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混血系大公編:第一部

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 団長室の居間兼応接室のソファに座って、程なくしてロルフが大欠伸しながら起きてきた。話し声は静かにしていたつもりだけど、気配で起きてしまったらしい。
「寝てたとこごめんねー」
「ん」
 声を掛けると目が半分くらいしか開いておらず、まだまだ眠そうだ。ロルフはまた欠伸をすると、ボリボリと頭を掻きながら寄ってきて、ドサッと私にぶつかるようにして隣に座った。痛い痛い。それから私を端っこにぐいぐい追いやり、私の膝を枕にしてソファに寝転がった。結局寝るんかい。
 まーいいや。ほっといて話を進めよう…とするけど、イスの視線が痛い。「また甘やかして…」とその目が語っている。はい、すみません。でも本音を言ってしまうと、甘やかすっていうより拒否するのが面倒くさいだけなんだけどなー。よっぽど嫌なことや駄目なことじゃなければ、言うこと聞いておいた方が楽っていうか。それ言ったらロルフが怒りそうだから、言わないけどね。だからイスにも言えないんだけどね、はい。
「…帰ったら、イスも膝枕する?」
「………」
「あっ、そうだ。耳掃除してもいい?エルフ耳じっくり見てみたいなー」
「………」
 すいっと目を逸らされる。照れてる照れてる。どうやら最適解だったようで、ホッとしたわー。
 可愛い反応をニヨニヨ見つめていると、イスがわざとらしく咳払いをした。
「ローブが見つかったんだろう、見せてくれ」
「はいはい」
 私は可能な限り皺を伸ばしたローブをイスに渡す。それでも皺の目立つ布地にちょっと眉を顰めたけれど、彼もまたローブに記されたマークを探す。
「…この模様…間違いないな」
「うん。これってちなみにさ、いまサークルが管理している物?誰かに盗まれたってこと?」
 イスに限って、そんな簡単に盗まれるような管理方法は取らないと思うけれど…それでも、万が一ということもあるから聞いてみる。
「いや。お前から通信が来てすぐに塔へ連絡を取って確認させたが、すべて揃っているとの回答だった。…お前は、覚えているか?当時、潜入作戦に携わった魔術師は30名。そのうち、作戦中に死亡した者が3名。遺体が見つからず、行方不明扱いとなった者が2名」
「じゃあ…」
「死亡者のローブは、回収済みだ。当時行方不明となった者が着ていたローブは、これまで見つかっていなかった」
 イスが模様をスリ、と撫でながら頷く。
「間違いない。紛失したローブのうちの1つが、これだ」
「……やっぱり」
 イスがそういうなら、間違いはない。ただ問題は。
「どこから出たかは…まだ不明か?」
「うん。現時点では、ダービー伯家にも娘の嫁ぎ先にも、魔術師がいたって情報は入ってない。さらに詳しく調査中だけどね」
「お前の所は、どこの諜報組織を使っているんだ?」
「青鴉」
「ああ、そこと繋ぎを取れるのか。さすがだな」
「でしょー」
 情報を扱う組織ってのは色々あるけれど、帝都周辺で信頼できるのは青鴉かな。ここのボスとは知己だしねー。なかなかクセの強い人で、依頼も自分で選んだ特定の人物からしか受けないらしい。幸い、私はその特定の人物の中に入れてもらえている。
「ただ、帝都内じゃないからね。少し時間がかかりそう。その前にダービー伯と話をつけないといけないんだけど、どう持っていくかなーって考えてて」
 こっちにも非がある…とは思いたくないけど、貴族のお嬢さんに怪我をさせている以上、謝罪しないわけにはいかない。こういう場合、こちらの対応が遅れれば遅れるほど相手に悪感情を持たれるし、そもそも相手に準備期間を与えるのは悪手だ。事件が起きた日からは3日も経ってしまったのだから、こちらもしっかり対策を練っておきたい。
「話し合いの場を、設けるのか?」
「もちろん。たまたま、隣の領地の伯爵様は知り合いだったからね。そこの通信具に連絡取って、繋ぎをつけてもらうようビョルンがお願いしてくれたの」
 とはいえ、そこの領地からも2日くらいはかかるらしいから、多分連絡来るのは明日辺りかな。ロルフ達が強行軍の末、情報を早くもたらせてくれたのはありがたい。私の膝の上で寝ているロルフの頭をヨシヨシと撫でる。
「話し合いの際は、私も同席させてもらえないか?」
「あら…私はありがたいけど、プレゼンはどうするの?」
「指示は済んでいる。後の準備は担当者達の仕事だ」
「週末までに、帰れないかもよ?」
 今回のプレゼン&宴会は、間に合わなければ私は不参加にするつもりだ。交渉がすぐに済めばいいけれど、拗れたら何日かかかるかもしれないし。でもさすがにイスがいないのはまずいんじゃ?
「交渉事は、お前の得意分野ではなかったか?ハッキリと向こうに非がある証拠を確保しているのに、どれだけ時間を掛けるつもりなんだ」
 おっ、なんだなんだ、お得意のケンカ売ってくるスタイルか?
「別にねぇ、向こうを叩きのめしたいわけじゃないのよ。こちとら客商売なんだから、後に恨みが残るようなことはできるだけしたくないの。その上で傭兵団とロルフの名誉を守りつつ、できるだけお金も引き出したいし。相手の出方も人となりもわからないから、その場で探りつつの交渉になるし、時間なんて読めないよ」
 欲張りだな、と呟くイスハークに肩をすくめて見せる。そりゃあ、交渉に望むからにはできるだけこちらに有利になるように持っていかなきゃね。
「しかも相手はお貴族様だからさー。最初から交渉する気もないような人もいるじゃん?そもそもハリーさんとこの領地に来てくれるかもわからないし」
 プライドの高い人だったら、平民のためになんで出向かなければならないんだ!謝罪に来い!って言い出しそうだし。そうしたらダービー伯爵領まで、4日掛けて出向くしかない。
「何て言っても、こっちは平民だからね。圧倒的に立場が弱いの。こういう時だけは権力が欲しいって思っちゃうわね…」
 爵位に伴う責任は負いたくないんだから、都合のいい話だけれどね。
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