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3-12好きだからって許せない
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「貴方を助けられなくてすみません、オリゾン!!」
エルフであるリッシュの弓の腕は確かだった、空中という不安定な場所にいてさえその狙いは正確だった。オリゾンが一瞬だけリッシュのことを振り返って見た瞬間に、その僅かな間にリッシュはオリゾンの心臓を射抜いてみせた。俺たちは落ちていくオリゾンを追って飛び続け、地面に倒れているオリゾンの傍に降り立った。オリゾンは即死していた、リッシュは彼を決して苦しませることなく逝かせた。
「…………シエル様、僕はどうすれば良かったのでしょうか?」
「オリゾンは幼い頃から間違ったことを教えられて育った、だから人間を襲わせないためには誰かの保護が必要だった」
「…………それでは、オリゾンが生きる道は人間の作る檻の中しかなかったのですね」
「いいや、リッシュはオリゾンに旅立てる機会を与えた。それにオリゾンはたった一カ月とはいえリッシュの優しさに触れることができた、真っ暗だったオリゾンの一生の中でそれはかけがえのない宝物だったはずだ」
「…………オリゾン、馬鹿で愛おしい僕の初めての養い子」
「ああ、オリゾン。もうゆっくりと眠るといいだろう、ここは景色も良い綺麗で美しい花々も咲いている、あの街で人間ばかりを見ていたこの子には良い景色だろう」
オリゾンの死に顔は穏やかにまるで微笑んでいるようだった、俺たちはアクアたちと合流する前にオリゾンの墓を作った、俺が魔法で掘った穴にオリゾンの遺体をリッシュが横たえた。そうしてリッシュは大いなる種族に伝わる子守歌を歌った、この歌は鎮魂歌でもあったので、それをオリゾンの為に歌っていた。リッシュはエルフだからか歌がとても上手かった、俺はそれをずっと聞いていたら悲しくなってきた。
「どうか、お休みなさい。大きな世界の力に帰るまで、緑の木々に守られて、多くの精霊が見守る、豊かな森に感謝して、そう優しい風が頬を撫で、光が僕たちを照らすなか、そう安らかにお休みなさい。僕の愛しい者よ、もう誰も貴方を傷つけることはない……」
リッシュの歌にはオリゾンへの心がこもっていた、リッシュがどれだけオリゾンのことを大切に想っていたか、リッシュのオリゾンへの惜しみない愛情を彼は歌で表していた。リッシュは泣いていなかったが、何故だろうか俺が代わりに涙が出てきた。見返りを求めることなく誰かを愛する、そんな純粋な愛情を与えられても救えない命もここにあったのだ、俺はそのことがとても悲しくて仕方がなかった。
「………………そうもう貴方を傷つける者は誰もいません。僕の愛しい養い子、オリゾン」
俺がふと気がついたらリッシュも泣いていた、彼は声を出さずに今作ったばかりの墓に置いた大きな岩、優しく生きていたオリゾンに触れるようにその岩を撫でながら彼は泣いていた。それはオリゾンを失った悲しみの涙だった、自分が無力であることへの悔し涙でもあった、リッシュは本当に静かに悔しそうに泣いていた。俺はリッシュが泣き止むまで待って、それからアクアとレンのところに帰った。
「天使さんは天国へ行ったの?」
「ええ、アクア様。彼はもう誰にも傷つけられることない、世界の大きな力に返りました」
「アクアの昔のお母さんもそこにいるんだよ」
「そうでしたか、アクア様の母君ならきっと優しい人間でしょう」
「うん、凄く優しくて料理も上手なの。オリゾンと仲良くしてくれるといいな」
「最初のうちはオリゾンは懐かないかもしれません、ですがきっと優しい人間に出会えたなら、彼もきっと有翼人本来の優しさを思い出せるでしょう」
オリゾンという有翼人の物語はこうして終わった、リッシュは少しだけ空を見て寂しそうにしていたが、俺たちとの旅を続けて前へと未来へと進んでいった。次の街はなんでも米作りが盛んな街らしい、商人である俺としてはたっぷりとアクアの為に米を仕入れておきたかった。やがて賑やかそうな街が見えてきた、俺たちはいつもどおりに街へと入った。
