ここにおわすお方をどなたと心得る、俺を口説いている次期魔王様であるぞ!!

アキナヌカ

文字の大きさ
上 下
1 / 10

01ここにおわすお方をどなたと心得る

しおりを挟む
「――――――以上が貴様の起こした罪である、証拠も揃っておりエガルテ国の法で貴様は裁かれることになる」

 ごく普通の貴族の館で今日は大騒動が起こった、まぁいきなり二匹の大きな虎と魔族が二人で正面玄関を破壊しながら入ってきて、リオンという俺の主がここの貴族の起こした悪行を話し出したのだから仕方がない。リオンは一見すると足首まである美しい銀の髪と蒼い瞳をもつ美男子だ、ただし頭の中身はいろいろと残念なことになっていた。そして、自分が起こした悪行の数々を聞かされた貴族は当然ながら、俺たちを消すべく館にいた部下に命令した。

「こいつらを殺せぇ!!」
「はいはい、こんな雑な攻撃で死ねるか!?」

 俺はクロッシュ、黒い目と茶色の瞳をした人狼族だ。今は俺の主であるリオン・フライハイトを、剣で斬りつけてくる雑魚たちからロングソードを使って守っていた。俺の主であるリオンは穏やかに微笑みながら背筋を伸ばして胸を張り、脚を開いて仁王立ちしていた。そうして俺と仲間である二頭の虎、アクアとマリンは雑魚たちをあらかた倒してしまった。そうなってからアクアの出番がきた、リオンは嬉しそうに微笑みながら自分の右側に立つその姿を見ていた。

「静まれ、静まれ、このフライハイト王家の証である紋章が目に入らぬか!!」

 今まで俺と一緒に敵と戦っていたアクアが大きな白い虎から白い髪に金色の瞳の人間に戻って、我がフライハイト王国を象徴する証、宝石や希少金属でできた紋章を目立つように掲げていた。それに続いて双子のマリンも大きな虎から人間に変身して、長い白い髪と金色の瞳でリオンの左側に立ってこう言い始めた。

「ここにおわすお方をどなたと心得る。 恐れ多くも今のフライハイトの次期国王リオン・フライハイト様にあらせられるぞ!!」
「な!? なんでそんな偉いお方が……? こんなところに……?」

 エガルテ国は人間の国であるがフライハイト国の属国である、この貴族はいわば上司のそのまた凄く上の上司に自分の悪事がバレているのだ。へなへなと悪行を働いていた貴族はその場に崩れ落ちた、周囲の部下たちはほとんど俺たちが倒してしまっていた、この悪事を働いていた貴族はもう何もできなかった。そして、エガルテ国の正規軍が館になだれこんできた、だからリオンという俺の主は言った。

「これにて一件落着!! クロ、アクア、マリン。フライハイト国の城に戻るぞ!!」
「………………ああ」
「おう!! 俺様は今日も活躍したぜ!!」
「あたしも楽しかったぁー!! 悪は必ず滅ぶのね!!」

 そうして俺たちはリオンの魔法『飛翔フライ』でフライハイト国まで戻っていった、その間中リオンはご機嫌だった、アクアやマリンも楽しそうだった。俺は常識というものに罅が入る気がした、それもこれも俺の主人である魔族の国、フライハイトの次期国王のリオンがこの正義の味方ごっこにハマっているからだった。そもそも属国の貴族の悪事なんてみつけたなら、王城からエガルテ国宛てに手紙一通かけば終わる話なのだ、こんな正義の味方ごっこなど要らないのだ。

「リオン、もう正義の味方ごっこは止めないか?」
「ええっ!? どうして、悪は滅びる、僕は楽しい、悪いことなんて何にもないよ!!」

「お前ならあんな小物の悪党、エガルテ国への手紙一通で片付いただろ」
「それじゃ、面白くない。やっぱり最後に悪党と戦って、そして名乗りを上げる瞬間が最高なんだ!!」

