189 / 198
混血系大公編:第一部
71
しおりを挟む
とはいえ、私は方向音痴のため口頭で出現位置を言われてもサッパリだ。男たちが地図を広げながら、ロルフの証言を元に鉛筆で丸をつけている。ちなみにここで使用している鉛筆は、金属の筒に黒鉛と粘土を焼き固めた芯を詰めたものだ。中世の筆記具って羽ペンのイメージだったから、ちゃんと鉛筆があることに感動したのよね。
おっと話が逸れた。ビョルン達が騎士団と共同調査をして、判明した魔獣の出現位置もこの地図には記載してある。ロルフがモルサスを発見したところは、今までB級クラスの魔獣が生息していた場所だ。どのようにしてモルサスがやって来たのかは不明だけれど、より強い魔獣に追い立てられたと考えればB級が他の場所に移動したというのも理解できる。
「だけどモルサスか…早急に再調査してもらわないと、まずいよね」
「そうだな。そもそもここに帝都が作られたのは、周囲に強い魔獣が出なかったからだと言われている。周囲は堅固な外壁で覆われているが、A級は想定していないだろう。万が一帝都に迫ってきたら、壁が保たないかもしれないな」
「ロルフが倒したのが、たまたま紛れ込んだ単独行動タイプならいいんだけどね…」
前述した通り、モルサスが基本的にコロニーを形成する習性がある魔獣だ。ただ時おり群れを離れて、自身の新しいコロニーを築こうとする若い個体もいるらしい。そういった単独行動タイプなら、ロルフが倒した1体で終わりだから心配はないんだけど…。
ビョルンが難しい顔で地図に目線を走らせる。
「B級が目撃されたのが…こことここと…ここだ。モルサスに縄張りを追い立てられたのだとすれば、妥当ではあるが…」
「だがここで目撃されたのはウォーベアとなっている。単体のモルサスに怯むような種ではない」
「じゃあ、やっぱコロニー形成したのかな。帝都周辺は初心者御用達みたいな森だったのに…。危険度が跳ね上がるから、急いで騎士団に報告書を上げなきゃね」
「そうだな。それに俺たちよりも騎士団の方が、魔獣の生息域を把握しているし詳細な調査結果も持っている。騎士団ならB級が出現した場所から、モルサスのコロニーが推察できるかもな」
それから全員で話し合い、報告書に載せることをまとめた。意見が出尽くしたところでピアスの録音を終了させた。すぐに地図と一緒に事務室に持っていき、手の空いている事務員に渡して報告書に書き起こしてもらう。
それを待つ間に再び団長室に戻ると、ビョルンとロルフがまた難しい顔をして何かを話していた。
「どうしたの、まだ何か報告することあった?」
ビョルンは返事をしないまま、こちらにドアを閉めるようにとジェスチャーをする。
「?」
不思議に思いながらもドアを閉めると、防音装置が作動しているのに気づいた。
「密談?」
「あぁ…」
ビョルンが眉間にくっきり皺を寄せながら、私をじっと見つめてくる。
「気にしすぎなのかもしれないが…」
「…なに?」
ビョルンは少し言い淀んだあと、感情を押し殺した声で言った。
「ロルフがA級と出会い、戦闘した場所がだいたいこの辺りだ」
「うん」
「俺とお前が最初に出会った場所が、ここ。その時俺たちはB級が帝都に近い場所に出たから、討伐してほしいという依頼を受けていたんだが…かなり距離が近い。ただの偶然だとは思うが…」
「……」
きっと、ただの偶然だ。私が気がついたらいた場所と、モルサスが出現した場所が近いからといって、何か関係があるわけがない。
でも。
帝都周辺の森は広い。しかもその場所は、帝都の門にかなり近い。そんな場所にB級が出ることも稀だし、生息確認すらされていなかったA級が出るなんてありえない。
「…ロルフはどうして、その場所にいったの?偶然?」
考えればA級が出たにしろ、ロルフがそこに行ったのも不思議だった。ロルフはお金になりそうな魔獣を討伐しようと考えていたのだから、B級辺りを狙っていたはずだ。それならもっと奥地に進んだ方が遭遇する可能性が高い。
「…鳴き声が聞こえたんだ。様子を見に行ったら、モルサスの…肉食系の魔獣だろうなって匂いがしたんだよ。んで匂い追ったら、モルサスがいたんだ」
ロルフは眉を潜め、思いを巡らせるように視線がぐるりと動く。匂いで追えるとか…犬かな?
「鳴き声?なんの?」
「そんときゃ小型魔獣のもんかと思ったが…いま思えば、猫みてぇな声だったな」
「猫?」
魔獣が徘徊するような森に、猫?
「ああ。お前の喘ぎ声みてぇな…」
「ちょい!」
頭を叩こうとすると、ヒョイと避けられる。避けんな!胸をバシバシ叩くも効いてないみたいでニヤついている。もう!
そうこうしているうちに手を取られて羽交い締めにされ、すかさず胸を揉んでくるロルフにギャーギャー文句を言っていると、ビョルンの低い声がそれを遮った。
「シャーラ…シャーラ!」
「ハァハァ…なにッ?」
「俺も、猫の声を聞いた」
「えッ?」
「すっかり忘れていたが…そうだ、あの時も猫の声が聞こえた。不審に思って様子を見に行ったら、悲鳴が聞こえて…それでお前が襲われているところに遭遇したんだ」
ビョルンの言葉に、私は何も言えなくなってしまう。どうして、そんな共通点が出てきてしまうの?これでは、ただの偶然として片付けることもできない。わけのわからない事ばかりばかりで、ひどく胸がざわついた。
そんな感じで団長室の中は、少しの間沈黙に包まれたけれど。
「…まぁでも、いま考えてもわからなくない?よし、後回し後回し!」
「こういう時のお前の切り替えの速さには、本当に感服する」
イスがしみじみと私に向かって言う。いや、だって考えてもわからないことを考えても仕方がないじゃん。とりあえず一旦置いておいて、他のことを片づけているうちにふっと解決策が出ることってけっこうあるもの。なので今はとりあえず置いておいて、身近にあることから片づけていかなきゃね。
おっと話が逸れた。ビョルン達が騎士団と共同調査をして、判明した魔獣の出現位置もこの地図には記載してある。ロルフがモルサスを発見したところは、今までB級クラスの魔獣が生息していた場所だ。どのようにしてモルサスがやって来たのかは不明だけれど、より強い魔獣に追い立てられたと考えればB級が他の場所に移動したというのも理解できる。
「だけどモルサスか…早急に再調査してもらわないと、まずいよね」
「そうだな。そもそもここに帝都が作られたのは、周囲に強い魔獣が出なかったからだと言われている。周囲は堅固な外壁で覆われているが、A級は想定していないだろう。万が一帝都に迫ってきたら、壁が保たないかもしれないな」
「ロルフが倒したのが、たまたま紛れ込んだ単独行動タイプならいいんだけどね…」
前述した通り、モルサスが基本的にコロニーを形成する習性がある魔獣だ。ただ時おり群れを離れて、自身の新しいコロニーを築こうとする若い個体もいるらしい。そういった単独行動タイプなら、ロルフが倒した1体で終わりだから心配はないんだけど…。
ビョルンが難しい顔で地図に目線を走らせる。
「B級が目撃されたのが…こことここと…ここだ。モルサスに縄張りを追い立てられたのだとすれば、妥当ではあるが…」
「だがここで目撃されたのはウォーベアとなっている。単体のモルサスに怯むような種ではない」
「じゃあ、やっぱコロニー形成したのかな。帝都周辺は初心者御用達みたいな森だったのに…。危険度が跳ね上がるから、急いで騎士団に報告書を上げなきゃね」
「そうだな。それに俺たちよりも騎士団の方が、魔獣の生息域を把握しているし詳細な調査結果も持っている。騎士団ならB級が出現した場所から、モルサスのコロニーが推察できるかもな」
それから全員で話し合い、報告書に載せることをまとめた。意見が出尽くしたところでピアスの録音を終了させた。すぐに地図と一緒に事務室に持っていき、手の空いている事務員に渡して報告書に書き起こしてもらう。
それを待つ間に再び団長室に戻ると、ビョルンとロルフがまた難しい顔をして何かを話していた。
「どうしたの、まだ何か報告することあった?」
ビョルンは返事をしないまま、こちらにドアを閉めるようにとジェスチャーをする。
「?」
不思議に思いながらもドアを閉めると、防音装置が作動しているのに気づいた。
「密談?」
「あぁ…」
ビョルンが眉間にくっきり皺を寄せながら、私をじっと見つめてくる。
「気にしすぎなのかもしれないが…」
「…なに?」
ビョルンは少し言い淀んだあと、感情を押し殺した声で言った。
「ロルフがA級と出会い、戦闘した場所がだいたいこの辺りだ」
「うん」
「俺とお前が最初に出会った場所が、ここ。その時俺たちはB級が帝都に近い場所に出たから、討伐してほしいという依頼を受けていたんだが…かなり距離が近い。ただの偶然だとは思うが…」
「……」
きっと、ただの偶然だ。私が気がついたらいた場所と、モルサスが出現した場所が近いからといって、何か関係があるわけがない。
でも。
帝都周辺の森は広い。しかもその場所は、帝都の門にかなり近い。そんな場所にB級が出ることも稀だし、生息確認すらされていなかったA級が出るなんてありえない。
「…ロルフはどうして、その場所にいったの?偶然?」
考えればA級が出たにしろ、ロルフがそこに行ったのも不思議だった。ロルフはお金になりそうな魔獣を討伐しようと考えていたのだから、B級辺りを狙っていたはずだ。それならもっと奥地に進んだ方が遭遇する可能性が高い。
