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第四章 転機
第二話 理由
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その話を聞いたときは、少しだけ同情した。
(そうだよ……ずっと、そんな環境で育ってきたから、妹がちょっとくらい嫌がらせをしてきても、簡単には嫌いになれなかった。立場は違うくとも、育ってきた環境は同じで、同じ苦労をしてきた。そういう意味でも私たちは姉妹……だったはず。なのに、アンナは……)
今はもう、そんなことはない。
私からすれば、男の人を作ってどこかにいった私達の母親や、このおばさんの血を一番強く受け継いでいるのが、妹のアンナ……。
ううん、私はアンナが一番そうだと思う。
このローラ姉さま以上の才能。
私には全く分からない種類の能力。
「ア……アリサ様。お荷物を……」
レベッカと呼ばれた女の子は、緊張した様子で顔を伏せて、両手を差し出してくる。
私がいた頃には、まだいなかった女の子。
「ごめんね」
小声で謝って、荷物を持ってもらった。
おばさまに逆らうと、話が面倒になってしまうから。
もしかしたら、怒られるのは私じゃなくて、レベッカかもしれない。
「ほんと、大きくなって……。覚えてるかい? お前が妹のアンナを背負って、うちまでやって来た時のことを。本当だったら、そのまま野垂れ死んでしまうところを、私とあの人が拾ってやったんだよ。それで暖かく、この家に迎え入れてやった。あれからもう、十年以上……。お前も、懐かしいだろう?」
「はい、感謝しています」
それは……本当のこと。
私一人ならともかく、妹まで面倒を見てくれるのは、ここしかなかった。
今、思い返しても、そう思う。
ただ、その妹は……。
「十年……早いもんだよ。お前さんにも分かるだろう? 私の可愛い娘、リナ」
「っ!」
冷え込んでいたはずの感情がささくれ立った。
私は、娘扱いされたことなんて、一度もないのに……。
「まさに、お前が今通ってきた門だって……ずいぶん、古くたびれちまって……強盗の一つも、ロクに防げやしないだろうね。そうかといって……修繕費もけっこう、かかるんだ。分かるだろう? リナ。お前だって、ここは懐かしいはずさ」
言われなくても、分かる。
屋敷の至る所が、くたびれていた。
けど……それは、この人の贅沢が理由。
私がここに来た理由は、ヨゼフのお義父様に迷惑をかけたくなかったから。
来る予定自体は、前からあった。
おばさまやおじさまが、お義父様に直接手紙を書いて、お金を要求してきていたから……。
二週間くらい前に、その話を私に教えてくれたのが、お義父様。
お義父様が見せてくれた手紙を読んで、謝ることしかできない私……。
(君のせいじゃない)
お義父様は、何回も、何回も、そう言ってくれた。
普段では考えられないほど、優しく慰めてくれた。
ヨゼフと妹には、していない話。
「私もね、今はもうだいぶ節約した生活を送っているんだよ」
最初こそ明るく振る舞っていたおばさまだけど、すぐに地が出た。
私が気にしないってことが分かったのかもしれない。
「パーティーだって、週に一度にまで減らしているんだ。これもお前には、分からない話だろうけどね……貴族っていうのは、社交が全て。だから、金がないからといって社交界に出るのを控えると、余計に金がなくなっちまうんだよ。わからなくとも、察しはつくだろう?」
昔は嫌っていたはずの私に、おばさまが媚びを売ってくることの理由。
妹とヨゼフの関係……。
私との婚約が破棄されると知ってしまったからこそ、どうにかしておきたい問題……ううん。
本当のところ、来るのか来ないのか分からないエルンストさんの手紙。
私は、ただ、それをじっと待っていられなかっただけ。
「おばさま。正直に、申し上げます」
(そうだよ……ずっと、そんな環境で育ってきたから、妹がちょっとくらい嫌がらせをしてきても、簡単には嫌いになれなかった。立場は違うくとも、育ってきた環境は同じで、同じ苦労をしてきた。そういう意味でも私たちは姉妹……だったはず。なのに、アンナは……)
今はもう、そんなことはない。
私からすれば、男の人を作ってどこかにいった私達の母親や、このおばさんの血を一番強く受け継いでいるのが、妹のアンナ……。
ううん、私はアンナが一番そうだと思う。
このローラ姉さま以上の才能。
私には全く分からない種類の能力。
「ア……アリサ様。お荷物を……」
レベッカと呼ばれた女の子は、緊張した様子で顔を伏せて、両手を差し出してくる。
私がいた頃には、まだいなかった女の子。
「ごめんね」
小声で謝って、荷物を持ってもらった。
おばさまに逆らうと、話が面倒になってしまうから。
もしかしたら、怒られるのは私じゃなくて、レベッカかもしれない。
「ほんと、大きくなって……。覚えてるかい? お前が妹のアンナを背負って、うちまでやって来た時のことを。本当だったら、そのまま野垂れ死んでしまうところを、私とあの人が拾ってやったんだよ。それで暖かく、この家に迎え入れてやった。あれからもう、十年以上……。お前も、懐かしいだろう?」
「はい、感謝しています」
それは……本当のこと。
私一人ならともかく、妹まで面倒を見てくれるのは、ここしかなかった。
今、思い返しても、そう思う。
ただ、その妹は……。
「十年……早いもんだよ。お前さんにも分かるだろう? 私の可愛い娘、リナ」
「っ!」
冷え込んでいたはずの感情がささくれ立った。
私は、娘扱いされたことなんて、一度もないのに……。
「まさに、お前が今通ってきた門だって……ずいぶん、古くたびれちまって……強盗の一つも、ロクに防げやしないだろうね。そうかといって……修繕費もけっこう、かかるんだ。分かるだろう? リナ。お前だって、ここは懐かしいはずさ」
言われなくても、分かる。
屋敷の至る所が、くたびれていた。
けど……それは、この人の贅沢が理由。
私がここに来た理由は、ヨゼフのお義父様に迷惑をかけたくなかったから。
来る予定自体は、前からあった。
おばさまやおじさまが、お義父様に直接手紙を書いて、お金を要求してきていたから……。
二週間くらい前に、その話を私に教えてくれたのが、お義父様。
お義父様が見せてくれた手紙を読んで、謝ることしかできない私……。
(君のせいじゃない)
お義父様は、何回も、何回も、そう言ってくれた。
普段では考えられないほど、優しく慰めてくれた。
ヨゼフと妹には、していない話。
「私もね、今はもうだいぶ節約した生活を送っているんだよ」
最初こそ明るく振る舞っていたおばさまだけど、すぐに地が出た。
私が気にしないってことが分かったのかもしれない。
「パーティーだって、週に一度にまで減らしているんだ。これもお前には、分からない話だろうけどね……貴族っていうのは、社交が全て。だから、金がないからといって社交界に出るのを控えると、余計に金がなくなっちまうんだよ。わからなくとも、察しはつくだろう?」
昔は嫌っていたはずの私に、おばさまが媚びを売ってくることの理由。
妹とヨゼフの関係……。
私との婚約が破棄されると知ってしまったからこそ、どうにかしておきたい問題……ううん。
本当のところ、来るのか来ないのか分からないエルンストさんの手紙。
私は、ただ、それをじっと待っていられなかっただけ。
「おばさま。正直に、申し上げます」
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