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1-09罠からこぼれ落ちそうになった君

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「僕の番号は3547だ、ううっ、ありますように……あった!!あったよ、鈴」
「俺の番号は3535だから、おっ、あった。裕介、俺もあったぜ。合格だ」

「良かった、鈴。僕は凄く嬉しいよ。んくっ」
「そうだな、お祝いにキスしてやるよ。んん」

「ぷはぁ、鈴!! こんなエッチなキスはしないでよ」
「いいじゃねぇか、キスの音なんて下には聞こえてねぇよ。俺も本当に嬉しい!!」

 今日は鈴は僕の家に来て、二階にある僕の部屋で二人で試験結果がネットに出るのを待っていた。僕はちゃんと合格していて凄く嬉しかった、だから思わず隣にいた鈴に抱き着いたら、抱きかえされて濃厚なキスまでされた。一度教科書を読んだら忘れない天才の鈴も合格していた、これで春から東京で鈴と二人暮らしができるとお互いに喜んだ。そして、僕は家にいた母さんと妹にも合格を報告した。

「母さん、麻衣まい。僕と鈴は大学合格したよ!!」
「良かったわねぇ、もう裕介ともお別れねぇ」
「お兄ばっかり鈴くんと一緒でずるい、もし私が鈴くんと同い年だったら、絶対に私が鈴くんと同じ大学に行くのに!!」

「麻衣それはどうしようもないだろ、僕と鈴が同い年なんだから」
「そうよ、麻衣。それに鈴くんと裕介はねぇ」
「どうしようもなくない!! 鈴くんが落ちれば来年、私と一緒に同じ大学に行けた!!」

「あのな、麻衣。相手の不幸を願うようじゃ、幸せになれないぞ」
「ええ、麻衣。裕介と鈴くんはもう特別なの。だからお祝いしてあげて」
「ふーん、嫌だ!! 私が一緒に鈴くんと大学に行きたかったもん!!」

 僕には妹の岩崎麻衣いわさきまいがいた、年は一つ違いの僕からすれば可愛い妹だが、僕はどちらかというと麻衣からは嫌われていた。理由は簡単で鈴に麻衣は惚れてたからだ、だから何かというと鈴と一緒に遊んでいる僕は、麻衣にとって邪魔者でしかなかった。だから麻衣は僕に対して攻撃的なのだ、僕には麻衣と一緒に遊んだ記憶がほとんど無かった。僕はため息をつくと携帯で仕事中の父さんに電話した、すぐに電話に出てくれたので合格を報告してお祝いの言葉を貰った。

「鈴、今日はうちに泊まって行きなよ」
「いいのか!? 裕介の家に泊まるのは久しぶりだな」

「麻衣がちょっとうるさいけど、それを気にしないでくれればだけど」
「大丈夫、裕介の大事な妹だ。少々うるさくても、気にしないさ」

「麻衣は鈴が大好きだからさ、いくら言っても僕の言うことなんか聞かない」
「勿体ない話だな、俺が裕介の弟だったら甘えまくるのにな」

 とにかく今日は僕の家に鈴が泊まって行くことになった、母さんも合格発表の日には鈴くんをお招きしなさいと言っていた。僕はうきうきしていた、これから東京で始まる新生活が楽しみで仕方なかった。それは鈴も同じだったみたいで、早めに東京に行ってこれからの生活に慣れよう、そう言って東京に行く日を僕と話しあった。やがて父さんも帰ってきて、夕食を皆で一緒に食べ始めた。

「裕介をよろしく頼むよ、鈴くん」
「ええっ、分かっています」

「鈴くんのおかげで裕介は成績が上がったし、良い大学に合格できた」
「それは裕介が努力した結果ですよ、俺はアドバイスした程度です」

「そうなのかい、まぁ大事な息子だ。そして、鈴くん君ももう家族だよ」
「そう言っていただけると、俺もとても嬉しいです」

 父さんと鈴は夕食の席で和やかに話をしていた、確かに僕の成績が上がったのは鈴の存在が大きかった。鈴はいろいろとアドバイスしてくれたし、僕の苦手なところを上手く解説してくれた。そんな親友の鈴と僕の父とのやり取りに、僕はほっこりした気持ちになっていた。そうしたら麻衣が僕にオレンジジュースを飲めと勧めてきた、麻衣なりのお祝いなのかなと思って僕はそのオレンジジュースを飲み干した。そうして、楽しい夕食はやがて終わった。

「おい、裕介。どうした?」
「うーん、さっきから妙に眠くて」

「ちぇ、裕介が良ければここで最後にセックスしたかったのに」
「僕の家は壁が薄くて、声が響くから駄目だよ。うーん、眠い」

「そんなに眠いんなら、仕方ないからもう寝ちまえよ」
「ふぁ~ぁ、鈴。ごめん、相手ができなくて」

 そうして僕はすぐに眠りについた、でもなんだか変な眠りだった。金縛りみたいで体は動けないのに意識はあるのだ、なんだかいつもの眠りとはどこか違っていた。しばらくしたら麻衣が僕の部屋に入ってきた、そうして鈴に合格おめでとうございますと可愛らしく言っていた。だがその後の麻衣の行動は予想外だった、なんと麻衣は鈴に抱き着いて抱いてと迫ったのだ。

