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混血系大公編:第一部

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 とはいえ、私は方向音痴のため口頭で出現位置を言われてもサッパリだ。男たちが地図を広げながら、ロルフの証言を元に鉛筆で丸をつけている。ちなみにここで使用している鉛筆は、金属の筒に黒鉛と粘土を焼き固めた芯を詰めたものだ。中世の筆記具って羽ペンのイメージだったから、ちゃんと鉛筆があることに感動したのよね。
 おっと話が逸れた。ビョルン達が騎士団と共同調査をして、判明した魔獣の出現位置もこの地図には記載してある。ロルフがモルサスを発見したところは、今までB級クラスの魔獣が生息していた場所だ。どのようにしてモルサスがやって来たのかは不明だけれど、より強い魔獣に追い立てられたと考えればB級が他の場所に移動したというのも理解できる。
「だけどモルサスか…早急に再調査してもらわないと、まずいよね」
「そうだな。そもそもここに帝都が作られたのは、周囲に強い魔獣が出なかったからだと言われている。周囲は堅固な外壁で覆われているが、A級は想定していないだろう。万が一帝都に迫ってきたら、壁が保たないかもしれないな」
「ロルフが倒したのが、たまたま紛れ込んだ単独行動タイプならいいんだけどね…」
 前述した通り、モルサスが基本的にコロニーを形成する習性がある魔獣だ。ただ時おり群れを離れて、自身の新しいコロニーを築こうとする若い個体もいるらしい。そういった単独行動タイプなら、ロルフが倒した1体で終わりだから心配はないんだけど…。
 ビョルンが難しい顔で地図に目線を走らせる。
「B級が目撃されたのが…こことここと…ここだ。モルサスに縄張りを追い立てられたのだとすれば、妥当ではあるが…」
「だがここで目撃されたのはウォーベアとなっている。単体のモルサスに怯むような種ではない」
「じゃあ、やっぱコロニー形成したのかな。帝都周辺は初心者御用達みたいな森だったのに…。危険度が跳ね上がるから、急いで騎士団に報告書を上げなきゃね」
「そうだな。それに俺たちよりも騎士団の方が、魔獣の生息域を把握しているし詳細な調査結果も持っている。騎士団ならB級が出現した場所から、モルサスのコロニーが推察できるかもな」
 それから全員で話し合い、報告書に載せることをまとめた。意見が出尽くしたところでピアスの録音を終了させた。すぐに地図と一緒に事務室に持っていき、手の空いている事務員に渡して報告書に書き起こしてもらう。
 それを待つ間に再び団長室に戻ると、ビョルンとロルフがまた難しい顔をして何かを話していた。
「どうしたの、まだ何か報告することあった?」 
 ビョルンは返事をしないまま、こちらにドアを閉めるようにとジェスチャーをする。
「?」
 不思議に思いながらもドアを閉めると、防音装置が作動しているのに気づいた。
「密談?」
「あぁ…」
 ビョルンが眉間にくっきり皺を寄せながら、私をじっと見つめてくる。
「気にしすぎなのかもしれないが…」
「…なに?」
 ビョルンは少し言い淀んだあと、感情を押し殺した声で言った。
「ロルフがA級と出会い、戦闘した場所がだいたいこの辺りだ」
「うん」
「俺とお前が最初に出会った場所が、ここ。その時俺たちはB級が帝都に近い場所に出たから、討伐してほしいという依頼を受けていたんだが…かなり距離が近い。ただの偶然だとは思うが…」
「……」
 きっと、ただの偶然だ。私が気がついたらいた場所と、モルサスが出現した場所が近いからといって、何か関係があるわけがない。
 でも。
 帝都周辺の森は広い。しかもその場所は、帝都の門にかなり近い。そんな場所にB級が出ることも稀だし、生息確認すらされていなかったA級が出るなんてありえない。
「…ロルフはどうして、その場所にいったの?偶然?」
 考えればA級が出たにしろ、ロルフがそこに行ったのも不思議だった。ロルフはお金になりそうな魔獣を討伐しようと考えていたのだから、B級辺りを狙っていたはずだ。それならもっと奥地に進んだ方が遭遇する可能性が高い。
「…鳴き声が聞こえたんだ。様子を見に行ったら、モルサスの…肉食系の魔獣だろうなって匂いがしたんだよ。んで匂い追ったら、モルサスがいたんだ」
 ロルフは眉を潜め、思いを巡らせるように視線がぐるりと動く。匂いで追えるとか…犬かな?
「鳴き声?なんの?」
「そんときゃ小型魔獣のもんかと思ったが…いま思えば、猫みてぇな声だったな」
「猫?」
 魔獣が徘徊するような森に、猫?
「ああ。お前の喘ぎ声みてぇな…」
「ちょい!」
 頭を叩こうとすると、ヒョイと避けられる。避けんな!胸をバシバシ叩くも効いてないみたいでニヤついている。もう!
 そうこうしているうちに手を取られて羽交い締めにされ、すかさず胸を揉んでくるロルフにギャーギャー文句を言っていると、ビョルンの低い声がそれを遮った。
「シャーラ…シャーラ!」
「ハァハァ…なにッ?」
「俺も、猫の声を聞いた」
「えッ?」
「すっかり忘れていたが…そうだ、あの時も猫の声が聞こえた。不審に思って様子を見に行ったら、悲鳴が聞こえて…それでお前が襲われているところに遭遇したんだ」
 ビョルンの言葉に、私は何も言えなくなってしまう。どうして、そんな共通点が出てきてしまうの?これでは、ただの偶然として片付けることもできない。わけのわからない事ばかりばかりで、ひどく胸がざわついた。



 そんな感じで団長室の中は、少しの間沈黙に包まれたけれど。
「…まぁでも、いま考えてもわからなくない?よし、後回し後回し!」
「こういう時のお前の切り替えの速さには、本当に感服する」
 イスがしみじみと私に向かって言う。いや、だって考えてもわからないことを考えても仕方がないじゃん。とりあえず一旦置いておいて、他のことを片づけているうちにふっと解決策が出ることってけっこうあるもの。なので今はとりあえず置いておいて、身近にあることから片づけていかなきゃね。
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