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中東系エルフ魔術師編
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しおりを挟むドゥーロ君が少し落ち着くのを待って、フローラさんが部屋の外で待機していた魔術師さんズを呼ぶと言った。彼はこの後待機部屋で拘束され、刑期が決まり次第執行されるらしい。
「塔長、少し、待ってください。…ひとつだけ、お伝えしたいことがあるんです」
ドアに向かいかけていたフローラさんが止まり、「いいだろう」と頷く。彼はだいぶ落ち着いた声で礼を告げると、私に向き直った。
「あの時、僕1人で屋敷に向かった時…最初はただ、確かめるだけのつもりだったんです。塔長と行ったときはあまり見れなかったけれど、本当に英雄様とそっくりなのか確かめたくて。それで屋敷に辿り着いて、ホムンクルスさんを目の前にしたら…声が聞こえたんです」
「声…誰の?」
ドゥーロ君が首を振る。
「わかりません。でも、貴女に似た声で…『私を壊して、終わらせて』と」
「……ッ!!」
心臓がドクリと鳴る。それって、どういうこと?魂はないんじゃなかったの?ホムちゃんは、生きてたってこと?
「信じてくれなくても、かまいません。幻聴だったのかも、しれません。でも、その声を聞いて…僕は、気が付いたら、ナイフを突き立てていました。それから、恐ろしくなって、もしこのことで色んな魔術師が調査に入ることになって、英雄様がホムンクルスだと気づかれてしまったらと、混乱してしまって…それで顔も、傷つけてしまいました。…申し訳、ありません」
ドゥーロ君はそれを告げると、ぺこりと頭を下げた。
私は混乱していたけれど、フローラさんは「もういいな」と告げると魔術師さんズを呼び込んで、ドゥーロ君を連れて行かせた。
私は呆然としたまま、それを見送った。
「…とりあえず、終わったか。ご苦労だったね、ラフィク」
「あ…」
フローラさんが声を掛けてきて、私は少し自分を取り戻す。
「あの、さっきの…ドゥーロ君の言葉って、どういう…?」
「さてね…私の見立てでは、あのホムンクルスに魂はないよ。身体は保管魔術でかろうじて生かされていたが、それだけだ。意識があるとわかる反応は一切なかったし、魔力の動きもなかった」
「そう…なんですね…」
ほんの少し、安堵する。だってもし、あの体に意識が入っていたら?動けもしない、ただただ横たわりつづける体で、意識だけはあったのだとしたら?それは、とんでもない地獄だ。
「私はドゥーロの幻聴だと思うがね。だが…常識では説明がつかない事象ってのは、案外多いものなんだよ。…もし、万が一、わずかなりとも意識があったのだとしたら。罪人は、私の方だね…」
「……」
今となってはわからない。ホムちゃんに、聞くことはできないのだから。
ドゥーロ君が幻聴を聞いたのかもしれない。フローラさんたちに罪悪感を植え付けようと、嘘を言ったのかもしれない。この答えが、わかる日が来ることはないだろう。
何とも言えない後味を残したまま、とりあえず事件は収束したのだった。
「さて、ご苦労だったね。これからあの男の刑期を決めるが、ラフィク、意見はあるかい?」
「私はいいです。サークルの判断にお任せします」
私の答えに、ビョルンはまだ不満そうにしていたけれど。それでも、言いたいことは全部言ったと思うから、もういいや。
「…刑とは、どのようなものだ?」
ビョルンが低い声で聞くと、イスが頷いて答えた。
「来た時に見た塔があるだろう。刑期を決めた後は、あそこの天辺で独り、神と向き合うことになる」
「あの、半分崩れてた部分?」
イスが頷く。大胆に天井がえぐり取られてましたけれども。屋根が半分くらいしかなかったですけれども。
「出入口は全て塞がれている。外から梯子をかけて自分で登り、天辺に着いたら梯子は外される。それから決められた刑期の間、神と向き合いながら、己の罪の裁きを待つ。刑期が終われば再び梯子が掛けられ、生き延びていれば、神に許されたということになる」
「水と食料は?」
「ない。登る前に、最後の飲食が許されるが」
「自力で降りるのは?」
「塔の壁を見てみろ、降りられると思うか?」
窓の外、塔の壁をじっくり見てみる。うーん、行けちゃいそうなのは1人、心当たりがあるけど。でもここにはいないし、普通の人なら。
「無理だねぇ」
「そうだ。中には罪に耐えきれず、飛び降りる者もいるが」
「え。それは死んじゃうんじゃ…?」
「そうなれば、月の神に裁かれたということだ」
「ああ、なるほど…」
直接、手を下すことはしないけど。死刑にするほどの重罪だったら刑期を延ばして、餓死か飛び降りで実質死刑にするってことね…。
「あの男の刑期は、何日になるんだ?」
「ラフィクから何もないのなら、3日が妥当だね」
食料と水がないまま、3日。充分に生き延びられる日数だ。
「それでいいかい?」
「ええ。サークルにお任せします」
キッパリと答えて、ビョルンの背中をポンポンと叩く。ビョルンは私のこと、心配してくれてるんだよね。でもいいよ、もういいんだよ。
私はこれ以上、私の事情で誰かを死なせたくない。誰かの命を、背負いたくないの。
「大丈夫だよ。ドゥーロ君、しっかりしてたじゃない。誓約は効いてるから、大丈夫」
「……ああ、わかったよ」
ビョルンは頷いてくれた。でもその目は険しいまま、じっと塔を睨みつけていた。
それから帰り支度をしていると、刑の執行準備が整ったようだ。魔術師さんズとは別の、ここの看守らしき人たちがドゥーロ君を連行する。彼が梯子を登って、塔の天辺に辿り着くのを見届けて。
私たちは、帰途についた。
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