ドラゴンから人間に縛りプレイで最強へ

アキナヌカ

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3-04いきなり私刑とはおかしい

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「……ここから一番、近くの村に行ってみよう」

 俺たちはスティーリアが避けるように言った村に向かった、依頼を受けた冒険者が辿り着いていないのなら、スティーリアが警戒していた村の人間が原因の可能性があった。その村に辿り着いた頃にはもう夜になっていた、俺たちは悪いことはしていないはずなので、堂々と正面からその村に入っていった。だがスティーリアが言っていたように、その村の住人はよそ者を嫌っていた、すぐにここから出ていけと俺たちは言われた。

「俺たちは出ていってもいい、でもこの森に住んでいた悪魔族の女性を知らないか?」
「貴様らはあの魔女の仲間か!?」

「いや俺たちは彼女の仲間じゃないが、冒険者ギルドでそんな依頼を見たんだ」
「なんだ、冒険者か。でも依頼は受けて貰わなくていいんだ、あの魔女はもう捕まえた」

「俺たちを彼女に会わせて欲しい」
「煩い!! もう冒険者はいらない、魔女は俺たちで殺す!! だからさっさと出ていってくれ!!」

 俺たちがスティーリアに会いたいという希望は叶えられなかった、だから俺たちは一旦この小さな村を出ていった。そうしてから目立たないように俺が一人だけで村に忍び込むことにした、『隠蔽ハイド』の魔法を上手くつかって俺は姿を隠して村に入りスティーリアを探した。そして村の中の小さな空き家で縄で縛られているスティーリアをとうとう見つけた、彼女は酷い暴力を受けたようで体中に打撲のあざがあった。

「スティーリア、大丈夫か? 俺だ、君を助けに来たんだ」
「……シエル、危ないからこんなところに来ちゃ駄目よ、早く仲間たちのところへお帰りなさい」

「そんなこと言うなら、早く一緒にここから出ていこう」
「ううん、駄目なの。これでいいの、そうもうこれでいいのよ。とうとう私を殺すと皆が決めたの」

「スティーリア?」
「きっと、これでいいのよ。この村の皆が決めたなら、私はもうそれでいいの」

 スティーリアは何かを決めたような顔をしていた、そして俺からの助けをきっぱりと断った。俺はどうしてなのかとスティーリアに聞いた、彼女はしばらくの間ずっと黙っていた、でも俺が答えを聞かないと出て行かないと思ったようだ。スティーリアは少しだけ俺にお話をしてくれた、それは彼女自身の懺悔のようなものだった、もう過ぎ去ってしまった過去の出来事の話だった。

「私は薬師として森で静かに暮らしていたの、そこに森の一部が開拓されてこの村ができたのよ、この村の人間とも最初は仲が良かったわ」
「そうなのか」

「それで私と仲が良い人間もいっぱいいた、そんなある日こんなことを頼まれたの、熱を出した子どもを預かって治してくれと言われたわ」
「ああ、なるほど」

「私は何日もずっとその子の面倒をみたわ、体を綺麗にして氷で体を冷やして熱を冷まして食事を食べさせて薬を飲ませる、そうやって私はずっと起きていたはずだった」
「はずだった?」

 スティーリアはそこで悲しそうに微笑んだ、とても何かを後悔している様子だった。スティーリアは村から子どもを預かって、一生懸命にその看病をしたのだった。そう話すスティーリアはもう泣き始めていた、静かにポロポロと綺麗な涙を零しながら泣いていた。それから血を吐くような声で、何かを絞りだすような声でこう言った。

「私は少しの間だけ眠ってしまったの、そうして預かっていた子どもを死なせてしまった」
「それは……」

「私が全部いけなかった全て悪かったのよ、私はほんの少し眠っただけだった。でもあの子はその間に喉に痰を詰まらせて、たった一人で誰にも看取られずに窒息して死んでしまった」
「でも、それは……」

「自分の子どもを悪魔族の女に預けた家族に責任がある? いいえ、一つの命を預かるという重い責任を引き受けたのは私だったの。それができないのなら最初から何もしない方が良かった、誰かを助ける薬師なんてならなければ良かったの」
「スティーリア……」

 俺はスティーリアに何と言っていいのか分からなかった、確かに彼女は過去に過ちを犯してしまったのだろう、でもこんな勝手に決められた私刑が許されるものだろうかと俺は思った。スティーリアに必要なのは公正な裁判、罪を犯した者に対して客観的に行われる裁きが必要だった。でもこの村の人間たちはそうはしなかった、自分たちだけの怒りの感情でスティーリアを見て、とうとう勝手に彼女を殺してしまおうとしていた。

「さぁ、シエル。早く逃げなさい、もう時間が無いわ」
「スティーリア、君に罪があるからってこんな私刑はあんまりだ」

 そんな話をしていた俺たちに近づいてくる者たちがいた、空き家から外を覗いてみるとその人間たちは恐ろしい物を持っていた。罪人を磔にする太い柱を皆で持ってきていた、それに恐らく罪人を火刑にするのだろう、多くの薪を持っている者も沢山いた。スティーリアは俺にここから逃げるように言った、このままだと俺たちの恩人は村人たちの私刑で殺されてしまう、ドラゴンは恩人を大切にするから俺はそんなことは許せなかった。

「俺は今から誘拐犯になるんだ」
「え? シエル?」

「そう俺はスティーリアを誘拐する、これは俺が決めた恩人への礼だ」
「駄目よ、そんなことをしちゃ。私は確かに罪を犯したの、だからもう死ぬべきなのよ」

「いいや、スティーリア。君はドラゴンの恩人だ、だからまだ死ねないのさ。さぁゆっくり眠るんだ、『眠りスリープ』」
「……シ……エル……?」

 俺はそれ以上スティーリアが騒がないように、彼女に『眠りスリープ』の魔法を使って深く眠らせてしまった、そうして彼女を喋れなくしてからここから攫っていくことにした。確かに彼女はこの村の人間にとっては罪人だった、でも俺たちにとっては良き隣人で恩人でもあった、だからといって彼女の罪が無くなるわけじゃなかった。そう罪人であることは間違いなかったが、俺にとっては彼女は恩人だっただけだ。村の連中と俺も大した違いはなかった、どちらもお互いに勝手な理屈で動いていた。

 だけどスティーリアだけがここで生きたまま火刑になるほどの罪だとは、そうよそ者のドラゴンである俺にはどうしても思えなかったのだ。俺はフードを被り鼻まで黒い布で覆って顔を隠した、そしてスティーリアを肩に乗せてこの村から脱出することにした。『隠蔽ハイド』の魔法を使い俺たち二人の姿を村人から隠した、そのまま空き家から飛び出して俺は村の外へと走っていった。村はやがて罪人が逃げ出したと大騒ぎになった、そんな騒ぎを聞きながら俺は仲間たちと合流した。

「皆、早くここを離れるんだ!!」
「スティーリア、眠っているの? 酷い傷なの、『大治癒グレイトヒール』」
「なんだか分からねぇが、村のほうが嫌な雰囲気だぜ」
「シエル様の言う通り、ここを早く離れましょう!!」

 それから俺たちはスティーリアを連れてその村から逃げ出した、俺がしたことが正しいことなのかはよく分からなかった。スティーリアは深く眠り続けていた、俺は彼女には更生の機会を与えたかった。スティーリアは子どもを殺す気はなかった、ただ彼女は自分ができること以上の仕事を引き受けてしまった。そう自分の力量を誤ってしまったのだ、彼女はもっと周囲に手伝って貰うべきだった。

 そうして逃げ出した俺たちは近くの街には立ち寄らなかった、あの村から冒険者ギルドへ依頼がまた出ているかもしれなかったからだ。眠りから覚めたスティーリアは虚ろな瞳をしていた、アクアに熱心に裁縫や刺繍を教えてくれた時とは別人のようだった。そうして彼女はしばらくの間はほとんど泣いていた、アクアがそんな彼女を心配してずっと傍にいて話しかけていた。

「私、これから一体どうしたら良いのかしら?」
「スティーリアはとっても優しいの、だからスティーリアはアクアを助けたように、今度は別の誰かを助けていくの」

「アクアちゃん、私がもし頼んでも優しい貴女は、きっと罪深い愚かな私を死なせてはくれないのね」
「スティーリアが死んだらアクア悲しいの、悪いことをしたなら謝ってもうしませんって言うの、そうして何度だって謝って許してもらうの」

「私は何度も、何十回も、そう何百回も子どもの家族に謝ったわ。でも私は許してはもらえなかった、あの村の皆は私を殺そうとしたわ」
「沢山謝っても許して貰えない時もあるの、それなら後はもう同じことをしないだけなの、スティーリアは同じ間違いをしないようにするの」

 俺たちは近くにあった悪魔族の国までスティーリアを送っていった、スティーリアは俺たちと旅をしている間に夜は深く眠っていた、時には昼過ぎまで眠ったままだったこともあった。眠ることで辛い現実から逃げているのだと俺は思った、アクアは回復の上級魔法でも癒せないスティーリアの心の傷を、そう目には見えない心の傷を一生懸命に癒そうとしてスティーリアと話し続けた。

「アクアはスティーリアに生きてて欲しいの」
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