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混血系大公編:第一部
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しおりを挟むボソボソと、低い話し声が聞こえる。どのくらい意識を失ってたのかな。気だるい体を動かすのが億劫で、目を閉じたまま話し声に耳を傾ける。
「なぜ私が来る前に、気絶させるんだ」
「知るか、勝手に気絶したんだよ」
「いいや、好き勝手に責め立てたんだろう。お前はもう少し、相手の様子を見ながら対応した方がいいと思う」
「テメェに言われたかねーよ」
「私はちゃんと相手の様子を見ている。見た上で無視することはあるが」
「もっとタチ悪りぃじゃねーか」
イスと会話していると、たまにロルフが良識のある意見を言うから聞いてて面白い。でもまだ身体を休めていたいから、笑うのを我慢して寝ているフリを続ける。
「…なぁ、イスハーク」
「何だ」
「俺のやったことは、間違っていたのか?」
…うん?
ロルフの口調が変わった気がして、耳を澄ませる。
「何の話だ」
「あのクソ伯爵のとこで、クソアマが来やがった時だよ。あのクソアマの好きにさせてやりゃあ、こいつが嫌な思いをしなくて済んだのか?」
ロルフのセリフを聞いた瞬間。私はガンっと頭を殴られたような衝撃を受けた。
「それは…」
そしてイスが何かを言う前にガバっと勢いよく起き上がると。
「お前は何を言っとるんじゃぁぁぁ!」
ベッドサイドに座ってこちらに背を向けていたロルフの頭を掴んで、思い切り頭突きをかましてやった。
「いてぇな!テメェ、何しやがる!」
「お前がアホなこと言うからだ!なに言ってんの?!バカなの?!バカじゃないの?!」
「何がだよ。あのクソアマの好きにさせてやりゃあ、お前がクソ伯爵に謝罪する必要もねぇんだろ?」
「好きにって、何それ?!あのねぇ、その女はアンタとセックスしたくて来てるんだよ?そのままヤッちゃうってこと?!そんなのダメに決まってんじゃん!」
「ヤるわけねーだろ、お前以外にちんこ勃たねェし。女相手なら勃たなきゃどうしようも出来ねぇんだから、そのウチ諦めんだろ」
「いや、だからって、えぇー…?」
私以外に勃たないなんてパワーワードに、思考が一瞬停止する。え、ウソでしょ?私のこと大好きだなーとは思ってたけど、そこまでなの?でも違う、今の問題はそこじゃないと思い直す。
「そうじゃなくって、ロルフ、あなた他の人から性的な目で見られたり接触されたりするのって、大嫌いじゃなかった?大丈夫になったの?」
「あ?大丈夫なわけねーだろ。お前以外からなんてゲロ吐くぐれぇ気持ち悪ィわ」
「じゃあなんで…」
「嫌だからに決まってんだろ」
ブスっとした顔で吐き捨てるロルフに、首を傾げつつ再度問う。
「何がよ」
「お前、あのクソ伯爵に何か言われんのが怖ェんだろ?お前を嫌な目に遭わすぐれぇなら、…俺が嫌な目に遭った方が、マシだ」
ああ、そうか。
ストンと腑に落ちる。
ロルフはずっと、自分だけの世界を生きて来た。自分が一番大切で、自分以外はどうでもよくて。だから傍若無人に振る舞えたし、自分が嫌だと思った事は後に何が起きようと絶対にやらなかった。彼は彼の世界の王様で、彼の言うことは絶対で、それで完成されていたはずなのに。
……私が、その世界を壊してしまった。
ロルフは時々、冗談めかして私を「女王様」と呼ぶ。でもそれは、冗談なんかじゃなくて本気だったんだ。彼の世界の王に、自分じゃなくて私を据えてしまったんだ。だから、私が他人との衝突を嫌がるから、懸命に我慢するようになってしまったんだ。私はそれが『いい傾向だ』なんて思っていたけれど、そんなことなかった。だって、いくら私のためだからって言って、彼が自分の体を犠牲にしていいはずがない。そんなこと、して欲しくない。
でもじゃあ、どうしたらいいんだろう?どう言えば、わかってくれる?前みたいに、我慢せずに振舞ってもらえばいいの?でもそうしたら、私は多分一緒にいるのが嫌になる。私も、自分が大切な人間だから。以前のロルフとは、絶対に上手くやっていけないと思う。でも、彼に嫌な思いをさせるのも間違っていて…、ああ、もう、堂々巡りだ。
どうしたらいいかわからなくて、言葉が出てこなくて、目頭が熱くなる。ロルフの横顔が、じんわりと滲んでしまう。
「…なに泣いてんだよ」
「…だって…」
ロルフが私を抱き寄せて、目尻に口づける。涙を吸い取られても、反対の目から涙がこぼれ落ちる。
「俺は、わからなかった。お前はいつも意味わかんねぇぐれぇ自信に満ち溢れてて、何でも解決して来たから、俺が何やったってお前が何とかするって思ってた。お前は何の苦もなくそうしてるって思ってたんだ」
「な、何とかするよ!今までだってそうして来たじゃない…!」
「だが、内心ビビってたんだろ?俺のせいで、そんな目には遭わせたくねぇ」
「そうじゃなくって、私がちょっとビビるくらいなんて、大したことじゃないの!それよりロルフの尊厳の方が大事なのよ!」
「大事じゃねぇよ」
「違う…!」
どうしよう。どう言ったら納得してくれる?わからない。頭が混乱してうまい言葉が出てこない。ロルフの前で泣き言を言ってはいけなかった?虚勢を張らなきゃいけなかったのか。失敗した。今まで通りでいいよって、後は私が何とかするって、そう言ってももう納得しないよね。どうしたら。
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