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混血系大公編:第一部

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「それで早速なんですけれど。あの女については、常識が通用しないとお考えになった方がよろしいですわ」
 メイドさんが注いでくれたお茶を飲みながら、さっそく奥様が切り出す。奥様は妊娠中ということでハーブティー、私は別で紅茶を淹れてくれると言われたけれど、興味があったので奥様と同じものをいただいた。ローズヒップとルイボスのブレンドかな?見た目も赤くて綺麗だし、ハーブティーの中では圧倒的に飲みやすい味だと思う。美味しい。
「具体的にお伺いしても?」
「そうですわね…」
 奥様が頬に手を当て、少し虚空を見つめる。そんな仕草も自然なのに上品で、貴族女性ってホント骨の髄までマナーが叩きこまれてるんだなって感じる。子どもの頃からの積み重ねよね、こういうのって。元貴族のアンリだって、食事のマナーは完璧だったし。…こんなガサツな私が、貴族としてやっていけるんだろうか。ヴァレさん、やっぱ考え直してくれないかな?
「子どものころ、とにかく自分が話題の中心にいないと気が済まないような性格の者が、周囲にいたことはありませんか?それが、そのまま大人になったような者と考えていただくとよろしいですわ。とにかく、自分が中心にいないと気が済まない女なんですのよ。特に男性に対しては、その傾向がひどいみたいなんです。常識や良識よりも優先すべきは、自分が男性に傅かれることなんですわ。嫁いだ後も何度もトラブルを起こしては、彼女の夫が謝罪に回っていたそうですよ。本当に気の毒ですわ」
「うわぁ、夫が謝罪するんですか?夫も被害者なのに…」
「ええ、本当に、常識知らずなんです。主人が言うには、嫁ぐ前はここまでひどくなかったそうなんですけれど…お父上のダービー伯が、上手く隠していたのかもしれませんわね」
 奥様の言葉に、少し考えを巡らせる。お父さんがいる間は締め付けられてセーブされていたけれど、彼女の夫には他に妻がいるそうだから、制御しきれてないってことなのか。それとも嫁いだ後に、彼女が変わるきっかけがあったのか…。
「とにかく男性に対しては愛想がいいですけれど、女性への接し方はそれはもうひどいのですわ。私も夫のいないところでどれだけ嫌味を言われたか…。今回の話し合いの場に、女性は英雄様とあの女だけになるのでしょう?間違いなく、標的にされますわ。お気を付けくださいましね」
 憂い顔でため息をつく姿も、品がある。すごいなぁと思うけれど、マネできる気がしないわー。
「もしかして、奥様が参加されたいと仰ったのは…私1人を標的にさせないためですか?」
 奥様は答えず、ニコリと微笑むだけだった。
 …うわぁ。この人ハリーさんの前では可愛らしく振る舞っていたけれど、めちゃくちゃカッコいい人だわ。
「ご忠告感謝します」
「いいえ。失礼ながら、英雄様は男勝りな方だと思っておりましたの。ですから、女の戦いは不得手なのではと…。でもお話しさせていただいて、余計な心配だと気づきましたわ。夫から報告を聞くのを、楽しみにしております」
 そりゃまぁね。傭兵団が大きくなるにつれ、力づくだけでは解決できないことが増えていったんだけど…ウチの団って脳筋が大多数を占めてたからねー。みんな面倒くさいからって、交渉毎はだいたい私に振られましたよ。当時から今に至るまで、平民貴族男女問わずやり合って来ましたからねぇ…。主に舌戦で。私に勝てる奴はそうそういないと思いますよ。
「それでも、私が調べたあの毒婦についての情報は、お伝えしてもよろしいかしら?女の戦いに役立てていただけると嬉しいわ」
「わ、すごく助かります」
 それから奥様に、毒婦についての情報を教えてもらいながら、「えー!信じられない!」「でしょう?!本当に非常識なんですのよ!」なんて2人で大騒ぎした。ごめんけど、人の悪口ってちょっと盛り上がっちゃうよねー。ひと通り聞き終わって、悪い笑みを交わし合う。
「貴重な情報をありがとうございます。これで百人力です」
「うふふ、私にはもう使いどころがなさそうですから。あぁ、なんだかスッキリしたわ」
「ふふ。ところで、体調はいかがですか?」
「ええ、少し悪阻はあるけれど、それほどひどくはないんですの。逆に周囲に大事にされすぎて、もどかしいくらいなんですわ」
「あはは…まぁ、それだけ大切にされてるのはありがたいんですけどね…」
 ビョルンさんの過保護が思い浮かばれる…。
「…気持ちはわからないでもないんですの。実は…」
 どうやら奥様は前回の妊娠が流産だったらしく、ハリーさんが特に心配してとにかく安静にするようにと言われてしまっているらしい。
「それは…確かに、心配ですね」
「ご心配いただいてありがとう。でも初期のうちに起こったことだから、珍しいことではないのだそうですわ。それこそ、ウチみたいにお抱えの魔術医がいなければ、気づかない人も多いくらいなのですって。それにもう一度、私たちの元へ来てくれたのですもの。…今は随分、心が落ち着いたのですよ」
 そう離した奥様の表情は、穏やかに微笑んでいるけれど少し寂しげで。私はその気持ちが少しだけわかってしまう。
 あの時、ビョルンとロルフとの初夜の後。生理が遅れたのは、このお腹に命が宿っていたからではないか。あの時の命が育っていたら、今頃どのくらいお腹が膨らんでいただろう。いつ頃、産まれていただろう。
 実際に宿っていたかどうかもわからないのに、ふと、思い描いてしまう時がある。考えても仕方のないことだとわかっているけれど、それでも、考えてしまうのだ。
「ごめんなさい。急にこんな話をして…」
「いいえ」
「なかなか、貴族のお友達の間ではこう言ったことを話すのは難しいんですの。どこで揚げ足を取られるか、わからないものですから」
 ああ、そうなんだ。私なんて自分の事ならほとんど明け透けに話しちゃうんだけど、貴族になったら自分と気の合う人とだけ付き合うってわけにはいかないものね。そういうことも気をつけなきゃいけないんだ。勉強になります。 
「さ、暗い話はおしまい。よろしければ、英雄様のお話しを聞かせてくださらない?できればこう、夫君との馴れ初めなどを教えていただけると嬉しいんですけれど」
「あら、それじゃあハリーさんと奥様の馴れ初めも教えていただけるんですよね?」
「まぁ、私たちのなんて面白くありませんわよ?」
「それは伺った私が判断いたします」
「あら…なかなか仰いますわね」
「ふふふ…」
 女性は恋愛脳だなんていう人もいるけれど、確かに恋愛話が好きなのはかなりの人に当てはまるかも。その後はふたりで顔を見合わせて、キャッキャと恋愛話に花を咲かせた。

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