異世界チートで世界を救った後、待っていたのは逆ハーレムでした。

中東系エルフ魔術師編

７３

「ドゥーロや。何故、あのホムンクルスを害した？お前の英雄と、同じ顔をしていたからか？」
　フローラさんが穏やかだけれど、ハッキリとした声で質問する。ドゥーロ君の目が、ギラリと私に向く。
「英雄様は、僕の英雄様は、ヒューマンでなければならないんです」
　後ろ手に縛られた状態で、ドゥーロ君が身を起こす。ビョルンの目つきが変わる。私は首を振ってビョルンを制しようとする。だけど。
「貴女はあんな風に、エルフに作られた存在であっては、いけない！だから、証拠となる物をこの世から無くしたんです！貴女の、貴女の、ために！！」
「ビョルン、待って！！」
　ドゥーロ君が私に向かって身を乗り出そうとした瞬間、ビョルンが飛びかかってドゥーロ君を押さえ込んだ。それでもギリギリ留まってくれて、喉にピタリとナイフを押し付けた状態で止まっている。それとほぼ同時に、ふわりとイスの魔術が私とフローラさんを包み込んだ。これ、防御の魔術だ。とりあえず無事に済んでホッとする。後で２人にお礼を言わなきゃ。
　私は椅子から降りて、床に膝をつく。フローラさんが止めようとしたけれど、手でそれを制する。
「ビョルン、ナイフを離して、起こしてあげて」
「シャーラ、危険だ」
「大丈夫。ビョルンとイスが守ってくれてる。この距離からは、近づかないから」
　そう伝えると、ビョルンは渋々ドゥーロ君を起こしてくれた。目線は同じ高さになる。でも彼は私を見ない。地面をぼんやりと見つめる彼から、感情は伺えない。
「ドゥーロ君。私がホムンクルスだって知って、びっくりしたよね。私もね、すごくびっくりしたよ。自分が得体のしれないもののような気がして怖かったし、婚約者達に嫌われたらどうしようって思ったし、皆にも知られたら変な目で見られるだろうなって思って、すごく悲しくなった」
　ドゥーロ君の視線は動かない。聞いているかどうかわからないけど、そのまま続ける。
「だけどね、悩んで、悲しんで、バカなこと言って、慰められて怒られて。それでだんだん気持ちが落ち着いてきたら、気づいたの。私の生まれがどうであれ、私自身は何も変わってないんだってことに」
　自分がヒューマンじゃなくてホムンクルスだったとしても、今までやってきたのは私自身だ。見知らぬ世界で突然目覚めて、何度も死にそうな目に遭って、それでも精一杯頑張ってやってきた。そんな私が、罪悪感や劣等感を抱く必要なんてない。どんな体だって、私は私なの。誰かに恥じたり遠慮したりすることなんて、何もないんだってことに、気づいたんだよ。
「だからね、必要ないの。貴方は私のためにしたっていうけれど、私はあんなことしなくてよかった。だっていざとなれば、全部捨てて逃げちゃえばいいし。今まで積み重ねてきた物を捨てるのは惜しいけれど、これからの自分より大切な物ではないから」
　ドゥーロ君の目をじっと見つめる、少しだけ、目が揺れ動く。そのまま続ける。
「それよりも、傷つけて欲しくなかったよ。私に似た顔だったんでしょ？だったら、見てみたかった。だって、私の姉妹みたいなものだよね？この世で、ただ１人の、同類なんだもの。あんな…あんな風に、顔を、滅茶苦茶にするなんて、ひどいよ」
　悲しくなって、声が震えてしまう。じわりと、視界が滲んでくる。ホムちゃんのためなのか、自分自身のためなのか、どちらの涙かわからないけれど。
　私が泣いていることに気づいたのか、ドゥーロ君は顔を上げて、私を見つめる。それから唇を噛んで、再び俯く。
「だから、彼女に謝って。女の顔を傷つけた罪は重いんだよ。それから、自分がしたことに向き合って、キチンとイスやフローラさんの言うことを聞いて、罪を償って。それで許してもらえたら…また、自分の人生を生きていって。私に、英雄に、縋るんじゃなく、あなた自身の人生をね」
「シャーラ、それは…」
　ビョルンは、処分が甘いって怒るよね。だけどもういい。いいんだよ。私は首を振って、ビョルンの言葉を遮る。
「あのね、ドゥーロ君。私、トイレ環境をよくしたくてイスにバイオトイレを提案したけど、正直引き受けてくれる人がいるとは思わなかったの。ホラ、魔術師って、貴方の言う通りエルフが多いし、プライドの高い人も多いから。仕組みとかだけ作ってもらって自分で試行錯誤するしかないって思ってたから、引き受けてくれた人がいるって聞いてすごく嬉しかったし、情熱を持って取り組んでもらって、本当に感動したんだよ。…ありがとうね」
　ドゥーロ君が再び顔を上げる。彼の目に、いっぱいに涙が溜まっている。でも、目はまっすぐに私を見つめている。
「…がんばってね、応援するよ」
　そう微笑みかけると、彼は嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。