ドラゴンから人間に縛りプレイで最強へ

アキナヌカ

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3-23大切な願いを託したい

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「私を恐れぬ愚かでか弱き人間たちよ、千年を生きるドラゴンの怒りがどういうものか知りたいのか」

 俺とレンはそう言われてから喧嘩を止めた、ドラゴンとは仲間の自由を尊重する生き物だった。俺とレンは正々堂々と強いドラゴンと戦いたいだけだった、別にそのために相手を怒らせる気はなかった。それに千年を生きたドラゴンを本当に怒らせたらいけない、そんなことをしたらただの決闘が、命がけの決闘になりかねなかったからだ。そうしてレンに話してくれっという目配せをされて、俺はその千年を生きたドラゴンに話しかけた。

「俺の名はシエル、俺の親友の名はレン。千年を生きたというドラゴン、貴方と戦いたい若いドラゴンです」
「………………なんだ、君たちはドラゴンなのかい? いやドラゴン以外の気配も感じるけれど、とりあえず中に入っておいでお茶でも入れよう」

 俺とレンはそのドラゴンの返事にびっくりした、俺たちは戦うための決闘を申し込みにきたのに、そのドラゴンは俺たちを歓迎してくれるようだった。いきなり戦うのではなく俺たちはお茶に誘われた、俺はアクアやリッシュにも合図して、そして恐る恐る千年を生きたドラゴンの住処に入っていった。そこにはまるで人間の家のようにいろんな家具が揃っていた、そして黒髪に紫色の瞳を持った人間の姿をした青年が俺たちを待っていた。

「よくここまでやってきたねぇ、それに人間の女の子までいる。偶然でもとても僕は嬉しいよ、さぁお茶を入れよう」
「あっ、初めまして俺はシエルといいます。お茶をありがとうございます」
「えっと、俺様はレンだ。突然来たのに、すまねぇな」
「アクアなの、そしてお邪魔しますなの」
「僕はエルフのリッシュと申します、それではお邪魔させていただきます」

 そうして俺とレンは千年を生きたドラゴンと戦うはずだったのに、何故か彼から歓迎されてお茶をご馳走になることになった。俺たちを含めて五人が座っても大丈夫な大きなテーブルと椅子があって、綺麗な陶器のカップに千年を生きたドラゴンである彼が自ら紅茶を入れてくれた。そうして見ると彼は普通の人間のように見えた、ドラゴンではなく本当に普通の人間みたいだった。

「ああ、自己紹介をしていなかった。僕はアーベント、もう千年近く生きているドラゴンだ。ただねぇ、僕はそんなに強いドラゴンじゃないんだ、これは謙遜じゃなくて本当なんだ」
「えっと、それじゃどうして千年も、そう長い間を生きていられたんですか?」
「そうだぜ、千年も生きているんなら、それなりに戦ってるだろ?」

「いいや、僕はほとんどドラゴンと戦ったことが無い。大抵はこうやって相手のドラゴンにお茶を飲んで貰って、そうして言葉を交わすだけで戦ったりしないんだ」
「え!? お茶を飲むだけ!?」
「本当に戦わねぇのか!?」

「そうだよ、僕は戦うのがあまり好きじゃないんだ。だから、戦わないですむならそうしている。この縄張りが欲しいっていうなら別だけど、それ以外ならできれば戦いたくないんだよ」
「いっ、いや、俺たちは別にこの縄張りが欲しいわけじゃない」
「そっ、そうだな。まだ俺様たちには自分の縄張りを持つ気はねぇ」

 俺たちの返事を聞いてアーベントというドラゴンは嬉しそうに微笑んだ、それは縄張りを巡って戦わないですみそうだという本当に嬉しそうな顔だった。そしてアーベントはアクアに興味を持ったみたいだった、今度は甘いクッキーなど手作りのお菓子を持ってきた。アクアはアーベントが持ってきたお菓子を、とても喜んで真っ先に手をつけて美味しそうに食べていた。

「この可愛い女の子の保護者は誰だい?」
「あっ、俺です。アクアは俺の大切な家族です」

「この子は君の将来のお嫁さんなのかな?」
「はぁ!? ええと、そんな先のことは分からないです!!」

「それじゃ、この子と僕はいろいろとお話がしたい。少しだけ君の大切な家族、アクアちゃんと内緒話をしていいかい?」
「え? はっ、はい。……アクアどうする?」

 俺はアーベントというドラゴンからいきなり驚くような質問をされた、アクアをお嫁さんにするのかと聞かれて俺は驚いた。でも同時にそれは俺の心を酷く揺さぶる言葉だった、アクアは俺にとって大切な家族だった、でも最近では家族であると同時にアクアは一人の女性だと思っていた。それ以上のことを考えようとすると俺は分からなくなるのだった、俺には自分の気持ちがよく分からなかった。でもアクアはこのアーベントというドラゴン、彼との内緒話に強い興味を持ったようだった。

「シエル、アクアはアーベントさんと内緒話をしてくるの」
「それじゃ、台所に行こう。ここからも僕らが見えるし、シエルくんを心配させたくない」

 そうしてアクアとアーベントは台所に椅子を持っていって、そこで二人で何か長くて楽しそうな内緒話をしていた。アクアはお話をしながら何度も笑っていた、アーベントは初めて会う大人なのに彼に怯えなかった。アーベントが実はドラゴンだったからかもしれない、でもアクアが楽しそうに俺の仲間以外の男と話しているのは、なんだか俺にとっては面白くなくて俺はずっとアクアのことを見ていた。