「うわぁ、シエル。お米がいっぱい、種類もいっぱい」
「はあぁ、本当だな。アクア、これは凄い」
いつものように神殿の孤児院に寄付をして、そしてまず市場に行ってみたら俺とアクアは驚いた。白い米でもいろんな種類があって、様々な形の米が売ってあった。この街の周辺は水が豊富で田んぼという、米を育てる場所が沢山あるんだそうだ。自然と米に関するものが多くて米の他には、米から作られる酒も良い物が沢山あった。
この街の住人は白い米を主食にしているのだと聞いた、冒険者ギルドの掲示板を見に行っていたレンやリッシュ、彼らと夕食で合流したが確かにどこの店でも白い米が出されていた。レンは以前に俺とアクアが食べさせたこともあったし、すぐに米が主食なのに慣れた。一方のリッシュは最初は少し戸惑っていた、でも彼も一度食べてみればずぐにその美味しさから米を食べれるようになった。
「えっとお餅だろ、それにチャーハン、だんご、ビーフン、米粉のパンまであるんだな」
「アクア、とっても幸せなの」
「はははっ、チビ。ほっぺたに米粒がついてんぞ」
「とても美味しいお米ですね、お米というものはこんなに美味しいのですね」
「米がこんなにあるんなら、今度カレーを作ろう!!」
「シエル、カレーが作れるの!?」
「かれー? って何だ? 美味いのか?」
「シエル様は料理も上手くていらっしゃる、かれーもきっと美味しいものなのでしょう」
俺はあかり姉さんからいろんな料理を習ったが、米が大量にあるのならカレーを作るしかなかった。どうしてかそれはカレー粉があるからだ、あかり姉さんから必要な香辛料を聞いていた、そんな俺はカレー粉を作れるようになっていた。そうして宿屋の厨房を借りてカレーを作ってみたら、レンもリッシュもお代わりするくらいによく食べてくれた。
これはパンに入れても美味しいのだと、俺が言ったのでまた後日カレーパンを俺は作ることになった。最初はそうやってアクアも含めてご機嫌でいた俺たちだった、ただ商業ギルドであまり長くこの街にはいないほうがいいと言われた。なんでもこの街に長く住んでいると、とある病気になるそうだった。それは倦怠感や食欲不振、それから手足のしびれやむくみを起こした、
それが重症化すると心臓が止まって死んでしまう者もいた、特に富裕層に多い病気で何が原因なのかは分かっていなかった。でも俺たちの話を聞いていたアクアは考え込んだ、アクアはとても難しい本も読むからこの病気を知っているのかもしれなかった。しばらく考えていた後にアクアは俺にこっそりと教えてくれた、この病気は脚気というものかもしれないと言っていた。
「脚気って要するにビタミンB1が欠乏してるの、玄米や豚肉それにうなぎや枝豆を食べるといいの。特に玄米は食べやすいから、脚気の治療には良い事なの。それでも重症な人なら数年、治療の為に食べ続けないといけないの」
「そうなのか、アクアは賢いな」
「脚気は白米ばかりを食べ過ぎると起こるから、おかずにいろんなものを食べると良いの」
「それなら、俺たちは大丈夫そうだな」
「ちょっと白米を食べ続けたくらいじゃ平気なの、そうじゃなかったらアクアはもう死んでるの」
「アクアは怖い事を言うな、でもそうか治療法があるのか。しかし、俺たちは医者じゃないからな」
俺はアクアを連れて街の何人かの医者のところへ行ってみた、医者は脚気という病気を知っていたが、治し方までは分かっていなかった。そして医者というのはどうも無駄に誇りが高くて、アクアが一生懸命に説明することを信じなかった。まぁとにかく俺たちは一応脚気の治療法を、きちんとこの街の医者に伝えた。だからもしまた脚気の患者が出ても、俺たちは知識を持つ者として必要な義務は果たした。
玄米は白米ほど好まれていなかった、アクアによるととても栄養があるそうだが、白米の方が美味しかったので皆がそれを食べていた。こんな状況ではアクアが何を言っても無駄だった、ここに住む彼らにとってはこれが普通の生活だからだ。いきなり美味しい白米ではなく、少し癖のある玄米を食べろと言っても聞くはずがなかった。
