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混血系大公編:第一部

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 食事を終えた私たちは身支度を終えて、宿を引き払った。ロルフは朝にもセックスしたせいか非常にご機嫌で、私にチュッと軽くキスを寄越してさっさと出て行った。
 同行した団員たちも、集合時間に合わせて宿前にキチンと全員集合している。ただ飲みすぎちゃったのか、顔色の悪い団員が1名見受けられる。
「そこ、二日酔い?帰り道も任務を請け負ってるって通達したはずだけど」
「あぁ、へへ、つい…」
 ヘラヘラと笑って返答したのは、戦後に入った若い隊員だ。名前はルードルフ。ビートよりは先輩で、そこそこ仕事をこなせるようになって変に自信がついちゃったって感じかな。こりゃ私が隊長だからって、舐めてんな?団長ではあるものの久しぶりに現場で指揮を取るのもあるし、元々支援職だからそこまで強くもない。力を信望するタイプの人間は私よりビョルンやロルフを崇拝していて、私がトップであることに疑念を抱いている者もいる。それでも、こんなあからさまに態度に出す奴はいなかったけどね。
 舐めた態度にアンリが顔をしかめて、私に視線を送る。代わりに注意しようか?って意味だと思う。私は軽く首を振ってそれを制し、彼の目の前に立って宣告した。
「あなたは、ここで帰っていいわ」
「ヘ…ッ?」
 間抜けな声を出して固まったルードルフに、冷ややかな視線を送る。
「聞こえなかった?帰れっつったの。そんな酒臭い息を撒き散らして、アンタなに考えてんの?」
「い、いやだって、元は帰るだけって話だったじゃないすか…」
 だから飲んでもいいと思ったって?アホか。
「元は、ね。でも昨日ちゃんと通達したよね?だったらそれにコンディション合わせるのはプロとして当然じゃない?こちとら遠足に来てんじゃねーのよ仕事なのよ。一瞬の隙が命取りになる、護衛任務なの。アンタのせいで護衛対象になんかあったらどうすんの?クソみたいなアンタのせいで、仲間が怪我したり命落としたりする可能性もあんのよ。仕事舐めてんの?仕事に対する姿勢もわからないバカにいられちゃ迷惑なのよ!」
「なんだと…ッ!」
 カァっとルードルフの顔に朱が差し、頭に血が昇ったことがわかる。まぁ、自分より圧倒的に小柄で弱そうで下に見ている(上司だけどね!)相手にここまでこき下ろされたら、腹も立つだろう。だからこそ煽ってやる。アンタのやっすいプライド、ここでへし折ってやるからな!
「そんなんじゃさぞかし普段の任務も足手まといの役立たずなんだろうね?このど素人が!!」
「F××kin’b××h!」
 まぁ、多少の自信をつけていた若手からすりゃあ一番言われたくない言葉よね。多分。怒りで我を忘れた彼が、剣の束に手を掛ける。辺りを取り囲んでいた団員たちも、「何してんだテメェ!」「この馬鹿野郎!」などと怒号を上げ、次々に剣に手を掛ける。うんうん、瞬時に対応できてえらいね。
 でも、遅い。

 バチバチィッ!!
「ガ…ッ!」
 私の両手が、剣を引き抜こうとしたルードルフの腕に触れる。その瞬間、ガクガクと彼の体が震えて崩れ落ちる。あれ、威力強すぎたかな?地面に倒れ伏したまま動かないんですけど…。これ、元々常に身に着けてる護身装具の効果で、私が攻撃なり受けて魔力が乱れた時に両手で相手に触れると発動するようになっている。スタンガンみたいに雷撃が相手の体を通って、動きを止めるってやつなんだけど…。イスの協力で威力が上がっちゃったから、もしかして気絶しちゃったかも。
「え。死んでないよね?」
 恐る恐るイスを見ると、彼はグッと眉間に皺を寄せてみせた。
「死なないように調整はしている。だが、お前を襲おうとした人間は死んでもいいと思う」
「いやいや、いちおうウチの団員なのよ…」
 ぶっちゃけ私も煽っちゃったし、こんなんでもウチの大切な団員だしね。鼻に手をかざして、呼吸を確認する。よかった、生きてるわ。
「団長、このバカどうします?」
 このまま放置でいいんじゃねぇすか?とか酷いこと言ってる団員を制する。
「さすがにダメでしょ。往来の邪魔になるし」
 周囲にはけっこう野次馬が集まっている。ガタイのいい男を小柄な女が瞬時に倒したので、ちょっとしたパフォーマンスになっちゃったみたい。目撃した人が後から集まってきた人に、興奮しながら事のあらましを語っている。
「水ぶっかけましょうかい?」
「いやいや、風邪引いちゃうでしょ。ちょっと待って、バッグのどこかにブランデー持ってたと思うけど」
 ロルフの持ってるブランデー、気つけにも使えるから少量拝借してきたのよね。「母ちゃん…?」と呟いた年上のゴツい男を小突きつつ、バッグの中身をさばくる。いかん、バッグの中身が整理できない女なのがばれるー。
「うぅ…」
 でもロルフ秘蔵?のブランデーの出番はなかった。うめき声を上げながら、ルードルフが目を覚ます。おお、さすが我が団員。頑丈だね。意識を失っていたのは一瞬だったみたいだ。
「大丈夫そ?」
「……」
 しゃがんで覗き込むと、目をパチパチ瞬かせて、なにが起こったのか理解できていないようだ。
「おいバカ、覚えてるか?お前団長に一瞬でやられたんだぞ」
 ルードルフの先輩団員が告げると、徐々に思い出したのか、顔を押さえて「マジかよ…」と呟いている。
「お前なぁ、弱い人間がウチの団長になれるわけないだろ?あのボナ・ノクテムの最前線で戦った人だぞ。ルーキーから脱したばかりのお前が、敵うわけねぇんだよ」
「……」
 身に着けている魔道具の効果ですけどね。ただこれを開発したのは私だし、私の実力の内だと言わせてもらっていいと思う。剣を抜くモーションや詠唱が不要な分、他の人たちより攻撃速度も早いから、だいたい先手を取れるのも強みですよ。

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