ドラゴンから人間に縛りプレイで最強へ

アキナヌカ

文字の大きさ
上 下
71 / 90

3-11善悪の区別がもうできない

しおりを挟む
「僕はもう我慢できません、僕に出来る限りのことはしてみます」

 俺たちの中でも有翼人の扱いに腹を立てたのがリッシュだった、彼はエルフの隠れ里で暮らしていて奴隷狩りをする人間に狙われて育った。だからリッシュは有翼人たちへの扱いが許せなかったのだ、多くの有翼人をリッシュは買って自由にした、その有翼人たちは新しい安全な住処を求めて街を旅立っていった。そうしてリッシュは多くの有翼人を買っていった、でも彼の財力にも限りがあったから全ては助けられなかった。

「お前が僕に助けられる、最後の有翼人だよ」

 リッシュはある日、宿屋に酷い怪我をしている有翼人を連れてきた。アクアが回復魔法でその傷を癒してくれた、その銀の髪に赤い瞳の有翼人ははじめはリッシュにも怯えていた。ずっと人間の暴力にさらされて生きてきたまだ十歳くらいの子どもだった。俺たち全員にはじめはこの有翼人は懐かなかった。リッシュはその最後に助けた有翼人に名を与えた、その有翼人は男の子でオリゾンと名付けられた。

 オリゾンは本当に傷だらけだった、アクアの魔法で体の傷は癒えた。でも心の傷を癒すには時間が必要だった、リッシュはオリゾンに優しく話しかけながら丁寧に世話をした。有翼人が持つ足のかぎ爪に体を引っ掻かれても気にしなかった、リッシュは辛抱強くオリゾンの世話をした。オリゾンもリッシュが人間ではなくエルフだったからか、それとも手厚く世話をされたからが少しだけ懐くようになった。

「シエル様、やっとオリゾンが僕の渡した物を食べるようになりました」
「そうか、良かったなぁ。リッシュ」

「ええ、ただ風切羽を切られているようなので、オリゾンはまだ飛べません」
「人間は時に隣人に惨いことをする、悪い人間ばかりではないんだけどな」

「良い人間もアクア様のようにいます、ただこの街の人間はそうでないだけです」
「皆がアクアのようならな、世界はとっても平和なんだろうけどな」

 オリゾンは風切羽を切られて逃げられないようにされていた、そうして男の子なのに人間から性的暴行も受けていたようだった。リッシュが体を洗うために服を脱がそうとしたら激しく暴れたし、まだ飛べない羽で何度も外に逃げ出そうとした。でもやがてリッシュにオリゾンは完全に懐きそして甘えるようになった、そうして一カ月くらいかかったが切られていた風切羽もまた生えて、ようやくオリゾンを自由にできる日がやってきた。

「さぁ、オリゾン。お前はもう自由なんだよ、もう誰にも囚われずに生きなさい、仲間たちを追って新しい住処を見つけるんだ」
「天使さん、いっちゃうの」
「アクア、オリゾンは仲間たちのところへ行くんだ」
「もうこんな糞みてぇな街、ここに絶対に戻ってくんなよ!!」

 俺たちはリッシュがオリゾンの世話を必死にしているのを見ていた、だからオリゾンの旅立ちを快く思って見送った、俺たち三人にはあまり懐いてくれなかったがそれも仕方なかった。オリゾンは人間に酷い目に遭わされたのだ、エルフである美しく強いリッシュとは別の人間、一見するとただ人間に見える俺たちに懐かないのは当然かもしれなかった。オリゾンが無事に旅立ったので、俺たちもまた旅に出ることにした。

 だがオリゾンは翌日の朝リッシュのところへ現れた、そうして何かを落としてまた空へ飛び去っていった。オリゾンはリッシュに懐き過ぎて自然に帰れなかったのかもしれなかった、それならまた捕まえてしばらくはリッシュにも冷たく接して貰う必要があった。そうして改めてオリゾンを解放するのだ、だがまずオリゾンが何を落としていったのか気になった。そうして俺が見る前にアクアがそれを見て、そして真っ先に悲鳴を上げた。

