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混血系大公編:第一部

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 街に到着すると、まずは門衛さんにこっそりダービー伯が到着されているか確認する。まだ到着されていないという事だったので、ホッとした。お礼にチップを渡して、さらにオススメの宿屋を教えてもらい、まずはそこに向かう。ハリーさんとは親しい仲だけど、さすがに旅の汚れを落としてから行かないと失礼だからね。だいたいどこの宿屋も営業時間中は、大鍋にお湯をたくさん沸かしてくれている。お金を支払えばそこでお湯を使わせてもらえるのだ。昔は男女別れてなくて混浴が当たり前だったらしいんだけど、戦後政府の皆さんが風紀にも力を入れてくれたらしく、今は男女別のお湯場が設けられている所もけっこうある。もちろんお値段は少し上がっちゃうんだけどね。安全を買うためなら大した金額ではない。
 お湯を使わせてもらった感じけっこういい宿屋さんだったので、そのまま今夜宿泊する分の部屋も押さえておく。さすがに今日中には帰れないだろうからね…。
 団員達はこのまま宿で待機。イスの部下の魔道具師姉弟も待機だ。着替えを済ませて昼食をどうしようかなーと考えていると、宿に伯爵家から使いの人が来てくれた。門衛さんから連絡が行ったんだろう。「昼食を一緒に摂りたい」と伝えられたので、3名がそちらに行く旨を伝える。身支度を整えた私とイス、アンリの3人で伯爵邸に向かう。到着すると門衛さんがすぐに取り次いでくれて、パーラーメイドさんが応接室まで案内してくれた。
「シャトラ!アンリ!よく来てくれたね!!」
 応接室に入るとハリーさんが爽やかに手を上げて、ソファから立ち上がって近寄って来てくれた。握手を交わし、隣にいらっしゃった奥様とも挨拶を交わす。
「ウォリック伯爵様、奥様。この度はたいへんご迷惑をお掛けしまして…」
「おや。ずいぶん他人行儀な話し方だね」
 肩をすくめてみせるハリーさんに、私は苦笑してみせる。
「それは、伯爵様の前ですから」
「やれやれ、妻がいるからか?彼女はそんな事は気にしないから、気楽にしてくれていいよ」
 ね、とそちらを見る。ニコニコと頷いてくださる奥様の表情に翳りはなく、本当にそう思っていただけているようなので、少し肩の力を抜く。
「では、お言葉に甘えます」
「そうしてよ。それからアンリも、久しぶりだな。1人で突っ走って、シャトラに迷惑掛けていないかい?」
「俺をいくつだと思ってるんです?もうそんな歳じゃないんですよ」
 ハリーさんもアンリも、元はヴァレさんの傭兵団の団員だったからね。ハリーさんからすれば、アンリは今もかわいい弟分なんだろう。
「アンリには、いつもすごく助けられてますよ」
「団長!ヤダ俺惚れちゃいそう…あ、すみませんウソですそんな呪い殺しそうな目で睨まないで…」
 アンリと私を挟んで反対隣にいたイスが、冷ややかな目でアンリを見つめている。表情は変わらないんだけどね、殺意に魔力も乗せているから、物理的に殺れそうだねー。
 ハリーさんがそんなイスをチラリと見ながら、私に小声で話しかける。
「シャトラ、そちらの方を紹介してもらえるかい?」
「あれ、会った事はなかったですっけ?」
「ボスが話しているところを見た事はあるけれどね。直接お話しするのは初めてなんだよ、実は」
「ああー…」
 戦前はイチ魔術師だったけれど、今じゃ塔長様だものね。その辺の上下関係をイマイチ理解できてないけれど、伯爵『ごとき』と言い放ったイスの言葉は伊達じゃなかったらしい。
「ハリーさん、こちらはイスハーク。魔道具の塔長です」
「お目に掛かれて光栄です。私はこのウォリック領を統治しておりますハリソンと申します」
 ハリーさんが手を差し出し、イスも頷いてその手を握る。
「魔道具の塔長、イスハークだ。彼女の婚約者でもある」
『婚約者』という言葉を、めっちゃ強調したな。ハリーさんと奥様が、驚いた顔でこちらを見た。
「えっ!おい、婚約したのってビョルンとロルフじゃなかった?!」
「あー、2人とも先に婚約してますよ」
「そうだよな?!じゃあ、塔長殿も一緒に?!えーっ、いつ?!そんな情報は聞いてなかったなぁ!いやー、そんな大人しそうな顔して、やるじゃないかシャトラ!英雄色を好むとはよく言ったものだねぇ!それならウチのボスも…」
 ハリーさんが心底驚いたような顔で、まぁまぁの暴言を吐く。それ色欲って言ってるよね?さらに何かを言い募ろうとしたハリーさんをドスッと肘で小突いて、隣にいた奥様が口を開いた。
「あなた、英雄様方をいつまで立たせたままでいらっしゃるんです?」
 奥様がニコニコした笑顔のままチクリと釘を刺す。慌ててハリーさんが私たちをソファに誘導してくれたところから、力関係が垣間見えた気がするわ…。
 改めて、ハリーさん達の向かい側のソファに3人で腰を下ろした。すぐにメイドさんが紅茶を出してくれて、軽く会釈して一口飲む。ふわー!何これめっちゃ味が深い!渋みがない!ウチで来客用に買う紅茶よりさらにお高い茶葉なんだろう。さすがお貴族様…。紅茶をほめると奥様が嬉しそうにお礼を言ってくれた。奥様が自ら選ばれた茶葉なんだそうだ。そういった気遣いは、客として嬉しいよね。
 それから少し雑談をして、本題に入っていく。
「とりあえず、何があったか聞いてもいいかい?ダービー伯も娘から聞き取った事しか知らないようで、男女関係の事だから…なんて言葉を濁していたから、詳細がわからないんだよね」
 肩をすくめてみせたハリーさんの言葉に、私は遠慮も忘れて思いっきりため息をつく。
 …何が男女関係じゃボケが!ロルフに全力で拒否られたのに、頭にお花畑咲いてんのかな?その娘さんは。

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