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混血系大公編:第一部
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そんなに大きな声ではなかったのに、その場が急に静まり返る。
「証拠、と言ったか…?」
ダービー伯が顔をしかめる。きっと証拠なんてないと思ってたから、多少強引にでも丸め込んで、ロルフも悪かったようにして責任を取らせようと…あぁもう完全にダービー伯の希望が見えたわ。娘の厄介払い先として、私たちを利用しようとしてたってことよね。この狸ジジイめ!!
「あぁ、話が逸れてすっかり失念しておりました。私が附術師であることは、ご存じですよね?団員達には基本、何かあった時の記録用に、音声を記録できる魔道具を渡しているんです」
何とか呼吸を整えて、私は表情を取り繕ってソファに座り直す。実は句読点の合間にハァハァ荒い呼吸が入ってるけど無視してくれい。ピアスは録音機能のみしか附術を刻んでいないので、予め再生できる魔道具にセットして持って来てある。それをテーブルの上に置き、そのまま再生してやる。
「被害者が加害者に責任を負う必要、あります?」
父親が聞くには辛い内容かもだけど、もう容赦しねーぞ!
『何だテメェ、何しやがる?!
『ロルフ様、暴れると危ないですわ。そのままじっとしていてくだされば、私がご奉仕いたしますから…』
『気持ち悪りぃなクソアマが、触んじゃねぇ!』
バチバチィ!
『キャァ…!……ッ!!』
短い録音だけれど、ロルフが完全にレディを拒んでいたということはハッキリするだろう。難しい顔をしているダービー伯に向かって、アンリが口を開く。
「私はロルフの隣の続き部屋で休んでおり、騒ぎを聞いてすぐにそちらへ向かおうとしましたが、扉には鍵が掛かっていました。私たちは掛けた覚えはないので、レディが掛けたのでしょうね?それに逃げられないよう、拘束具まで準備していたのですから…これは強姦未遂と言われても仕方がないでしょう」
「ご…?!か、か弱い娘が、屈強な男にそんなことをできるわけがないだろう!」
「たまたま、結果的に、未遂に終わっただけです。ロープが千切れなかったら?隣が物音に気づかなかったら?一体どうなっていたでしょうね?」
「…先ほどの音声では、その後のことはわからないではないか」
「確かにそうですね。でもこの音声と、先ほどのレディへの態度と、今の彼の様子。それを見て、レディの誘惑に乗ったと思う人がどれだけいるでしょうね」
ロルフの膝にそっと手を置く。彼は灰色の目を開いて私を見つめ、グリグリと頭を押し付けて来た。痛い痛い。
「こう見えて妻に一途なんです、この人」
ホント、見た目だけなら男も女も選び放題!なくらいイケメンなのにねー。どうしてこんなに私に惚れ込んじゃったんだか。
「…しかし、女に誘惑されたくらいで男が被害者などと」
往生際の悪い言い方をしたダービー伯に、イラっとして畳み掛けてやる。
「あのねぇ、誘惑なんて可愛いもんじゃないんですよ。さっきの話聞いてました?拘束して彼を自分の好きに扱おうとしてたんですよ、貴方の娘さんは!大方ロルフがそちらの屋敷に滞在中に誘惑しようとして、全く相手にされなかったから強硬手段に出たんでしょうけどね。男ならみんな、女の誘惑を喜ぶなんて思ってます?男だって好きでもなんでもない女に無理矢理犯されそうになったら、傷つくしトラウマになるに決まってんでしょうが!」
おかげでウチではロルフが大暴れして大変だったんだからな!!
そんな怒りを込めて強めに言ってやると、ダービー伯は額を押さえながら唸った。
「しかし…しかし、今までの男はそうだった。嘘であってくれればどれだけ良いかと思ったが、みんな娘の誘惑に乗ってしまって…しかも相手がいるような男ばかりだ。その度にどれだけ苦労して収めて来たか…」
重い、重い、ため息を吐く。ああ、うん、心中お察しします…。
でもこれじゃあ平行線だな。音声が決定的な証拠ではない以上、ダービー伯も娘が完全な加害者だと認めることはないだろう。
「…まぁ、いいでしょう。本題はここからなんで、一旦その話は保留にしましょうか」
私の言葉に、ダービー伯とハリーさんがエッと同時にこちらを向く。おおん?これで終わりだとでも思ったか?