「ひっ!? ひっ、人の手なの!!」
「アクア!! 大丈夫か!?」
「なっ、なんてもんを持ってきやがる!?」
「オリゾン、どうして……」

 オリゾンは酷い人間に幼い頃から育てられた、それで普通の有翼人になれなかった。酷いことをする人間の真似をするようになったのだ、そしてリッシュに世話になったお礼に人間の手を持ってきた。オリゾンとしてはリッシュに餌を分け与えているのだ、そんなオリゾンが食べているものはおそらくは人間だった、オリゾンは力強く飛べるようになった羽を使い人間を襲っていたのだ。

「僕がしてしまったことです、責任を持ってオリゾンを捕まえます」

 リッシュはオリゾンのことを何度も呼んだ、オリゾンはリッシュの近くにはくるが捕まえられる、そんな距離までは決して近づいてこなかった。それでいてオリゾンはリッシュに対して、鳥が甘えるような声を出していた。それはまるで自分が人間を殺したことを褒めて欲しい、そう言っているような声だった、人間があまり好きでないリッシュもオリゾンのしたことには心を痛めた。

「シエル、また何か落ちてきたの。アクアは怖いから見てないの」
「ああ、アクアは見なくていい」
「今度は足かよ、これも多分だが大人のものだな」
「僕は絶対にオリゾンをこの手で捕まえなくてはなりません」

 オリゾンは次の日の朝には今度は人間の足を落として去っていった、リッシュは一生懸命にオリゾンを呼んで捕まえようとしていた。でもオリゾンはもう決して誰にも捕まらない、そういうふうに行動していた。捕まって人間に酷い目に遭わされたから、だからそれでオリゾンは学んだのだ。人間というものを襲うなら空から急襲する、それが自分にとって一番良い方法だと学んだのだった。

「リッシュ、俺がちょっとやってみる。『飛翔フライ』!!」

 悲しそうな顔をするリッシュを見かねて、俺が『飛翔フライ』の魔法でオリゾンを追いかけてみた。そうして捕まえようとしたが空なら有翼人の方が速かった、おまけにオリゾンは賢くなっていて俺が空へと飛び立とうとすると、すぐにその場から全速力で逃げ出した。リッシュの為に捕まえてあげたかったが、俺の『飛翔フライ』の魔法の速さではオリゾンに僅かに追いつけなかった。

「リッシュ、もうオリゾンは自然には帰せない」
「ええ、シエル様。そうです」

「多分、オリゾンには善悪の区別がない、だから人を襲うことを止められない」
「分かっております、シエル様」

「オリゾンに酷いことをした人間が襲われるなら分かる、だけど今まで襲われているのは多分だが違う人間だろう」
「はい、僕もそう思います。…………シエル様、どうかお願いがあります」

 オリゾンは人間を襲って手や足を持ってきた、次に持ってくるのは生首だろうか、きっと確実に人間を殺めてくるに違いなかった。襲われる人間がオリゾンを虐げた人間ならただの復讐だ、だからオリゾンを止める必要も無かったが、俺たちはもうあの街から離れているのだ。オリゾンが手や足を奪ったのはきっと関係がない人間だった、有翼人を虐待した人間ではないはずだった。

 俺たちは明日が来る前にオリゾンをどうにかする必要があった、だからリッシュに頼まれて俺とリッシュの体を命綱でしっかりと結びつけた。リッシュはあの特別な弓を持っていた、俺はアクアをレンに頼んで預けておいた。オリゾンがまた面白そうにこちらに現れた瞬間だった、俺は『飛翔フライ』の魔法を使ってリッシュと一緒に空に舞い上がった、今度はオリゾンを捕まえる必要はなかった。

 案の定すぐに逃げ出したオリゾンを俺たちは追いかけた、オリゾンが速すぎて捕まえることはできなかった。でも今度の俺たちにはそうするつもりはなかった、俺はできる限りの速さで空を飛んでオリゾンを追いかけた、リッシュは俺に抱えられながら弓を引いた、そうしてオリゾンがリッシュのことを振り返って見た一瞬のことだった。

「貴方を助けられなくてすみません、オリゾン!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

処理中です...