15 / 90
1-15とても残して帰れない
しおりを挟む 隣に立つ課長に視線を向ける。
課長は私の視線を受けて、「佐々木くんに僕の姿は見えてないよ」と言った。そして証拠を見せるように自分のデスクの引き出しを開ける江里菜の傍に行き、 課長は江里菜の肩を叩き、「佐々木くん、久しぶり」と声を掛けた。
江里菜は全く無反応に引き出しの中を漁っていた。
「あった! やっぱりここだったんだ」
江里菜が独り言のように言った。
「じゃあ、帰ります。お疲れ様でした」
江里菜がドアに向かって歩き出した。
「あの、佐々木さん」
「何ですか?」
江里菜が振り向いた。
「見えない?」
視線を課長の方に向けた。
課長は笑顔を浮かべて江里菜の前に立ち、バンザイをしたり、ジャンプしながら、「やあ、佐々木くん、僕の事見える?」と聞いた。
「何を?」
江里菜がきょとんとした表情を浮かべた。
「佐々木さん、本当に見えないの?」
「だから何をです?」
江里菜が眉を寄せる。
「えーと、その課長……」
「課長?」
「いえ、あの、くも。佐々木さんの肩に小さな蜘蛛が」
「えーっ、ヤダー!」
江里菜が凄い勢いで肩を払った。
「ねえ、取れました? 取れました?」
「は、はい。取れました」
「びっくりした。じゃあお先に」
江里菜がオフィスを出て行った。
課長がこっちを向いた。
「ね、島本くんにしか僕は見えないんだよ」
「なんでですか?」
「それは僕にもわからない。残念ながら娘も、両親も兄弟も僕に気づかなかったんだ。 もしかして島本くん、霊感が強いんじゃない? 時々、僕みたいな死んじゃった人見える事があったりしない?」
「しませんよ。死んじゃった人が見えたのは課長が初めてです」
「うーん、そうか」
課長がポリポリと頭をかく。
「後はあれかな」
課長が小声で言った。
「あれ?」
「いや、何でもない」
「何です? 気になります」
「いや、いいんだ」
「教えて下さい」
「だから、何でもないって。そんな事より早く仕事を終わらせなさい。今はあまり残業ができないだろ」
急に課長が上司の表情をした。
渋々パソコンに向かった。
課長は自分の席だった所に座り、腕を組んで何かを考えていた。
課長は私の視線を受けて、「佐々木くんに僕の姿は見えてないよ」と言った。そして証拠を見せるように自分のデスクの引き出しを開ける江里菜の傍に行き、 課長は江里菜の肩を叩き、「佐々木くん、久しぶり」と声を掛けた。
江里菜は全く無反応に引き出しの中を漁っていた。
「あった! やっぱりここだったんだ」
江里菜が独り言のように言った。
「じゃあ、帰ります。お疲れ様でした」
江里菜がドアに向かって歩き出した。
「あの、佐々木さん」
「何ですか?」
江里菜が振り向いた。
「見えない?」
視線を課長の方に向けた。
課長は笑顔を浮かべて江里菜の前に立ち、バンザイをしたり、ジャンプしながら、「やあ、佐々木くん、僕の事見える?」と聞いた。
「何を?」
江里菜がきょとんとした表情を浮かべた。
「佐々木さん、本当に見えないの?」
「だから何をです?」
江里菜が眉を寄せる。
「えーと、その課長……」
「課長?」
「いえ、あの、くも。佐々木さんの肩に小さな蜘蛛が」
「えーっ、ヤダー!」
江里菜が凄い勢いで肩を払った。
「ねえ、取れました? 取れました?」
「は、はい。取れました」
「びっくりした。じゃあお先に」
江里菜がオフィスを出て行った。
課長がこっちを向いた。
「ね、島本くんにしか僕は見えないんだよ」
「なんでですか?」
「それは僕にもわからない。残念ながら娘も、両親も兄弟も僕に気づかなかったんだ。 もしかして島本くん、霊感が強いんじゃない? 時々、僕みたいな死んじゃった人見える事があったりしない?」
「しませんよ。死んじゃった人が見えたのは課長が初めてです」
「うーん、そうか」
課長がポリポリと頭をかく。
「後はあれかな」
課長が小声で言った。
「あれ?」
「いや、何でもない」
「何です? 気になります」
「いや、いいんだ」
「教えて下さい」
「だから、何でもないって。そんな事より早く仕事を終わらせなさい。今はあまり残業ができないだろ」
急に課長が上司の表情をした。
渋々パソコンに向かった。
課長は自分の席だった所に座り、腕を組んで何かを考えていた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜
ばふぉりん
ファンタジー
こんなスキルあったらなぁ〜?
あれ?このスキルって・・・えい〜できた
スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。
いいの?

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる