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第三章 我慢できるよね。私

第四話 あまり調子に乗ると

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 多分、妹は私が扉を閉めてしまった音を、聞き逃さなかったんだ。

 馬鹿なヨゼフとは、違って。

 ヨゼフは……どうせ、妹の誘惑にやられて発情して、妹に夢中になっていて……私に対しては、一度もそんなことないのに……!

 初めて、ヨゼフと抱き合ったときも……その時は不器用なだけと思っていた。けど、今、思い返せば、きっと私のことなんてなんとも思っていなかっただけ。

 ううん、そうじゃなくて……。

(妹は……扉が閉まる音を聞いたから、誰かに見られたんじゃないかと思って……それで……一番話を聞かれたくなかった私に、カマをかけてきた)

 だとしたら……。

「アンナ……。あ、あなたは、まだ子供だから分からないかもしれないけど……大人の恋愛には、ペースってものがあるの」

 これで、あってるはず。妹は……カマをかけるのとは別に、それはそれとして、楽しんでいた。

「ペース? あはは! なにそれ、言い訳じゃんっ」

「っ! あなたに……私とヨゼフの関係が、どう見えているかは知らないけど、私とヨゼフには、私達のペースがあるの。別に、あなたに心配されることなんて、何もないんだから」

 怒りで、声が震える。

「うんうん、だから分かってるって! お姉ちゃん、大真面目になっちゃって、おもしろーい! あははは」

「れ……恋愛っていうのは、別にそういうのだけが恋愛じゃないんだから。私は……あなたが知らないヨゼフの良いところだって、いっぱい知っているんだから」

 私は、いつものお姉ちゃんを装っているだけ。

 けど……なんで、自分で言っていて、こんなにみじめな気持ちになるのだろう……?

 理由は、簡単。もう結果は分かっている……むしろ、最初から勝負にすらならなっていなかった。私は、勝負があることすら知らなかった。

「うんうん、そうだね、そうだね! お姉ちゃんは私が知らないヨゼフの良いところを、いっぱい知ってるよ!」

 妹は、見透かしているといわんばかりに笑う。

 それは……自分の方が姉でヨゼフの婚約者である私よりも、ヨゼフのことを知っているという意味の笑い。

 本当に、憎たらしい笑顔。

 それどころか……。

「けど、ヨゼフだって男の人なんだから、あんまり我慢させちゃ駄目だよ?」

「っ……!」

 さすがに、怒りが爆発しそうだった。

 知ってるくせに……!

 もう半分浮気を認めているような発言。

「ま、あくまで私の想像だけどね!」

 私が何も言えないでいると、妹はさらに調子に乗ってきた。

「ほら、お姉ちゃんも別に可愛くないわけじゃないんだけどさ……男の人って、やっぱり私みたいに見た目が可愛くて、純粋だけど、”そういう魅力”もある女の子の方が好きでしょ? だから、その分、お姉ちゃんは努力した方がいいって言うかあ……。そうじゃないと、ね! お姉ちゃんでも、分かるでしょ?」

 怒りと憎しみで、頭がおかしくなりそう。

 この妹は……口で言っているだけじゃないんだから。

 昨日の夜……ヨゼフとソファーの上で……。

 なんで、こんなのの見た目が私より可愛いの……?

 なんで、こんな憎たらしい顔つきなのに、男の人はみんな妹にいくの……?

 それでも、私は言った。やっぱり、怒りで声が震えるのを我慢しながら。

「アンナ……あまり調子に乗ると、わ、私も怒るよ? あまり馬鹿を言わないでっていったばかりでしょ」

 今までの私だったら、何も気づかなくて、てきとうにあしらって終わり……多分、そうだったと思う。

 だから、間違っていないはず。

 実の姉妹なのに、女の子として……まるで勝てない私。

 女の子として、あまりにも勝てないから……結局、何をどうやっても、負けてしまう。

 どんなに我慢をしても、結局、私の負け。

 一人でいい……一人で良いから、私の方が好きと言ってくれる男の人がいたら、全てが違うのに……。

「ああ、二人とも、ここにいたんだ」
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