「治らない病気じゃないのに、治そうとしないなんて変なの」
「仕方がないさ、アクア」
「そう気にするなよ、チビ」
「アクア様は本当に賢くていらっしゃいますね」
「お米は美味しく食べて欲しいの、玄米だってちゃんと美味しいの」
「確かに少し癖があるが、玄米も美味いな」
「よく噛まねぇといけねぇが、確かにこれはこれで美味いな」
「ええ、このお米も美味しいです。これを食べれば治療になるなら、そう難しいことでないのに残念ですね」
でも俺たちの医者への訪問は全くの無駄ではなかったようだ、医者の中には藁にも縋る思いで患者に玄米を食べさせる者もいた。その者たちはやがて健康な体を取り戻した、そうやって治療できた例が増えると、当然だが他の医者もその真似をはじめた。俺たちがいる間には何も起きなかったが、数年後にはこの街で脚気という病気はほとんどなくなったそうだ。
「聖女さまが治療法を教えてくれたのだ」
そう最初にアクアの治療法を試した医者が言いだして、脚気が治ったのは聖女さまのお告げのおかげだということになった。そうして何年か後にはアクアの銅像が街の真ん中に作られたりするのだが、俺たちはそんなことはまったく予想できずに、ただ純粋にこの街にいる間は美味しいお米を楽しんだ。俺とレンは米から作られた酒も楽しんだ、リッシュも酒を飲んだが数杯で酔っぱらってしまった。
「僕は酔っていません、大丈夫です。絶対に酔っていません」
「リッシュ、壁さんに話しかけても、壁さんはお返事してくれないの」
「はははっ、リッシュは完璧に酔ってるな」
「数杯しか酒が飲めねぇなんてつれぇな、俺様は樽でも飲めそうだ」
すっかり酔っぱらったリッシュと違って、米の酒を気に入ったレンは自分の『魔法の箱』にいっぱい酒を買って入れていた。俺も珍しい酒だったから売れるかなと思って、売れないなら自分が飲めばいいと思って、レンと同じように大量の酒を買っておいた。そうして俺たちはまた旅にでることにした、宿屋の部屋で一晩ぐっすりと眠ったら翌日にはリッシュも回復した。
「さぁ、次はどんな街があるのかな」
エルフであるリッシュの弓の腕は確かだった、空中という不安定な場所にいてさえその狙いは正確だった。オリゾンが一瞬だけリッシュのことを振り返って見た瞬間に、その僅かな間にリッシュはオリゾンの心臓を射抜いてみせた。俺たちは落ちていくオリゾンを追って飛び続け、地面に倒れているオリゾンの傍に降り立った。オリゾンは即死していた、リッシュは彼を決して苦しませることなく逝かせた。
「…………シエル様、僕はどうすれば良かったのでしょうか?」
「オリゾンは幼い頃から間違ったことを教えられて育った、だから人間を襲わせないためには誰かの保護が必要だった」
「…………それでは、オリゾンが生きる道は人間の作る檻の中しかなかったのですね」
「いいや、リッシュはオリゾンに旅立てる機会を与えた。それにオリゾンはたった一カ月とはいえリッシュの優しさに触れることができた、真っ暗だったオリゾンの一生の中でそれはかけがえのない宝物だったはずだ」
「…………オリゾン、馬鹿で愛おしい僕の初めての養い子」
「ああ、オリゾン。もうゆっくりと眠るといいだろう、ここは景色も良い綺麗で美しい花々も咲いている、あの街で人間ばかりを見ていたこの子には良い景色だろう」
オリゾンの死に顔は穏やかにまるで微笑んでいるようだった、俺たちはアクアたちと合流する前にオリゾンの墓を作った、俺が魔法で掘った穴にオリゾンの遺体をリッシュが横たえた。そうしてリッシュは大いなる種族に伝わる子守歌を歌った、この歌は鎮魂歌でもあったので、それをオリゾンの為に歌っていた。リッシュはエルフだからか歌がとても上手かった、俺はそれをずっと聞いていたら悲しくなってきた。
「どうか、お休みなさい。大きな世界の力に帰るまで、緑の木々に守られて、多くの精霊が見守る、豊かな森に感謝して、そう優しい風が頬を撫で、光が僕たちを照らすなか、そう安らかにお休みなさい。僕の愛しい者よ、もう誰も貴方を傷つけることはない……」
