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混血系大公編:第一部
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しおりを挟む帝都では各門の所に厩舎があり、そこでお金を払って馬を借りることができる。我が傭兵団は任務で常時馬を使うので、一部隊分の馬を買っており、毎月一定のお金を支払って厩舎にお世話を任せている。頻繁に使う人はその方が安上がりで済むし、常に馬を確保できるからね。
3番街の門の所にある厩舎で傭兵団所有の馬に乗り、一旦外に出て外壁沿いを馬で駆ける。街中での移動手段は馬車か徒歩に限定されているけど、外壁沿いに整備された道は馬での早駆けも許可されている。なので門に近い場所であれば、一度出てしまった方が早く到着できるのよね。
え?私が馬に乗れるかどうかが気になる?乗れなくはないけれど、タンデムの方が早いってことで私の乗馬能力はお察しいただければ…。暴れられたりはないんだけど、なんでか言うこと聞いてくれなくて、くるくるその場で回られたり、無駄に横移動されたりすんのよね。馬にナメられやすいのかな、私。
なので婚約前でもだいたい、ロルフやビョルンに乗せてもらってましたよ。当時は女性団員が少なかったし、この二人と任務に行くことが多かったからね。今日は二人ともいないし、婚約済みで他の男と馬に乗るのもどうかと思うので、女性団員に乗せてもらいます。団長の私が女性ということもあってか、実務部隊でもけっこう女性団員が所属してるんですよ、我が団は。「女性に対応してもらった方が安心できる!」と仰る女性の依頼人も一定数いらっしゃるので、そういったニーズにもお応えしておりますよ。
今回はその女性団員に後ろにしがみつく形で乗せてもらってるんだけど、そういえばあの二人に乗せてもらったときは、前に乗せられたな。その方がやりやすいって言われたけど、考えてみたら後ろに乗せた方が手綱握りやすくない…?ロルフに乗せてもらった時なんか、やたらお尻に固いもの当たるなーって思った記憶があるんだけど、いま思えば故意に押し付けてきてたのか?てっきり股間ガードが当たってるだけだと思ってたんだけど…いや、考えるのはやめよう。終わったことだし、聞くとアッサリ肯定されそうで逆に怖いわ。
そんなことをつらつら考えているうちに、4番街の厩舎に到着した。そこには馬を引いた魔術師たち3人が、準備万端で待ってくれていた。
「ごめんね、お待たせ!」
「いや、先ほど到着したところだ」
馬から降りてイスの元に駆け寄ると、部下の魔道具師さん2名を紹介してくれた。男女1人ずつなんだけど顔が似通ってて、もしかして兄弟かな?
「塔長の奥様!はじめまして!」
「奥様の附術師様!いつもお世話になっております!!」
なんかテンション高けェなこの人たち。目がキラキラしてない?てか奥様の附術師様ってなんぞ。
「あー、どうも?いつもお世話になっております…?」
これどっちの立場で挨拶したらいいんだろ。イスの嫁としてか、附術としてか。疑問符を浮かべつつ挨拶を述べると、二人は嬉しそうにニカっと歯を見せて笑った。
「ひゅおー!姉ちゃん!俺たちいま!ついに!憧れの附術師様にお会いできたよぉ!」
「裏工作の甲斐があったわね弟よ!テンション爆上げだわー!」
…………。
無言でイスの方を見やると、目を合わせようとしない。オイ!!
ゴスっと肘で小突いてやると、ため息をついて小声で答えた。
「…若い世代の魔道具師には、お前に憧れているものが少なからずいるんだ。ヒューマン種が産み出した附術との組み合わせで魔道具が飛躍的に発展したことにより、サークル内でのヒューマン種の地位が向上したからな。それで今回魔道具師を連れて行こうと立候補者を募ったら、希望者が殺到して最終的にはくじ引きになったんだ」
「それで裏工作…」
お姉ちゃん、裏工作して同行する権利を勝ち取っちゃったのね。それをイスがスルーしてるってことは、それも手段の1つとして黙認してるのね。闇を感じるわー。
「うるさくて悪いが、魔道具師としての腕は確かだ。状況次第では、ダービー伯領の通信具の修理にこの二人を向かわせる」
「あっ、なるほど」
ダービー伯領の通信具には、未だに連絡が取れない。恐らく、領にいる魔道具師には対応できないほどの破損具合なんだろう。
「部品も各種取り揃えておりますので、我ら姉弟にお任せください!」
「あの変態的に緻密な附術と変態的に複雑な魔術をイチから構築するのはムリですが、修理なら問題ありません!」
変態変態と連呼されて複雑な気分ですけれど、お任せして大丈夫ってことよね。それは心強い。
「ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、姉弟がフギャーやめてくださいー!とテンション高くぶんぶん手と首を振った。団員の誰かが「団長のスルースキルぱねぇわー」と呟いたけれど、お前の言葉もスルーしておいてやるよ。時間が勿体ないからな。
「じゃあ、挨拶も済んだことだし、さっそく出発しようか。イス、そっちの馬に乗せてくれる?」
「もちろんだ。到着予定は?」
「適宜休憩を挟んで、今日中にはフローキ村に到着する予定」
「わかった。すぐに出発しよう」
ちょっと大変だけど、フローキ村につけば今回の旅程の3分の2くらいは進んだことになるので、後が楽になる。そうして休憩ごとに(私だけ)馬を乗り換えながら黙々と走り、翌日の昼前にはウォリック伯領に無事到着することが出来た。
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