「…鳴き声が聞こえたんだ。様子を見に行ったら、モルサスの…肉食系の魔獣だろうなって匂いがしたんだよ。んで匂い追ったら、モルサスがいたんだ」
ロルフは眉を潜め、思いを巡らせるように視線がぐるりと動く。匂いで追えるとか…犬かな?
「鳴き声?なんの?」
「そんときゃ小型魔獣のもんかと思ったが…いま思えば、猫みてぇな声だったな」
「猫?」
魔獣が徘徊するような森に、猫?
「ああ。お前の喘ぎ声みてぇな…」
「ちょい!」
頭を叩こうとすると、ヒョイと避けられる。避けんな!胸をバシバシ叩くも効いてないみたいでニヤついている。もう!
そうこうしているうちに手を取られて羽交い締めにされ、すかさず胸を揉んでくるロルフにギャーギャー文句を言っていると、ビョルンの低い声がそれを遮った。
「シャーラ…シャーラ!」
「ハァハァ…なにッ?」
「俺も、猫の声を聞いた」
「えッ?」
「すっかり忘れていたが…そうだ、あの時も猫の声が聞こえた。不審に思って様子を見に行ったら、悲鳴が聞こえて…それでお前が襲われているところに遭遇したんだ」
ビョルンの言葉に、私は何も言えなくなってしまう。どうして、そんな共通点が出てきてしまうの?これでは、ただの偶然として片付けることもできない。わけのわからない事ばかりばかりで、ひどく胸がざわついた。
そんな感じで団長室の中は、少しの間沈黙に包まれたけれど。
「…まぁでも、いま考えてもわからなくない?よし、後回し後回し!」
「こういう時のお前の切り替えの速さには、本当に感服する」
イスがしみじみと私に向かって言う。いや、だって考えてもわからないことを考えても仕方がないじゃん。とりあえず一旦置いておいて、他のことを片づけているうちにふっと解決策が出ることってけっこうあるもの。なので今はとりあえず置いておいて、身近にあることから片づけていかなきゃね。
1
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました
空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」
――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。
今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって……
気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
5人の旦那様と365日の蜜日【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる!
そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。
ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。
対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。
※♡が付く話はHシーンです
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話
やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。
順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。
※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。
【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】
阿佐夜つ希
恋愛
『貴女には、これから我々四人の賢者とセックスしていただきます』――。
三十路のフリーター・篠永雛莉(しのながひなり)は自宅で酒を呷って倒れた直後、真っ裸の美女の姿でイケメン四人に囲まれていた。
雛莉を聖女と呼ぶ男たちいわく、世界を救うためには聖女の体に魔力を注がなければならないらしい。その方法が【儀式】と名を冠せられたセックスなのだという。
今まさに魔獸の被害に苦しむ人々を救うため――。人命が懸かっているなら四の五の言っていられない。雛莉が四人の賢者との【儀式】を了承する一方で、賢者の一部は聖女を抱くことに抵抗を抱いている様子で――?
◇◇◆◇◇
イケメン四人に溺愛される異世界逆ハーレムです。
タイプの違う四人に愛される様を、どうぞお楽しみください。(毎日更新)
※性描写がある話にはサブタイトルに【☆】を、残酷な表現がある話には【■】を付けてあります。
それぞれの該当話の冒頭にも注意書きをさせて頂いております。
※ムーンライトノベルズ、Nolaノベルにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる