異世界チートで世界を救った後、待っていたのは逆ハーレムでした。

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混血系大公編:第一部

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 私はブレスレット型の魔道具を操作して、結界を展開する。注ぐ魔力の量で範囲を調整できる優れもので、馬車全体を覆うくらいの大きさにしておく。このくらいなら私の魔力で維持できるので、魔石を使う必要がなくてお得なのだ。
 起動さえしておけば、後は私の魔力を勝手に消費して展開し続けてくれるので楽なもんだ。一息ついて窓の外を見やる。レディは私と話したくないだろうし、とりあえず流れていく景色でも眺めるか…なんて思っていると。
「ロルフ様は…帰られたの?」
 意外にも、レディの方から話しかけてきた。
「ええ、先に帰りましたが…。もしかして会いたかったですか?」
 だとしたらメンタル強すぎるな…とちょっと感心していると、レディは弱々しく首を振った。
「いいえ。…あの人は、恐ろしい人だわ。私も色んな男性を見て来たけれど、あんなに容赦のない…冷酷な殺戮者のような人は、初めてよ」
 おーい、私の婚約者だぞー。
 顔色を悪くしながら告げたレディに、悪いけど少々呆れてしまう。
 殺戮者なんて、傭兵を生業にしている人間に向かっていうことか?たくさん戦ってたくさん殺して、生き残ったから英雄なんて言われてるんだよ。ロルフだけじゃない。ビョルンだってイスだって、私だって『殺戮者』だ。人も魔獣も『対するもの(コントラ)』も、たくさんの相手を殺してきた。そうじゃなきゃ、生き残れなかった。生き残れなかったんだ。
 一瞬冷ややかなものが心に走るけど、態度には出さないようぐっと飲み込む。彼女は当時、貴族の奥様だったはずだ。戦場からほど遠い場所にいた人間だって、確かにいる。
「まぁ、ある意味フェミニストなんですよね。男女問わず平等に容赦ないという点では」
 心のうちを悟らせないよう、わざと明るくそう言うと、レディはものすごく変な顔でこちらを見た。「フェミニストの意味履き違えてんぞ」って感じで訝しげに見て来る。え、間違ってるかな?
「…貴女、ロルフ様と結婚なさるのよね?」
「え?はい、いずれはそうなりますね」
「…あの方と、共に生きていけるの?」
「……」
 レディの言葉に、しばし沈思する。冷酷な殺戮者なのにってこと?でもそれは似た者同士だし、まぁ問題ないかな。ただ確かに、ロルフは私から見ても難しい性格の人だ。トラブル気質だし、理解できないことも多いし、怒りっぽいし残虐残酷だし…。
「正直、やってみなきゃわからないなぁって思ってます」
「…え?」
「私も彼と結婚するなんて思ってなかったんです。見た目抜群ですけどあの性格ですからね、とても恋愛対象には見れなくて。でも彼は私を好きでいてくれたみたいで、ある日ゴタゴタついでにプロポーズ?されて、断ろうとしたら首にナイフ押し付けられて脅されて、死ぬよりはマシだなって思ってプロポーズを受けました」
 Marry or DieならMarryを選ぶよね!そう言うとレディはドン引きした顔で私を見ていた。やっぱドン引き案件なんだ、アレ…。
「なので選択肢はなかったんですよね。あと私、どうも押しに弱いみたいで。それぞれから押し切られて、気がつけば婚約者が3人…私、マジでやってけんのか…?」
「…知らないわよ…」
「ですよねー。がんばろー」
 ゆるーく拳を上げて「えいえいおー」とやっていると、レディは呆れ切った目を私に向けて来た。
「まぁ、大丈夫ですよ。逃げ道は常に準備してあります」
「…逃げ道?」
「私ね、自分が大事な人間なんです。自分に起きたことは精一杯対処するけれど、どうにもこうにも嫌になったら、全部捨てて逃げちゃえばいいやって思ってます」
「……」
「女はね、どう足掻いたって男より力が弱いでしょ?物理的にこられたらどうしようもない。女性を貶めようって発言じゃないですよ、ただの事実です。だからその分、賢く立ち回らなければ」
「……」
「男は女に比べて征服欲が強いですよね。貴女を愛した男は、貴女を思う通りに支配しようとするかもしれない。でも全てを握らせてはだめですよ。自分を救う命綱を、必ず確保しておくんです。外部の友人や家族、公的機関でもいいですし、自分の自由にできるお金でもいいですね。世の中お金があれば、大概のことはなんとかなります」
「……」
「自分の人生は、自分で手綱を握っておかなければ」
 他人は自分の人生を生きてはくれない。どんなに苦しくても自分が嫌でも、自分しか自分を生きてくれない。だったら少しでも、自分が自分の人生を楽しめるようにしてあげたい。私は私のことを、幸せにしてあげたい。
 レディはまた俯いてしまった。でも聞いていないわけではなさそうで、彼女の心に少しは沁みていってるのかな。
「まぁ幸い、私には他にも夫になる人がいます。ビョルンは他の夫との関係も上手く取り持ってくれますし、イスも魔術で…えー…(夜の)生活を円滑にしてくれてますし…」
 その辺はモニョモニョと誤魔化しておく。レディは気にしていなかったようだけれど。
「ロルフも、彼なりに寄り添う努力をしてくれてますよ。だからまぁ、それなりに上手くやってけるんじゃないかって、今は思ってます」
 彼らのことは信頼している。私を愛し、全力で守ろうとしてくれる今のその姿を疑ってはいない。
 でも先のことはわからない。時間と環境は人を容易に変化させる。私の全てを、彼らに委ねるつもりはない。最後に私を守るのは私だ。私の世界の王は、私だ。
「…それでも上手く、いかなかったら?」
 レディの言葉に、私はニコリと笑う。
「さっき言った通りです。できるかぎり努力はしますけどね、嫌になったら放り出して逃げてやりますよ」
 レディはこちらをチラっと見た後、口の端を少しだけ上げた。
「…あなた、いい性格してるわ」
「でしょう?」
 ニヒっと歯を見せて笑うと、レディは呆れたようにフゥとため息をついた。でも今までより少し、態度が軟化したような気がした。

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