130 / 234
混血系大公編:第一部
12
しおりを挟む セシルの眉が上がり、彼が私に怒っていると言う事に気が付いた。
「セシル?もしかして…私の事怒っているの?私、何か貴方を怒らせるような事をしてしまったのかしら?」
折角、今回のフィリップとの結婚でセシルとの距離も少しは近づけたと思っていたのに。それは私の独りよがりだったのだろうか?
彼は怒気を含んだ声で私に言った。
「ああ、あるね。エルザは今、非常に俺を苛立たせる発言をした。一体どういうつもりで今の発言をしたんだ?」
「どういうつもりって…あ、もしかして特にする事もなかったから…と言った事に対して苛立っているの?」
それしか心当たりが無い。
「そうだ。よく分っているじゃないか。特にする事も無かった?それはあり得ないだろう?あれだけ俺が反対してもエルザはこの家に嫁いで来たんだ。だとしたら男爵家の妻として、色々やらなければならない事があるはずだろう?」
「そ、それは…」
私だって考えていた事だ。男爵家に嫁いで来たのだから、領地の事だって色々教えて貰わなければ分らないことだらけだ。
「第一、何故離れに閉じこもったきりで、両親に挨拶に来ないんだ?そんなにエルザは俺達と交流するのが嫌なのか?」
何も事情を知らないセシルは苛立ちを隠す事も無く、問い詰めて来る。
「あ…そ、それは…」
彼の言う事は尤もだと言うのは良く分っている。
けれど私はフィリップから勝手に本館へ行く事を禁じられているし、会話だってまともに交わす事が出来ない状態だ。
それどころか、結婚したその日のうちに離婚届を手渡されたのだから。
けれど…自分の置かれた状況をセシルには説明する気にはなれなかった。そんな事を言えば、彼の事だ。
<ほら、だから俺は2人の結婚に反対だったんだ>
そう言うに決まっている。
「何だ?図星を差されて何も言い返せないのか?」
彼は腕組みをすると上から見下ろして来た。
「あ、あの…今朝フィリップが本宅へ行ったでしょう?」
恐る恐る尋ねてみた。
「本宅?何だよ?その言い方は…。まぁ、別にいいけどな」
セシルは呆れた顔を見せると、言葉を続けた。
「兄さんなら昨日も今朝も1人で両親と俺に挨拶をしにきた。両親はエルザがいなかったから兄さんに理由を尋ねたんだよ」
「そうなのね?フィリップは何と説明したの?」
「君は…気分が優れないから、暫くは誰とも関わりたくないので放っておいて欲しいと兄から伝えてもらうように頼んだそうじゃないか?」
「え?!」
そんな…フィリップは私に正式な妻ではないのだから、勝手に本館へは行かないようにと言ったのに?
「それなのに…何だ?特にする事もなかったから刺繍をしていたって…」
セシルは私が刺繍していたハンカチを忌々し気に見た。
「あ、あの…それは…」
どうしよう?本当の事を言うべきなのだろうか?けれど、言えば絶対にフィリップの耳に入ってしまう。それ以前にセシルは私の話を恐らく信じてはくれないだろう。
「どうした?言いたい事があれば言ってみろよ?」
彼に詰め寄られたその時―
「あ、ここにいたのかい?セシル」
不意に声が聞こえ、驚いて振り向くと扉近くにフィリップが立っていた。
「あ…兄さん」
「セシルが離れに来ていると使用人から聞いたから、もしやと思って来てみたけど…やっぱりここに来ていたんだね?」
フィリップは部屋に入って来るとセシルに声をかけた。
「ああ、そうだよ。エルザに何故挨拶に来ないか、直接話を聞く為にね」
セシルは私を睨みつけている。
フィリップ…お願い、貴方から本当の事を説明して頂戴。
私は祈るような気持ちでフィリップを見たのだが…。
「エルザには理由を尋ねておくよ。それより僕の部屋に来ないか?美味しい茶葉があるんだ」
フィリップは笑顔でセシルに言う。
「分ったよ…なら、エルザも一緒に…」
セシルは私の方をチラリと見た。
「ああ、エルザはいいんだよ。昨日から食欲もないから、きっとお茶を飲むのも無理だと思うから」
「え…?わ、分ったよ」
セシルは一瞬怪訝そうな顔を見せたけれどもすぐに頷いた。
「良かった、ならすぐに行こう」
そしてフィリップは一度も私に声を掛ける事も…視線を合わす事も無く、セシルを連れて部屋から出て行った。
バタン…
扉は閉ざされ、私はまた1人きりになってしまった。
「…セシルには笑顔を向けるのね…。それに…私はフィリップの部屋に行った事も無ければ、場所も知らないと言うのに…」
その時、再び胃がズキリと痛んだ。
「う…」
私は椅子に座ると、目を閉じ…痛みが引いて行くのをじっと待った―。
「セシル?もしかして…私の事怒っているの?私、何か貴方を怒らせるような事をしてしまったのかしら?」
折角、今回のフィリップとの結婚でセシルとの距離も少しは近づけたと思っていたのに。それは私の独りよがりだったのだろうか?
