175 / 198
混血系大公編:第一部
57
しおりを挟む「先ほど誓約を編んだ際、なじみのない魔術式を感じた。干渉はしなかったから、そのまま誓約を編んだが…。私は詳しくはないが、他の塔で様々な地域の魔術系統を研究している者が数名いる。彼女らが発表した論文に載っていた…東諸島に伝わる魔術に似ている、と思う」
「東諸島…」
イスの言葉に、ダービー伯が反応する。
「アマニータが嫁いだブリック伯家は、確か血族に東諸島出身の者がいたかと…」
「じゃあ、ブリック伯かその親族が、レディに何かしたってこと…?」
「………」
イスが難しい顔をして、彼女をじっと見つめる。その呪術?を読み解こうとしているようだ。その様子を固唾を飲んで見守っていると、イスが頷いた。
「私たちの誓約に似ているが、それより数段凶悪だ。心臓近くに、魔力で練られた針のようなものが見える。言葉か行動か…指定された何らかの言動を引き金にしてその針が彼女の心臓に突き刺さり、彼女を殺すのだと思う」
「神よ…!」
ダービー伯が悲鳴に似た声を上げ、レディの体を抱く。レディは青ざめたまま、父親に身を寄せる。
「塔長殿、なんとか、なんとかできないのですか?!」
「力づくで解くことは、できると思う。レディに何かしらの影響が出る可能性があるが」
影響出ちゃうの?!
「そっ、それはやめていただきたい…!」
ダービー伯が間髪入れずに叫ぶ。そりゃそうよね。娘が得体のしれない術を掛けられた上、何かもわからない影響が出ちゃうかもしれないなんて許容できんわ。
「イス、他の方法はないの?」
「私は専門外だ。これ以上は読み解けない」
「さっき言った、他国の魔術系統を研究している人に見てもらうことは?」
「彼女はあちこちに出向くことが多いからな…不在かもしれないが、聞いてみよう。ウォリック伯、通信具を借りたい」
「通信室へ案内します」
ハリーさんが執事さんに伝え、イスは案内されて部屋を出て行った。私は再びレディに向き直り、彼女に話しかける。
「…いままで、怖かったでしょう」
「……」
「ひとりで、よくがんばったね」
様子を見ながら、そっと手に触れる。拒否されなかったので、震える彼女の手を、包み込むように握る。
「イスたちサークルの魔術師は、とても頼りになる人たちだよ。私も、ひどい魔法陣を編み込まれていたんだけど…イスが解析して、なんとかしてくれたの。彼らならきっと、貴女のその恐ろしいものもなんとかしてくれる」
彼女の手が震えている。その手をそっとさする。彼女は唇を震わせながら、弱弱しい声を出す。
「どうして…」
「ん?」
「私、ゆ、誘惑、したのに…」
…ロルフの事だよね。そりゃあ腹は立ったけど、私の夫…じゃない婚約者たちはとても魅力的だし。そんな男性を複婚で独り占めしようとしてるんだから、嫉妬や誘惑は仕方がないかな、と思っている。もちろん、やられて気持ちいいものではないけどね。
でもさ。
「きっと、何か事情があったのではない?」
「……」
「だから、そのことは今は置いときましょう。まずは貴女を苦しめるものを何とかしなきゃ」
ポロポロと、彼女の目から涙が零れ落ちる。
「わ、私、ずっと…」
「うん」
「怖くて、く、苦しくて。自分でも、どうしたら…いいか…」
「うん。大変だったね。貴女はよく頑張ったよ」
「う、うぅ……」
彼女の目が、ようやく私を見る。ギュッと縋りつくように、私の手を握り返して。
「……助けて……」
「うん、助ける」
穏やかに、でもハッキリとそう告げて。私は彼女が落ち着くまで、その手をさすり続けた。
それからしばらくして、イスが戻ってきた。表情から状況は読み取れないけど、眉間に皺が寄っていないから上手くいきそうな感じかな?
「朗報だ」
ビンゴ。私もだいぶイスの表情…雰囲気?から察することができるようになった気がする。
「研究の第一人者は他地域へ出てしまっているそうだが、彼女の弟子で東諸島の魔術を研究している者がちょうど帝国に向かっているのだそうだ」
なんという偶然!
「じゃあ、レディはこのまま帝国に向かうことにしませんか?私たちと一緒に行けば護衛は不要ですし」
「ああ、そうしてもらえるとありがたい…。我が家の騎士もつけて構わないか?」
「もちろん。レディもその方が安心できるでしょう」
ダービー伯とそう話すものの、当の本人はここにはいない。涙も止まって先ほどより落ち着いたものの、かなり顔色が悪かったので別室で休むことになったのだ。先ほどの女性騎士たちにエスコートされ、イスが戻ってくる前に部屋を出て行った。だから遠慮なく、話ができる。
『彼女の身の安全をどうやって確保するか』ということを。
ショックを受けてはいけないと誰もが口にしなかったが、レディは間違いなく命を狙われるだろう。あのローブを渡し、呪術を施した『誰か』が彼女を放っておくとは思えない。
「イス、ちなみに彼女に施された呪術ってキーワードがなければ絶対発動しない?外部からこう、強制的に発動させられるようなことはないのかな」
「…なかなか凶悪なことを考えるな…」
イスが呆れたような声を発する。ダービー伯の顔が青ざめている。えっ、そんなひどいこと言った?
「私ではあの魔術言語を読み解けないから、なんとも言えないが…レディは魔力が少ないから、そこまで複雑な魔術を編み込むのは難しいだろう。誓約にしろ呪術にしろ、編み込んだあとは本人の魔力を使うからな」
「ああ、なるほど」
制約も複雑になればなるほど、大量の魔力を使用することになる。本人の魔力が少なければ、魔力が足りずにそもそも発動できなくなっちゃうもんね。
ダービー伯がホッと胸を撫でおろしているのが目に入る。余計な心労を掛けさせてしまってすみません…。
0
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました
空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」
――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。
今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって……
気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】
阿佐夜つ希
恋愛
『貴女には、これから我々四人の賢者とセックスしていただきます』――。
三十路のフリーター・篠永雛莉(しのながひなり)は自宅で酒を呷って倒れた直後、真っ裸の美女の姿でイケメン四人に囲まれていた。
雛莉を聖女と呼ぶ男たちいわく、世界を救うためには聖女の体に魔力を注がなければならないらしい。その方法が【儀式】と名を冠せられたセックスなのだという。
今まさに魔獸の被害に苦しむ人々を救うため――。人命が懸かっているなら四の五の言っていられない。雛莉が四人の賢者との【儀式】を了承する一方で、賢者の一部は聖女を抱くことに抵抗を抱いている様子で――?
◇◇◆◇◇
イケメン四人に溺愛される異世界逆ハーレムです。
タイプの違う四人に愛される様を、どうぞお楽しみください。(毎日更新)
※性描写がある話にはサブタイトルに【☆】を、残酷な表現がある話には【■】を付けてあります。
それぞれの該当話の冒頭にも注意書きをさせて頂いております。
※ムーンライトノベルズ、Nolaノベルにも投稿しています。
5人の旦那様と365日の蜜日【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる!
そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。
ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。
対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。
※♡が付く話はHシーンです
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました
春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。
大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。
――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!?
「その男のどこがいいんですか」
「どこって……おちんちん、かしら」
(だって貴方のモノだもの)
そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!?
拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。
※他サイト様でも公開しております。
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる