152 / 198
混血系大公編:第一部
34
しおりを挟む
「だから、私を連れて行けと言っている」
「え?」
「私はサークルオブメイジの一角、魔道具の塔長だ。権力という点で言えば伯爵『ごとき』に負けるものではない」
イスの言い分にポカンとする。伯爵ともなれば、領地も帝国より任される上位貴族の位置付けだ。平民からすれば、一生お目にかかる機会もないくらい、雲の上の存在って感じなんだけど…。
「…あははッ!」
それを「ごとき」と言っちゃうなんて!
「確かに。皇帝陛下にだって、敬語使わなくていい立場だもんね。伯爵『ごとき』じゃ相手にならないよね。うーん、でも、夫の権力を笠に着るのはあんまりしたくないっていうか…」
とは言えそれ以外にどうしようもなく打つ手がなければ、皇帝陛下の権力だって笠に着てやりますよ。私のプライドなんぞより、傭兵団を守る方が大事だからね。
「笠に着る必要はない。私はただ、このローブの出所を問いただしに行くだけだ」
あぁ、そりゃそうか。このローブについては、万が一悪用されればサークルの名誉に関わるものね。紛失した後も、ずっと調査をしていたのだろう。
「ただ、話し合いの最中に妻が侮辱されれば、当然口を出す」
「あははッ!」
何とも頼もしすぎる意見に、声を上げて笑ってしまう。でも、そっか。そうね。
「ホントはね、ちょっと怖かったの」
「…お前がか?」
怪訝な声を上げたイスに、苦笑する。
「失礼ねぇ。クレーム処理なんて怖いよ。怖いに決まってる。怒鳴りつけてくるような人もいるしね。でもこっちがビビってるってわかると舐めてかかってくるヤツもいるから。内心どんなにビビってても、表面だけは平静を装うの。私はお前なんか怖くない、だから脅しても無駄だってね」
「そうか…そうだな」
ふふ、イスならわかってくれるって思ってた。ビョルンもロルフも根っからの戦士だからさ、いざとなれば武力で制圧って考えが染み付いてるのよね。でも商売ってそれじゃあやっていけない。武力さえあればなんとかなった時代はもう終わった。これからは、経済力がモノをいう時代だ。強いけど不器用な傭兵達を守るためにも、彼らが平和な世の中でもお金を稼げる手段を作り上げておかなければならない。
「……山賊とか野盗とか、この1年ですごく増えているんだって」
「…聞いたことはある」
「その中には…元傭兵だって人も、少なからずいるの」
「…そうか」
「あの戦いで傭兵がすごく増えたけれど…それが終わったあと、上手く社会に戻れなかった人たちも多かった。『対するもの』の撤退とともに、魔獣の数も減ったしね。以前にたくさんあった傭兵団も、今はもう一握りしか残っていない。戦う必要がなくなったのは、いいことなんだけど…。所属する組織もなく、戦う相手も減り、それでも戦うことを止められない人たちは…そこにしか、居場所がなくなっちゃうのかな」
「……」
あの戦いが終わったあと、もう戦いは嫌だと傭兵団を去った人がいる。他のどこにも行き場がなくて、新たに傭兵団に加わった人もいる。いま傭兵団に残っている人たちは、根っからの戦士たちだ。戦うことでしか、生きられない人達だ。平和が訪れた今の世界には、そぐわない人たちかもしれない。それでも私は、彼らが社会に解け込めるようにしていきたい。この平和をもたらすために最前線で命を張った人たちが、排除される社会であってはいけない。
「だからね、怖いけどさ。虚勢張ってでも、私が前に出なくちゃ。前に出て、傭兵団を守らなきゃって、いつも思ってるの」
自分で言うのもなんだけど、団の中で一番交渉が上手いのは私だと思うし。平民だけど英雄っていうアドバンテージもあるしね。大丈夫、私ならできる。私ならやれる。
そう自分に言い聞かせていると、ロルフが私の体の向きを変えて、お腹に顔を押し当ててギュッと抱きしめてきた。寝てると思ってたけど、ウトウトしながら聞いてたのかな。ロルフの頭をヨシヨシと撫でる。ロルフのことは特にね、守りたいって思ってるんだよ。
「でも今回は栄誉あるサークルの塔長様が、味方になってくれるんだものね。こんなに心強いことなんてないわ」
「…お前はもっと、周囲に頼ってもいい」
「うふふ、頼ってるよー。みんな私を信じて私の指示に従って、ちゃんと結果を出してくれる。こんなにありがたいことはないよ」
「…そうだな…」
深いため息を吐いたイスが、頷く。イスも魔道具の塔のトップだもんね。お互い「わかるー」って部分がけっこうあるんだよね。
「でもそうね、今度はローブの件もあるんだし。こうなったらイスにたくさんに頼っちゃおうかな!」
「かまわない」
「よーし、ダービー伯をぎゃふんと言わせる作戦立てちゃうぞ!」
「ローブの出所を吐かせるのを、忘れるなよ」
「でしたでした」
それからふたりであーだこーだと意見を出し合い、交渉の内容を詰めていく。だいたい方向性が決まって、これなら大丈夫だろうって所まで話を進めたら安心して。だんだん話がズレて定番の魔道具の話題が始まった時、ロルフの頭がモゾモゾと動いて、服の上からガブっとお腹を噛んできた。
「いった!ちょっと、なに?!」
突然のことにビックリしてロルフの頭をペシっと叩く。
「いつまで話してんだ、もう日が暮れるぞ」
ムックリと起き上がったロルフに言われて、窓の外を見る。景色が真っ赤に染まっていて、あらやだ、もうこんな時間?言われてみるとなんだかお腹が空いて来た。
「ごめんね、お待たせ。話もまとまったし、そろそろ帰ろっか。ロルフ、服着て帰る準備して」
「ん」
ロルフがあくびをしつつ体を起こしたので、私も帰り支度をしようと立ち上がりかけて… ストンとまた腰を下ろす。
「どうした?」
「あ、足が痺れた…ッ」
「ダセェな」
「アンタのせいでしょ…ッ、ふぎゃー!」
ロルフが容赦なく痺れた太ももを揉んで来るので、その手をベシベシ叩いてやる。
そんな私たちに呆れた目を向けながら、イスは残っていた紅茶を飲み干していた。
「え?」
「私はサークルオブメイジの一角、魔道具の塔長だ。権力という点で言えば伯爵『ごとき』に負けるものではない」
イスの言い分にポカンとする。伯爵ともなれば、領地も帝国より任される上位貴族の位置付けだ。平民からすれば、一生お目にかかる機会もないくらい、雲の上の存在って感じなんだけど…。
「…あははッ!」
それを「ごとき」と言っちゃうなんて!
「確かに。皇帝陛下にだって、敬語使わなくていい立場だもんね。伯爵『ごとき』じゃ相手にならないよね。うーん、でも、夫の権力を笠に着るのはあんまりしたくないっていうか…」
とは言えそれ以外にどうしようもなく打つ手がなければ、皇帝陛下の権力だって笠に着てやりますよ。私のプライドなんぞより、傭兵団を守る方が大事だからね。
「笠に着る必要はない。私はただ、このローブの出所を問いただしに行くだけだ」
あぁ、そりゃそうか。このローブについては、万が一悪用されればサークルの名誉に関わるものね。紛失した後も、ずっと調査をしていたのだろう。
「ただ、話し合いの最中に妻が侮辱されれば、当然口を出す」
「あははッ!」
何とも頼もしすぎる意見に、声を上げて笑ってしまう。でも、そっか。そうね。
「ホントはね、ちょっと怖かったの」
「…お前がか?」
怪訝な声を上げたイスに、苦笑する。
「失礼ねぇ。クレーム処理なんて怖いよ。怖いに決まってる。怒鳴りつけてくるような人もいるしね。でもこっちがビビってるってわかると舐めてかかってくるヤツもいるから。内心どんなにビビってても、表面だけは平静を装うの。私はお前なんか怖くない、だから脅しても無駄だってね」
「そうか…そうだな」
ふふ、イスならわかってくれるって思ってた。ビョルンもロルフも根っからの戦士だからさ、いざとなれば武力で制圧って考えが染み付いてるのよね。でも商売ってそれじゃあやっていけない。武力さえあればなんとかなった時代はもう終わった。これからは、経済力がモノをいう時代だ。強いけど不器用な傭兵達を守るためにも、彼らが平和な世の中でもお金を稼げる手段を作り上げておかなければならない。
「……山賊とか野盗とか、この1年ですごく増えているんだって」
「…聞いたことはある」
「その中には…元傭兵だって人も、少なからずいるの」
「…そうか」
「あの戦いで傭兵がすごく増えたけれど…それが終わったあと、上手く社会に戻れなかった人たちも多かった。『対するもの』の撤退とともに、魔獣の数も減ったしね。以前にたくさんあった傭兵団も、今はもう一握りしか残っていない。戦う必要がなくなったのは、いいことなんだけど…。所属する組織もなく、戦う相手も減り、それでも戦うことを止められない人たちは…そこにしか、居場所がなくなっちゃうのかな」
「……」
あの戦いが終わったあと、もう戦いは嫌だと傭兵団を去った人がいる。他のどこにも行き場がなくて、新たに傭兵団に加わった人もいる。いま傭兵団に残っている人たちは、根っからの戦士たちだ。戦うことでしか、生きられない人達だ。平和が訪れた今の世界には、そぐわない人たちかもしれない。それでも私は、彼らが社会に解け込めるようにしていきたい。この平和をもたらすために最前線で命を張った人たちが、排除される社会であってはいけない。
「だからね、怖いけどさ。虚勢張ってでも、私が前に出なくちゃ。前に出て、傭兵団を守らなきゃって、いつも思ってるの」
自分で言うのもなんだけど、団の中で一番交渉が上手いのは私だと思うし。平民だけど英雄っていうアドバンテージもあるしね。大丈夫、私ならできる。私ならやれる。
そう自分に言い聞かせていると、ロルフが私の体の向きを変えて、お腹に顔を押し当ててギュッと抱きしめてきた。寝てると思ってたけど、ウトウトしながら聞いてたのかな。ロルフの頭をヨシヨシと撫でる。ロルフのことは特にね、守りたいって思ってるんだよ。
「でも今回は栄誉あるサークルの塔長様が、味方になってくれるんだものね。こんなに心強いことなんてないわ」
「…お前はもっと、周囲に頼ってもいい」
「うふふ、頼ってるよー。みんな私を信じて私の指示に従って、ちゃんと結果を出してくれる。こんなにありがたいことはないよ」
「…そうだな…」
