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第四章 転機

第四話 パーティ

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 ヨゼフの家は……というより、お義父様を怒らせるのは、さすがに問題。

 私は……迷惑をかけるべきじゃないと思って、自分で話しに行くと言って、ここへ来た。

(きっと、気を使ってくれたんだ。それで……お義父様が、あらかじめ断りの手紙を書いてくれていた……)

 堅苦しい人のように見えて、屋敷で働く人達に対しても、ちょっとした心配りをかかすことがないのが、お義父様。

(やっぱり、お義父様のことを、お義父様と呼び続けたかった……)

「それより、だ」

 この話はここまで、という意味。

「なに、せっかく帰ってきたんだ。お前があらかじめ手紙でここに帰ってくると送ってきた時点で、あの人と、話し合ったんだよ。それで、お前の婚約記念のパーティを開いてやることに決まったんだ」

「……え?」

 私の、婚約記念パーティ……?

「もちろん……向こうの屋敷でやるといっているお前の誕生日会なるものほどじゃあないが……まあ、それでも婚約記念のパーティだ。私たちは遠くまで出向いて行って、そんな面倒なものにわざわざ出るつもりはないから、こっちで開いてやることにしたんだよ。今度の週末、それまではこの家にいるんだね」

「あ……いえ」

(なに? その話……間違っても、そんなお金にならないことを、やる人たちじゃないはず)

 意味が、分からない。

 お義父様が誕生日会を開いてくれると言っているのとは、意味が全然違う。

 それだけは分かる。

 けれど、私の心なんて読めていると言わんばかりに、おばさまは言う。

「何を意外そうな顔をしているんだい? それとも、本当に、さっきの用件を伝えに帰って来ただけかい? そんなのは、あまりにも寂しいじゃないかい」

「いえ、そんなことは……」

 寂しい、なんて言葉が出てくること自体に、もっと混乱させられる。

「本音を言えばね、私だって嬉しいんだよ、リナ。あれほどの貴族家に、自分の娘が嫁ぐことになって。フン、思っていたより、大した娘じゃないかい」

 漠然と思った。

 そして……驚いた。

(私……今までとは、違う。私が、思い違いをしていた……?)

 あの夜……ヨゼフと妹のあの光景を見る前の私だったら……。

 きっと今の言葉……私は嬉しくて、仕方がなかった。

(だって……おばさまなりの褒め方だって、分かるから)

 もしかしたら、感激して、泣き出していたかもしれない。

 婚約が、嘘か本当かじゃなくて……。

 それまで本当のところ、人を疑うなんて、知らなかったから。

 もっともらしく褒められたら、感情がこみ上げてくるままに嬉しくなっちゃって、もっと向き合わなきゃいけないはずの他のことは、どうでもよくなっちゃって……。

 それが、昔の私。

 ずっと……褒めて欲しかったから。

 今は……少しだけ、違う。

 強くなったと思う一方で……自分が変わってしまったことが、少しだけ悲しかった。

 ここ最近で経験している悲しみに比べれば、どうでもいいこと。

 ヨゼフさえ奪われていなかったら、別に私は、今の自分だって嫌いじゃない。

 どんな自分だって好きでいられるから。

(ほんと……何を考えても、何をやっていても……頭の中で、ヨゼフと……ヨゼフにまとわりつく妹を、思い浮かべちゃう……)

 それでなくとも……。

「おばさま、あの……私……」

 私は、なんて言っていいか分からない……。

 おぼさまの言葉は、まだ終わりじゃなかった。

「いや……お前には悪いことをしたとは思っているんだよ、リナ。てっきり、そういう辺りの話を上手くやるのは、アンナの方だと思っていたんだけどねえ」

 ある意味、なにも間違っていない……。

 妹は、私から……ヨゼフを……。

「フン、私も見る目がないねえ。もう少し、お前に目をかけておけば、良かったって話だよ。お前だって……いーや、お前にこそ、よく分かるだろ? そうすれば今だって、お前も、もう少しくらい義理の娘として私に接してくれただろうに。フン、まあそれでも育ててやった恩は、恩だ。どうやってお前が大貴族様のぼっちゃんを落としたのか……そのなれそめくらいは聞かせてもらおうかねえ。それも含めての、パーティーでもあるわけさ」

「え、いえ。決してそんな落としたとか、そういう話では……」

 どこまでいっても、おばさまなりの褒め言葉。

 だからこそ、なんて答えていいか分からない。

「そういう話だ。私のことを信じるか信じないかはお前が好きに選べば良い。けど、とりあえずパーティーには出るんだね。どうせ、今のこの屋敷にそんな盛大なものをやる余裕はないから、貧乏性のお前でも、悩むことはないだろう?」

 そして……私は言った。

「おぼさま……ありがとうございます! 私、嬉しいです!」

 理由は……上手く言えない。

 信じているようで、信じていない。

 嬉しいようで、悲しくもある。

 私はなんとなく、昔の自分だったらこう答えていただろうことを答えた。

 純粋に、誰かを信じたがっていて、それがどうしようもなく軽はずみな私。

「私、この家に帰ってきて良かったな……」

 きっと、これであっている。

 おばさまも、気をよくしたように言う。

「そうかい、そうかい。それなら、良かったよ」

 真実を知った後に、あの屋敷でアンナやヨゼフと向き合ったときと、まるで同じように……。

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