156 / 240
混血系大公編:第一部
38
しおりを挟むボソボソと、低い話し声が聞こえる。どのくらい意識を失ってたのかな。気だるい体を動かすのが億劫で、目を閉じたまま話し声に耳を傾ける。
「なぜ私が来る前に、気絶させるんだ」
「知るか、勝手に気絶したんだよ」
「いいや、好き勝手に責め立てたんだろう。お前はもう少し、相手の様子を見ながら対応した方がいいと思う」
「テメェに言われたかねーよ」
「私はちゃんと相手の様子を見ている。見た上で無視することはあるが」
「もっとタチ悪りぃじゃねーか」
イスと会話していると、たまにロルフが良識のある意見を言うから聞いてて面白い。でもまだ身体を休めていたいから、笑うのを我慢して寝ているフリを続ける。
「…なぁ、イスハーク」
「何だ」
「俺のやったことは、間違っていたのか?」
…うん?
ロルフの口調が変わった気がして、耳を澄ませる。
「何の話だ」
「あのクソ伯爵のとこで、クソアマが来やがった時だよ。あのクソアマの好きにさせてやりゃあ、こいつが嫌な思いをしなくて済んだのか?」
ロルフのセリフを聞いた瞬間。私はガンっと頭を殴られたような衝撃を受けた。
「それは…」
そしてイスが何かを言う前にガバっと勢いよく起き上がると。
「お前は何を言っとるんじゃぁぁぁ!」
ベッドサイドに座ってこちらに背を向けていたロルフの頭を掴んで、思い切り頭突きをかましてやった。
「いてぇな!テメェ、何しやがる!」
「お前がアホなこと言うからだ!なに言ってんの?!バカなの?!バカじゃないの?!」
「何がだよ。あのクソアマの好きにさせてやりゃあ、お前がクソ伯爵に謝罪する必要もねぇんだろ?」
「好きにって、何それ?!あのねぇ、その女はアンタとセックスしたくて来てるんだよ?そのままヤッちゃうってこと?!そんなのダメに決まってんじゃん!」
「ヤるわけねーだろ、お前以外にちんこ勃たねェし。女相手なら勃たなきゃどうしようも出来ねぇんだから、そのウチ諦めんだろ」
「いや、だからって、えぇー…?」
私以外に勃たないなんてパワーワードに、思考が一瞬停止する。え、ウソでしょ?私のこと大好きだなーとは思ってたけど、そこまでなの?でも違う、今の問題はそこじゃないと思い直す。
「そうじゃなくって、ロルフ、あなた他の人から性的な目で見られたり接触されたりするのって、大嫌いじゃなかった?大丈夫になったの?」
「あ?大丈夫なわけねーだろ。お前以外からなんてゲロ吐くぐれぇ気持ち悪ィわ」
「じゃあなんで…」
「嫌だからに決まってんだろ」
ブスっとした顔で吐き捨てるロルフに、首を傾げつつ再度問う。
「何がよ」
「お前、あのクソ伯爵に何か言われんのが怖ェんだろ?お前を嫌な目に遭わすぐれぇなら、…俺が嫌な目に遭った方が、マシだ」
ああ、そうか。
ストンと腑に落ちる。
ロルフはずっと、自分だけの世界を生きて来た。自分が一番大切で、自分以外はどうでもよくて。だから傍若無人に振る舞えたし、自分が嫌だと思った事は後に何が起きようと絶対にやらなかった。彼は彼の世界の王様で、彼の言うことは絶対で、それで完成されていたはずなのに。
……私が、その世界を壊してしまった。
ロルフは時々、冗談めかして私を「女王様」と呼ぶ。でもそれは、冗談なんかじゃなくて本気だったんだ。彼の世界の王に、自分じゃなくて私を据えてしまったんだ。だから、私が他人との衝突を嫌がるから、懸命に我慢するようになってしまったんだ。私はそれが『いい傾向だ』なんて思っていたけれど、そんなことなかった。だって、いくら私のためだからって言って、彼が自分の体を犠牲にしていいはずがない。そんなこと、して欲しくない。
でもじゃあ、どうしたらいいんだろう?どう言えば、わかってくれる?前みたいに、我慢せずに振舞ってもらえばいいの?でもそうしたら、私は多分一緒にいるのが嫌になる。私も、自分が大切な人間だから。以前のロルフとは、絶対に上手くやっていけないと思う。でも、彼に嫌な思いをさせるのも間違っていて…、ああ、もう、堂々巡りだ。
どうしたらいいかわからなくて、言葉が出てこなくて、目頭が熱くなる。ロルフの横顔が、じんわりと滲んでしまう。
「…なに泣いてんだよ」
「…だって…」
ロルフが私を抱き寄せて、目尻に口づける。涙を吸い取られても、反対の目から涙がこぼれ落ちる。
「俺は、わからなかった。お前はいつも意味わかんねぇぐれぇ自信に満ち溢れてて、何でも解決して来たから、俺が何やったってお前が何とかするって思ってた。お前は何の苦もなくそうしてるって思ってたんだ」
「な、何とかするよ!今までだってそうして来たじゃない…!」
「だが、内心ビビってたんだろ?俺のせいで、そんな目には遭わせたくねぇ」
「そうじゃなくって、私がちょっとビビるくらいなんて、大したことじゃないの!それよりロルフの尊厳の方が大事なのよ!」
「大事じゃねぇよ」
「違う…!」
どうしよう。どう言ったら納得してくれる?わからない。頭が混乱してうまい言葉が出てこない。ロルフの前で泣き言を言ってはいけなかった?虚勢を張らなきゃいけなかったのか。失敗した。今まで通りでいいよって、後は私が何とかするって、そう言ってももう納得しないよね。どうしたら。
13
お気に入りに追加
1,070
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる