26 / 40
第四章 転機
第四話 パーティ
しおりを挟む
ヨゼフの家は……というより、お義父様を怒らせるのは、さすがに問題。
私は……迷惑をかけるべきじゃないと思って、自分で話しに行くと言って、ここへ来た。
(きっと、気を使ってくれたんだ。それで……お義父様が、あらかじめ断りの手紙を書いてくれていた……)
堅苦しい人のように見えて、屋敷で働く人達に対しても、ちょっとした心配りをかかすことがないのが、お義父様。
(やっぱり、お義父様のことを、お義父様と呼び続けたかった……)
「それより、だ」
この話はここまで、という意味。
「なに、せっかく帰ってきたんだ。お前があらかじめ手紙でここに帰ってくると送ってきた時点で、あの人と、話し合ったんだよ。それで、お前の婚約記念のパーティを開いてやることに決まったんだ」
「……え?」
私の、婚約記念パーティ……?
「もちろん……向こうの屋敷でやるといっているお前の誕生日会なるものほどじゃあないが……まあ、それでも婚約記念のパーティだ。私たちは遠くまで出向いて行って、そんな面倒なものにわざわざ出るつもりはないから、こっちで開いてやることにしたんだよ。今度の週末、それまではこの家にいるんだね」
「あ……いえ」
(なに? その話……間違っても、そんなお金にならないことを、やる人たちじゃないはず)
意味が、分からない。
お義父様が誕生日会を開いてくれると言っているのとは、意味が全然違う。
それだけは分かる。
けれど、私の心なんて読めていると言わんばかりに、おばさまは言う。
「何を意外そうな顔をしているんだい? それとも、本当に、さっきの用件を伝えに帰って来ただけかい? そんなのは、あまりにも寂しいじゃないかい」
「いえ、そんなことは……」
寂しい、なんて言葉が出てくること自体に、もっと混乱させられる。
「本音を言えばね、私だって嬉しいんだよ、リナ。あれほどの貴族家に、自分の娘が嫁ぐことになって。フン、思っていたより、大した娘じゃないかい」
漠然と思った。
そして……驚いた。
(私……今までとは、違う。私が、思い違いをしていた……?)
あの夜……ヨゼフと妹のあの光景を見る前の私だったら……。
きっと今の言葉……私は嬉しくて、仕方がなかった。
(だって……おばさまなりの褒め方だって、分かるから)
もしかしたら、感激して、泣き出していたかもしれない。
婚約が、嘘か本当かじゃなくて……。
それまで本当のところ、人を疑うなんて、知らなかったから。
もっともらしく褒められたら、感情がこみ上げてくるままに嬉しくなっちゃって、もっと向き合わなきゃいけないはずの他のことは、どうでもよくなっちゃって……。
それが、昔の私。
ずっと……褒めて欲しかったから。
今は……少しだけ、違う。
強くなったと思う一方で……自分が変わってしまったことが、少しだけ悲しかった。
ここ最近で経験している悲しみに比べれば、どうでもいいこと。
ヨゼフさえ奪われていなかったら、別に私は、今の自分だって嫌いじゃない。
どんな自分だって好きでいられるから。
(ほんと……何を考えても、何をやっていても……頭の中で、ヨゼフと……ヨゼフにまとわりつく妹を、思い浮かべちゃう……)
それでなくとも……。
「おばさま、あの……私……」
私は、なんて言っていいか分からない……。
おぼさまの言葉は、まだ終わりじゃなかった。
「いや……お前には悪いことをしたとは思っているんだよ、リナ。てっきり、そういう辺りの話を上手くやるのは、アンナの方だと思っていたんだけどねえ」
ある意味、なにも間違っていない……。
妹は、私から……ヨゼフを……。
「フン、私も見る目がないねえ。もう少し、お前に目をかけておけば、良かったって話だよ。お前だって……いーや、お前にこそ、よく分かるだろ? そうすれば今だって、お前も、もう少しくらい義理の娘として私に接してくれただろうに。フン、まあそれでも育ててやった恩は、恩だ。どうやってお前が大貴族様のぼっちゃんを落としたのか……そのなれそめくらいは聞かせてもらおうかねえ。それも含めての、パーティーでもあるわけさ」
「え、いえ。決してそんな落としたとか、そういう話では……」
どこまでいっても、おばさまなりの褒め言葉。
だからこそ、なんて答えていいか分からない。
「そういう話だ。私のことを信じるか信じないかはお前が好きに選べば良い。けど、とりあえずパーティーには出るんだね。どうせ、今のこの屋敷にそんな盛大なものをやる余裕はないから、貧乏性のお前でも、悩むことはないだろう?」
そして……私は言った。
「おぼさま……ありがとうございます! 私、嬉しいです!」
理由は……上手く言えない。
信じているようで、信じていない。
嬉しいようで、悲しくもある。
私はなんとなく、昔の自分だったらこう答えていただろうことを答えた。
純粋に、誰かを信じたがっていて、それがどうしようもなく軽はずみな私。
「私、この家に帰ってきて良かったな……」
きっと、これであっている。
おばさまも、気をよくしたように言う。
「そうかい、そうかい。それなら、良かったよ」
真実を知った後に、あの屋敷でアンナやヨゼフと向き合ったときと、まるで同じように……。
私は……迷惑をかけるべきじゃないと思って、自分で話しに行くと言って、ここへ来た。
(きっと、気を使ってくれたんだ。それで……お義父様が、あらかじめ断りの手紙を書いてくれていた……)
堅苦しい人のように見えて、屋敷で働く人達に対しても、ちょっとした心配りをかかすことがないのが、お義父様。
(やっぱり、お義父様のことを、お義父様と呼び続けたかった……)
「それより、だ」
この話はここまで、という意味。
「なに、せっかく帰ってきたんだ。お前があらかじめ手紙でここに帰ってくると送ってきた時点で、あの人と、話し合ったんだよ。それで、お前の婚約記念のパーティを開いてやることに決まったんだ」
「……え?」
私の、婚約記念パーティ……?
「もちろん……向こうの屋敷でやるといっているお前の誕生日会なるものほどじゃあないが……まあ、それでも婚約記念のパーティだ。私たちは遠くまで出向いて行って、そんな面倒なものにわざわざ出るつもりはないから、こっちで開いてやることにしたんだよ。今度の週末、それまではこの家にいるんだね」
「あ……いえ」
(なに? その話……間違っても、そんなお金にならないことを、やる人たちじゃないはず)
意味が、分からない。
お義父様が誕生日会を開いてくれると言っているのとは、意味が全然違う。
それだけは分かる。
けれど、私の心なんて読めていると言わんばかりに、おばさまは言う。
「何を意外そうな顔をしているんだい? それとも、本当に、さっきの用件を伝えに帰って来ただけかい? そんなのは、あまりにも寂しいじゃないかい」
「いえ、そんなことは……」
寂しい、なんて言葉が出てくること自体に、もっと混乱させられる。
「本音を言えばね、私だって嬉しいんだよ、リナ。あれほどの貴族家に、自分の娘が嫁ぐことになって。フン、思っていたより、大した娘じゃないかい」
漠然と思った。
そして……驚いた。
(私……今までとは、違う。私が、思い違いをしていた……?)
あの夜……ヨゼフと妹のあの光景を見る前の私だったら……。
きっと今の言葉……私は嬉しくて、仕方がなかった。
(だって……おばさまなりの褒め方だって、分かるから)
もしかしたら、感激して、泣き出していたかもしれない。
婚約が、嘘か本当かじゃなくて……。
それまで本当のところ、人を疑うなんて、知らなかったから。
もっともらしく褒められたら、感情がこみ上げてくるままに嬉しくなっちゃって、もっと向き合わなきゃいけないはずの他のことは、どうでもよくなっちゃって……。
それが、昔の私。
ずっと……褒めて欲しかったから。
今は……少しだけ、違う。
強くなったと思う一方で……自分が変わってしまったことが、少しだけ悲しかった。
ここ最近で経験している悲しみに比べれば、どうでもいいこと。
ヨゼフさえ奪われていなかったら、別に私は、今の自分だって嫌いじゃない。
どんな自分だって好きでいられるから。
(ほんと……何を考えても、何をやっていても……頭の中で、ヨゼフと……ヨゼフにまとわりつく妹を、思い浮かべちゃう……)
それでなくとも……。
「おばさま、あの……私……」
私は、なんて言っていいか分からない……。
おぼさまの言葉は、まだ終わりじゃなかった。
「いや……お前には悪いことをしたとは思っているんだよ、リナ。てっきり、そういう辺りの話を上手くやるのは、アンナの方だと思っていたんだけどねえ」
ある意味、なにも間違っていない……。
妹は、私から……ヨゼフを……。
「フン、私も見る目がないねえ。もう少し、お前に目をかけておけば、良かったって話だよ。お前だって……いーや、お前にこそ、よく分かるだろ? そうすれば今だって、お前も、もう少しくらい義理の娘として私に接してくれただろうに。フン、まあそれでも育ててやった恩は、恩だ。どうやってお前が大貴族様のぼっちゃんを落としたのか……そのなれそめくらいは聞かせてもらおうかねえ。それも含めての、パーティーでもあるわけさ」
「え、いえ。決してそんな落としたとか、そういう話では……」
どこまでいっても、おばさまなりの褒め言葉。
だからこそ、なんて答えていいか分からない。
「そういう話だ。私のことを信じるか信じないかはお前が好きに選べば良い。けど、とりあえずパーティーには出るんだね。どうせ、今のこの屋敷にそんな盛大なものをやる余裕はないから、貧乏性のお前でも、悩むことはないだろう?」
そして……私は言った。
「おぼさま……ありがとうございます! 私、嬉しいです!」
理由は……上手く言えない。
信じているようで、信じていない。
嬉しいようで、悲しくもある。
私はなんとなく、昔の自分だったらこう答えていただろうことを答えた。
純粋に、誰かを信じたがっていて、それがどうしようもなく軽はずみな私。
「私、この家に帰ってきて良かったな……」
きっと、これであっている。
おばさまも、気をよくしたように言う。
「そうかい、そうかい。それなら、良かったよ」
真実を知った後に、あの屋敷でアンナやヨゼフと向き合ったときと、まるで同じように……。
0
お気に入りに追加
4,644
あなたにおすすめの小説
開発者を大事にしない国は滅びるのです。常識でしょう?
ノ木瀬 優
恋愛
新しい魔道具を開発して、順調に商会を大きくしていったリリア=フィミール。しかし、ある時から、開発した魔道具を複製して販売されるようになってしまう。特許権の侵害を訴えても、相手の背後には王太子がh控えており、特許庁の対応はひどいものだった。
そんな中、リリアはとある秘策を実行する。
全3話。本日中に完結予定です。設定ゆるゆるなので、軽い気持ちで読んで頂けたら幸いです。
亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます
夜桜
恋愛
共和国の大聖女フィセルは、国を安定させる為に魔力を使い続け支えていた。だが、婚約を交わしていたウィリアム将軍が一方的に婚約破棄。しかも大聖女を『大魔女』認定し、両親を目の前で殺された。フィセルだけは国から追い出され、孤独の身となる。そんな絶望の雨天の中――ヒューズ辺境伯が現れ、フィセルを救う。
一週間後、大聖女を失った共和国はモンスターの大規模襲来で甚大な被害を受け……滅びの道を辿っていた。フィセルの力は“本物”だったのだ。戻って下さいと土下座され懇願されるが、もう全てが遅かった。フィセルは辺境伯と共に農業を始めていた。
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~
インバーターエアコン
恋愛
王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。
ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。
「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」
「はい?」
叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。
王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。
(私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)
得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。
相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。
能天気ってそれ、誰が言ったのかしら?
きんもくせい
恋愛
繊細可憐で柔和、いつもふわふわと笑うルリアは男女問わず好かれる質であったが、同時に舐められやすかった。能天気だとか考え無しだとか言われ、「何も知らないくせに」なんて被害者ヅラする婚約者をあしらい、「こっちの気もしらないでヘラヘラしやがって」と妬んでくる義弟に苦笑いを返す日々。しかしある日、婚約者も義弟も「この気持ちをわかってくれる人ができた」なんて言い出し、挙句には婚約破棄。何も知らない彼等に、ルリアはいつもの笑顔を消した。
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる