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混血系大公編:第一部

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 団長室の戸を開けると、そこには聞き耳を立てる団員達がいた。ロルフに昼食の買い出しを頼まれていた、ビートの姿も…。
「アンタたち…何してんの?」
 声を低ーくして言ってやると、ビート以外はダッシュで逃げ出して行った。
「ちょっと!!」
「あー団長団長!コレ、隊長の昼飯買って来たんで!」
 他の団員を追いかけようとするのを、ビートが前に滑りこんで止める。そして私の目の前に籠をサッと差し出してきた。パンやらリンゴやらチーズやら、昼食になりそうな物が籠に入れられてる。
「あー、もらっとくわ。ロルフ寝ちゃったから」
「あぁ、3日くらいろくに寝てないっすからねー」
 ビートはロルフに何があったか聞かされていないけど、突然帰り支度をしろとアンリに言われ慌てて荷物をかき集めて、赴任先のダービー伯領を飛び出して来たのだそうだ。アンリがなんとか押しとどめていたが振り切ってロルフは出発してしまい、皆で慌てて追いかけたらしい。帝都まであと1日くらいの所で強盗が出たけどロルフが瞬殺し、その時点でアンリ以外はロルフに追いつくのを諦めたのだと言った。
「依頼された山賊の強奪品、持ち出せなくて置いてきちゃったんすよねー。だから盗賊の身ぐるみ剥いでちっとでも補填しようぜってなって」
 そうしたらロルフが瞬殺した盗賊が手配書で見た特徴と一致していたらしく、ビートが馬に遺体を括りつけて先行し、帝都の衛兵所に届けてきたとのこと。なかなかいい額の賞金が入りそうだと言うことだ。
「他の皆は?」
「生き残った盗賊を締めあげて、そいつらのアジト漁ってくるって言ってましたー。手配書に乗るくらいだから、けっこう貯め込んでんじゃないすかね?」
「やるじゃない。ご苦労様」
「うっす!」
 ビートが返事をして、急に身を屈めて頭を差し出してきた。最初はお辞儀かと思ったけど、そのまま頭が上がらないので「ああ」と思い出す。
「よくやったわ、ビート」
 わしゃわしゃっと頭を撫でて褒めてあげると、ビートは嬉しそうに笑う。なんかこの子、頭撫でられるの大好きなのよね。
「あんたも、用が終わったら休みなさいよ」
「っす!エリィさんに報告してきたんで、仮眠室で休みまっす」
「あら、この件はルーディが担当だったけど。まだアンリと話してた?」
「どーだったかな?最初に目についたんで、エリィさんに報告しといたっす!」
 ……ふぅん?
 ちょっと含むものを感じたけれど、そこは追及することなくスルーしておく。ま、私がゴチャゴチャ口出しすることじゃないわよね。
 ビートを見送ってから、ロルフの分の昼食をテーブルに置いておく。団長室は寝室と居間兼応接室の二間続きになっているんだけど、応接室側のテーブルね。こうしておけば、起きた時に勝手に食べるでしょ。
 私は団長室の扉をしっかり施錠すると、事務室へ向かった。


 事務室に顔を出すと、心なしかみんな顔がゲッソリしていた。特にアンリとルーディ…えー、そんなにすごい報告だったわけ?
「団長、とりあえず急いでまとめたので、仮の報告書ですが…」
 ルーディが差し出してきた紙を受け取る。保管用の報告書類は丁寧に清書してもらうけど、とりあえず訂正線があったり追記が書いてあったりするものを受け取る。
「ありがとうルーディ。アンリはお昼摂った?」
「これからー」
 くあっと欠伸をかますアンリに苦笑して、空いている椅子を指し示す。
「悪いけど、読みながら質問もするからもう少し付き合ってくれる?昼食摂りながらでいいから」
「イエス、マム」
 エリィがビートから受け取っていたらしい昼食の籠を差し出して、アンリに飲み物を渡す。椅子に座ってそれを受け取ったアンリは、とりあえずリンゴにガブリとかぶりついた。
 それを横目で見た後、報告書に目を戻す。
「……うわぁ」
 そこに書かれていたあまりにもな内容に、私は額を押さえてため息をついた。


 ロルフたちは任務に赴いたダービー伯領で、伯爵本人に直接会って依頼を受けた。まぁビョルンやロルフは英雄名鑑にも載ってる人たちなので、貴族でも会いたがる人はけっこういるから、そこは珍しいことでもない。ただ最初の調査にはなかった伯爵の娘が面会の場にいて、ロルフを上から下まで値踏みするようにじっとりと見てきて、かなりロルフが不機嫌になったようだ。それでも会うのは最初と最後だけだから、とロルフを説得してまずは任務に集中することにした。
 さほど苦労なく山賊のアジトを探り当て、夜襲を仕掛けてこれを殲滅した。ロルフの苛立ちもあって、山賊たちは甚振られたあげくに全員殺されたそうだ。まぁ、強盗強姦をして結構な被害が出ていたそうなので、そこは同情しない。夜明けを待ってアジトに貯め込んであった略奪品を物色し、価値のありそうなものを根こそぎ回収。鑑定所に持ち込んだ。そこで査定してもらっている間に、山賊に奪われた物を取り返したい人は鑑定所を見に行く。所有権は略奪品を取り返した傭兵団にあるから、元は自分の物だったとしても買い取らなければいけないシステムだ。その売買が済んで、伯爵領の衛兵が山賊の殲滅を確認し報酬を受け取るまでは帰還できない。そこで伯爵はロルフ達の待機場所にと、屋敷の客間を提供してくれたのだそうだ。
 前金で報酬の半額は受け取っていたので、何人かは娼館に繰り出したけれどロルフやアンリたち数人は仮眠を取ることにして…そこで、事件が起きた。アンリの報告だから彼の視点になるけど、ロルフはボヌ・ディエヌの英雄だってことで個室を準備してくれたそうだ。アンリ達他のメンバーは最初少し離れた部屋を案内されそうになったけど、何かあった時に困るってんで続きの部屋にしてもらったらしい。そうしてアンリがウトウトしていると、突然怒号が響き渡った。飛び起きて隣の部屋に入ろうとすると、鍵が掛けられていた。寝る前に廊下の鍵はしっかり掛けて、続きの扉は鍵を掛けなかったはずなのにだ。
 これは尋常じゃないと感じて他の団員と共に扉を蹴破って部屋に飛び込むと、全裸同然のスッケスケの服を着た女が床で蹲っていて、その前で拘束の魔道具を引き千切ったロルフが仁王立ちしていたそうだ。…拘束の魔道具って、B級くらいの魔獣なら拘束できるやつよね?それを引きちぎるとか…怖いわー、私の婚約者。
 一瞬唖然としたアンリ達だったけど、ロルフがさらに蹴り上げようとしたために全力で止めに入った。どう見ても、蹲っていた女が伯爵の娘と同じ髪色だったから。
 現状でも貴族の娘を傷つけたってことで相当やばいのに、殺しでもしたら更にやばい。英雄と呼ばれていても身分は平民だ。さすがに罪は免れない。場合によっては、婚約者である私にも罪が及ぶ。そう説得して、ロルフはなんとか怒りを鎮めようと左耳のトラガスに触れて…で、色々あったけれど少し落ち着いたので、介抱するフリして伯爵の娘に眠り薬を嗅がせてベッドに寝かせ、衛兵所の通信具でビョルンから帰還の指示をもらい大急ぎで荷物をまとめて、娼館に繰り出した連中も途中だろうが容赦なく呼び戻し…強行軍で帰還した、との事だった。
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