「鈴くんお願い、私を抱いて」
「それは前に断っただろ、裕介のことは好きだけど、お前のことはどうでもいい」

「私はお兄に少し似てるから、親友を抱いてるみたいな気分になれるよ」
「ぶはっ!? はははっ、そうきたか。そんな疑似体験はいらない、大人しく自分の部屋に帰れよ。あんまり騒いでると、裕介が起きるぜ」

「お兄なら起きないよ、強い睡眠薬を飲ませたの。だから、朝までぐっすりだよ」
「何だって!? おい、裕介!! 裕介、起きろ!?」

 僕は何度も何度も鈴に体を揺すぶられたが、意識はあるのに体はぴくりとも動かせなかった。鈴はすぐに救急車を呼ぶ緊急通報をしていた、麻衣はそんなに慌てなくてもただの睡眠薬だと言っていた。鈴はそんな麻衣の頬を叩いて黙らせた。そして、何の薬をどれくらい飲ませたかと聞いたが、麻衣は強い睡眠薬をいっぱい混ぜたから分からないと答えた。

「おじさん!? おばさん!? 救急車を呼んだから裕介を下まで降ろします」
「どうしたんだい、鈴くん!?」
「裕介、一体どうしたの!?」

「麻衣が裕介に何種類か量も分からない睡眠薬を飲ませました、だから救急車を呼びました!!」
「何だって!? 麻衣、なんてことをしたんだ!?」
「ああっ、そんな。裕介!! 裕介!?」

「はいっ、意識が無い状態です、何種類の睡眠薬をどれだけ飲んだのかも分かりません。呼吸はちゃんとしています、ああ、救急車が来た。おばさん、俺と一緒に救急車に乗って貰えますか?」
「麻衣、逃げないで下に降りてきなさい!!」
「ええ、鈴くん。もちろんよ、救急車に一緒に乗るわ」

 それから僕は救急車で病院に運ばれた、そしてもう二度と経験したくないような辛い胃洗浄を受けた。完全に意識がなければどうということはないのだろうが、僕の場合体は動かせなくても意識があったのでとても辛かった。点滴をされて下剤も投与された、僕はぼんやりと意識がある状態で病院の天井を見ていた。

「麻衣ったら馬鹿なことをして、ごめんなさない。鈴くん」
「家に戻ったら叱っておいてください、薬の種類や量によっては裕介は死んでいた」

「鈴くん、あなたが救急車を呼んでくれて良かったわ」
「起こそうとしても返事が無かったので、これはもう救急車が必要だと思いました」

「ありがとう、鈴くん。あなたになら裕介を任せられるわ」
「そう言って貰えると嬉しいです、あとは早く裕介の意識が戻れば良いです」

 母さんと鈴のそんな会話を聞きながらぼんやりと僕は意識を保っていた。でもやがてトイレに行きたくなった、僕はかすれた声が出せるようになった。それを鈴が聞き取ってナースコールをした。そして、看護師さんに手伝ってもらって僕はトイレに行った、こんなことしなきゃいけない看護師さんは大変だと思った。それからは薬がきれてきたのか、最初はかすれ声だったけど鈴や母さんと話ができるようになった。そして意識は戻ったが用心の為に、僕はもう一日入院することになった。

「鈴、母さんは電話をしにいった?」
「ああ、おじさんにもお前の意識が戻ったことを伝えにいった」

「そっか、それじゃ鈴、キスして」
「いきなり、どうしたんだ、裕介?」

「あのままも死んでたら、鈴にキスもして貰えなかったって思ってさ」
「それじゃ、おばさんが戻る前に濃厚なのを一回してやるぜ」

 鈴んは言った通りに僕にすごくエッチな濃厚なキスをしてくれた、僕はそれが今生きている証拠のような気がして嬉しかった。そうして、今度は自然の睡魔が僕を襲ってきた、だから鈴にちょっと眠るからと言って僕はまた眠ってしまった。今度は安全な起きる保証がある眠りだった、だから僕には鈴の言葉は聞こえなかった。

「あの女許せねぇ、どうしてやろうか」

 そして僕は眠りながら僕の手を握っている鈴の体温を感じていた、確かに眠っているのだけれど左手がとても温かくてなんだか幸せだった。鈴が僕を見つめる眼差しはいつもどおりに優しく感じられたし、鈴がそばにいるんならもう大丈夫だと僕は思っていた。だから僕は今度は安心して眠ってしまっていた。

「もう罠は完成したぜ、俺の裕介。はやく東京でお前を捕まえたいよ」
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