「それじゃ、俺はしばらくお前の護衛から離れたい」
「それは駄目!! 僕がいない間の浮気は許さないからね。クロ!!」

 今日も俺の意見はリオンに採用されなかった、いつまでこの正義の味方ごっこが続くのだろうかと俺はこっそりとため息を吐いた。それもこれも百五十年ほど前の迷い人の荷物からはじまった、その迷い人という他の世界からの住人はある物を持っていた、ぽーたぶるでぃぶいでぃぷれいやーという映像が見れる機械だ。その映像の中の正義の味方に当時孤児だった、まだ五十歳くらいのリオンは夢中になった。

「クロ、僕きっと正義の味方になるんだ!!」
「そうか、それは頼もしいな」

 リオンたちが居たのは俺の住む近所の孤児院で、俺にとってリオンは弟みたいなものだった。だから最初は冗談だと思っていたのだが、リオンはどんどん強くなりエルテレン・フライハイト国王陛下に挑戦して勝ってしまったのだ。

「あはっ、今日から僕がここの統治者だ」

 今から百年ほど前のことである、だから勝ったリオンが本当なら現在の国王なのだが、それを嫌がって国王陛下の養子になったのだ。それから書類仕事の中から不正を見つけると、リオンはこの正義の味方ごっこをするようになった。アクアとマリンという同じ孤児院の兄妹まで自分の部下にして、現実世界で正義の味方ごっこをするようになったのだ。

「へへっ、リオン様。俺様の紋章の見せ方はどうでしたか?」
「ああ、しっかりと堂々と見えていたぞ!! アクア!!」

「リオン様、あたしはちゃんとセリフを言えてましたか?」
「うん、バッチリだったぞ!! マリン!!」

 俺は三人がわいわいきゃっきゃっと楽しそうにしてるのを見て、まぁ確かに悪が滅びたんだからいいかとまた一つため息を吐いた。そうして夜になってフライハイト国の王城に戻ってくると、アクアとマリンは目をこすりながらあくびをして自室に帰っていった。俺も自室に帰ろうとするとリオンに腕をがっしりと掴まれた、そして俺はリオンの部屋である王太子の部屋の中に連れていかれた。

「ねぇ、クロ。まだ僕と結婚する気にならない? セックスする気はない? せめて恋人にならないかな?」
「三つとも却下だ」

「それじゃあ、今夜も僕と一緒に添い寝してくれる」
「ああ、それは構わん」

「ありがと、クロはいつになったら僕の伴侶になるのかな?」
「俺は女が好みだからな、インキュバスのお前じゃ無理だ」

 俺にそう言われてリオンは寂しそうな顔をしていた、でも俺としてもこれは譲れないというものがあるのだ。俺は人狼族で男より女の方が好みだった、リオンは綺麗な顔をしているが女じゃない、それに体格も俺と同じくらい良かった。俺が女だったなら惚れたかもしれないが、俺は男なのでリオンからの求婚は断るしかなかった。俺たちは風呂に入ったら寝ることにした、明日になればまた仕事が待っているのだ。

「いいさ、いつか僕はクロと結婚するんだもん」
「妙なことを言ってないでもう寝ろ、リオン」

「ちぇっ、まぁいいや。おやすみ、クロ」
「おやすみ、リオン。良い夢を」

 こんな奇妙な日常が俺にとってはここ百年の日常だった、サラサラとした髪をしたリオンをベッドで抱きしめながら、彼のその温かさに誘われて俺は夢の中へと落ちていった。どうにかしてリオンたちに正義の味方ごっこを止めさせないと、そう思いながら俺は意識を手放した。

「きゃあっ!? も、申し訳ございません!!」

そして、翌日の朝になって俺はメイドの悲鳴で起こされることになった。そうしたらリオンが俺の服をそうっと脱がせようとしている最中だった、俺はリオンを捕まえてそのケツを十回くらい叩いてそれからベッドから追い出した。

「むー、ちょっと味見したかったのに」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

処理中です...