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混血系大公編:第一部

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 イスと一緒にショーンさんの所に行くと、もうノリノリで話に乗ってくれた。まぁ、宴会できるのが嬉しいんだと思うけど。
「いやぁ、栄誉あるサークルの塔長様まで我らが地区にいらっしゃるとは!英雄殿、ナイスですぞ!」
 バチコン!とウィンクされる。ショーンさんの地区愛には感心しますけどね。ナイスですぞ、じゃねーわ。
 最初のうちはお互い遠慮もあったけど、晩ご飯に何回も招待してもらってるうちに、どんどん打ち解けて最近はもうこんな感じ。変に畏まられるのもイヤだから、いいんだけどね。
「基本的に塔で生活してるんで、そんなにこっちには来ないんですけどね」
「なるほど、して住所登録は?」
「サークルは帝国と協力関係にあるが、お互い不可侵だ。私はサークルにずっと所属していたから、帝国に住民登録がない」
「へぇー!そういうもんなんだ」
 ショーンさんが、ちょっとショボンとする。
「が、彼女と婚約するにあたって、帝国民として登録する必要があると言われた。いまはその手続き中だ。帝国民としての住所は、彼女達の家で申請している」
 ショーンさんがパァっと笑顔になる。こらイス、ショーンさんで遊ぶんじゃない。
「あれ、じゃあもしかして、婚約手続き済んでないの?」
 帝国民の登録手続き中ってことは、まだ婚約申請できないんじゃないの?
「住民登録と同時に申請している。申請が通れば、婚約開始日は遡って登録してくれるそうだ。だから申請した日から婚約者と名乗って問題はない。だが帝国民となると、爵位が付随してくる可能性が高いのだそうだ。その調整で通常より時間がかかると言われた面倒くさい」
 最後にボロっと本音が漏れたイスに、大いに同意する。
「イスも?今日ヴァレさんからの連絡もそれだったんだよー。今晩ビョルンに相談するつもりだったけど、イスも一緒に相談しようよー」
「そうだな、下手に領地を与えられても、管理し切れない。せめて隣接地にして一括管理するなど、調整をした方がいいだろうな」
「えー、イスも一緒に抗議して、爵位下げてもらおうよ。名誉だけあるみたいなやつ」
 イスと一緒に抗議すれば、ヴァレさんも聞いてくれるかもしれない。なんと言っても塔長様だし。
「やらない。私は無駄だとわかっていることに時間を割きたくない」
「なんだとー!」
 なさねばならぬだぞこのやろー!婚約したのに、ケンカ売ってくるスタイルどうにかしろ!まったくもー。
 腹が立ってイスを肘で小突きまくっていると、ショーンさんが割って入って話題を変えてくれた。ありがたや。
「なるほどなるほど。ではやはりこの地区の一員として、歓迎会を催さねばなりませんなぁ…」
 あ、これ宴会が楽しみなだけだ。ショーンさんもけっこうな酒豪なのよね。あと地区長会ってので自慢する気だな。私達が引っ越してきた時も、自慢したらしいし。
「そうそうそれで、宴会と一緒にプレゼンさせてもらいたいって話なんですけど。現在魔道具の塔で開発中の事業についてなんですよ。バイオトイレっていう、今の公衆トイレに変わるものなんですけれど。それがどういったものかって言うと…イス?」
 話を向けると、イスが頷いて分かりやすく説明してくれた。
「なるほど。今より衛生的で匂いも少ないトイレになると…」
「そうだ。だが使用上の注意があるから、多くの人が住む所でまずはテストをし、問題なく稼働するか確認する必要がある。プレゼンを行い理解をしてもらい、賛同してもらえればこの地区に試験設置をさせてもらいたい」
「何故この地区を選ばれたのですかな?」
「バイオトイレの責任者が、この地区の住民だと聞いた」
「なんと!」
「ショーンさん、ロージェさんの所の長男さんらしいですよ」
 ロージェさんは、ヴィッテさんのお母さんの名前だ。
「なんと、マシューが?!いやはや、まだ若かったと思うのですが…」
「若いが、優秀だ。経験不足は彼の父がフォローしている」
「おお、サイモンも…なるほど、なるほど。ロージェには、世話になっている者も多いですから。協力してくれる者は多いでしょう」
「ちなみに、発案はシャハラ…彼女だ」
「はい、発案だけですけどね」
「なんと!英雄殿も関係者とは…」
「それと、出資者は皇帝だ」
「なんと!!そ、それは塔長様、何をおいても協力すべきでは…?!」
「強制ではない。あくまで帝国民の衛生環境を向上させる事業として出資しているだけだ。やり方は私たちに任されている。恩恵を受けるべき帝国民に、強制をするつもりはない」
「言い方ァ…」
 強制しないと言いつつ、国で推進している事業なんて言われたら協力せざるを得ないような…?
 イスの言い方に戸惑いつつも、ショーンさんも覚悟を決めたように頷いてみせた。
「いや、やはりいち帝国民として協力すべきでしょうな。みんなにできるだけ都合をつけて参加するよう、通達しておきます」
「感謝する。担当者に早急に説明資料を準備し、各家庭に配布するよう伝えておく。手間を掛けるが、事前に読んでから参加してもらいたい」
「承知しました。その旨も通達しておきます」
「よろしく頼む。それから、宴会の費用はサークルで持とう。料理や酒も、支障がなければこちらで手配する」
 なんと、太っ腹ァ!
「いえいえ、そこまでしていただくわけには…!」
 ショーンさんが遠慮しようとするのを、遮ってイスに質問する。
「えー、いいの?結構人数いるよ」
「構わない。必要経費だ」
「ですって。ショーンさん、ここは甘えちゃいましょ。上げ膳据え膳で楽しちゃいましょうよ」
「うーん、しかし…」
 尚も遠慮するショーンさんに畳み掛ける。
「ショーンさん、テストに協力する御礼だと思えば。だってコレ、成功すれば帝都中のトイレが置き換わるんですよ?そのうえ帝都で定着すれば、公国にも広まります。そうすれば、サークルには果てしない利益ですよ。ここでの宴会の出費なんて、微々たるものです」
 ね?と同意を求めれば、イスが頷いてくれる。
「それと、宴会の際には料理人を雇って魔道コンロを実演するつもりでいる。家庭用と、業務用のものを2種類」
「業務用?えっ、火力が強いのできたの?」
「とりあえずはな。だが小型化するのに難航している。この地区には飲食店のオーナーもいるのだろう?どの程度の大きさ、ランニングコストなら導入を検討するか、意見を聞かせてもらいたい」
 む、無駄がない…!イスのすごいとこって、職人でもありながら商売人としての気質も持ってるところよね。費用は出すけど、出した分だけリターンが来るようにキチンと考えてやっている。愛想がないのが、たまに傷だけどね。
「なるほど…それではお言葉に甘えましょう。実は私も飲食店をいくつか持っておりまして…」
 そう言って、2人で魔道コンロについて話し始める。私の出番はないので、話を聞き流しながら、イスの横顔をチラッと見る。
 …うん、やっぱりカッコいい。
 話の邪魔にならないようにチラ見しつつ、私はイスの横顔を堪能させてもらった。


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