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第五章 ラングウールの貴公子
六話 何をやろうとしているの?
しおりを挟む「まず、お預かりした手紙の裏どりですが……」
エルンストさんが生まれ育ったという小さな城の地下は、ひんやりとしていた。けれども、そんなことはまるで気にならないほどの緊張感が漂っていた。あれからちょうど七日、マルクさんは迅速に調べられる限りのことを調べてくれていた。その報告を聞いて、これからのことを具体的に決めるというのが、まさに今日。
覚悟はしていたつもりだけど、その報告はあまりにも重かった。
「やはり、事実ということで間違いないようです。王国内では血清がなく、使われたところで他殺とは分からない類の毒の手配が、その……リナ様のご実家から、遠い東の国へ手配されている証拠を掴みました」
「気を強く持って、リナ」
そう言って、彼は私を支えてくれる。ただし、マルクさんの報告は、そこで終わらなかった。そこにはマルクさんやエルンストさんも驚く、あまりにも壮大な計画があった。一番驚かなかったのは、アンナを知っている私だったかもしれない。
「疑問だったのは、現当主を暗殺することに何の意味があるのか、という点です」
「そう。まさに、そこだ。ヨゼフの家の力が欲しいだけなら、アンナがヨゼフと結婚して、時間をかけて家の中での権力を強めていけばいい。それがどうして、暗殺なんて」
「まず申し上げなければならないのは……確かに、アンナ様は毒薬の手配をしておりました。ただし、予想と違った点が二つあります。リナ様のご実家が関わっているのは、おそらく毒薬の売人をアンナ様に紹介しただけで、手配そのものはアンナ様が行なっている可能性が高いことです。そしてにより……手配している毒の量が、異常なまでに多いのです」
「異常なまでに多いだって?」
「さようです。間違っても、一人や二人に使う量ではありません。てきとうに使ったとしても、おそらくは数百人から……ともすれば、1,000人以上」
アンナは一体、何をやろうとしているの?
私だけでなく、エルンストさんも何も言えない。普段は穏やかで、どこか自信家であることを感じさせるエルンストさんの表情が、蒼白になっている。やがて、その表情のまま、かすれた声でエルンストさんは言う。
「どういうことだ……? いくらなんでも、話が違う。マルク、目的は分かっているのかい?」
「多方面から情報を収集したところ、一つだけ、それだけの量の毒薬を使うことで行えることがございます。けれども、その話をするには、まずリナ様に話を聞かなければなりません。リナ様は、かの国で、リーベグング公爵という人物をご存知ですか?」
「リーベグング公爵だって……? なんで、よりによって、その名前が出てくるんだ?」
エルンストさんの驚きの理由が私には分からなかった。それを察したのか、エルンストさんは教えてくれた。
「グスタフ・リーベグング……黒い噂が絶えない公爵だ。うちの国にとっても、すごく厄介な人物だよ。違法薬物の密売……さらには、人身売買にまで関わっていると噂されている。それだって、向こうの国での話だ。うちにとっては、噂のレベルでは済まない。海上交易の権利を巡って、軍事的な恫喝をかけてきたこともある。大物すぎて、こっちも迂闊に手が出せない相手なんだよ」
「リーベグング公爵……あ!」
その名前を、私は知っていた。
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