上 下
167 / 198
混血系大公編:第一部

49

しおりを挟む
 夕方になり、ダービー伯が到着されたとの知らせが入った。奥様にお茶のお礼を言って部屋を辞し、メイドさんに案内してもらってまた応接室へ向かう。奥様には「またお手紙を送ってもよろしいですか?まだまだ話足りませんわ」と仰っていただけたので、よろこんでと答えておいた。今まで貴族の友人や知人はいても、ほぼ男性だったからね。貴族女性の友人ができるのはありがたいし、純粋に嬉しい。歳食ってくると、どんどん新しい友人って作れなくなっていくからねー。特に前世は独身だったからか、同世代の人たちはだいたい家庭を持っていて付き合いは疎遠になっちゃったし。一番の親友は家族持ちでもちょくちょく食事に誘ってくれたけど、やっぱり出てくるのって子どもの話なんだよね。
その親友は「子どもの話しかしないと思ってる?でもごめん子どものことしかねーのよ話題が!何故なら!子どもとしか接してねぇから!生活の大部分が子どもと夫の世話で占められてるから!そら主婦は社会から取り残されるわ―!!」なんて叫んでいた。…うん、面白い子だったわ。
 いかん話が逸れた。とにかく歳を食えば食うほど、新しい出会いは貴重だと思う。特に友人になれそうな人との出会いは。そう思えば、今回のトラブルも無駄ではなかったのかもね。
 そんなことを考えているうちに、応接室に到着した。


「おかえりシャトラ。妻の相手をしてくれてありがとう」
 応接室に戻ると3人の男たちもビジネスの話は終わっていたようで、にこやかに談笑していた。ハリーさんにお礼を言われたので、私は「こちらこそ」と返しながらイスの隣に腰掛ける。
「素敵な奥様ですね。また文通するお約束をしました」
「それはよかった。忙しいだろうが、合間にでも相手してくれるとありがたいよ」
「よろこんで」
 そこからまた話していると、ダービー伯が到着された執事さんが伝えに来た。それから執事さんが私たちに聞こえない様に、ハリーさんに耳打ちをする。ハリーさんは額を手で押さえたあと、私たちに向き直った。
「すまない。まずは私だけでダービー伯に挨拶してくる」
「あ、はい…?」
「君たちは、娘の準備ができてから来てもらいたいそうだ」
「…娘さんだけ、到着が遅れてらっしゃるんですか?」
「門を通ったのは間違いない。大方、身支度に時間がかかっているんじゃないか?自分を美しく見せることには余念のない女だから。まぁダービー伯は、君たちの主張を私から聞いておきたいのだろうね」
「へぇ!それはありがたいです」
 公平な方のようで、こちらとしても非常にありがたい。
「どちらかというと、娘の主張を頭から信じられないのではないかな?」
「おー…」
 それは何というか、こちらは助かるけれどご愁傷様というか。
「だからこそ、私も中立の立場でいかせてもらうよ」
「ええ、もちろん。ハリーさんが中立じゃないと、オーバーキルになっちゃいますからねー」
 ニヤっと笑ってやると、ハリーさんが楽しそうに目を細める。
「おお、すごい自信じゃないか。いやぁ、これは楽しみだ」
 そう言いながら応接室を出て行ったので、イスとアンリと待つことにした。
「ビジネスって何の話だった?」
「ああ。ウォリック伯爵領で狩られた魔獣を解体した際に、何らかの結晶体が見つかったそうだ。その性質を調べる魔道具はないかと聞かれた」
「結晶体?そんなのあるの?」
 私たちも魔獣を狩った際は売れそうな部位を解体して買取屋に持ち込むけれど、結晶体なんて見たことない。
「今までもごく稀に、見つかったという話は聞いたことがある。だが特に使い道があるわけでもなく、屑石扱いだった。それが最近、その結晶体を有する個体が徐々に増えているように感じると言っていた。そこでそれがどういう性質のものか、何か悪い前兆ではないか、もしくは資源として有効活用できるものなのか。調べるためにサークルに相談を持ちかけようとしたようだが、まだ件数がそれほどあるわけでもないからと断られたそうだ。まぁ、どこの塔の魔術師も常時忙しくしているからな。よほど興味を惹くか伝手でもない限り、取り上げられるのは難しいと思う」
「えッ、そうなの?」
 私なんか魔術師関連の頼み事あるとすぐイスに相談して、解決してもらってたんだけど。それってもしやすごい迷惑だったんじゃなかろうか。
「うわごめんね、私イスに負担かけてたんじゃない?」
「そんなことはない」
 いやでも塔長になる以前からイスって忙しい人だったよね。なのにだいたいすぐ解決してくれてたもん、申し訳ないことをした。
「そりゃー団長にいい顔見せたかったんでしょ。男は女にカッコつけたい生き物だからさぁ、ねぇ塔長サマ?」
「うるさい黙れ」
「容赦ないぶった切り!」
 無表情でアンリに冷たく言い放つイスに、少し笑ってから彼の腕にそっと触れる。
「ありがとう、イス」
「…いや、いい」
 イスは私の手に自信の手を重ねると、チュッと軽く口づけて来た。こらこら。
「ちょっと、人前!」
 慌ててイスから距離を取る。アンリもいるけれど、ここはウォリック伯邸の応接間。メイドさんも騎士の人もいる。皆さんプロだからシレっとしているけど、絶対に見られているはずだ。
「許可は不要だといったじゃないか」
「TPOは考えてくださーい」
「じゃあ何でその気にさせたんだ」
「その気ってなに?!させた覚えありませんけど?!」
 なんという冤罪!イスの滅茶苦茶ないい分に憤慨していると、何故だかアンリがしみじみと頷いた。
「なるほど、ロルフはオープンスケベだけど塔長はムッツリスケベか…。ねぇ団長、副団長は何スケベ?」
「知るかこのスケコマシ!」
 ギャーギャー騒いでいると、部屋の壁沿いでブフゥと吹き出す声が一瞬入る。プロの皆さんではあるが、堪えきれずに一部の人が吹き出してしまったらしい。ゲフゲフ咳をして取り繕っていたけれど、なんかスミマセン…。
 そんなこんなで騒いでいるうちに時間が過ぎて、執事さんらしき人が呼びに来てくれた。どうやらダービー伯の娘も到着し、対談の準備が整ったらしい。
 さぁ、戦いに出ましょうか。
 イスとアンリと目配せをして、私たちは席を立った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

処理中です...