「これだけの話のために、わざわざサークルの塔長を連れてくると思いますか?別件があると言ったでしょう。ね、イス」
イスに振ると、彼は頷いて口を開いた。
「ここから先は、秘匿事項となる。人払いを頼めるか」
「ああ…承知しました」
ハリーさんは事前に聞いていたこともあり、メイドさんや執事さん、騎士さん達を全員下がらせる。本来なら護衛の騎士さんくらいは置くべきなんだろうけど、ロルフもイスもいるしね。ハリーさんも戦える人だし、問題はない。
「ダービー伯、貴殿に秘匿の誓約を編む」
「わ、私だけですか…?」
「他の者には、過去に既に編み込んでいる。それから、私の魔力は他者に馴染みにくい。相当気分が悪くなるだろうが耐えてくれ」
「えぇ…ッ?!」
言うなり、容赦なく魔術を紡ぎ始める。ダービー伯は途端に顔色が悪くなって口元を押さえていたけれど、遠慮なしにどんどん誓約を編み込んでいく。まぁ、イスさんもさっきのダービー伯の言い分に腹を立ててたもんね。ちょっと復讐を兼ねているのかもしれない。
私は目を瞑って静かにしているロルフの肩をトントンと叩き、耳栓を取らせる。
「もういいのか?」
「うん。ここから本題に入るよ。今はダービー伯に誓約を編んでいるところ」
ものすごーく気分が悪そうに俯いているダービー伯を見て、ロルフが「へッ」と鼻で笑う。
「ざまぁねぇな」
「あはは…」
可哀想だけれど、私もぶっちゃけ同じ気分です。
それから誓約が無事に済んで、ダービー伯が回復するのを待ちながらイスが防音の魔道具を作動させ、それからようやく本題に入ることができた。
「証拠、と言ったか…?」
ダービー伯が顔をしかめる。きっと証拠なんてないと思ってたから、多少強引にでも丸め込んで、ロルフも悪かったようにして責任を取らせようと…あぁもう完全にダービー伯の希望が見えたわ。娘の厄介払い先として、私たちを利用しようとしてたってことよね。この狸ジジイめ!!
「あぁ、話が逸れてすっかり失念しておりました。私が附術師であることは、ご存じですよね?団員達には基本、何かあった時の記録用に、音声を記録できる魔道具を渡しているんです」
何とか呼吸を整えて、私は表情を取り繕ってソファに座り直す。実は句読点の合間にハァハァ荒い呼吸が入ってるけど無視してくれい。ピアスは録音機能のみしか附術を刻んでいないので、予め再生できる魔道具にセットして持って来てある。それをテーブルの上に置き、そのまま再生してやる。
「被害者が加害者に責任を負う必要、あります?」
父親が聞くには辛い内容かもだけど、もう容赦しねーぞ!
『何だテメェ、何しやがる?!
『ロルフ様、暴れると危ないですわ。そのままじっとしていてくだされば、私がご奉仕いたしますから…』
『気持ち悪りぃなクソアマが、触んじゃねぇ!』
バチバチィ!
