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混血系大公編:第一部
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しおりを挟む「ここから依頼主の領地まで、4日くらいよね。じゃあロルフたちが帰還したらすぐ詳細聞かなきゃね」
「ああ。後は、するべきことはあったか?」
「うーん、依頼主の再調査を指示してもよかったかな…十中八九クレームに発展するだろうから。ロルフ達の報告を聞いてからじゃないと、動きようがないって言われればそうなんだけど。力関係調べて、依頼主が逆らえないような相手とか…権力者を把握しときたいかな。後は、弱みを握れたら握っときたいよね。悪手ではあるけれど、脅迫も交渉の一種だから」
そう伝えると、ビョルンがペシリとおでこを叩いた。
「ああ、なるほど。シウが再調査すると言っていたが…それを見越してのことだったか」
「おー、さすができる秘書」
基本的に、クレームって対応の迅速さでその後が決まるよね。経験上、時間が経てば経つほど問題も相手の感情もこじれていく気がする。だから後々ムダになったとしても、できる手は全部打っとくべきだと思う。
ぶっちゃけ『女性トラブル』って言葉が出た時点で、任務に関係のないクレームになることは想像がつくし。相手が理不尽三昧言ってくるようなら、権力か脅迫で抑え込むのが一番早いし確実だ。
「じゃあ後はシウの報告と、ロルフ達の帰還待ちだね。りょうかーい、後は私が片づけるよ」
そう請け負うと、ビョルンの眉がへにょりと下がった。
「すまん…厄介事を残しちまったな」
ビョルンは休み明けすぐに、皇城へ出張の仕事がある。トラブル解決は私がすることになるので、罪悪感を覚えているのかもしれない。
「えー?そんなことないよ。どのみち私が団長なんだから、私が解決するべき問題だし。それにビョルンが頑張ってくれたから、今日1日イスとゆっくりできたんだよ。ね?イス」
イスはまだ資料に目を通しながら、曖昧に頷く。やれやれ、集中しちゃってるわ。
「はは、イスハークは結局仕事か?」
「うーん、私にも一因があるんだけど。後で、ご飯の時にでも話すね。イスは自分の世界に入り込んじゃってるから、今は説明も無理だろうし。…それより疲れたでしょ?ちょっと休んだら?お茶でも淹れるから」
ソファに座るように促して、ミニキッチンに向かおうとすると、グッと手を引かれる。
「いや…なぁ、ハグしてくれないか」
「あら…」
ビョルンが少しお疲れの顔を向けて、甘えたような声で囁く。
慣れない仕事を、頑張ってくれたんだもんね。私はそっと目を細める。
「もちろん。…お疲れ様、ビョルン」
ビョルンの肩を押して、ソファに座らせて。くすんだ金髪を、胸に抱き込む。
染み入るような深い息を吐き出すと、ビョルンは私の腰に手を回して、ぎゅっと抱きしめてきた。
「本当に大変だな、事務仕事ってのは」
「えー?いやいや、慣れればそれほどでもないよ。ビョルン達みたいに、命張ってるわけじゃないし…」
「いや…なんというか、力技で何とかなる問題じゃないからな。ずいぶん気を遣ったよ。神経をすり減らした気分だ。体の疲労より、精神の疲労の方がキツイってのは本当だな」
グリグリと頭を押しつけてきて、ふふ、ビョルンが甘えてくるなんて、珍しい。
「私は命の危機がないってだけで、だいぶ心穏やかに過ごせるからなー。そこまでキツイとは感じないかな。ま、適材適所よね」
ビョルンの髪を梳いて、チュ、チュ、と頭にたくさんキスを贈る。ビョルンが顔を上げて、唇にキスをする。浅く、深く、何度も口付けをして、鼻を擦り合わせる。
「いつもいつも、危険な任務をこなしてくれてありがとう。それから…ちゃんと無事に帰って来てくれて、ありがとう」
「あぁ…」
ビョルンがグッとお尻を持ち上げてきて、向き合って彼の膝に座らされる。た、対面座位…。
「シャーラ、お前も…いつもありがとう。俺たちが心置きなく戦えるように、ああやって支えてくれていたんだな」
「ふふ、…ん…、そう言って、んむ、くれると、嬉し…」
合間合間にキスをされて、まともに話せなくて笑ってしまう。
「ちょっと、んっ、…もー!」
ふたりでクスクス笑いながら、何度もキスを交わす。ビョルンのが固くなっているのを感じて、腰を振って服越しに股で擦る。ドキドキと鼓動が高鳴って、お腹の奥が熱くなる。ビョルンがチロっと唇を舐めて来たので、それに答えようとして…ふと、視線を感じて横を向く。資料に夢中になっていたはずのイスが、じっとりとこちらを見ている…。
「…続きは夜ではなかったのか?」
「…あ。えーっと…」
「………」
「…し、資料に夢中になってたし…」
「………」
イスの表情は変わらない。でも、その目は明らかに私を非難している。
「……ご、ごめんなさい…」
よいしょ、とビョルンの膝から降りて、イスを抱きしめる。イスはでっかいため息をついて、私を抱きしめ返す。ごめん。資料を読んでたけど邪魔をして、イスも巻き込まなきゃいけなかったのかな。公平って難しい…。
「…イス、晩御飯作ろっか。お肉焼くの、イスに火力を調整してもらわなきゃ無理だし。ビョルン、ゆっくり休んでてね」
「ああ、わかったよ」
ビョルンが「仕方ないな」という顔をして、ちょこっと肩をすくめてみせる。
イスが資料を片づけてる間にビョルンに紅茶を淹れて、それからイスと一緒にキッチンに向かった。
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