち診させてもらったが、これはおそらく心の臓が悪いのだと僕は思った。シャールを寝かせた部屋から出て、ジーニャスに別の客室に案内された。そこで報酬の金貨1枚を貰ったがシャールの様子を診て、僕はあの子のためなら無償でまたここへ来ても良いと思った。
「ジーニャス、あの子は心の臓が弱いのでしょうか」
「……初めてでそこまで分かったか。ああ、シャールは生まれつき心の臓が悪いと言われている」
「どうしてエリクサーを使わないのです、街ではここの領主がエリクサーを手に入れた、そう評判になっています」
「シャールは俺と年が離れている、つまりは妾腹の子でな。あまり貴族としては価値がない、そう俺の父親と兄上は考えているのだ」
僕はジーニャスの言葉を聞いて悲しくなった。間違いなく本当の親子なのに、その娘の命を助ける薬を親が持っているのに、それなのに我が子には使わずにエリクサーを王様への献上品にするのだ。貴族にとって地位が大切なものだというのはなんとなく分かる、だがあまりにも非情な決断ではないだろうか。ソアンは僕とは反対に黙っていたが怒っていた、その気持ちも無理もないことだった。ジーニャスはそんな僕たちに向かって笑ってこう言った、彼はシャールという妹のことを心配して大切にしているようだった。
「大人にさえなれればシャールの病も自然に治る、そう医者からは言われているから心配するな」
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