上 下
36 / 128

2-3エリクサーの価値を知る

しおりを挟む
「エリクサーを見つけた、この金の冒険者であるカイトとの勝負だぜ」
「それは本当ですか、ちょっと信じられませんが……」

「俺と戦ってみれば分かるさ、これでも金の冒険者なんだからな」
「いいでしょう、模擬戦でよければ受けましょう」

 ソアンとカイトという少年はそうして模擬戦をすることになった、カイトという少年を観察すると剣士だが装備は少なく、剣の重さよりもスピードを重視している装備のようだ。ソアンは丈夫な服と皮鎧に大剣と一見すると少し重装備だが、ソアンにはドワーフの父親譲りの怪力があるから、これでもかなりスピードもあるのだ。僕は二人から審判を頼まれてソアンとカイトという少年の真ん中に立った、そして開始と言って二人から離れた。

 思ったとおりカイトという少年が素晴らしい速さで攻撃してきた、そのカイトの右からの剣の振り下ろしをソアンは楽々と弾き飛ばした。そしてそのまま大剣の横っ腹でカイトへと殴り掛かった、大剣の刃をそのまま使わないのは模擬戦だから手加減しているのだ。だがそれでソアンの剣のスピードが風を受けて遅れる、カイトは楽々とソアンの剣を受け止めた。

 だが、ソアンは見た目以上に力があるのだ。カイトはどうにかソアンの剣を受け止めたが、その場から動けなくなってしまった。少しでも力を抜けばソアンの攻撃がカイトを押しつぶす、だがカイトはどうにかソアンの剣を受け流した。それからまたソアンに向かっていったが、ソアンが振り回す大剣に阻まれて近づくことがなかなかできないでいた。

 ソアンは銅の冒険者だが剣の腕は相当のものだ、そのソアンと模擬戦なので本気ではないが、互角に戦えているとはなかなか腕の良い少年だった。

「二人ともそれまで、模擬戦ならもう充分だよ」
「はい、リタ様。良い練習になりました」
「えええええ、もう終わりかよ、俺はまだまだいけたぜ」

 ソアンは満足そうに剣を背中に収めた、カイトは少々不満げに剣を引いた。そこで僕はカイトに聞いてみることにした、ソアンも僕と同じように考えていたようだった。ソアンはカイトの服を握って、僕はその背後に立ってから、彼に聞きたかったことを質問することにした。カイトは黒い瞳で瞬きしながら、逃げようとはせずに素直に僕らの質問に答えてくれた。

「君が相当の実力者だというのは分かった、首から下げているプレートも確かに金の冒険者のものだ」
「それではですね、貴方がエリクサーを見つけたというのは本当ですか?」
「あっ、あああああっ、俺、忘れてた!?」

「えっ、一体何を忘れていたんだい」
「まさか全て嘘なのですか、それを誤魔化すおつもりですか」
「えっ、いや、その…………」

 赤い髪に黒い瞳をした15歳くらいの少年は少し気まずげに僕らに言った、それは本当にそのこと忘れていたようで、彼は手で頬をかきつつ申し訳なさそうな声で返事をした。

「エリクサーを見つけたこと、それっ仲間たちと領主に言うなって、言われてたんだった」

 カイトは本気でそう言っているようだった、ソアンは理由を聞いてそれからありそうな話だ、そう思ったのか納得して頷いている。このカイトという少年が本当にエリクサーを見つけたのなら、領主は街に余計な混乱を招かないように必ず口止めをしたはずだからだ。だから僕はにっこりと笑ってこう言ってみた、カイトという少年が喋りやすいようにしてみたのだ。

「ここだけの話にするから、少しだけエリクサーのこと教えてくれないか」
「そうか、それじゃここだけの話だな。えっとあれは古代遺跡、そこに落っこちた時に見つけたんだ」

「古代遺跡に落っこちた、それはまた器用なことをしたね」
「そうそう、山道を歩いてたら突然足元が無くなってさ。そこが古代遺跡だったんだぜ」

「エリクサーは本物だったのかい、どうしてそれが分かったんだ」
「落っこちた先の古代遺跡を仲間と歩いて見つけたんだ、仲間が『鑑定アプレイゾル』持ちでさ。それですぐにお宝だって分かった、……でもせっかく見つけたのに、領主の息子に取り上げられちまったんだぜ」