『キャァ…!……ッ!!』
短い録音だけれど、ロルフが完全にレディを拒んでいたということはハッキリするだろう。難しい顔をしているダービー伯に向かって、アンリが口を開く。
「私はロルフの隣の続き部屋で休んでおり、騒ぎを聞いてすぐにそちらへ向かおうとしましたが、扉には鍵が掛かっていました。私たちは掛けた覚えはないので、レディが掛けたのでしょうね?それに逃げられないよう、拘束具まで準備していたのですから…これは強姦未遂と言われても仕方がないでしょう」
「ご…?!か、か弱い娘が、屈強な男にそんなことをできるわけがないだろう!」
「たまたま、結果的に、未遂に終わっただけです。ロープが千切れなかったら?隣が物音に気づかなかったら?一体どうなっていたでしょうね?」
「…先ほどの音声では、その後のことはわからないではないか」
「確かにそうですね。でもこの音声と、先ほどのレディへの態度と、今の彼の様子。それを見て、レディの誘惑に乗ったと思う人がどれだけいるでしょうね」
ロルフの膝にそっと手を置く。彼は灰色の目を開いて私を見つめ、グリグリと頭を押し付けて来た。痛い痛い。
「こう見えて妻に一途なんです、この人」
ホント、見た目だけなら男も女も選び放題!なくらいイケメンなのにねー。どうしてこんなに私に惚れ込んじゃったんだか。
「…しかし、女に誘惑されたくらいで男が被害者などと」
往生際の悪い言い方をしたダービー伯に、イラっとして畳み掛けてやる。
「あのねぇ、誘惑なんて可愛いもんじゃないんですよ。さっきの話聞いてました?拘束して彼を自分の好きに扱おうとしてたんですよ、貴方の娘さんは!大方ロルフがそちらの屋敷に滞在中に誘惑しようとして、全く相手にされなかったから強硬手段に出たんでしょうけどね。男ならみんな、女の誘惑を喜ぶなんて思ってます?男だって好きでもなんでもない女に無理矢理犯されそうになったら、傷つくしトラウマになるに決まってんでしょうが!」
おかげでウチではロルフが大暴れして大変だったんだからな!!
そんな怒りを込めて強めに言ってやると、ダービー伯は額を押さえながら唸った。
「しかし…しかし、今までの男はそうだった。嘘であってくれればどれだけ良いかと思ったが、みんな娘の誘惑に乗ってしまって…しかも相手がいるような男ばかりだ。その度にどれだけ苦労して収めて来たか…」
重い、重い、ため息を吐く。ああ、うん、心中お察しします…。
でもこれじゃあ平行線だな。音声が決定的な証拠ではない以上、ダービー伯も娘が完全な加害者だと認めることはないだろう。
「…まぁ、いいでしょう。本題はここからなんで、一旦その話は保留にしましょうか」
私の言葉に、ダービー伯とハリーさんがエッと同時にこちらを向く。おおん?これで終わりだとでも思ったか?
「これだけの話のために、わざわざサークルの塔長を連れてくると思いますか?別件があると言ったでしょう。ね、イス」
イスに振ると、彼は頷いて口を開いた。
「ここから先は、秘匿事項となる。人払いを頼めるか」
「ああ…承知しました」
ハリーさんは事前に聞いていたこともあり、メイドさんや執事さん、騎士さん達を全員下がらせる。本来なら護衛の騎士さんくらいは置くべきなんだろうけど、ロルフもイスもいるしね。ハリーさんも戦える人だし、問題はない。
「ダービー伯、貴殿に秘匿の誓約を編む」
「わ、私だけですか…?」
「他の者には、過去に既に編み込んでいる。それから、私の魔力は他者に馴染みにくい。相当気分が悪くなるだろうが耐えてくれ」
「えぇ…ッ?!」
言うなり、容赦なく魔術を紡ぎ始める。ダービー伯は途端に顔色が悪くなって口元を押さえていたけれど、遠慮なしにどんどん誓約を編み込んでいく。まぁ、イスさんもさっきのダービー伯の言い分に腹を立ててたもんね。ちょっと復讐を兼ねているのかもしれない。
私は目を瞑って静かにしているロルフの肩をトントンと叩き、耳栓を取らせる。
「もういいのか?」
「うん。ここから本題に入るよ。今はダービー伯に誓約を編んでいるところ」
ものすごーく気分が悪そうに俯いているダービー伯を見て、ロルフが「へッ」と鼻で笑う。
「ざまぁねぇな」
「あはは…」
可哀想だけれど、私もぶっちゃけ同じ気分です。
それから誓約が無事に済んで、ダービー伯が回復するのを待ちながらイスが防音の魔道具を作動させ、それからようやく本題に入ることができた。
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