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混血系大公編:第一部
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しおりを挟む私は額を押さえつつ、アンリとロルフから聴き取った話をハリーさんへ伝えた。
「あぁ、そんな事だろうと思った。彼女、私と歳が近くて領地も隣だから、昔から知ってるんだけどね。どうにも若い頃から身持ちが悪くてさ。見かねた父親が、少し離れた領地の伯爵家へ第二夫人として嫁がせたんだけれど…まぁ、向こうでも色々あったみたいだよ。つい最近、急に戻って来たらしいけど…大方、離婚でも突きつけられたんじゃないかな。ロルフも運が悪かったねぇ」
「でもロルフ様は、あの毒婦に誘惑されなかったのですね。素晴らしいですわ。あの女、見た目はよいのでだいたいの男は欲望に負けて体の関係を持ってしまうのですよ」
おおう、ハリーさんの奥様、なかなかの毒舌ですわ。聞けばかつてハリーさんと奥様が婚約している時に、その毒婦はハリーさんを誘惑しようとしたらしい。幸いハリーさんは昔から彼女の所業を知っているので誘惑には乗らなかったけれど、奥様には『自分は幼馴染みで私の方が彼をよく知っている』とアピールがものすごかったらしい。めっちゃウザイやつやん…。
「ロルフは女嫌いで有名だったからね」
「まぁ、ストイックな方なんですのね」
「アハハ…」
確かに、ロルフはあのエロい見た目に反してストイックだなんて、傭兵界隈では言われてたんだよね。私と婚約する前は、浮いた噂がひとつもなかったから。実際は性的な目で見られるのが大嫌いなだけなんだけどね。私に対してはストイックどころか、欲望丸出しだしね…。
「そう思うと、君すごいよねぇ。あのロルフを落としたんだから」
「落としたっつーか、落とされたっつーか…」
「ん?どういうこと?教えてよ」
「えー…」
あまり言いたくないけれど、ハリーさんには迷惑を掛けているわけだし断りきれない。奥様も期待に満ちた目でこちらを見つめて来るし。
たっぷりと躊躇ったあと、仕方なしにビョルンとロルフと結婚することになった経緯…喉元にナイフ突きつけられたアレ…を話すと、少しの沈黙の後、ハリーさんとアンリが爆笑する声が部屋に響き渡った。
「ちょっ!ないわ!アイツまじでないわー!!」
「わはははは!はははははッ、ゲホゲフ!」
ハリーさん、笑いすぎて咽せとるがな。
そして奥様は「信じられない」と言った顔でこちらを見ている。
「あの、失礼ですが、それは脅迫なのでは…?」
「そー…うですね、でももう過ぎたことですし。貴族の方では経験することのないプロポーズだとは思いますけれども」
「いや貴族じゃなくても、そんなプロポーズないわー」
アンリてめぇ。奥様がめちゃくちゃ深刻な顔になっちゃったじゃないか。
「もしお困りでしたら、腕のいい弁護士を紹介いたしますが…」
えっ!なんか裁判沙汰になりそう?!
「本当に大丈夫です!始まりこそアレですが、今は合意の上で婚約関係になってますし!私もちゃんと幸せですから!ねッ、イス!」
「まぁ、問題はないと思う。少し甘やかしすぎだとは思うが」
イスのフォロー(?)もあってか、怪訝な顔をしつつも納得してくれたらしい。
「それならよろしいのですが…私でよろしければ、ご相談に乗りますから。遠慮なく仰ってくださいね」
「あ、はい。お気遣いありがとうございマス…」
なんかすごい真剣に心配されてしまった。常識はずれなカップルですみません…。そんな様子を見ていたハリーさんが、ようやく笑いを収めて優しげな眼差しを奥様に向けた。
「大丈夫だよ、ダーリン。彼女は配偶者にやり込められるようなタイプじゃないし、他の夫もついているからね」
「そう…そうですわね」
夫の言葉にようやく安心できたのか、奥様は表情を和らげて隣を見つめた。
わ、すごくいい雰囲気。
素敵なご夫婦なんだなぁとなんだかホッコリした。
「さて、話を戻そうか。ダービー伯は今日の夕方には到着すると思うよ。君たちより早く出たはずなのに、ずいぶんのんびりしてるよねぇ」
私たちは早駆けで来たから通常より早く着いたけど、馬車で無理せず来ても2日くらいの距離だ。私たちより1日早く出発しているそうだから、確かにのんびりとしているように思える。
「どうせあの娘が我儘を言っているのだろうよ」
肩をすくめるハリーさんに苦笑する。
「まぁそれでも、来ていただけるだけありがたいですよ。娘さんがなんて言ったかは分かりませんが、こちらが全部悪いと思ってたら、きっと来てくれないでしょうから」
「まぁそこはね。ダービー伯もずいぶんあの娘に振り回されて来たから、頭から信じるような事はしないと思うよ。ただ…」
ハリーさんの話では、娘さんが幼いうちに母親が亡くなってしまったらしい。もともと癇癪がひどい子だったけれど、母親が亡くなってからはさらにひどくなってしまった。伯爵様はお年でこれから子どもを作るのは難しいけれど、彼女が後継になるのも厳しいってことで、親戚から養子を取って後継者教育中…なのに問題の娘が出戻ってしまったので、ダービー伯は頭を悩ませているのだとか。
「だが、あちらもただのお人好しではない。ボナ・ノクテムの最中も、領地を運営し無事に乗り切った手腕の持ち主だ。その男がある程度下手に出るという事は、それなりの思惑があると思った方がいい」
「なるほど…」
その思惑ってようするに、何らかの要求ってことよね。なんとなく想像できちゃうけど、やだなー。
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