彼は怒気を含んだ声で私に言った。
「ああ、あるね。エルザは今、非常に俺を苛立たせる発言をした。一体どういうつもりで今の発言をしたんだ?」
「どういうつもりって…あ、もしかして特にする事もなかったから…と言った事に対して苛立っているの?」
それしか心当たりが無い。
「そうだ。よく分っているじゃないか。特にする事も無かった?それはあり得ないだろう?あれだけ俺が反対してもエルザはこの家に嫁いで来たんだ。だとしたら男爵家の妻として、色々やらなければならない事があるはずだろう?」
「そ、それは…」
私だって考えていた事だ。男爵家に嫁いで来たのだから、領地の事だって色々教えて貰わなければ分らないことだらけだ。
「第一、何故離れに閉じこもったきりで、両親に挨拶に来ないんだ?そんなにエルザは俺達と交流するのが嫌なのか?」
何も事情を知らないセシルは苛立ちを隠す事も無く、問い詰めて来る。
「あ…そ、それは…」
彼の言う事は尤もだと言うのは良く分っている。
けれど私はフィリップから勝手に本館へ行く事を禁じられているし、会話だってまともに交わす事が出来ない状態だ。
それどころか、結婚したその日のうちに離婚届を手渡されたのだから。
けれど…自分の置かれた状況をセシルには説明する気にはなれなかった。そんな事を言えば、彼の事だ。
<ほら、だから俺は2人の結婚に反対だったんだ>
そう言うに決まっている。
「何だ?図星を差されて何も言い返せないのか?」
彼は腕組みをすると上から見下ろして来た。
「あ、あの…今朝フィリップが本宅へ行ったでしょう?」
恐る恐る尋ねてみた。
「本宅?何だよ?その言い方は…。まぁ、別にいいけどな」
セシルは呆れた顔を見せると、言葉を続けた。
「兄さんなら昨日も今朝も1人で両親と俺に挨拶をしにきた。両親はエルザがいなかったから兄さんに理由を尋ねたんだよ」
「そうなのね?フィリップは何と説明したの?」
「君は…気分が優れないから、暫くは誰とも関わりたくないので放っておいて欲しいと兄から伝えてもらうように頼んだそうじゃないか?」
「え?!」
そんな…フィリップは私に正式な妻ではないのだから、勝手に本館へは行かないようにと言ったのに?
「それなのに…何だ?特にする事もなかったから刺繍をしていたって…」
セシルは私が刺繍していたハンカチを忌々し気に見た。
「あ、あの…それは…」
どうしよう?本当の事を言うべきなのだろうか?けれど、言えば絶対にフィリップの耳に入ってしまう。それ以前にセシルは私の話を恐らく信じてはくれないだろう。
「どうした?言いたい事があれば言ってみろよ?」
彼に詰め寄られたその時―
「あ、ここにいたのかい?セシル」
不意に声が聞こえ、驚いて振り向くと扉近くにフィリップが立っていた。
「あ…兄さん」
「セシルが離れに来ていると使用人から聞いたから、もしやと思って来てみたけど…やっぱりここに来ていたんだね?」
フィリップは部屋に入って来るとセシルに声をかけた。
「ああ、そうだよ。エルザに何故挨拶に来ないか、直接話を聞く為にね」
セシルは私を睨みつけている。
フィリップ…お願い、貴方から本当の事を説明して頂戴。
私は祈るような気持ちでフィリップを見たのだが…。
「エルザには理由を尋ねておくよ。それより僕の部屋に来ないか?美味しい茶葉があるんだ」
フィリップは笑顔でセシルに言う。
「分ったよ…なら、エルザも一緒に…」
セシルは私の方をチラリと見た。
「ああ、エルザはいいんだよ。昨日から食欲もないから、きっとお茶を飲むのも無理だと思うから」
「え…?わ、分ったよ」
セシルは一瞬怪訝そうな顔を見せたけれどもすぐに頷いた。
「良かった、ならすぐに行こう」
そしてフィリップは一度も私に声を掛ける事も…視線を合わす事も無く、セシルを連れて部屋から出て行った。
バタン…
扉は閉ざされ、私はまた1人きりになってしまった。
「…セシルには笑顔を向けるのね…。それに…私はフィリップの部屋に行った事も無ければ、場所も知らないと言うのに…」
その時、再び胃がズキリと痛んだ。
「う…」
私は椅子に座ると、目を閉じ…痛みが引いて行くのをじっと待った―。
11
お気に入りに追加
1,066
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話
めるの
恋愛
仕事に疲れたアラサー女子ですが、気付いたら超絶美少女であるアナスタシアのからだの中に!
魅了の魔力を持つせいか、わがまま勝手な天才魔術師や犬属性の宰相子息、Sっ気が強い王様に気に入られ愛される毎日。
幸せだけど、いつか醒めるかもしれない夢にどっぷり浸ることは難しい。幸せになりたいけれど何が幸せなのかわからなくなってしまった主人公が、人から愛され大切にされることを身をもって知るお話。
※主人公以外の視点が多いです。※他サイトからの転載です
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる