125 / 236
混血系大公編:第一部
07
しおりを挟むんで。
気がついた時には昼前でしたよっと。自分のお腹がグーグー鳴るのを聞きながら目覚めたよ…めっちゃお腹空いた。
ベッドの上に脱ぎ散らかした下着と服を拾い集めて、のんびり身につける。目に見える範囲にキスマークが付いてないのをチェックして…ヨシ。
うーんとひとつ伸びをすると、寝室を出て居間に向かった。
居間に入る扉を開けると、ふわっと爽やかな香りを感じる。その香りを楽しみながらソファに近づき、カップを傾けながら資料を読んでいるイスの隣に、ぶつかるようにして座る。
「体の調子はどうだ?」
資料から目を離さないまま問うイスに抱きついて、グリグリと頭を押し付ける。
「お腹すいた」
「良さそうだな」
「ふふ。なに飲んでるの?」
「ハーブティーだ。医療の塔の副塔長は予防医学が専門なんだが、その一貫でハーブにも詳しい。自分でブレンドしたハーブティーを、時折差し入れしてくれる」
「へぇ、どんな効能があるやつ?」
「精力増強」
「ぅおいッ!!」
何てもの差し入れて来るんだ!精力は嫌ってほど足りてるんだぞ!
「冗談だ。眼精疲労に効くと言っていた」
「あ、イスにぴったりだね…」
びっくりした。イスの鉄面皮だと、冗談か本気か全然わかんないんだって。
「飲むか?」
「うん」
ポットに入ったハーブティーを、準備してあった私用のカップに注いでくれる。何が入ってるのかは知らないけど、赤い色がすごく綺麗。ハイビスカスとか?飲むとほのかな甘さと酸味があって、ベリー系も入ってるのかな。すごく飲みやすい。
「おいしい!」
「そうか、伝えておく。またくれるだろう」
「わーい、何かお礼しなきゃね!」
「私が資料を読み解いた礼にともらったものだから、不要だ」
「あ、そういう…」
お礼にお礼するのも変かな?
「じゃあ、言っといてくれる?婚約者が喜んでましたって」
何気なく言った言葉だけど、イスの心の琴線に触れたらしい。ずっと資料を見ていた目を私に向けて、感慨深げにじっと見つめた後。軽く頷いて、チュッと口づけて来た。
ハーブティーを飲み終わると、出掛ける準備を始めた。お昼ごはんは何も準備していないので、外に食べに行くのだ。イスは食に拘りがないので、主に私の好みで決めることになる。
「お昼食べたら傭兵団本部にちょっと寄りたいけどいい?」
「構わない」
「様子見に行かないとね。じゃあ、3番街にあるシーフードの美味しい店行かない?イス、シーフード大丈夫だっけ?」
「問題ない」
「じゃあ決まり!パスタの気分だったのよねー」
そしてご近所に住むお嬢さん、ヴィッテさんが働いているお店でもある。そういえばヴィッテさんのもう1人のお父さん(ヴィッテさん家は複婚家庭だ)とお兄さんは魔術師の塔所属だっけ。今日ヴィッテさんがいたら、イスが知ってるか聞いてみよっと。
準備を済ませると家を出てしっかり鍵を掛けて、イスと手を繋いで。丁度鉢合わせた散歩中の親子と挨拶を交わして手を振って、3番街へと向かった。
「英雄さん!来てくださったんですね!」
お店に入るなり、ヴィッテさんが目敏く見つけて、席を案内してくれた。まだ早めの時間だから、お客さんもまばらで外の風景が見えるいい席だ。
「今日は、ビョルンさんとロルフさんはお仕事ですか?」
「うん。ロルフは任務、ビョルンは内勤だよ」
「そうなんですね。それで、あの、失礼なんですが、もしやこちらの方は…」
チラチラとヴィッテさんがイスに視線を向けながら、聞いてくる。
「ああ、イスハーク。魔道具の塔長だけど、知ってるかな?」
そういうと、ヴィッテさんがやっぱり!という顔をして頷いた。
「父と兄が、いつもお世話になっております!」
おお、綺麗な90度の礼だ。めっちゃ深々頭下げている。しかもなかなか頭が上がらない。
イスを小突くと、「?」という感じで見てきたので早く答えて!と促してやる。
「…君の父兄は、魔術師か?」
「はい!魔道具の塔に所属してます!あの、プロジェクトをひとつ任せていただいたと兄が張り切っておりました!元々あんまり家に帰ってこなかったんですけど更に帰ってこなくなりまして、あっすみません文句じゃないんです家族みんな兄を評価していただいてありがたく思ってるんですけど!」
ヴィッテさんが体を起こして、勢いよくまくしたてる。真面目で可愛いんだけど、たまに勢いが暴走するのよねこの子。こういうとき、ヴィッテさんのお母さんの遺伝子を感じるわー。
「父兄の名は?」
「サイモンとマシューです!」
ヴィッテさんが答えると、イスはコクリと頷いた。
「ああ、彼らのか。2人とも、真面目に取り組んでくれていて、私もありがたいと思っている。だが、ご家族には迷惑をかける」
「おおお恐れ多いです!」
ヴィッテさんの動揺っぷりがすごい。まぁ、いちおうサークルの塔長さんってかなり高い地位の人間だもんね。私はたまたま友達の魔術師が塔長になっちゃったから、身近な存在だったけど。普通はそう易々と会える存在じゃないらしいしね。
「もう少ししたら落ち着くだろう。終わったら、長めの休みを取るように言っておく」
「おおおお恐れ多いですぅ!」
余計なことを言ってすみませんん!!と言いながらメニューを置いてしっかりオススメまで教えてくれて、ヴィッテさんは風のように去っていった。「お決まりのころ窺います!」とのこと。面白い。
「誰だ?」
「ご近所の子。ヴィッテさんって言うの、可愛いでしょ?」
「アンツィラットのようだ」
「それ魔獣やん…」
アンツィラットはネズミに似た小型魔獣だ。小型って言っても猫くらいあるけど。臆病で落ち着きがなく、遭遇してもだいたい向こうが逃げてくれるから、害の少ないタイプの魔獣だ。
「本人の前で言わないでよ?」
「気を付ける」
マジで言わないでよ?年ごろのお嬢さんなんだからね。
とりあえず注意はその辺にして、注文を決めることにした。私はオススメしてもらった今日のランチを頼むことにする。シーフードたっぷりのパスタ(ペスカトーレだっけ?)でめっちゃ美味しそう。
12
お気に入りに追加
1,066
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる