ドラゴンから人間に縛りプレイで最強へ

アキナヌカ

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1-20からかわれたって仕事次第

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「これでドラゴンを殺しにくる人間が減るといいけどなぁ」
「あらっ、シエルはドラゴンスレイヤーになりたくないの?」
「ドラゴンに魔法で勝つ、あまり勝ち目がありませんわ」
「私も同じだよ、ただのシーフには荷が重い」
「神がそう導くのなら、私はそれに従うだけです」

 俺が宿屋で朝食を食べていたら、あっという間にジュジュたちに囲まれた。同じ宿屋を使っているので珍しいことではなかった、というかほとんど当たり前のような光景だった。俺はジュジュたちのパーティと一緒に過ごすことが多かった、どうやら彼女たちはドラゴンスレイヤーになるのは諦めているようだった。

「そう言えばさ、ドラゴンを領主に献上したパーティって知ってる?」
「……ええ、知ってるわよ。有名なパーティだもの」
「強い魔法使いがいるので、それで有名だわ」
「腕の良いシーフもね、私もまだまだ」
「神官も強い方です、神に愛されている方と言えるでしょう」

 フィーレの街にいるというので俺はそのパーティを見に行った、何でもハルトという金髪に蒼い目の何でも切り裂く凛々しい中性的な女性の戦士と、マスケラという黒髪で茶色の瞳で女性の凄腕の魔法使い、ファーンという茶色い髪と瞳の探索に慣れている女性のシーフ、それから神官であるチアという紫の髪と黒い瞳の女性のパーティだった。

 彼女たちはドラゴンを倒したと言っているらしいが、なにせそれを確認できる素材が領主の館と一緒に燃えた。だから公式にはドラゴンを倒したと認められていない、いまだこのメナート王国の英雄にはなれないでいるということだった。でも一応は彼女たちのパーティはドラゴンに勝利している、そう周囲に思われているので彼女たちの話を聞きたがる者も多かった。

「ドラゴンと戦うなら正々堂々と、そうすれば遺体が消えた後に、必ず相応しいドラゴンの素材が残る」

 そうハルトという戦士は人々に語っていたがそれは嘘だ、負けを認めたドラゴンが爪や牙を渡してくれることはある、でも固い皮膚を剥がそうとすることはない、精々が良い素材になる鱗をくれるくらいだ。俺はこれは絶対に正当な戦い方でドラゴンを倒したんじゃないなと思った、だからこのパーティには近づかないでおこうと注意することにした。

「この付近に六頭ものドラゴンがいることが分かったのです、私たちのパーティがいずれ一頭ずつ討ち取ってみせます」

 俺はそのハルトという女の言葉に、少しばかり母さんを思い出して心配になった。あの強い母さんがまさか負けるとは思わないが、手段というものを選ばない人間というのは厄介だった。だから俺としてはこのパーティに近づくつもりは全くなかった、それなのに俺はある日商業ギルドに呼び出された。そうして頼まれたのは付近の魔の森の案内だった、要するにあのパーティのドラゴン退治の下見だった。

「はぁ、何で俺が!?」

 最初は俺も商業ギルドに抗議したのだが、結局はいろんな事情で引き受けることになった。金と権力で押しつけられたともいう、俺はもちろんのこと母さんがいる方向とは別の場所ばかり案内した。だがそんな俺の意志とは別にとても不本意なことに、俺は物凄くこのパーティに女たちに懐かれた。肩を抱かれるのは当たり前で頭をよしよしされたり、酷い時には俺が嫌がっているのに抱きしめられた。

「あーん、シエルって可愛い。十三歳くらいなのに凄い狩人だし、どこもかしこもすべすべで素敵」
「私、魅了魔法を開発しようかしら」
「魔法なんかなくても、シーフは寝技で勝負できるよ」
「神は産めよ増やせよと言っています、ごつごつした男より少年のほうが絶対に良い」

 このパーティはおそらく卑怯な手段を使ってドラゴンを殺した、だから俺としては嫌いだったのにそれが大嫌いに変わるのもすぐだった。野営の時とか代わるがわる夜這いにやってきたのだ、俺は天幕を飛び出して樹に登ってそこで寝るようにした。人間は一年中が発情期だとは聞いていたが、少しは相手を選んだらどうだろうか、俺はまだ成人したばかりのほとんど子どもなのだ。

 それでも俺は聞かれたことには正直に答えた、母さんにいる方角の魔の森にドラゴンがいそうか、そう聞かれた時もいるかもしれないですねと言った。基本的にドラゴンは嘘が嫌いなのだ、だから俺は正直にできるだけ誠実に仕事はこなした。ただ当然ながら積極的にこっちがドラゴンの住処ですなどとは言わなかった、ただ淡々とこの近辺の魔の森を案内していくだけの簡単なお仕事ではあった。

「『強電撃ライトニングストライク』!!」

 魔の森を案内中にデビルベアが出たりした時も、俺はこのパーティにそのデビルベアの始末を任せた。戦士であるハルトはあっさりとデビルベアをロングソードで切り裂いた、魔法使いのマスケラは雷の魔法で殺してみせた。シーフのファーンでさえデビルベアの隙をついて接近して、上手く近づいて目玉から脳まで貫通する刺突武器で殺してみせた。さすがに神官のチアは戦わなかったが、常に皆を回復できる位置にいて、このパーティはやり方はともかく連携は凄く良かった。

「それっ、マスケラ。シエルに抱き着け」
「は~いっと、え~い確保」
「うわーい、ほっぺをぷにぷにさせてよ」
「いつでも準備はいいので、寝床に運びましょう」

 別の意味でもパーティの連携が良かった、俺は女じゃないが何度か襲われた。もう怖い、女ってマジで怖い。ハルトのほとんど膨らみのない胸でもごめんだった、マスケラの巨乳を押しつけられた時には窒息するかと思った。ファーンは素早くて俺の頭や大事なところを撫でさすっては逃げた、チアはいつでもいらっしゃいと両手を広げて俺のことを待っていた。

「夜の仕事なんか俺はやってない!!」

 そうして何度も何度も俺はハルトたちに襲われかけた、依頼は一カ月だったのでそれが過ぎると俺は当然だが逃げた、宿屋の布団の中に逃げ込んでその中に閉じこもって女性不信になりかけた。でも宿屋に戻ってきたらいつものように、ジュジュたちのパーティが常識的に接してくれたので、あのパーティだけが改めて異常なのだと認識できた。

 基本的にドラゴンのオスはメスに逆らえない、求婚をすることができるが選ぶ権利は、相手のメスドラゴンにあるのだ。俺はドラゴンだったので人間に求愛されても困るだけだった、人間の女ってやつはどこもかしこも柔らかくて困った。ただ逃げるにしても全力を出せば今の俺なら骨折くらいさせてしまう、だからなかなかあのパーティの女どもを引きはがせなかったのだ。

「どうしたのシエル、まさか。ドラゴンスレイヤーに好きな子でもできたの?」
「――――――!?」

 ジュジュの問いに俺はそれはもう首がちぎれる、それほどの勢いで首を横に振った、そしてできるだけ嫌そうな顔をした。あの発情期の女のパーティは今やドラゴンスレイヤーと呼ばれていた、いわゆる二つ名というやつであるが本当に強者であるドラゴンを、正々堂々と倒したのかはかなり怪しいパーティだった。もう絶対にお近づきにはなりたくない、二度と会わなくてもいいパーティだった。

「もっと俺は鍛練して強くなって、……いつかドラゴンに戻れると良いなぁ」

 ドラゴンスレイヤーなんて物騒なものがいても、俺はやっぱり最強のドラゴンになりたいのだった。いくら人間のふりをしていても、その本性はやっぱり変わらないものらしかった。人間として生きていくのが良いと思いながら、ドラゴンにも戻ってみたいという、とても矛盾した思いを俺は抱えて生きていくことになった。でも何も後悔はしていない、俺はまた縛りプレイで少しずつ強くなっていた。

「縛りプレイって楽しいけど、誰にも話せないのは寂しいな」
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