「アクアちゃんとの内緒話はすんだよ、ありがとう。シエルくん、今度は君と内緒話をしよう」
「ええ!? 俺とですか?」

「アクアちゃんの将来に関係する話だ、だからできるなら僕の話を聞いて欲しい」
「ええと、はい。分かりました、聞かせてください」

 俺は楽しそうに帰ってきたアクアをレンとリッシュに預けて、そして台所に椅子を運んでアーベントというドラゴン、彼と俺だけで内緒話をすることになった。そうしてアーベントが話してくれたのは彼自身の話だった、彼も人間の子どもを拾って大人になるまで育てたことがあったのだ、俺は普通のドラゴンは弱者に興味が無いからその話にとても驚いた。

「僕の愛しているファムは捨て子だった、僕は彼女を大人になるまで育てて、そしていつの間にか愛するようになった彼女と結婚した」
「人間と結婚した!?」

「そうだよ、僕は本気で彼女を愛しているから結婚した。もう彼女は随分と前に世界の大きな力に返った、でも今でも僕はずっと彼女を愛している。それで君の気持ちはどうなんだい? アクアちゃんと交尾をする気はあるのかな?」
「分からない、分からないです。それにアクアはまだ成人もしていない子どもだし、俺の勝手な感情を押しつけたくない」

「人間の子どもはあっという間に大人になるよ、そして彼らはあっという間に死んでしまう。それでも彼女は君の大切な家族かい? いつか彼女と別れることになっても平気なのかい?」
「アクアは俺の大切な家族です、できることなら別れたくない、それくらい大切な家族です」

「シエルくん、君はあの子を本当に愛しているのかい? そこに性的な意味は全くないのかい?」
「俺はアクアが大好きだ、でも愛しているかは分からない。アクアのことをずっと抱きしめていたいと思う、でもアクアはまだ子どもなんだからそれはできない」

 俺はアーベントと話して自分の本当の気持ちが、それが形になっていくような気がした。俺はアクアを大切な家族として愛している、もしアクアがいなくなったらと思うと恐ろしさで体が震える、でもいつかそんな日がこのままだと必ずくるのだ。俺はアクアをもう手放したくなかった、世界の大きな力にも返したくなかった、できるなら俺とずっと一緒に生きていって欲しかった。

 そう俺はアクアのことを愛している、それは可愛い幼い女の子としてではなく、一人の女性になりつつある存在として愛していた。俺は唐突にそれに気づいた、アーベントから沢山の質問をされて、そうそんな俺自身の大切な気持ちに気づいた。俺はアクアを一人の女性として愛している、いつの間にかそう俺はアクアのことを愛するようになっていたのだ。

 一度そんな気持ちに気づいたら俺は泣きたくなった、それくらい俺にとってアクアは心を揺さぶられる存在だった。いつかくるアクアとの別れを考えるだけで俺は涙が出そうになった、でも俺がどんなにアクアを愛していても彼女は人間だった。だからドラゴンである俺とは寿命が違っていた、俺はいつかくるアクアとの別れを思って一筋の涙を流した。

「アーベントさん、シエルをいじめちゃ駄目!!」
「ああ、アクアちゃん。僕は彼をいじめたんじゃない。彼はたった今、とても大事なことに気づいたんだよ」

 いきなり涙を零した俺を見たアクアが走ってきて、そうしてアーベントに怒って抗議した。でもアクアが抗議するようなことはなかった、それでもそんな優しいアクアが俺は愛おしくてたまらなかった、俺の為に怒ってくれるアクアのことが本当に愛おしくてたまらなくなったのだ。そんな俺を見てアーベントは何か納得したようだった、そして彼は幸せそうに俺たちに向かって微笑んだ。

 それは深い愛情がこもった眼差しだった、何故だろう俺たちは今日初めて会ったのに、アーベントは俺たちを見て本当に幸せそうに微笑んだ。それは愛おしい者を見つめる瞳だった、彼の愛していた女性を見ているようだった。何か大切なことをやっとやり遂げたように彼は笑った、そう楽しそうに嬉しそうに俺とアクアを見て笑ったんだ、そんな彼の笑顔はとても強く俺の心の中に残った。

「シエルくん、君にとても大切な物をあげるよ」
「え? どうして?」

「それはもう僕には必要ない物になっているから、でも君たちにはこれから必要だと思うからだよ」
「でも、俺は貴方に何も返せない」

「いいんだ、僕があげる物でいつか君たちが幸せになってくれればいいんだ、そうそれだけで僕は千年近く生きてきた意味があったと思えるんだ」
「……生きてきた意味」

 そうしてアーベントは洞窟の最奥からある物を持ってきた、それは黄金色の宝石のようなとても美しい石だった。ドラゴンである俺には一目見ただけで分かった、この石には世界の大きな力が溢れていると分かった。アーベントはそれを大切そうに眺めていたが、やがて俺の手にそうっとその石を渡してくれた、その石には世界の大きな力が満ち溢れていた。そうして俺の耳にそっと口を近づけて、俺だけに聞こえるように彼は言った。

「これは『愛の涙』という物だよ、『黄金の涙』ともいうことがある、これを飲めばその人間は不老長寿になれるだろう」
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