深いため息を吐いたイスが、頷く。イスも魔道具の塔のトップだもんね。お互い「わかるー」って部分がけっこうあるんだよね。
「でもそうね、今度はローブの件もあるんだし。こうなったらイスにたくさんに頼っちゃおうかな!」
「かまわない」
「よーし、ダービー伯をぎゃふんと言わせる作戦立てちゃうぞ!」
「ローブの出所を吐かせるのを、忘れるなよ」
「でしたでした」
それからふたりであーだこーだと意見を出し合い、交渉の内容を詰めていく。だいたい方向性が決まって、これなら大丈夫だろうって所まで話を進めたら安心して。だんだん話がズレて定番の魔道具の話題が始まった時、ロルフの頭がモゾモゾと動いて、服の上からガブっとお腹を噛んできた。
「いった!ちょっと、なに?!」
突然のことにビックリしてロルフの頭をペシっと叩く。
「いつまで話してんだ、もう日が暮れるぞ」
ムックリと起き上がったロルフに言われて、窓の外を見る。景色が真っ赤に染まっていて、あらやだ、もうこんな時間?言われてみるとなんだかお腹が空いて来た。
「ごめんね、お待たせ。話もまとまったし、そろそろ帰ろっか。ロルフ、服着て帰る準備して」
「ん」
ロルフがあくびをしつつ体を起こしたので、私も帰り支度をしようと立ち上がりかけて… ストンとまた腰を下ろす。
「どうした?」
「あ、足が痺れた…ッ」
「ダセェな」
「アンタのせいでしょ…ッ、ふぎゃー!」
ロルフが容赦なく痺れた太ももを揉んで来るので、その手をベシベシ叩いてやる。
そんな私たちに呆れた目を向けながら、イスは残っていた紅茶を飲み干していた。
1
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました
空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」
――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。
今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって……
気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
【R18】転生聖女は四人の賢者に熱い魔力を注がれる【完結】
阿佐夜つ希
恋愛
『貴女には、これから我々四人の賢者とセックスしていただきます』――。
三十路のフリーター・篠永雛莉(しのながひなり)は自宅で酒を呷って倒れた直後、真っ裸の美女の姿でイケメン四人に囲まれていた。
雛莉を聖女と呼ぶ男たちいわく、世界を救うためには聖女の体に魔力を注がなければならないらしい。その方法が【儀式】と名を冠せられたセックスなのだという。
今まさに魔獸の被害に苦しむ人々を救うため――。人命が懸かっているなら四の五の言っていられない。雛莉が四人の賢者との【儀式】を了承する一方で、賢者の一部は聖女を抱くことに抵抗を抱いている様子で――?
◇◇◆◇◇
イケメン四人に溺愛される異世界逆ハーレムです。
タイプの違う四人に愛される様を、どうぞお楽しみください。(毎日更新)
※性描写がある話にはサブタイトルに【☆】を、残酷な表現がある話には【■】を付けてあります。
それぞれの該当話の冒頭にも注意書きをさせて頂いております。
※ムーンライトノベルズ、Nolaノベルにも投稿しています。
5人の旦那様と365日の蜜日【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる!
そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。
ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。
対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。
※♡が付く話はHシーンです
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました
春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。
大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。
――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!?
「その男のどこがいいんですか」
「どこって……おちんちん、かしら」
(だって貴方のモノだもの)
そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!?
拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。
※他サイト様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる