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混血系大公編:第一部

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 ロルフが訓練所横にある洗い場(水やお湯で汗を流せるように、スノコが敷いてある)で血を洗い流している間に、イスが戻ってきてくれた。ロルフの要望を伝えると、
「私は魔術医じゃないぞ…」
 と呆れつつ、傷を診てくれる事になった。
 続いてドクターも到着したんだけど、治療中にロルフに怒鳴りつけられたことがあるらしく「塔長がやって下さるんなら是非お願いします!」と快く道具を貸してくれた。いつも荒くれ者どもの治療をさせてすみません…。でも気は弱いけど、外科治療の腕がめっちゃいいんだよねこの先生。ちなみにハーフエルフの開業医さんです。
 ロルフも髪をガシガシ拭きながら戻ってきて、「おっ、来てんじゃねぇかイスハーク」と言いながらさらしをポイと放った。だから洗濯物をそこらにポイポイしないの!
「ロルフ、髪がまだ濡れてる!」
「めんどくせぇ」
「もー!」
 新しいさらしを取って、髪を拭いてあげる。身長差で頭のテッペンを拭くのは大変だから、下の方だけだけれど。
「装備はどうしたの?」
「ビートに、ゴルド爺のとこ持ってかせた」
「あぁ、ちょうどビートがいたのね」
 ビートはまだ若くて給料も少ないから、任務や当番がない時もよく本部に入り浸っている。そうすると先輩や上司からお使いを頼まれるので、お小遣い稼ぎができるのだ。
 そしてゴルドさんは3番街に店を構える腕のいい鍛冶屋さんで、ウチの装備はだいたいそこで請け負ってもらってる。
「イス、団長室で診る?仮眠室でもいいけど」
「腕だけだろう、椅子があればいい」
「じゃあ団長室で。ここじゃ皆のお邪魔になるし」
「わかった」
 イスが促して、ロルフを連れていく。
「あっ、じゃあ僕は帰ってもいいです?道具はお好きに使っていただいていいので…」
 ドクターがそそくさと帰ろうとすると、イスがその腕を掴んで引き留めた。
「いや、傷口だけ診てくれ。私が手に負えないものだったら困る」
「塔長が手に負えないものだったら、私の手に負えるわけないじゃないですかー…」
「そんなことはない、現職とは違う」
「ご謙遜を。見習いの時だって同期の中でずば抜けてたじゃないですかー。それに最近は奥様のために医療を学び直してるって聞きましたよ?塔にいる同僚が言ってましたけど、下手な魔術医よりよっぽど腕がいいって…」
 あら、ドクターとイスって昔の同期だったのかな?なんとなく関係が気安い感じがする。
 だけどロルフは、そんな2人のやりとりを待ちきれなかったようだ。
「うるせーなテメェ、ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさとしろ!」
「ヒィ!すみませんすみません!」
 ロルフに一喝されて、ドクターは縮こまりながらふたりに着いて行った。いつもごめんね…。
 それから事務の子達と一緒にロルフが汚してったところを片付けて、書類仕事を続けているビョルンのところに行った。
「そっちは終わりそう?」
「ああ、これに目を通したら終わる…よな?」
 ビョルンがチラッとシウを伺うと、できる秘書はこくりと頷いた。
「今日は終わりで大丈夫ですよ」
「だそうだ」
「じゃあ先に団長室に行ってるから、後から来てくれる?ロルフから状況聞いて、騎士団に報告した方がいいでしょ」
「ああ、そうだが…急いで終わらせるから、少し待てないか?一緒に行こう」
「?まぁいいけど…」
 なんだろ、用事でもあるのかな?
「では団長、少しよろしいですか?来週のことなんですけど…」
「あぁ、はいはい」
 シウがちょうど用事があったようで話しかけてきたので、来週のことを打ち合わせしているうちのビョルンの書類も終わったようだ。
「ふぅ、やっと終わった。シウ、これでいいか?」
「ええと…はい、大丈夫ですよ。ありがとうございました」
 さっと目を通してOKを出したシウは、ニッコリと笑った。
「お疲れ様です。団長、これで明日は休めますよ」
「えっ、そうなの?」
 4日も明けちゃったから、仕事がだいぶ溜まってると思ったんだけど。
「ビョルンさんが頑張ってくれたので。それにこの前決裁について見直ししたじゃないですか。団長の目を通さずとも決裁できるものが増えたので、大丈夫ですよ」
「あっ、そっか…」
 実は事務員の中でも古株の人たちを事務長・副事務長に任命して、そのふたりプラス団長秘書のシウの目を通せば決裁できるものを増やしたのよね。ビョルンを副団長に任命したものの、彼はまだまだ現場で欠かせない戦士でもあるし。私も忙しくて附術師としての依頼をしばらく断ってたんだけど、少しくらいは受けたいし。なぜだか近頃は私が出なきゃいけないような任務もちょこちょこ出てきちゃったし。
 それで私もビョルンも不在ってなると書類が滞っちゃうからね。私も後から書類が山積みって事態は避けたいから、ビョルンが副団長業務を引き継ぐのと一緒にその運用もスタートさせたんだけど…シウがそう言うってことは、皆のお陰で上手く運用できているようだ。
「わぁ、じゃあ明日休んでもいいかな?」
「もちろん。そもそも実務部隊は基本、任務終了後は休みに入りますからね。団長だけ例外にするわけにはいきませんよ」
「嬉しい!あれでもビョルンは…?」
 考えてみればビョルン、皇城での任務後そのまま事務仕事に入ってない?彼に目をやると、立ち上がってグッと背伸びをしながら苦笑した。
「帝都内の任務だし、実戦でもないからな。さほど疲れてなかったから大丈夫だ。そもそもお前とは体力が違う」
 いやそんな、3日くらいほぼ寝ずに戦い続けられるような人たちと同列にしないでくれます?
「まぁでもおかげで休めるから、ありがと!」
「どういたしまして」
 ビョルンが腕を広げたので、その胸に飛び込む。ほわー、このムチっとした雄っぱいに抱かれるの気持ちいいわー。筋肉って力が入ってない時って柔らかいじゃない?でもみっしり肉が詰まってて、弾力があって…ようするに、たまらん。
「さて、シウ。俺たちは団長室に寄って、ロルフの治療が終わったら先に引き上げるぞ」
「ええ。団長、副団長、お疲れ様でした」
「お疲れ様!悪いけど、明日もよろしくねー」
「「「お疲れ様です!」」」
 事務員たちから次々に声を掛けられて、それに答えつつ事務室を後にし、私たちは団長室に向かった。
「シャーラ」
 団長室に向かう途中、人気のない廊下で急にビョルンが私を呼んだ。
「なに?…んッ」
 腕を取られて廊下の壁に押し付けられ、唇を奪われる。抵抗する理由もないから、そのまま深くなる口づけを素直に受ける。
 唇を食まれて、息が上がって。何度も深く口づけられて、ギュッと抱きしめられる。
 ああ、幸せ。
 ずっとこのままでいたいなーなんて思いつつ、誰か来るかもしれないから惜しいけれど体を話す。
 最後にチュッと音を立ててキスをし、ビョルンと鼻を擦り合わせて笑いあった。
「引き止めた理由って、これ?」
「ああ。家まで我慢できなかった」
「もう。ふふ…」
 手を繋ぎ、指を絡め合わせ、その腕にもたれかかるようにして歩く。
「明日はみんなで、ゆっくりしようね」
「ああ、そうだな」
 私とビョルンとロルフとイス。家族みんなで、ゆっくり過ごそう。

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