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混血系大公編:第一部

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 その時、突然イスの魔力が周囲を包んだ。
「グッ」
「わっ」
 ロルフには不快で、私には心地よい。一瞬で収束したけれど、私達の注目を集めるには充分で。
「何しやがる、テメェ!」
 ロルフとふたりで目を向けると、壁に寄りかかって立っていたイスが、呆れたような視線をこちらに向けていた。
「ロルフ、お前は間違っている」
「あ?何がだよ」
「悪いのは、お前を襲おうとした女だ。お前でも、シャハラでもない。そこを間違えてはいけない」
「ンなこたぁわかってるよ!でも、アレだ、貴族だ身分だってのを、シャーラは無視出来ねぇんだろ?俺ひとりならいいけどよ、いざとなったら、全部ぶっ殺して逃げりゃあいい。でも俺にゃぁもう、嫁(コイツ)がいるんだ…」
「ロルフ…」
 ロルフの言葉に、また涙が滲んで来る。ああ、この人は本当に、私のことを愛してくれてるんだ。彼なりに一生懸命、私のことを考えてくれてるんだね。
「だが、その嫁はお前が傷つく事を嫌がっている」
「じゃあどうしろってんだよ!」
「なら、お前が取るべき手段は1つだ。お前の得意なやり方で、お前もシャハラも傷つかない方法を取る」
「……!」
 ロルフがハッと何かに気づいたような顔をする。え。待って私何も気づけてないんだけど。ロルフの得意な方法って何?ヤバい匂いしかしない!!
「そいつは…いや、だが…」
「『バレなきゃなかったのと一緒だ』と言ったのは、お前じゃなかったのか?」
 なんか滅茶苦茶不穏な会話がなされてませんか?!そんなセリフ私はまったく聞き覚えないけど、カタギのセリフとは思えない!
 イスの言葉を聞いた後、ロルフはしばらく沈黙し。…ニヤリ、と凶悪な笑みを浮かべた。
「…ああ…。そうだ、そうだな。俺としたことが、平和ボケか?随分日和っちまってたみてぇだ」
「そうだな。あの頃と比べれば、ずいぶんと腑抜けたものだ」
「ヘッ、言ってくれるぜ。だが、まぁ…その通りだ」
 バシンと両頬を叩いたロルフは「ションベンしてくる」と服を手早く着て出ていった。まぁ多分、気持ちを切り替えに言ったんだと思うけど…何この、置いてけぼり感…。
 後に残された私は、わけも分からずベッドの上からイスを見上げる。
「…えっと…?」
「心配するな。悪い方向にはいかない」
「いや、ちょっと、その方向が理解できないんですけど…?」
「大丈夫だ。ロルフは理解したようだから」
「えぇー?」
 ちょっと待って、順を追って考えてみよう。考えを整理させてくれー。
「えーっと、ロルフってさ、以前と比べると色々なことを我慢できるようになって、私はそれがいい事だと思ってたんだよね。このまま行けば、上手く社会に馴染んで行けるんじゃないかなぁって。でも我慢ってさ、考えてみれば大なり小なり自分を犠牲にすることよね。ロルフはその境界がわからないのかなぁ?って思うんだけど…」
 だいたいの人は「ここまでは我慢するけど、これ以上はやられたら我慢できねぇ!」ってボーダーラインがあると思うんだけど。ロルフの場合だとそのボーダーラインが理解できないから、全部我慢しなきゃって思っちゃうのかな。実際にそれができるかどうかは別として。夜這いしてきたお嬢さんに抵抗したのだって、ほぼ本能で動いてるものね。でも次に同じことがあったら、相手の好きにさせてしまうかもしれない。自分が抵抗することで、私が嫌な思いをするとなれば。
「やっぱできる限り、ロルフがそういう目に遭わないように気を付けてあげないと…」
 そうブツブツと独り言のように口に出していると、イスが私の隣に腰掛けて来た。
「…お前はそうやって、赤子を守るようにロルフの身の周りからすべての危険を排除するつもりか?」
「……!」
 イスの発言に、私はビックリする。え、私のやってることって、そんな風に見えた?
「そ、そんなつもりは、なかったんだけど…」
 でも、そっか。私がロルフの為にって心を砕いていることは、他者の目からはそう見えるんだよね。私はビョルンの私に対する扱いが過保護だなぁって感じてしまうことがおおいんだけれど、私のロルフに対する扱いも過保護だったのかな?
 私が動揺して黙り込んでいると、イスはフゥとため息を吐き出した。
「あの男は、立派な成人だ。お前という妻を守りたいと考える、1人の男だ。もちろん、余計なトラブルをわざわざ持ち込む必要はないと思うが…自分に降りかかった火の粉ぐらい、自分で払える」
「…うん…」
 でも、でも、ロルフの火の粉を払う方法って、基本暴力じゃん。だから暴力を振るわないで済むよう、極力トラブルになる要因を排除したいって思うんだけど…。
「お前の気持ちもわからないでもないが…、私はこう思う」
「うん?」
「ロルフを構成する要素は3つ。酒と暴力とお前だ」
 三大要素に私が入ってる?!
「そこから暴力を取ろうとするのは、難しい。お前も自分で言っただろう。戦うことをやめられない者もいると」
「うん…」
「どんなに予測したとしても、今回のような想定外の事態は必ず起きる。ならば、そのトラブルを自分で解決できる手段を身に着けるべきだ。もちろん誰も彼もに暴力を振るうのでは、社会から弾き出される。ならば、暴力を振るう方向性を定めればいいのではないか?自分とお前の尊厳や命を脅かす者には、振るってもいい。ただし、振るった場合は証拠を隠滅するまでがセットだ。元々暗殺や奇襲が得意な男だから、そこは上手くやれるだろう」
 私も証拠の残りにくい武器を開発してみよう…なんて呟いているイスさんに戦慄する。
 怖い!めちゃくちゃ不穏な話になってる!えっ、イスさんマフィアだったかな?言う事完全にマフィアじゃない?!

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