上 下
164 / 198
混血系大公編:第一部

46

しおりを挟む

 私は額を押さえつつ、アンリとロルフから聴き取った話をハリーさんへ伝えた。
「あぁ、そんな事だろうと思った。彼女、私と歳が近くて領地も隣だから、昔から知ってるんだけどね。どうにも若い頃から身持ちが悪くてさ。見かねた父親が、少し離れた領地の伯爵家へ第二夫人として嫁がせたんだけれど…まぁ、向こうでも色々あったみたいだよ。つい最近、急に戻って来たらしいけど…大方、離婚でも突きつけられたんじゃないかな。ロルフも運が悪かったねぇ」
「でもロルフ様は、あの毒婦に誘惑されなかったのですね。素晴らしいですわ。あの女、見た目はよいのでだいたいの男は欲望に負けて体の関係を持ってしまうのですよ」
 おおう、ハリーさんの奥様、なかなかの毒舌ですわ。聞けばかつてハリーさんと奥様が婚約している時に、その毒婦はハリーさんを誘惑しようとしたらしい。幸いハリーさんは昔から彼女の所業を知っているので誘惑には乗らなかったけれど、奥様には『自分は幼馴染みで私の方が彼をよく知っている』とアピールがものすごかったらしい。めっちゃウザイやつやん…。
「ロルフは女嫌いで有名だったからね」
「まぁ、ストイックな方なんですのね」
「アハハ…」
 確かに、ロルフはあのエロい見た目に反してストイックだなんて、傭兵界隈では言われてたんだよね。私と婚約する前は、浮いた噂がひとつもなかったから。実際は性的な目で見られるのが大嫌いなだけなんだけどね。私に対してはストイックどころか、欲望丸出しだしね…。
「そう思うと、君すごいよねぇ。あのロルフを落としたんだから」
「落としたっつーか、落とされたっつーか…」
「ん?どういうこと?教えてよ」
「えー…」
 あまり言いたくないけれど、ハリーさんには迷惑を掛けているわけだし断りきれない。奥様も期待に満ちた目でこちらを見つめて来るし。
 たっぷりと躊躇ったあと、仕方なしにビョルンとロルフと結婚することになった経緯…喉元にナイフ突きつけられたアレ…を話すと、少しの沈黙の後、ハリーさんとアンリが爆笑する声が部屋に響き渡った。
「ちょっ!ないわ!アイツまじでないわー!!」
「わはははは!はははははッ、ゲホゲフ!」
 ハリーさん、笑いすぎて咽せとるがな。
 そして奥様は「信じられない」と言った顔でこちらを見ている。
「あの、失礼ですが、それは脅迫なのでは…?」
「そー…うですね、でももう過ぎたことですし。貴族の方では経験することのないプロポーズだとは思いますけれども」
「いや貴族じゃなくても、そんなプロポーズないわー」
 アンリてめぇ。奥様がめちゃくちゃ深刻な顔になっちゃったじゃないか。
「もしお困りでしたら、腕のいい弁護士を紹介いたしますが…」
 えっ!なんか裁判沙汰になりそう?!
「本当に大丈夫です!始まりこそアレですが、今は合意の上で婚約関係になってますし!私もちゃんと幸せですから!ねッ、イス!」
「まぁ、問題はないと思う。少し甘やかしすぎだとは思うが」
 イスのフォロー(?)もあってか、怪訝な顔をしつつも納得してくれたらしい。
「それならよろしいのですが…私でよろしければ、ご相談に乗りますから。遠慮なく仰ってくださいね」
「あ、はい。お気遣いありがとうございマス…」
 なんかすごい真剣に心配されてしまった。常識はずれなカップルですみません…。そんな様子を見ていたハリーさんが、ようやく笑いを収めて優しげな眼差しを奥様に向けた。
「大丈夫だよ、ダーリン。彼女は配偶者にやり込められるようなタイプじゃないし、他の夫もついているからね」
「そう…そうですわね」
 夫の言葉にようやく安心できたのか、奥様は表情を和らげて隣を見つめた。
 わ、すごくいい雰囲気。
 素敵なご夫婦なんだなぁとなんだかホッコリした。
「さて、話を戻そうか。ダービー伯は今日の夕方には到着すると思うよ。君たちより早く出たはずなのに、ずいぶんのんびりしてるよねぇ」
 私たちは早駆けで来たから通常より早く着いたけど、馬車で無理せず来ても2日くらいの距離だ。私たちより1日早く出発しているそうだから、確かにのんびりとしているように思える。
「どうせあの娘が我儘を言っているのだろうよ」
 肩をすくめるハリーさんに苦笑する。
「まぁそれでも、来ていただけるだけありがたいですよ。娘さんがなんて言ったかは分かりませんが、こちらが全部悪いと思ってたら、きっと来てくれないでしょうから」
「まぁそこはね。ダービー伯もずいぶんあの娘に振り回されて来たから、頭から信じるような事はしないと思うよ。ただ…」
 ハリーさんの話では、娘さんが幼いうちに母親が亡くなってしまったらしい。もともと癇癪がひどい子だったけれど、母親が亡くなってからはさらにひどくなってしまった。伯爵様はお年でこれから子どもを作るのは難しいけれど、彼女が後継になるのも厳しいってことで、親戚から養子を取って後継者教育中…なのに問題の娘が出戻ってしまったので、ダービー伯は頭を悩ませているのだとか。
「だが、あちらもただのお人好しではない。ボナ・ノクテムの最中も、領地を運営し無事に乗り切った手腕の持ち主だ。その男がある程度下手に出るという事は、それなりの思惑があると思った方がいい」
「なるほど…」
 その思惑ってようするに、何らかの要求ってことよね。なんとなく想像できちゃうけど、やだなー。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました

空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」 ――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。 今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって…… 気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】

阿佐夜つ希
恋愛
『貴女には、これから我々四人の賢者とセックスしていただきます』――。  三十路のフリーター・篠永雛莉(しのながひなり)は自宅で酒を呷って倒れた直後、真っ裸の美女の姿でイケメン四人に囲まれていた。  雛莉を聖女と呼ぶ男たちいわく、世界を救うためには聖女の体に魔力を注がなければならないらしい。その方法が【儀式】と名を冠せられたセックスなのだという。  今まさに魔獸の被害に苦しむ人々を救うため――。人命が懸かっているなら四の五の言っていられない。雛莉が四人の賢者との【儀式】を了承する一方で、賢者の一部は聖女を抱くことに抵抗を抱いている様子で――?  ◇◇◆◇◇ イケメン四人に溺愛される異世界逆ハーレムです。 タイプの違う四人に愛される様を、どうぞお楽しみください。(毎日更新) ※性描写がある話にはサブタイトルに【☆】を、残酷な表現がある話には【■】を付けてあります。 それぞれの該当話の冒頭にも注意書きをさせて頂いております。 ※ムーンライトノベルズ、Nolaノベルにも投稿しています。

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました

春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。 大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。 ――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!? 「その男のどこがいいんですか」 「どこって……おちんちん、かしら」 (だって貴方のモノだもの) そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!? 拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。 ※他サイト様でも公開しております。

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

処理中です...