リッシュの歌にはオリゾンへの心がこもっていた、リッシュがどれだけオリゾンのことを大切に想っていたか、リッシュのオリゾンへの惜しみない愛情を彼は歌で表していた。リッシュは泣いていなかったが、何故だろうか俺が代わりに涙が出てきた。見返りを求めることなく誰かを愛する、そんな純粋な愛情を与えられても救えない命もここにあったのだ、俺はそのことがとても悲しくて仕方がなかった。
「………………そうもう貴方を傷つける者は誰もいません。僕の愛しい養い子、オリゾン」
俺がふと気がついたらリッシュも泣いていた、彼は声を出さずに今作ったばかりの墓に置いた大きな岩、優しく生きていたオリゾンに触れるようにその岩を撫でながら彼は泣いていた。それはオリゾンを失った悲しみの涙だった、自分が無力であることへの悔し涙でもあった、リッシュは本当に静かに悔しそうに泣いていた。俺はリッシュが泣き止むまで待って、それからアクアとレンのところに帰った。
「天使さんは天国へ行ったの?」
「ええ、アクア様。彼はもう誰にも傷つけられることない、世界の大きな力に返りました」
「アクアの昔のお母さんもそこにいるんだよ」
「そうでしたか、アクア様の母君ならきっと優しい人間でしょう」
「うん、凄く優しくて料理も上手なの。オリゾンと仲良くしてくれるといいな」
「最初のうちはオリゾンは懐かないかもしれません、ですがきっと優しい人間に出会えたなら、彼もきっと有翼人本来の優しさを思い出せるでしょう」
オリゾンという有翼人の物語はこうして終わった、リッシュは少しだけ空を見て寂しそうにしていたが、俺たちとの旅を続けて前へと未来へと進んでいった。次の街はなんでも米作りが盛んな街らしい、商人である俺としてはたっぷりとアクアの為に米を仕入れておきたかった。やがて賑やかそうな街が見えてきた、俺たちはいつもどおりに街へと入った。
「うわぁ、シエル。お米がいっぱい、種類もいっぱい」
「はあぁ、本当だな。アクア、これは凄い」
いつものように神殿の孤児院に寄付をして、そしてまず市場に行ってみたら俺とアクアは驚いた。白い米でもいろんな種類があって、様々な形の米が売ってあった。この街の周辺は水が豊富で田んぼという、米を育てる場所が沢山あるんだそうだ。自然と米に関するものが多くて米の他には、米から作られる酒も良い物が沢山あった。
この街の住人は白い米を主食にしているのだと聞いた、冒険者ギルドの掲示板を見に行っていたレンやリッシュ、彼らと夕食で合流したが確かにどこの店でも白い米が出されていた。レンは以前に俺とアクアが食べさせたこともあったし、すぐに米が主食なのに慣れた。一方のリッシュは最初は少し戸惑っていた、でも彼も一度食べてみればずぐにその美味しさから米を食べれるようになった。
「えっとお餅だろ、それにチャーハン、だんご、ビーフン、米粉のパンまであるんだな」
「アクア、とっても幸せなの」
「はははっ、チビ。ほっぺたに米粒がついてんぞ」
「とても美味しいお米ですね、お米というものはこんなに美味しいのですね」
「米がこんなにあるんなら、今度カレーを作ろう!!」
「シエル、カレーが作れるの!?」
「かれー? って何だ? 美味いのか?」
「シエル様は料理も上手くていらっしゃる、かれーもきっと美味しいものなのでしょう」
俺はあかり姉さんからいろんな料理を習ったが、米が大量にあるのならカレーを作るしかなかった。どうしてかそれはカレー粉があるからだ、あかり姉さんから必要な香辛料を聞いていた、そんな俺はカレー粉を作れるようになっていた。そうして宿屋の厨房を借りてカレーを作ってみたら、レンもリッシュもお代わりするくらいによく食べてくれた。
これはパンに入れても美味しいのだと、俺が言ったのでまた後日カレーパンを俺は作ることになった。最初はそうやってアクアも含めてご機嫌でいた俺たちだった、ただ商業ギルドであまり長くこの街にはいないほうがいいと言われた。なんでもこの街に長く住んでいると、とある病気になるそうだった。それは倦怠感や食欲不振、それから手足のしびれやむくみを起こした、