 そうやって僕はカイトという少年の話を丁寧に聞いてみたが、彼は偶々古代遺跡をここから遠くない山で見つけた。そうして仲間と一緒にそこを探索してエリクサーも見つけ出した、だけど領主の息子がそれを金貨1000枚でカイトたちから無理矢理に買い取った。領主からは他ではエリクサーのことを話さない、そう口止めをされてしまった。それが面白くなかったから今日は一人で冒険者ギルドをぶらついて、僕とソアンが面白そうな模擬戦をしているのを見つけたのだった。

 カイトの話には真実味があった、領主の息子がエリクサーを買い取ったというもありそうな話だった。領主の息子というのは次男のジーニャスではなさそうだ、人格者の彼なら正当な報酬を払ってカイトたちに与えただろうからだ。それから口止めされたというのがなお本当の事のように思える、それにカイトという少年は素直そうで小声で話している間も、くるくると表情が変わり嘘がつけるような人物には見えなかった。エリクサーを金貨1000枚で買い取られた、平民が一人なら50年は暮らせる額だが、エリクサーの値段としては安かった。

 なにせエリクサーはどんな病気でも治してしまえるのだ、ならばどれだけの人々がこれを欲しがるだろうか、金貨1000枚では安過ぎる値段だとしか言えなかった。そう僕が言うとカイトはやはり悔しがっていた、でも貴族である領主には逆らえなかったのだ。それに見つけた遺跡がまだダンジョンとして、正式に開放されていなかったのもまずかった。

 ダンジョンとして正式に領主から開放されていたら、そこで見つけた物は発見者の物になるのが常識だ。たとえそれがどんなに素晴らしい宝でも、見つけた者が自由にしてよいというのがダンジョンなのだ。これはオラシオン国が正式に決めていることでもあった、他の国でもほとんど同じような決まり事が存在している、そうしないと冒険者がダンジョンに行ってくれなくなるからだった。

「ダンジョンとして正式に開放されていない、それがよくなかったからエリクサーは領主に取り上げられたんだ」
「ああ、仲間たちにもそう言われたよ。でも、俺たちが見つけたものなのにさ」

「確かに発見者としてもう少し報酬を貰っても良い、そんな気もするが領主にも事情があるんだろう」
「そうだよな、もっと高く買ってくれてもいい物だよな、領主は国に献上するらしいぜ。要するに王様のご機嫌取りさ」

「本当だったならエリクサーは一体どれだけの値段がしたんだろう」
「仲間たちはこう言ってたぜ、これも内緒だけど……」

 そう言ってカイトが教えてくれた金額は僕の想像を超えていた、確かにエリクサーは貴重なものだが僕が思っているよりも高かったのだ。

「本当なら金貨10000枚は最低したってさ、いやそれ以上の値段がついたって話だぜ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捕獲されました。

ねがえり太郎
恋愛
何故こんな事に。忘年会の帰り道、私は捕獲されてしまった。 ※注:ヒーローがキモイかもしれません。駄目そうな方は回れ右でお願いします。甘さは全体的にうすめです。 ※念のためR15指定を追加します。全年齢対象のなろう版と表現を変更する話は★表示とします。 ※本編完結済。2019.2.28おまけ話追加済。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

初夜に妻以外の女性の名前を呼んで離縁されました。

四折 柊
恋愛
 国内で権勢を誇るハリス侯爵の一人娘であり後継ぎであるアビゲイルに一目惚れされた伯爵令息のダニエルは彼女の望みのままに婚約をした。アビゲイルは大きな目が可愛らしい無邪気な令嬢だ。ダニエルにとっては家格が上になる婿入りに周囲の人間からは羨望される。そして盛大な二人の披露宴の夜、寝台の上でダニエルはアビゲイルに向かって別の女性の名前を呼んでしまう。その晩は寝室を追い出され、翌日侯爵に呼び出されたダニエルはその失態の為に離縁を告げられる。侯爵邸を後にするダニエルの真意とは。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...