上 下
162 / 198
混血系大公編:第一部

44

しおりを挟む

 帝都では各門の所に厩舎があり、そこでお金を払って馬を借りることができる。我が傭兵団は任務で常時馬を使うので、一部隊分の馬を買っており、毎月一定のお金を支払って厩舎にお世話を任せている。頻繁に使う人はその方が安上がりで済むし、常に馬を確保できるからね。
 3番街の門の所にある厩舎で傭兵団所有の馬に乗り、一旦外に出て外壁沿いを馬で駆ける。街中での移動手段は馬車か徒歩に限定されているけど、外壁沿いに整備された道は馬での早駆けも許可されている。なので門に近い場所であれば、一度出てしまった方が早く到着できるのよね。
 え?私が馬に乗れるかどうかが気になる?乗れなくはないけれど、タンデムの方が早いってことで私の乗馬能力はお察しいただければ…。暴れられたりはないんだけど、なんでか言うこと聞いてくれなくて、くるくるその場で回られたり、無駄に横移動されたりすんのよね。馬にナメられやすいのかな、私。
 なので婚約前でもだいたい、ロルフやビョルンに乗せてもらってましたよ。当時は女性団員が少なかったし、この二人と任務に行くことが多かったからね。今日は二人ともいないし、婚約済みで他の男と馬に乗るのもどうかと思うので、女性団員に乗せてもらいます。団長の私が女性ということもあってか、実務部隊でもけっこう女性団員が所属してるんですよ、我が団は。「女性に対応してもらった方が安心できる!」と仰る女性の依頼人も一定数いらっしゃるので、そういったニーズにもお応えしておりますよ。
 今回はその女性団員に後ろにしがみつく形で乗せてもらってるんだけど、そういえばあの二人に乗せてもらったときは、前に乗せられたな。その方がやりやすいって言われたけど、考えてみたら後ろに乗せた方が手綱握りやすくない…?ロルフに乗せてもらった時なんか、やたらお尻に固いもの当たるなーって思った記憶があるんだけど、いま思えば故意に押し付けてきてたのか?てっきり股間ガードが当たってるだけだと思ってたんだけど…いや、考えるのはやめよう。終わったことだし、聞くとアッサリ肯定されそうで逆に怖いわ。
 そんなことをつらつら考えているうちに、4番街の厩舎に到着した。そこには馬を引いた魔術師たち3人が、準備万端で待ってくれていた。
「ごめんね、お待たせ!」
「いや、先ほど到着したところだ」
 馬から降りてイスの元に駆け寄ると、部下の魔道具師さん2名を紹介してくれた。男女1人ずつなんだけど顔が似通ってて、もしかして兄弟かな?
「塔長の奥様!はじめまして!」
「奥様の附術師様!いつもお世話になっております!!」
 なんかテンション高けェなこの人たち。目がキラキラしてない?てか奥様の附術師様ってなんぞ。
「あー、どうも?いつもお世話になっております…?」
 これどっちの立場で挨拶したらいいんだろ。イスの嫁としてか、附術としてか。疑問符を浮かべつつ挨拶を述べると、二人は嬉しそうにニカっと歯を見せて笑った。
「ひゅおー!姉ちゃん!俺たちいま!ついに!憧れの附術師様にお会いできたよぉ!」
「裏工作の甲斐があったわね弟よ!テンション爆上げだわー!」
 …………。
 無言でイスの方を見やると、目を合わせようとしない。オイ!!
 ゴスっと肘で小突いてやると、ため息をついて小声で答えた。
「…若い世代の魔道具師には、お前に憧れているものが少なからずいるんだ。ヒューマン種が産み出した附術との組み合わせで魔道具が飛躍的に発展したことにより、サークル内でのヒューマン種の地位が向上したからな。それで今回魔道具師を連れて行こうと立候補者を募ったら、希望者が殺到して最終的にはくじ引きになったんだ」
「それで裏工作…」
 お姉ちゃん、裏工作して同行する権利を勝ち取っちゃったのね。それをイスがスルーしてるってことは、それも手段の1つとして黙認してるのね。闇を感じるわー。
「うるさくて悪いが、魔道具師としての腕は確かだ。状況次第では、ダービー伯領の通信具の修理にこの二人を向かわせる」
「あっ、なるほど」
 ダービー伯領の通信具には、未だに連絡が取れない。恐らく、領にいる魔道具師には対応できないほどの破損具合なんだろう。
「部品も各種取り揃えておりますので、我ら姉弟にお任せください!」
「あの変態的に緻密な附術と変態的に複雑な魔術をイチから構築するのはムリですが、修理なら問題ありません!」
 変態変態と連呼されて複雑な気分ですけれど、お任せして大丈夫ってことよね。それは心強い。
「ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」
 ペコリと頭を下げると、姉弟がフギャーやめてくださいー!とテンション高くぶんぶん手と首を振った。団員の誰かが「団長のスルースキルぱねぇわー」と呟いたけれど、お前の言葉もスルーしておいてやるよ。時間が勿体ないからな。
「じゃあ、挨拶も済んだことだし、さっそく出発しようか。イス、そっちの馬に乗せてくれる?」
「もちろんだ。到着予定は?」
「適宜休憩を挟んで、今日中にはフローキ村に到着する予定」
「わかった。すぐに出発しよう」
 ちょっと大変だけど、フローキ村につけば今回の旅程の3分の2くらいは進んだことになるので、後が楽になる。そうして休憩ごとに(私だけ)馬を乗り換えながら黙々と走り、翌日の昼前にはウォリック伯領に無事到着することが出来た。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました

空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」 ――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。 今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって…… 気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話

やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。 順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。 ※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。

【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】

阿佐夜つ希
恋愛
『貴女には、これから我々四人の賢者とセックスしていただきます』――。  三十路のフリーター・篠永雛莉(しのながひなり)は自宅で酒を呷って倒れた直後、真っ裸の美女の姿でイケメン四人に囲まれていた。  雛莉を聖女と呼ぶ男たちいわく、世界を救うためには聖女の体に魔力を注がなければならないらしい。その方法が【儀式】と名を冠せられたセックスなのだという。  今まさに魔獸の被害に苦しむ人々を救うため――。人命が懸かっているなら四の五の言っていられない。雛莉が四人の賢者との【儀式】を了承する一方で、賢者の一部は聖女を抱くことに抵抗を抱いている様子で――?  ◇◇◆◇◇ イケメン四人に溺愛される異世界逆ハーレムです。 タイプの違う四人に愛される様を、どうぞお楽しみください。(毎日更新) ※性描写がある話にはサブタイトルに【☆】を、残酷な表現がある話には【■】を付けてあります。 それぞれの該当話の冒頭にも注意書きをさせて頂いております。 ※ムーンライトノベルズ、Nolaノベルにも投稿しています。

処理中です...