それが重症化すると心臓が止まって死んでしまう者もいた、特に富裕層に多い病気で何が原因なのかは分かっていなかった。でも俺たちの話を聞いていたアクアは考え込んだ、アクアはとても難しい本も読むからこの病気を知っているのかもしれなかった。しばらく考えていた後にアクアは俺にこっそりと教えてくれた、この病気は脚気というものかもしれないと言っていた。
「脚気って要するにビタミンB1が欠乏してるの、玄米や豚肉それにうなぎや枝豆を食べるといいの。特に玄米は食べやすいから、脚気の治療には良い事なの。それでも重症な人なら数年、治療の為に食べ続けないといけないの」
「そうなのか、アクアは賢いな」
「脚気は白米ばかりを食べ過ぎると起こるから、おかずにいろんなものを食べると良いの」
「それなら、俺たちは大丈夫そうだな」
「ちょっと白米を食べ続けたくらいじゃ平気なの、そうじゃなかったらアクアはもう死んでるの」
「アクアは怖い事を言うな、でもそうか治療法があるのか。しかし、俺たちは医者じゃないからな」
俺はアクアを連れて街の何人かの医者のところへ行ってみた、医者は脚気という病気を知っていたが、治し方までは分かっていなかった。そして医者というのはどうも無駄に誇りが高くて、アクアが一生懸命に説明することを信じなかった。まぁとにかく俺たちは一応脚気の治療法を、きちんとこの街の医者に伝えた。だからもしまた脚気の患者が出ても、俺たちは知識を持つ者として必要な義務は果たした。
玄米は白米ほど好まれていなかった、アクアによるととても栄養があるそうだが、白米の方が美味しかったので皆がそれを食べていた。こんな状況ではアクアが何を言っても無駄だった、ここに住む彼らにとってはこれが普通の生活だからだ。いきなり美味しい白米ではなく、少し癖のある玄米を食べろと言っても聞くはずがなかった。
「治らない病気じゃないのに、治そうとしないなんて変なの」
「仕方がないさ、アクア」
「そう気にするなよ、チビ」
「アクア様は本当に賢くていらっしゃいますね」
「お米は美味しく食べて欲しいの、玄米だってちゃんと美味しいの」
「確かに少し癖があるが、玄米も美味いな」
「よく噛まねぇといけねぇが、確かにこれはこれで美味いな」
「ええ、このお米も美味しいです。これを食べれば治療になるなら、そう難しいことでないのに残念ですね」
でも俺たちの医者への訪問は全くの無駄ではなかったようだ、医者の中には藁にも縋る思いで患者に玄米を食べさせる者もいた。その者たちはやがて健康な体を取り戻した、そうやって治療できた例が増えると、当然だが他の医者もその真似をはじめた。俺たちがいる間には何も起きなかったが、数年後にはこの街で脚気という病気はほとんどなくなったそうだ。
「聖女さまが治療法を教えてくれたのだ」
そう最初にアクアの治療法を試した医者が言いだして、脚気が治ったのは聖女さまのお告げのおかげだということになった。そうして何年か後にはアクアの銅像が街の真ん中に作られたりするのだが、俺たちはそんなことはまったく予想できずに、ただ純粋にこの街にいる間は美味しいお米を楽しんだ。俺とレンは米から作られた酒も楽しんだ、リッシュも酒を飲んだが数杯で酔っぱらってしまった。
「僕は酔っていません、大丈夫です。絶対に酔っていません」
「リッシュ、壁さんに話しかけても、壁さんはお返事してくれないの」
「はははっ、リッシュは完璧に酔ってるな」
「数杯しか酒が飲めねぇなんてつれぇな、俺様は樽でも飲めそうだ」
すっかり酔っぱらったリッシュと違って、米の酒を気に入ったレンは自分の『魔法の箱』にいっぱい酒を買って入れていた。俺も珍しい酒だったから売れるかなと思って、売れないなら自分が飲めばいいと思って、レンと同じように大量の酒を買っておいた。そうして俺たちはまた旅にでることにした、宿屋の部屋で一晩ぐっすりと眠ったら翌日にはリッシュも回復した。
「さぁ、次はどんな街があるのかな」
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