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中東系エルフ魔術師編
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しおりを挟む場所は帝都からそれほど遠くなく、朝早く馬車で出て、昼前には着くくらいの距離だった。あともう少しで到着する、という所で昼食を摂ると告げられ、馬車に乗ったままお昼をいただく。御者をしていた魔術師さん2人がテキパキと準備してスープを作ってくれて、温かいスープとパンをいただいた。
そこでいろいろ教えてくれたんだけど、どうやら罪人の塔は、かつては他の塔と同じくサークルの塔として研究員達が暮らしていたらしい。それが何らかの禁忌を犯して月の神の怒りに触れ、一切魔術が使えない不毛の土地になってしまったのだそうだ。
「魔術が紡げない土地?いったい何をやればそんな怒りに触れるんですか?」
「さてね。神の考えは、我らに推し量れぬことも多いのだよ。禁忌とやらも、古すぎて情報が残っておらぬからな。だが、魔術師を懲らしめるには役に立つ」
「確かに…」
魔術が使えなければ、普通の人と同じように拘束できるものね。
「ドゥーロ君は、そこにいるんですね?」
「ああ。量刑が固まり次第、執行する。今回の事件そのものが、秘匿事項だからね。あまり時間を掛けずに決着をつけるつもりだよ」
「なるほど…」
そんな話をしながら手早く昼食を終え、少し休憩をとってからまた馬車は出発した。
罪人の塔は、天辺の部分が半分崩れた状態で建っていた。かつては他の塔のように多くの魔術師が暮らしていたんだろうけど、今は入り口もセメントみたいので全部塞がれていて、入れないようになっている。その周囲に建物が何棟かあって、サークルで裁かれる罪人は刑期が決まるまで、ここに収監されるのだそうだ。
私たちはその1つの棟に入り、椅子が何脚かあるだけの部屋に通された。どうやらここで、ドゥーロ君と対面するようだ。
それから確かに、魔力は上手く出せなくなった。外から干渉を受けて、魔力の巡りを歪まされているような、不自然で気持ち悪い感覚。私は魔術師に比べれば魔力が少ないからか、あまり影響はないみたいだけど。御者をしていた魔術師さんズは気分が悪そうだった。
「ビョルンは平気?」
「少しむず痒いような気はするが。それほど気にはならんなぁ」
魔力、マジでないのね。
「フローラさんとイスは、平気なんです?」
顔は2人とも平然としているけど。
「ここには何度か来たことがあるから、慣れてるよ。干渉を避けて体内で魔力を上手い事巡らせればいいんだが…まぁ、これは年の功だね。そこまで魔力を操るのは、若いのにゃ無理だろう」
「へぇー。イスは?大丈夫?」
「……」
あ、この人表情変わらない人だったわ。顔には一切出てないけど、固まって動かないのを見るに、多分そうとう気持ち悪くなってるわ。
「ちょっと、大丈夫?」
「そういえば、イスハークはここに来るのは初めてだったか。お前は魔力が多いから、特にキツいだろう。事前に言い忘れていたな」
「そこは言っといてあげてほしかった!どうしよう、一度外に出る?」
さすさす背中をさするけど、イスは首を振って拒否をする。
「そんな時間は、ない」
それって、今にも吐きそうってことかい?!
「ラフィク、お前はソイツと魔力の相性がいいんだろう?少しでいいから魔力を流してやりな。イスハークならそれで持ち直せるだろう」
ああ、前にイスに言われたみたいにすればいいかな?ただあれって、多い方から少ない方に流すのは簡単なんだけど、少ない方から多い方って難しいのよね。
「でもイスの魔力が強いし、前にも魔力を交わす?って言うのが上手くできなくて…」
そう言うと、フローラさんは目を見開いたあと、ジロリとイスを睨みつけた。
「この馬鹿タレが。ラフィクは異種族なんだから、キチンと教えてやらなきゃダメだろう」
「???」
イスは怒られているけれど、答える余裕はないようだ。辺りを見回すと、御者をしていたエルフ魔術師さんが、露骨に顔を背ける。え?顔が赤くなってた??(ちなみにもう1人はヒューマン種のようで、キョトンとしていた)疑問符をいっぱいに浮かべていると、フローラさんが近づいてきて耳打ちしてくれた。
「いいかい、ラフィク。『魔力を交わす』ってのは、エルフの中ではセックスと同義なんだ。気をつけな」
「はッ?!」
「流す、ってのは、まぁ親しい間柄ならする。診察も、魔力を通すというが、流すのとやってることはそう変わらない。だが交わすってのはね、言うなれば魔力でまぐわう行為だ。相性がよければ快感を伴うし、極まればエルフの女は子ができやすくなるとも言われている。恋人や夫婦間でなければ、やらない行為だよ」
コソコソと小声で教えてくれたけど、私の顔は真っ赤になっていたから、ビョルン辺りには何の話かバレてたかも。
えーと、つまり、私は「イスとセックスしようとしたけど、上手くできなかった」って言ったようなものよね?!
周囲を見回す。フローラさんは同情の目を向けてきて、ビョルンは察したようで苦笑していて、エルフ魔術師さんは顔を背けたままで、ヒューマン魔術師さんは教えてもらいたそうに隣の同僚をツンツンしている。
私は恥ずかしさと怒りで、魔力がぐわっと湧き上がるのを感じた。
「イス、この、バカッ!!」
「うっ」
怒りに任せて、イスに魔力を叩き込んでやる。不意打ちが効いたのか、イスに私の魔力が流れた感触があった。
「ああ、すまない…」
固まっていたイスが動き出す。どうやら調子はよくなったらしい。だけどまだ怒りが収まらないので、バシバシ魔力を叩き込んでやる。
「?なんだ、もう大丈夫だが」
「うるっさい!!」
バシバシバシ!
「おい、戦士殿。あやつは何をやっとるんだ?攻撃にしちゃあ効いてないし、何ならイスハークはどんどん調子が良くなっとるが」
「あー、まぁ、気が済めばやめるから、そっとしておいていただきたい」
「ええい外野もうるさい!」
バシン!
渾身の力で、イスに魔力を叩き込んでやった。(効いてない)
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