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混血系大公編:第一部

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 それから録音機を作動させて、副団長サマに今回の任務についての報告を行う。ダービー伯がしっかりお金の補填をしてくれたことを報告すると、ビョルンも安堵してくれていた。お金が入ったことよりも、スムーズに交渉が進んで私が無事だったことに安堵していたようだけれどね。
 そこで一緒に、ルードルフの件も伝えておく。私に剣を向けたってことはぼかそうかと思ったんだけど、一緒に行った他の団員から伝わるよな…と思って率直に言うことにした。
 そしてロルフがキレた。
「F**kn'Brat…」
 声ひっく!rがめちゃめちゃ巻き舌で、ロルフの怒り具合が窺い知れるわー。
「おい、そいつどこにいんだよ?今からぶっ殺してくる」
「いやいや、待って待って。ちゃんと私がキッチリ締めといたから。ロルフさんは手を出さないでくださーい」
「あ?ちゃんと息の根止めたんだろーな?」
「いやいや首絞めたんじゃないから。でもちゃんと心はバキバキに折っといたから。それでいいでしょ?」
「あ?いいわけねぇだろ、心じゃなくて首の骨ぐれぇ折れ!テメェそんなんだから舐められんじゃねぇか?もういい俺が引導渡して…」
「ちょっとの過ちで若者の未来ぶった切るな!あーもう収集つかねー!助けてビョルン!」
 今にも飛び出しそうなロルフをなんとか押しとどめながら、ビョルンに助けを求める。するとでっかいため息をついたビョルンが、ゴチンとロルフに拳骨を落とした。痛そー。
「いってぇな!!何しやがる!」
「ロルフ、彼女がいいと言ってるのが聞こえないのか?レーデルの決定に従え」
「ふざけんな、兄貴はそれでいいのかよ?俺らの嫁がバカにされてんだぞ!」
「それは彼女の実力を知らなかったからだ。だいたいお前だって、最初のうちは彼女に散々バカにして暴言を吐いていたじゃないか。覚えていないのか?」
「う…ッ!」
 ビョルンの言葉にロルフが口ごもったので、私もここぞとばかりに便乗する。
「あッ、そうよそうだったわ!アンタ私に散々『弱いヤツはさっさと死ね!』とかひどいこと言ってたわよね?忘れてないわよ」
「ぐ…ッ、わ、忘れろそんなもん!今は思ってねぇ!!」
「へー。ほー。じゃあ今はそんなこと思ってないから、過去の発言は許せってこと?」
「あー…まぁ、おお…」
 謝罪するのが苦手なロルフさん。私の言葉に曖昧な返事を寄越してくるけれど、まぁいい。言質は取ったぞ。
「じゃあ、ルードルフも一緒でいいよね?私に瞬殺されといて、さすがに私のこと弱いなんてバカにすることはないでしょうし」
「うぐ…」
 さすがのロルフさんもそれ以上反論はできなかったようで、悔しげに唸り声を上げる。当然よね、そこで許さないと言ったら、過去の自分の行動も許されないことになってしまうもの。
 まぁ、ルードルフが恨みを募らせて、闇討ちしてくる可能性もなきにしもあらずだけれど。幸い我が家の保護者ビョルンさんは非常に過保護なので、私がひとりになる場面はほぼない。私自身も、ルーキーに毛が生えた程度の小僧にどうこうされるほど弱くはないつもりだ。
「許せとは言わないよ。でも、彼は充分に対価を払っている。帝国イチの傭兵団から追い出されるという、対価をね。だからこれ以上は、もういいのよ」
 ポンポンと腕を軽く叩き、彼に身を寄せる。
「でもありがと。私の名誉を守ろうとしてくれて」
 そう伝えると、ロルフはやや不満げながらも頷いてくれた。
「チ…ッ、わぁったよ」
 ロルフの怒りが収束していくのがわかって、ホッと息を吐く。やれやれ、これで話が進められそうかな。ビョルンと目を合わせて苦笑していると、イスがボソっと呟いた。
「だからバレないようにやれと言ったのに…」
 いやいやイスさん余計なこと言うな!ロルフもハッとした顔すんな! 



 それからなんとか軌道修正して、報告を進めていく。レディ・アマニータの件はサークルの秘匿事項に該当するため、帝都まで用事がありついでに護衛をしたという体で録音しておく。一通り報告を終えて、録音機を切ってからビョルンにも真相を説明をした。
 そんな話をしているうちに、報告書が作成できたらしい。シウが団長室まで持ってきてくれたので、確認してOK出してササッとサインをした。すぐに騎士団へ提出するよう手配してくれるそうだ。
 先ほど完成した任務報告の録音ピアスも渡して、これはまた事務員の子に書き起こしてもらう。余計なやり取りもしっかり入ってるけど、もう撮り直す気力はない…。まぁそんなことは日常茶飯事なので、事務員の子たちも慣れたものだ。余分はものは省いて、上手いこと書き起こしてくれるはずだ。
「よし、とりあえずはこれでよいかな。帰ろっか」
 声を掛けると、めいめい帰り支度を始めた。とはいえ全員出先から戻ってそのままここにいたので、荷物はほとんど纏まっている。先ほどの怪我の処置をした後のゴミを片づけたり、外套を着たりする程度だ。防音装置を解除し、荷物を持って揃って団長室を出る。
 団員たちに声を掛け、傭兵団本部を出ながら今日の晩ごはんについて話し合う。
「晩飯は外で食べるでいいか?」
 と行ったのはビョルン。
「うん。週末はプレゼンがあるし、私たちもいつ帰れるかわからなかったから、ハウスキーパーさんは今週いっぱい断っちゃった。明日はどうしよっかな」
「明日のことは明日考えようぜ。あぁ、腹減った」
「うふ、そうね。何がいい?やっぱお肉?」
「いいな」
「私は何でもいい」
「酒がありゃぁいい」
 ロルフがいつものように発言するも、イスが首を振る。
「酒は許可しない。縫ったところが出血するぞ」
「あぁ?!魔術掛けただろうが!」
「自然治癒で治る速度を、少し早めた程度だ。生命を操る術(テクスヴィタ)に制限があるのは知っているだろう。おとぎ話のように、またたく間に治るなんてことはない」
「ふざけんな!何のために我慢して、テメェのクソ気持ちわりぃ魔術くらったと思ってんだ。任務中は飲めねぇんだ、終わってからぐれぇ好きに飲ませろ!」
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