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混血系大公編:第一部

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 底冷えするようなロルフの声に、体の芯が凍えてくるような気がする。怖い。でも目を逸らさずに、真正面からロルフを見据える。
「お前、お前が、やっただと?俺に、あの、クソアマを…」
 ロルフの声が、怒りのあまり震えている。少しでも言動を間違えたら、この怒り狂った獣に喰いつくされてしまいそう。私はじっとロルフの目を見たまま、頷く。
「調査は他の子がやったとしても、決済を通すのは私。任命書にも私のサインがあるでしょ?最終判断は私なの。だからあんたにあの任務をやらせたのは、私」
「…テメェ!!」
 ロルフがまた暴れようとする。アンリと団員達が、頑張って抑え込んでくれる。彼らが抑えてくれると信じて、私は一歩前に踏み出す。ロルフとおでこがくっつくくらい近づいて、怒りにギラついた灰色の瞳を覗き込む。
「アンタの言う『クソアマ』は知らない。私が受けたのは山賊退治の依頼だけ。ただ、そのクソアマのことは調査不足だった。それは本当に、申し訳ないと思っている」
「……ッ!」
 ギリ、とロルフが歯を食いしばる。目が怒りに燃えている。でも、さっきよりは少し、収まったかな?ロルフの腕に触れて、少し力を込めながら続ける。
「ごめん。ロルフに辛い思いをさせてごめんね。ロルフの任務には、女性の影がないようにいつも調査してるの。でも今回は、嫁いだはずの『クソアマ』が直前に出戻っているということまでは調査出来てなかった。本当にごめんね」
 ロルフの両頬を手のひらで包んで、できるだけ申し訳なさそうな表情を作って。じっと上目遣いでロルフを見つめる。ヒトって好意を持っている相手には、甘くなるよね。他の人にされたら許せないことも、好意を持っている相手なら許しちゃう、なんて当たり前にあることだ。
 ロルフは私のことが大好きだ。それはもう知っている。だからその好意を利用する。私なら、許す可能性が高いから。だから私の責任にする。ごめん、私のやったことだから。だから許してね!
「……死ぬほど、気色悪ィ女だった」
「うん、ごめん」
「上から下まで、舐め回すように見やがって。クソッタレが」
「ほんと、クソッタレだね」
「……我慢、できなかった」
 ……ん?
 ロルフの言葉に、ギギギとアンリを見る。もしや、殺っちゃった?!
 声には出てなかったけど、察しのいいアンリはわかってくれたようで、ブンブンと首を振った。殺してはいないようだ。ホッとする。
「他の男を見んじゃねぇよ」
「あぁ、ごめん。えーと、でも、よく耐えてくれたよ。大変だったよね」
 殺ってないんだもんね。ロルフの一番の地雷を踏み抜かれたはずなのに、よく我慢してくれたと思うよ。
「お疲れ様。がんばってくれてありがとう」
「…クソッ」
 ロルフは悪態をつくけれど、かなり怒りが解けてきているのがわかった。ロルフの力が抜けていき、抑えていた連中がほぅっと息をつく。
 スゲェ、と誰かが呟いた。そうだろスゴいだろ。猛獣使いと呼んでくれてもいいのよ。
「離せよ」
「団長、いい?」
「いいよ、大丈夫」
 私が頷くと、ロルフが解放される。そのままガバッと抱き込まれる。ぐえぇ、背骨折れそう。
「ああ、クソ、マジで気色悪かったんだ…」
「うん、嫌な思いさせてごめんね」
 ポンポンと背中を叩く。ロルフは首筋にグリグリと頭を押し付けてくる。痛い痛い。
「謝んじゃねぇ、慰めろよ。テメェ俺の嫁だろ」
「はいはい、ロルフの嫁ですよ。大変だったネー。よく我慢したねエライねー」
「童貞のガキじゃねぇんだ、そんなもんで誤魔化されるか」
「ハイハイ、じゃあどうする?団長室行く?落ち着くまで付き添おうか?」
 そう言えば、ロルフがフッと笑う気配がする。背中にしがみついていた手が、スルッと滑り降りて行く。……おん?
「あー…いいな、ソレ」
「……?!」
 ロルフが声が掠れる。なに、なんか興奮してない?!降りた手がわしっとお尻を鷲掴みにし、足の間にロルフの膝がグッと差し込まれる。腰をわざとらしく押し付けて来て、ギャー!なんか固いものが!装備?!股間ガードする装備の固さ?!なんか膨らんでない?!
「慰めろよ…ベッドの上で」
「ふぎゃーー!!」
 ロルフの言葉に被せるように、悲鳴をあげる。人前で、何ちゅーこと言うんだ!!
「うるせーな、耳元でデケェ声出すんじゃねぇ!」
「いや出すわ!周り見てくださる?!ここ事務室!周囲に皆いるんですけど!!」
「あ?あぁー…」
 ロルフがぐるっと視線を巡らす。皆が固唾を飲んでこちらを見守っている。
「ここでヤるなんて言ってねーだろ。団長室のベッ」
「うぎゃーーーー!こんの、バカタレ!!」
 更に大声で被せながら、胸をドンと叩いてやる。叩いたのはノーダメージだけど大音量の叫び声は効いたようで、チッと舌打ちしながらロルフは左耳を押さえた。
「ゴチャゴチャうるせぇ!往生際悪ィぞテメェ、さっさと来い!」
「ちょっ、嘘でしょ?!」
 ロルフが私を肩に担ぎ上げて、スタスタ歩き出す。向かう先は間違いなく、団長室だ。後ろ向きに担がれているから、私はみんなの顔を見渡せてしまう。
 ルーディは泣きそうな顔でこちらを見ていて、エリィは興味津々な目を向けていて、アンリはゴメン!のポーズをして、シウは健闘を祈る!とガッツポーズを見せて、他の面々はピュイっと口笛を吹いたり頬を赤らめてみたり。取り敢えず、止めてくれそうな人は誰もいない。まぁロルフを止められる人はここにはいないんだけど。ドチクショウめ!!
「あんたたち!しばらく団長室に近寄らないでよ!聞き耳禁止!!想像も妄想も禁止!!こっから起きることはただロルフが落ち着くまで付き添うだけだから!介抱だから!!わかった?!」
「へーい」とか「はーい」とか、やる気のない声がまばらに上がる。団結力見せろよお前ら!!
「あとルーディ!」
「は、はい!」
 少し震えているけど、大きな声で返事してくれる。
「アンリから事情聴取して、今回の件のレポートを作成すること!お貴族様のクレームに対応できるよう、細かいところまでしっかりね!」
「…はい!!」
 ぐいっと涙を拭って力強く頷くルーディに、グッドのサインを送る。よしよし、失敗するのは悪いことじゃない。大事なのはいかに早く、適切なフォローをするかだよ!!
 ロルフはそれで用が済んだと思ったのか、私を抱えたまま事務室を後にした。
 ナマ乳揉まれる覚悟はしてたけど…チクショウ。
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