上 下
10 / 40
第二章 開いてはいけない手紙

第五話 将来、子供に読ませてあげたくて……

しおりを挟む
「どうしよう……」

 助けを求めようとしただけなのに……とんでもなく大きな話になっちゃった……。

「私……手紙を開いただけなのに……」

 話が大きすぎて……もう逆に、簡単には信じられない。

 仮に嘘だったとしても……デューク・オブ・ラングウールの名前を騙ったら、この国でも十分、罪になる。

 それほど大きな名前。

「私がモテるとか、モテないとか……そういうレベルの問題じゃ、もうないもの」

 普通の女の子だったら、なんだかんだいっても……喜ぶと思う。

 嘘かもしれない……けど、もしかしたら……そう思いながら、夢見心地な気分を楽しめる。

 妹のアンナだったら……鼻で笑って破り捨てて……たき火の種火に使うかもしれない。

 あの子はあの子で、変わってるから。

 私は……。

「それでも、ヨゼフが……あはは……けど、どうだろ……」

 正直、分かるんだ。

 ううん、分かったんだ。

 妹が、私のどこをそんなに嫌いなのか。……全部じゃないけど、一つだけ、はっきり分かる。

「だって、私……こうなって初めて、ヨゼフを好きって……言えるもの。それって……きっと、今まで自分のものだと思っていたものが、急に奪われたからで……」

 開いた手紙が衝撃的すぎて……私は……ある意味、落ち着いた。

 だから……疑問に思っちゃうんだ。

 私の思いは……恋愛とか結婚とは……そもそも、違うんじゃないかって。

「裏切られたって、分かって……それから……抱いた気持ち……」

 自分では……最初からあったつもりの恋愛感情。

 実際は……どうなんだろ……?

 私に傷つく資格なんて、あるのかな……?

 少しずつ……受け入れられている気がした。

 悪い意味で。

「もう、しまってしまおう……そう、それで済む話だもの」

 この手紙をしまって……あとは見なかったことにすれば……。

 それで、成り行きに任せて……。

 もしかしたら、アンナとヨゼフだって、考え直してくれるかもしれないし……。

 苦しくないといえば嘘だけど……。

「あはは……。確かに私……アンナのこと見下していたのかも……」

 だって……アンナだったら、こんな情けないことにはならない。

 プライドが高いから、男の人に自分から好きとは言わない妹。

 けれど……自分から気になっている男の人に寄っていって……自分から好かれる態度をとって……自分から男の人の手を取って……。

「アンナは、アンナで……ちゃんと、すごいのに」

 馬鹿で……尻軽な女の子。

 そうとしか、思っていなかった私がいる。

「それは、嫌われるよね……あはは。……うう、うううう」

 それでも……私が、お姉ちゃんであることに変わりはないんだから。

 それは、それ。これは、これ。

 まずは……朝食の準備。

「そろそろお屋敷のメイドさんたちが働き始める時間だもの……。私も、手伝わないと」

 本音では、全然納得していないのに……。

 今度こそ、散らかったものを、片付けようとして……。

 触れたのは、一冊のノート。

 婚約が決まってから日記代わりに……将来、もし子供ができたとして、読ませてあげたくて……今はもう書き終わった最初の一冊。

 この手紙は……このノートに挟んでおいたところから出てきたんだ。

 手紙を挟もうとして……私はそのノートを開いてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

開発者を大事にしない国は滅びるのです。常識でしょう?

ノ木瀬 優
恋愛
新しい魔道具を開発して、順調に商会を大きくしていったリリア=フィミール。しかし、ある時から、開発した魔道具を複製して販売されるようになってしまう。特許権の侵害を訴えても、相手の背後には王太子がh控えており、特許庁の対応はひどいものだった。 そんな中、リリアはとある秘策を実行する。 全3話。本日中に完結予定です。設定ゆるゆるなので、軽い気持ちで読んで頂けたら幸いです。

亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます

夜桜
恋愛
 共和国の大聖女フィセルは、国を安定させる為に魔力を使い続け支えていた。だが、婚約を交わしていたウィリアム将軍が一方的に婚約破棄。しかも大聖女を『大魔女』認定し、両親を目の前で殺された。フィセルだけは国から追い出され、孤独の身となる。そんな絶望の雨天の中――ヒューズ辺境伯が現れ、フィセルを救う。  一週間後、大聖女を失った共和国はモンスターの大規模襲来で甚大な被害を受け……滅びの道を辿っていた。フィセルの力は“本物”だったのだ。戻って下さいと土下座され懇願されるが、もう全てが遅かった。フィセルは辺境伯と共に農業を始めていた。

もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜

おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。 それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。 精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。 だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————

植物と話のできる令嬢は気持ち悪いと婚約破棄され実家から追い出されましたが、荒地を豊かな森に変えて幸せに暮らしました

茜カナコ
恋愛
植物と話のできる令嬢は気持ち悪いと婚約破棄され実家から追い出されましたが、荒地を豊かな森に変えて幸せに暮らしました

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

俺に従わないのならこの屋敷から追い出すぞ! と叫んだ結果

柚木ゆず
恋愛
 当主である両親の事故死と、その直後に起きた叔父による家の乗っ取り。それらの悲劇によってジュリエットの日常は崩壊してしまい、伯爵令嬢の身分を捨ててファネット家に引き取られることになりました。  そんなファネット家は平民であるものの有名な商会を持っており、その関係で当主同士は旧友。両家は以前から家族同然の付き合いをしていたため、ジュリエットは温かく迎えられます。  ですが――。  その日を切っ掛けにして、かつての婚約者である長男ゴーチェの態度は一変。優しかったゴーチェは家族がいないところではジュリエットを扱き使うようになり、陰ではいつも召し使いであるかのように扱うようになりました。  そしてそんなゴーチェはある日、ジュリエットの苦言に対して激昂。怒鳴り暴れても怒りが収まらず、やがてジュリエットを屋敷から追い出し路頭に迷わせようとするのですが――

処理中です...